「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)
1’クラスの寝台車
今、PM2:40。
PM1:55発のマドリッド~リスボン行きの汽車はもう出た後だった。
今、改札口近くのソファに座っている。
汽車が出てしまうと、駅構内の灯りは消されてしまう。
改札口にはもう誰のいない。
切符にスタンプを押す、無人の機械が数台並んでいるのが見える。
改札口を抜けるとすぐそこがプラットホーム。
16番線まである。
日本で言えば、昔の上野駅に似ているが、汽車が出てしまえばほとんど人通りは無くなってしまう。
日本の駅のような賑わいはない。
パリ市内の交通機関で言うと、METROとバスが東京並で、どこかの小都市と言った所か。
パリの華やかさはここにはない。
SNCFの案内所と案内所にいる女性だけがパリらしい。
六面体の案内掲示板がパリらしいセンスと言うべきか。
待つことへの「辛抱」。
毛皮が届かない足元を寒風が吹きすさぶ。
やっとの思いで寒さに耐えていると、イタリアで野宿した辛さが頭を過ぎる。
タバコに火をつけて、何とか気を紛らすが時はゆっくり・・・・ゆっくりと刻まれて行く。
”イタリアの野宿を思えば・・・なんだ、このぐらいの寒さ。”
PM5:00。
リザベーションの為インフォメーションを訪れる。
待っていると、新婚旅行中だと言う日本人に教えてもらったからだ。
新婚さん「リザーブしておかないと、予約していた席が他の客に取られて、追い出されたことがあるんですよ。」
リザーブ用紙をとり、書き込もうとするがなんと、全てがフランス語。
俺にわかるわけないだろ。
このこと一つを取っても、フランス人のプライドの高さと言うものが、一通りでない事が分かると言うもの。
俺 「旅行者のためにも、英語で書けるようにしてくれよ!」
虚しい叫びである。
こんな国、二度と来てやるもんか!
インフォメーションの女の人に頼んで書いて貰って、列に並び順番を待つ。
やっと俺の番が来た。
女性係員「こことここ、書いて下さい!」
俺 「えっ?これも書くの?」
女性係員「???????」
俺 「フランス語で喋るんじゃあないよ。」
係員 「?????????」
俺 「俺は日本人だ!フランス語はボンジュールぐらいしかわかんねーんだよ!英語なら少し分かるから、英語で言ってくれよ!」
日本語で捲し立てる。
キョトンとした顔をして、両手を広げてギブ・アップしているではないか。
困っている所へ、高校生ぐらいのパリジェンヌが英語で話し掛けてくれるではないか。
俺 「ありがたい!!」
パリジェンヌ「????????」
俺 「うん???」
英語なのに、わかんね~!!
パリジェンヌもお手上げ。
仕方なく、席に座りなおして、六カ国会話の本を取り出し、必死でフランス語と格闘。
やっといくらかの単語を頭に詰め込んで、もう一度挑戦するべく、今度は男性の係員の所へ並んだ。
女と言う動物はヒステリックでいけね~~~やと思い、男の人を選んだのだがこれが想像以上に上手くいった。
もちろんフランス語を必死で理解しようとした結果でもあるのだが、女性の係員と違いゆっくりと、親切に、噛み砕くように説明してくれるので、お互い落ち着いて事にあたれるので理解も早いのだろう。
男性係員「ノー!シートだ。寝台ならあるが・・・・・どうするね?」
俺 「・・・・・・。」
男性係員「お金は、28フランだ。」
その上、英語で紙に書いてくれて、ゆっくりと説明してくれるのだ。
そこまで分かれば、話は早くすんなりとリザーブする事に成功したのである。
周りにいたフランス人達も、最初はキョトンとしていたが、話がつくと拍手と笑顔で迎えてくれたではないか。
俺 「ありがとう!ありがとう!」
それにしても、こんなにも手の込んだことをしなければ、列車にも乗れないなんて、これから先が思いやられると言うもんだ。
寝台に28フラン(1680円)も支払った為、残りの金が7フラン程度しか手元になく、今夜の食事はお預けである。
こんな事なら、1.10フラン(66円)のフランスパンでも買っておくのだった。
少しばかりの食料(5.7フラン≒342円)を買い込んで、プラットホームにある待合室に入った。
ここ待合室で、すでに待遇が違ってくる。
1’stクラスは、ガラス張りの暖かいきれいな部屋。
2’ndクラスは、吹きさらしの外。
随分な差別・・・・いや、区別である。
この世は金次第だと言うのだろうか。
今、PM8:30.
後二時間待つことになる。
これからパリの西、海沿いのIRUNと言う街に向かい、朝その街に到着する予定だ。
IRUNでポルトガル・リスボン行きに代える予定だが、上手くいくかはわからない。
ヨーロッパとは言え、移動時の食料と水は、アジアと同じように常に注意していないと、思わぬ出費になるか食べない事への「辛抱」を強いられる事になるだろう。
「食べられない事への辛抱」
「歩かされる事への辛抱」
「待たされることへの辛抱」
「寒さに耐えさせられる事への辛抱」
「一人である事への辛抱」
これら五つの「辛抱」が、この旅での実感だろうか。
この最終便を選んだのは、これら五つの「辛抱」さえすれば、二泊分の宿泊代が浮くと考えたのだが、寝台券のお陰で予定していた一泊分が消えてしまった訳だ。
22:30。
列車がホームに滑り込んできた。
列車に乗り込む。
一等寝台車は、四人の個室になっていて、なかなか快適な旅になりそうだ。
コンパートメントに入ると、フランスの老夫婦と同席だった。
親父さんが一生懸命フランス語で話し掛けてくれるのだが、何を言っているのかさっぱり分からない。
言葉が分からないから笑っていると、フランス語が通じたと思ったのか、ますます早口に喋りだすのには参ってしまった。
22:49、定刻通りパリを出発。
シーツに毛布に枕も揃っている。
快適な夜を迎えられそうだ。
パリの灯りを列車の窓から眺めながら、上段のベッドで横になる。
最初はかなりの揺れを感じたが、疲れと安堵感からか良く眠れた。
中近東のように、荷物を身体の下に隠すように眠らなければならなかった事もなく、夢も見る事もなく、全てを忘れて眠る事が出来た。
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