~6~






  次の日、なかなか寝付けないまま朝を迎えてロケバスの中。
  寝不足でぼ~っとしてると、ニノが話しかけてきた。

   「昨日はちゃんとキメた?」
   「はぁ~・・・? あ~、おかげさまで・・・。」
   「うっそ! どうキメたの!? 朝まで一緒だったとか~?」
   「ばーか!! んなワケねーだろっ!!」
   「ん~と・・・、じゃあコクったとか?
    ただの知り合いさんから昇格した?」

   「コクっては・・・ない。」
   「え~~~っ!? なーにやってんだよっ!!」
   「そんな段階じゃねーの! お友だちに昇格ってとこ!」
   「へ~え・・・、相葉ちゃんにしては慎重じゃあないですか・・・。」
   「・・・うん、なんかヘンだよなあ・・・。 自分でも思う。」

   「ま、いいんじゃない? まだカミングアウトしてないんだろ?
    少しずつ進んでいけばさ・・・。」
   「うん・・・。 なんかあんまり急ぎたくないんだよね・・・。」
   「大事にしたいってこと?」
   「そう・・・かな? なんかよくわかんないんだけどさあ・・・、
    今はさ、・・・どうしたいかって言うと・・・、
    ずっと話ししてたいって思うだけだから・・・。」

   「プラトニック?? なんなんだよ、どうなっちゃってんの?
    相葉さん、オカシイよ~~っ!!」
   「オカシクねーよっ!!」
   「ふ~~ん・・・、なんか意外な展開・・・!
    ふははっ!! おもしれ~~っ!!」
   「もー、うるせーんだよっ!!」

   「ふふっ、でもさあ・・・いつまでも仕事のこと黙ってられんの?」
   「・・・うん・・・。」
   「このまんまってワケにもいかないでしょ。」
   「だってさ~、改まって言えるか? タイミングがさあ・・・。」
   「テレビなんかで突然バレてみー? 最悪だぜ~・・・。」
   「・・・そりゃそうだけど・・・。」

  いつの間にか、ふたりで顔をつき合わせて考え込んでた。
  ニノはどこか面白がってたけど・・・。


  また会いたいと言ったものの、いつ会うのかなんて決めてなかった。

  普通なら、仕事帰りに食事に行くとか、飲みに行くとか、
  かる~く約束ができるんだろうな・・・。

  メールアドレスもしっかり登録したけど、
  昨日のお礼を無難にメールで送っただけ・・・。

  仕事が終わってロケバスに戻ると、メールが入ってた。
  はやる気持ちでケータイを開く。
  彼女からだった!

   “こちらこそ、昨日はありがとうございました!
    プレゼン、何とかうまくいきました。
    クリスマス向けの企画として採用されそうです。
    その時は、また見にいらして下さいね。”

  ・・・?メールの内容は、なんか仕事の報告ってカンジで、
  ちょっとガックリ・・・。

  みんなが乗り込んできた。

   「おいおい! ケータイに食いつく相葉ちゃん、久し振りに見たな~!」
   「いや、最近ケータイばっか見てんじゃん!」
   「な~んかサッサと帰りやがるしよ~~!!」
   「あれ~? みんな知らないの~~??」
   「よけーなコト言うなよっ!!」
   「なんだよ~! ヒューヒューかよ~~っ!!」
   「だれだれっ? アイドル? モデル? 女優??」
   「や、普通の人だよね? 働くおねえさんでしょ?」
   「カンケーねーだろっ!!」
   「相葉ちゃんのカノジョ、キャリアウーマンなの?」

  リーダーが目を丸くして言った。

   「キャリアウーマンって・・・! いつの時代だよっ!!」

  松潤が突っ込む。 ニノが茶化して、

   「だって嵐知らないくらいだもんね~~!!」  
   「え~~っ?! キャリアウーマン騙してつきあってんのかよ~っ!!」
   「つきあってない、つきあってないっ!!」
   「プラトニック、保ってるんだもんね~~っ!」
   「はぁ~~?! うっそだろ~~??」
   「ありえね~~っ!!」
   「どっかオカシイんじゃね~の!?」

  もうムチャクチャ・・・。
  みんな口々に叫んで、何がなんだかワケわかんね~・・・。
  反論する気も起きなかった・・・。


  そんなこんなで、ゆっくり返信メールもできず・・・。
  みんなの目も気になってしまって、家に帰り着いてから電話した。

  ふと時計を見ると、23時を過ぎていた。
  電話するには遅いかな・・・。 呼び出し音が鳴り始めた。

  やっぱメールにしとこう・・・。 切ろうと思った瞬間、

   「はい・・・。」
   「あっ・・・、相葉です!」
   「こんばんは・・・!」
   「ごめん、寝てた?」
   「ううん、ぜんぜん、まだまだ・・・。」

   「あ、メールありがとう。 返信できなくって・・・。」
   「ううん、別に・・・。 返信しにくい内容だしね。」
   「いや、そういうわけじゃなくって~・・・。」

   「何かもうちょっと楽しいメールだったらいいのにね・・・。
    他に思いつかなくって・・・。」
   「そんなことないですよ・・・。
    あ、クリスマス用のって、昨日見せてもらったやつ?」  
   「そうそう、あれがベースで、ちょこっとアレンジして・・・。」
   「へぇ~・・・。」

