バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

共産圏の風景



  首の痛さに目を覚ますと、バスはユーゴスラビアの小さな町に入っていた。
 マケドニア地方の小さな町”Skopje”と言う町かも知れない。
 二時間程眠っていたようだ。
 太陽はまだ、地平線に姿を見せていない。
 白々とした様子が朝の間近いことを知らせてくれる。

  しかし、地元の人達は太陽が昇る前に起き出してきている。
 朝靄が煙る中、解け切らない凍った雪が、至る所で顔を見せている。
 町の中を見渡すと、どっしりとした石の建物が目を引くが、ギリシャのような白い優雅な大理石建築とは、趣を異にしている。

  でも、立ち枯れの木々に相応しい寂しさと、落ち着きを持った美しさがこの町にはある。
 潅木とポプラ並木、朝靄の中を白い息を吐きながら、行き交う素朴な人達、暖炉の煙、どれをとっても冬のヨーロッパにピッタリと来る風景がここにはある。
 彼らの質素な生活が、町の中の至る所に漂っているような気がした。

  そんな雰囲気をもった街並みが、バスの中から手に取るように感じられる、そんな国ユーゴスラビアが今、私の目の前に広がっている。

  ユーゴスラビアの首都、ベオグラードまで434Km。
 看板に書かれている文字は、ギリシャ文字に似ているが、ギリシャで同室だったドゥ-シュンが勉強に来てたようだから、日本語と中国語ぐらいの違いがあるのかも知れない。

                     *

  バスは小さな町”Skopje”をあっという間に通り抜けた。
 朝の早いせいか、疲れからか、バスの中はまだほとんどが眠ったままである。
 小さな町を抜けると、起伏のなだらかな広々とした田園風景の中を走った。
 共産圏らしい風景がここにある。
 小さな町の外は、全くの田畑が広がっているだけ。

  軍服を着込んだ兵士達が、市民の中に溶け込んで生活をしている。
 自転車がやけに目立つ、質素な国ユーゴスラビアがここにある。

  7:45、太陽が地平線に姿を見せた。
 8:15~8:30までの十五分間、バスは小さな給油所に停まる事になった。
 すぐ近くには、レストランを兼ねたバスストップがあり、地元の人たちがいつものバスを待っている姿を目にする。
 通勤風景だろう。

  バスを降り、レストランの近くでトイレに入り、用を済ませて食料品店に入った。
 ビスケット2.6\$(≒47円)とジュース6.00\$(≒108円)を買って朝食とする。
バスに乗り込む。

  広い広い丘陵地を一本の狭い幹線が走る。
 丘陵地を登り切ったところで、急に近代的な街が姿を現した。
 かなり大きな街だ。
 時間的に見て”NIS”の街かも知れない。
 広々とした丘陵地の中に、身を寄せるようにして、大きな建物が建ち並んでいる。

  大きな橋の掛けられた川が流れ、鉄道の駅らしい建物も見える。
 この川は黒海へ流れ込んでいる、Dunares川の支流Morava川かも知れない。
 ユーゴを源として、ルーマニアとブルガリアの国境を流れ、黒海へと注いでいる川のはずであろう。

  バスは街の中に入らず、街を右に見ながら走り抜けた。
 すぐ目の前には、今建築中の円筒形をした、ユニークなファサードを持った建物が見える。
 団地も郊外へ向かって広げられている。
 左を見ると、建物の姿はほとんど見ることが出来ない。

  自然美と人工美のアンバランスな美しさ?が目を引く国、ユーゴスラビア。
 学生のころ、地球上の未来世界を描いた映画を思い出した。
 本という本を全て焼き尽くしてしまう政府。
 それに抵抗した国民が一人一冊の本を暗記してしまい、人そのものが本の役割を果たすと言う変な共産圏の映画だ。

  その時見た映画の中の風景と、今目の前に広がっている風景がダブって見える。
 もしかして、ここユーゴで作られた抵抗運動の映画だったのかも知れない。
 冬枯れの潅木、落ち葉を踏みしめながら歩く人達の姿を見ていると、まさに映画 そのものの風景だ。

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