~2~






   なんとかすると言ってはみたものの・・・。
   部品を交換できるのか、新品の方がいいのか・・・。
   バッグの中に入れたままの壊れた双眼鏡。

   あれから2日目の夜になっていた。
   彼女は毎日あの公園で星を見てるのかな。
   やっぱり特別なあの夜だけだったのかな・・・。
   何かにつけて、彼女のことを考えてた。

   バッグの中を覗き込んで、ため息ばかりついてれば
   誰だって変だと思うよな~・・・。

    「なーに隠してんの~?!」

   ニノが体当たりしてきた。

    「うわっ! あぶねーよっ! なにすんだよっ!!」

   弾みで飛んで行きかけたバッグを抱え込んだ。

    「きのうから変ですね~、相葉さ~ん・・・。
     ガラにもなくおとなしいし~・・・?」

   隠してもなおさら変だし、素直に聞いてみた。

    「なあ、こんなのって、修理できんの?」
    「えぇ~~っ?! 双眼鏡なんて持ちあるいてんの~~っ?!」

   大声をあげたもんだから、なになに~~っ?!と、みんなが集まってきた。

    「へぇ~、知らなかったなあ~!
     相葉ちゃんにそんなシュミがあったとはー!」

   翔くんがわざと大げさに叫んだ。 顔が面白がってる。

    「ちっ、ちがうって! 友達のをぶっ壊してさ~・・・!」
    「やっぱ弁償でしょ。 分解とかできんの?」

   リーダーが双眼鏡を手にしてあちこち観察してる。

    「なんか普通のじゃないよなあ・・・。
     その辺で売ってんの? アンティークっぽいし・・・。」

   マツジュンが首を伸ばして覗き込みながら言った。

    「え~~っ?!」

   なんかスゴイことになってきそう? その辺で売ってるのと違うのか。
   すっげー高かったらどうしよう・・・。

    「何万もする?」
    「フツーのだったら安いだろうけど・・・。」
    「ネットで調べてみー。」
    「リーダー調べてよー!」
    「オマエッ・・・! 自分でやれよっ!!」

   空き時間に電器屋とかカメラ屋とか回るしかないか・・・。
   なんとかするって思いっきり言ってしまったし・・・。

    「んで、その友達って、オンナのコ?」

   ニノの声で我に返った。

    「どっ、どーでもいーじゃん!!」
    「あ~・・・、そっかそっか~・・・。」

   みんなニヤニヤしながらばらばらに散っていった。

   夏コン終わっての休みは遊んでられないな・・・。


   その時、ケータイが鳴った。 登録してない番号だった。

    「はい・・・?」
    「あの、相葉さん・・・ですか?」

    「えっ? あの~・・・。」 

ちょっと警戒しながら様子を伺う。

    「すみません、今、お時間よろしいですか・・・?」
    「はあ・・・。」 

イタ電にしてはキチンとしてるけど・・・。 

    「あの・・・、私・・・おとといの、双眼鏡の・・・。」
    「えっ?・・・、あっ!!」

   彼女からだった。 慌てて廊下に出る。

    「・・・ごめんなさい、間違い・・・ですか?」

    「いえいえっ! 合ってますっ! そうですそうです! 相葉です!!」

   舞い上がって、なにを言ってんだか自分でもわかんなくなってた。

    「あの・・・、今、お話しできますか?」
    「できますできますっ! すっごいヒマでした!」

    「すみません・・・、突然お電話して・・・。
     あの・・・、お怪我のほう、いかがですか?
     お仕事、大丈夫でした?」
    「あ~、もうなんともないです、大丈夫です!」
    「ほんとにご迷惑おかけしました・・・。」
    「いえいえ、こっちこそ、すみません・・・。」

    「それで・・・、あの双眼鏡のことなんですけど・・・。」
    「はい・・・。」
    「随分古いものなので、たぶん修理とかできないと思うんです。
     ・・・そのままで返してもらってよろしいですか・・・?」
    「えっ・・・でも・・・。」

    「あの時は、ついお渡ししてしまったんですけど、やっぱり・・・。」
    「はあ・・・。」
    「元々は、私の不注意でしたから・・・。」
    「・・・。」

    「あの、こちらから取りに伺いますので、
     ご都合をお聞きしたいんですけど・・・。」
    「えっ、あっ・・・、ちょっと、待ってください!」

   ケータイを耳から離して、天井を見上げて深呼吸する。
   すぐに返してしまったら、それきりになるし・・・。
   もう少し時間をおいたほうが・・・。
   コンサートのオーラスも、もうすぐだし・・・。

   ・・・双眼鏡のことなんか全然考えてねーじゃん!

   自分に突っ込みを入れながら、ケータイを耳に当てた。

    「あの、しばらく忙しいんで、こちらから連絡します。
     今の番号でいいですか?」
    「はい、それじゃあ・・・、ご連絡お待ちしてますので・・・。」
    「はい、すみません・・・。」

    「失礼します・・・。」
    「あ、じゃあ、また・・・。」

   ケータイを閉じたとたん、緊張が解けてぼ~っとしてしまった。
   なんかていねいな話し方する人だな・・・、オトナってかんじ。
   見たところ、同い年くらいかと思ったけど、ずっと年上なのかも・・・。

   でも、そんな事どうでもよかった。
   ほんのわずかな時間だったのに、アタマの中がどっかに行ってる様な・・。

   また元のペースに戻すのが、すごく難しい・・・。
   あのドアのむこうには現実が待ってるんだけどね。

   とりあえず、コンサートが終わればまた会えるんだ。
   でも、双眼鏡をこのまま返すのは、やっぱマズイし・・・。

   とにかく、なんとか調べて店を回ってみよう。

   彼女の声を聞いて、さっきまでの不安は消えてなくなってた。
   彼女をびっくりさせたい。 笑った顔が見たいから。
   いろんな理由を考えながら、ひとりでニヤニヤしてた。

   ケータイをピコピコやりながらゆっくり歩き出す。
   楽屋のドアの前で立ち止まって、彼女の番号を登録した。

   誰の名前も入ってない、特別なグループに・・・。


つづく    21,Oct.2004






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