バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

≪スペイン≫宿は暖房の効いた列車内



  午後5時10分、何も見えなかった闇の中から、幾筋かの灯りが見えてきた。
 列車は闇の中を夜行虫のように、ほのかな灯りを求めてまっしぐらに突き進んで行く。
 灯りが少しずつ大きくなってくる。
 ”あれがマドリッドの街の灯りだろうか?”
 今までほとんど見ることのなかった、車のライトや高層住宅の窓の灯りが、闇の中に浮かび上がってきた。

  午後五時二十分、列車は”ATOCHA”駅に滑り込んだ。
 駅の時計は午後六時三十分を指し示している。
 時差なの?
 時計を進める。
 ここで降りないと、MADRID-CAMARTIN駅まで行ってしまう。
 構内のアナウンスは何もない。
 駅員らしい人に尋ねるが、言葉が通じない。
 列車を降りることにした。

  構内を不安そうに歩いていると、親切そうな親父に声を掛けられる。
       親父「何処へ行くんだ?」
       俺 「マドリッド」
       親父「ここで乗り換えるんだ。ついてこい。」
 プラットホームの端にある階段を上がると外に出た。             外へ出て右に向かうと、大きな時計のつぃた駅が見えた。
       俺 「親父、ありがとう!」
       親父「良い旅を!」

  どうもさっき降りた駅の上のようだ。
 駅の中にはインフォメーションがあった。
       俺 「マドリッドの地図は置いてありますか?」
       受付「NO!ツーリズム・インフォメーションへ行きなさい。」
       俺 「グラシャス!」

  教えられたオフィスは、駅の構内にあってスペイン人らしき親父が座っていた。
       俺 「地図が欲しいんですが。」
       親父「地図か、ほんとなら15pt(70円)で売る所なんだが、お前さんにはただでやるよ!金は要らんから。俺は日本人が好きなんだ、だからただでやるから持って行きな!」
       俺 「ほんとは、ただなんだろ!」
       親父「お前は特別だ。」
       俺 「グラシャス!」

  ほんとは誰でも無料でくれる地図に違いない。
 地図を受け取り、大きな時刻表を見ると、”Algeciras”20:10となっている。
 少し時間があるので、駅の中で両替(US$10≒632Pt)を済ませレストランに入る。
 レストランと言っても、スタンド形式。
 しかし中はかなり広く、客でごった返していた。
 待てども待てども注文を取りに来てくれない。

  外に出て、売店で食料を調達することにした。
       ≪1Lジュース×1、75Pt(356円)≫
       ≪サンドウイッチ×2、90Pt(430円)≫
       ≪ビスケット×2、40Pt(190円)≫

  列車の中での食料を確保して、切符売り場の窓口でユーレイル・パスを見せると、チケットを作ってくれた。
 改札口が見当たらない。
 駅すなわちプラットホームと言う簡単なつくりの駅である。
 一番ホームに”Algeciras”行きの列車が見えた。
 車内に入ると、車掌がやってきて、チケットをチェックすると、指定のコンパートメントに案内してくれる。
 指定席なのだ。

  発車するまで、車内には灯りもつていない。
 暗い中で何かを待っている。
 また戻ってくるマドリッドに別れを告げて、予定の20:10より少し早く、気笛を鳴らすだけで、なんのアナウンスもなく列車は滑り出した。

                    *

  コンパートメントの中は一人。
 列車が走り出すと、車内に灯りが灯り、車掌が再度チケットの確認にやって来た。
 ユーレイル・パスが自分のではないため、チケットの名前とパスポートの名前が違っているので、パスポートとの同時提示があればどうしようと思っていたが、無事チケットだけの提示ですんでホッとする。

  パリ~リスボン~マドリッド~アルジェシラスの行程をファーストクラスの28フラン(≒5.5US$)で旅出来たのも、見ず知らずの青年に貰ったこのパスのお陰である。
 その意味だけでも、物価高のパリに立ち寄った意味は大きいといえる。
 日本映画”愛のコリーダ”様様だ。
 列車の中は暖房が効きすぎている。
 頭がボーッとして、喉が渇いてきてなかなか寝付かれない。
 窓を開けると寒すぎて・・・・・嫌な夜となってしまった。

  いつの間にか眠っていたのか、気がつくと一人の青年が隣のシートで眠っている。
 シートをずらしてベッド代わりにしているではないか。
 青年が目を覚ました。
       青年「タバコ吸いませんか?」
       俺 「ありがとう。でも喉が渇いてて・・・。」
 差し出されたタバコを丁寧に断った。

  時々、通路側のドアを開け新鮮な空気と入れ替えるようにする。
 ”CORDOBA”駅で暫く停車。
 午前4:00が近い。
 白い靄があたり一面漂っている。
 何処までが空で、何処までが地上なのか、まるではっきりしない。
 月明かりで外の様子がうっすらと見える。
 朝靄の匂いがする。
 そんな情景が頭の中をボンヤリと通り過ぎ、また睡魔に襲われ・・・・・闇の中に引き込まれるのに、ほんの数秒もかからなかった。


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