バックパッカーの旅Ⅱ（欧州～北アフリカ～欧州～日本）

ほとんど眠っていたユーゴスラビアの旅

　　バスが停まった。
　１１：３０。
　国道をまたぐ様に建っている休憩所で一時間の休憩となった。
　周りには何もない。
　土産物屋とレストランの入った建物以外、広い一本の道路が目に入るだけ。
　周りにある、広々とした駐車場にバスが停まると、乗客たちは各々自由に外へ飛び出していった。

　　最後にバスを降りようとすると、ガイドが声をかけてきた。
　　　　ガイド「中国から来られたのですか？」
　きれいな英語で話し掛けてくる。
　　　　俺　　「いえ！日本です。」
　　　　ガイド「日本。そうですか、遠い所から良くいらっしゃいました。バスは一時間後に出発しますので、遅れないようにしてくださいね。」
　　　　俺　　「食事は出来ますか？」
　　　　ガイド「食事でしたら、あの建物の二階へ上がってください。セルフ・サービスですよ。」
　　　　俺　　「ありがとう！」
　　　　ガイド「お気をつけて！」
　ニッコリ笑うと、運転手と話をはじめた。

　　地平線の広がる中に、ポツン！と建物がある。
　こんな殺風景な所はまず、日本ではお目にかかれない風景かも知れない。
　窮屈なバスのシートから解放されて、思いっきり背伸びをし、大きく息を吸い込んだ。
　少しひんやりする。
　アフガン・コートを着込んで、レストランに向かって歩く。

　　建物の中は、日本のデパート形式と同じで、中にあるレストランは客でいっぱいだった。
　セルフ・サービスなので、客はめいめいアルミ盆を手にして、順序良く並んでいるのが見える。
　列に加わった。
　小ビンのビールとパンケーキで１７．００ユーゴ（３０６円）。

　　席に着いた所は、ちょうど道路の真上に位置するところで、窓の下を覗くとハイウエイが真下に見える。
　車は走っていない。
　まるで陸橋の上にレストランをこしらえたようで、なかなか見晴らしが良い。
　大きく開かれた窓からは、遠くに共同農場なのか、何処までも続く丘陵地が広がっている。

　　ゆっくりと朝食をとり、ワインの栓抜きを手に入れようと、ワイン売り場を探した。
　栓抜きはすぐ見つけることが出来た。
　　　　ガイド「早いわね！」
　　　　俺　　「することないもん。」
　　　　ガイド「買い物は？」
　　　　俺　　「ノー・マネー！！」
　　　　ガイド「オオッ！」
　　　　俺　　「貧乏旅行だかんね。」
　　　　ガイド「・・・・・。」

　　バスに戻ると、早速手に入れた栓抜きでワインの栓を抜き、一口飲み乾した。
時間がたつと、一人二人と帰って来る。
　大きな袋を抱えた旅行者には嫉妬を感じてしまう。
　バスが再び走り出したのは、定刻の１２：３０より１０分遅れの１０：４０頃だった。
　バスの中は暖房で乾燥しているのか、少し走ると眠気が襲ってきた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

　　休憩の為、バスがまた停まり目を覚ました。
　時計の針は１７：００を指していて、外はもう暗くなっているではないか。
　立ち枯れの林のなかに、ハイカラな山小屋風のレストランに入る。
　夕食をここで取るらしい。

　　レストランには、地元の若いウエイトレスが、五、六人白い衣服で身を包み立ち働いている。
　コーヒーとケーキくらいしかない。
　このケーキ・・・・・まずい。
　一口食べただけで、どうしようもなくまずくて、喉を通らない。
　金を払った以上、何とか食べて栄養をつけなくては・・・・・と、鼻をつまんで飲み込んだ。
　　　　（これが・・・いけなかった！）

　　星が見えないという事は・・・・、外はさほど寒さを感じない。
　ユーゴの夜は何処よりも早い、外灯もほとんど用を足さないほどか細いものだった。
　案の定、雨が降り出してきた。
　只今１７：３０、もうイタリア国境に近いはずなのだが、ここが何処へらへんで何時頃何処へ着くのか何もアナウンスはない。

　　また眠っていた。
　バスが停まる音で目を覚ます。
　時計を見ると２０：４５、窓の外を見ると、いつの間にか雨も止んでいて、バスはもうすでにイタリアに入っていた？

　　ユーゴスラビアとギリシャのボーダー（国境）では、各国一度づつ二度のチェックがあり、係員がバスに乗り込んでくるか、パスポートが集められたと言うのに、俺はいつの間にか眠っていてパスポートの提示もしないまま、国境を越えてしまったのか。
　他の乗客たちは？
　地図を見るとボーダーを越えた街、”TRIESTE”と言う所に近いはずなのだが。
わからない！

　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

　　　　　　　ATHENAI～（550Km）～THESSALONIKE～245Km～SKOPJE～（434Km）～BEOGRAD～（394Km）～ZAGREB～（135Km）～LJUBLJANA～（133Km）～TRIESTE

　　　　　　　　　　　≪計1891Km≫

　　およそ２９時間にもおよぶ、ギリシャ～ユーゴスラビア～イタリア縦断の旅。
　その間、ほとんど眠っていたのだろ・・・・・。

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