「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)
ISHでの生活とリンとの別れ
ベッドの中で固まっていると、ドゥ-シュンがユーゴスラビアへ帰り支度をはじめた。
二段ベッドの上から、白いシーツを足元までずらし、ジッとドゥ-シュンの身支度に見入っていた。
とうとう皆、離れ離れになるのか。
寂しさが込み上げてくる。
俺 「ドゥ-シュン!今日発つんですか?」
ドゥ-シュンが振り向いて、
ドゥ-シュン「そう!今日ユーゴへ戻ります。ヒガシワと一緒で楽しかった。またいつか、ここで逢えると良いですね!あなたも無事日本に辿り着くように祈ってます。」
俺 「有難う!ドゥ-シュンも元気でね。」
荷物をまとめると、軽く手を振って部屋を出て行った。
ドゥ-シュンが発って、今日俺がここを出ると、3フロア-のB号室も、アラビックと昨日入室したばかりのオーストラリア人、二人だけになってしまう。
一時は、四つある二段ベッドがほとんど埋まり、カナダ人のショーンを筆頭に賑やかだったことを昨日のように思い出す。
ショーンがイスラエルのキブツへ行ってから、急に静かになったような気がする。
秋のせいだろうか。
ヒッチハイクの仲間達がギリシャを去った後、まだ一ヶ月もここアテネに居なくちゃいけないのか!と最初は少々ウンザリしていたのも事実だが、今こうして一人去り、二人去り、皆居なくなってしまうと、楽しくアッ!とい間に過ぎていってしまった短い一ヶ月だったように思えてくる。
そして、今三年と五ヵ月後には、新婚旅行で再び訪れる事になろうとは、予想もしていなかった。
*
AM10:00、ベッドから抜け出して、コインを入れるシャワーを浴びて、部屋へ戻るとどこかへ行っていたアラビックが部屋に入ってきた。
アラビック「ヒガシワ!ラジオ聞いてもいいですか?」
ベッドに置いてある日本製のラジオを指差して、貸してくれというのである。
アラビック、自分のラジオを持っていながら、性能が悪くて聞き取りにくいのか、俺がラジオを聞いていないところを見計らって、ラジオを貸してくれというのだ。
毎日、自分の国の戦争状況を聞き入っているみたいだった。
祖国がイスラエルと戦っているというのに、祖国に戻るどころか、ギリシャに避難しているらしい。
ヨルダンの金持ちは、皆大砲の弾に当たらないように、パリとかギリシャに随分と逃避してきているというのが現実みたい。
ショーンたちが、イスラエルのキブツへ行くと言う事を聞いて、彼はどう思っているのだろう。
ここギリシャを起点にして、キブツへ行くという若者は多い。
事実、この部屋からも何人かがイスラエルへと飛び立った。
キブツとは、悪く言えば、イスラエルの非戦闘員外人部隊である。
直接戦争に参加しないとは言え、イスラエルの若者に替わって、イスラエルの農業や生産部門をサポートする訳だ。
戦場へ向かう若者に替わって、イスラエルを支える”隠れ蓑”がこのキブツなのだ。
そんなことを考えると、なんとも複雑な気持ちになってしまう。
アラビックよ!俺は今、お前の心の中を覗いて見たい。
*
部屋を出る準備をしていると、”リン”が入ってきた。
リン「何時に発つの?」
俺 「12時には出ようと思ってんだけど。」
リン「皆、一度に居なくなるようで寂しいわね。」
俺 「・・・・・・。」
リン「・・・・で、これから何処へ?」
俺 「バスでヨーロッパを横断・・・・の予定だけど、取り合えず・・・パリまでと思ってる。ロンドン行きだから、途中気が向けば途中下車もできるし、気に入った所で下りようかなとも思っているんだ。」
リン「良いわね!日本へはいつ戻るの?」
俺 「次の夏が来るまでにはと・・・・。」
リン「・・・・・・。」
俺 「リンはいつまでここISHに?」
リン「私達ももうすぐ出ます。今度はアメリカで逢いたいわね。是非、アメリカにも来て下さい。」
俺 「予定では、五年後にアメリカ大陸横断を計画はしているんだけど。」
リン「まあ!ほんと。楽しみにしてるわ!是非、連絡してね。」
俺 「ええ!必ず。」
リン「お別れね・・・・・・・。」
俺 「君のお陰で、楽しかったよ。」
リン「私も。」
荷物をまとめながら、リンとの別れを惜しんだ。
リンが荷物をまとめる作業をジッと覗き込んでいる。
昨日作ったおにぎりも詰め込んだ。
リンにも少し分けてあげたかったけど、自分でも固かったかなと思うほどの失敗作では、日本料理の品位を落としかねないと、思いとどまった。
12:00少し前、リンに見送られてISHの外に出た。
リン「ヒガシワ!Have a nice trip!!」
リンの右手が差し出された。
俺 「はい!Thank you、you too!」
ISHの女主人もナイトガウンのまま、見送りに外に出てくれていた。
リン「バイバイ!気をつけて、無事日本に戻れるよう祈ってます。便り頂戴ね!」
俺 「うん!ありがとう!」
軽く抱き合って、別れを惜しんだ。
振り返りながら、石畳の坂を足取り重く下っていく。
久しぶりの思いバックパックを背負い、リンの声を聞きながら歩き出した。
ほんの一ヶ月のISHの住人だったけど、背負いきれないぐらいたくさんの思い出を、バックパックに詰め込んだ気がする。
俺の一生に、燦然と輝く記憶となって、死ぬまで背負い続けていく事だろう。
今!ISHでの生活が終ろうとしている。
リンが泣いている・・・・・・・そんな気がした。
俺が泣いているのかも。
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