   「お客さん、来てくれると思う?」
   「思う思う! また見たいし・・・、何度でも見たいし!」
   「それは嬉しいです~・・・。」

   「・・・あ、また見に行っていいかな? 近いうちに。」
   「どうぞ! 今はハム太郎だけどね!」
   「えっ?」
   「だいたい小学生向けだから・・・。」
   「そっか~・・・。 でもいいや、ハム太郎、好きだし!」
   「ふふっ、よかった~。 時間外だったらまた電話してくださいね。
    貸切にするから・・・。」
   「え~、ほんとに?」
   「私と坂井さんだけのときね。」
   「あ~、坂井さん・・・。」    
   「すごく相葉くんのこと、気に入ってて・・・。
    よろしくって、また来てねって言ってたよ。」
   「うん、坂井さん、おもしろいよね~・・・。」
   「でしょ? プラネタリウムの責任者なんだけどね・・・。
    仕事もできるし、家事も子育ても、って娘さんはもう中学生だけど!」
   「ふ~~ん・・・。」

   「またみんなでお食事行きましょうね。」
   「・・・うん・・・。」

  みんなで・・・って、ふたりでじゃあないよな・・・。
  テンション下がる・・・。 でも意地になって続けた。

   「あ、今度はさ、僕がごちそうしますよ!」
   「えっ、ホント? 私たち、この辺しか知らないから・・・。
    そういうギョーカイの人たちって、
    いろんなオシャレなお店に行くんでしょ?」  
   「いや~・・・、オシャレなとこにはあんまり行かないけど・・・。
    居酒屋とか、カラオケとか行くし・・・。」
   「え~~~っ!? カラオケ? 歌うの? 相葉くんが?
    みんなの前で?? 想像できないですよ~・・・!」

  えっ・・・、歌うし・・・。 しかも踊るんだけど、メチャクチャ・・・。
  ほとんどコスプレ状態だし・・・。
  みんなって、かなりの人数なんだけど・・・。

  ・・・ますますカミングアウトできなくなるじゃん・・・!


  それからしばらくは、ドラマの撮影や、地方でのイベントで
  あちこち行ったり来たりで、次の約束はまだ果たせなかった。

  でもその分、メールや電話でのやり取りは続けていた。

  小さな天体望遠鏡も買ってしまった。 今年は売れてるらしい。
  でも、まだ箱に入ったまま・・・。

  ときどき、夜の空を見上げては、
  目に付いた星のことを聞くためにメールしたりするけど、
  別に付き合ってる訳じゃないから、
  あんまり頻繁にやり取りするのもおかしいような気がして、
  今の関係の居心地の悪さに、少しうんざりもしていた。

  ホントに中途半端なポジション・・・。
  暇でもあれば、気軽に誘って遊びに行ったりできるのに・・・。
  よりによって、今年の秋冬は特に忙しい。
  ありがたいことですけど・・・。

  実際に、地方でのイベントは面白くて、話題には事欠かないんだけど、
  仕事のことは知られてないから話すこともできない。

  でも、この関係を保つためには、
  ずっと言わない方がいいのかも知れないとも思った。



  彼女にとって、俺はどんな存在なのか・・・?

  今ではすっかりメル友として気のあう友達で、
  年上のせいか、いつも落ち着いていて、でもときどき面白いことも言う。
  ホントにふつうのふつうの女の子で。 
  お姉さんってカンジもして・・・。



  忙しい時は、ホントに次々いろんなことが重なって、余裕がなくなってくる。

  バラエティのロケは楽しいけど、ドラマのことも気になって、
  なんだか落ち着かないし、いつも何かに追われてる感じ・・・。

  ホテルの狭い部屋にひとりで戻ると、
  静かすぎていろんなこと考え込んでしまって、
  彼女とゆっくり歩きながら、ずっと話しをしていたいって思う。

  南の島の星空は、東京と比べものにならないくらいキレイで、
  彼女と一緒に見られたら・・・って思ってしまう。

  ここでも火星は明るいよ。 ひとりで見るより、ふたりで・・・。




  真夜中。 眠れずにメールを打つ。
  朝、見てくれるように・・・。

   “おはようさん!  
    元気ですか? 
    今、石垣島に来ています。
    星がメチャクチャきれいです。
    泣けるくらいにきれいです。”

  それだけ。 送信。

  なんか弱っちいメールだったかな・・・。 ま、いっか。

  投げやりな気持ちで、ベッドに寝っころがる。

  静かな、静かな夜。 ホントに泣けてきそうだ。

  彼女には彼女の生活があって、世界があって、
  俺はメル友のひとりで、弟みたいなもんで・・・。
  たとえもしコクったとしても、彼女を苦しめるだけ・・・?
  毎日こんな生活で、ロクに会いもできないし、
  縛り付けるだけで、何もしてあげられないし・・・。
  彼女が普通の穏やかな生活を送ってるひとだからこそ、
  そっとしてあげたい気もするし・・・。

  あ~~~、今日はおかしい!! ネガティブになりすぎっっ!!
  自己嫌悪でベッドの上を転げ回る。

  と、その時メールのチャイムが鳴った。 彼女の名前!
  慌てて開くと、

   “東京の星空もきれいだよ! 
    今日は特別みたいです。
    まだ起きてるの? 大丈夫ですか?”

  突然みたいに終わってた・・・。

  信じられなかった。

  まさか今、この時間に、こんな真夜中に、彼女も起きてたなんて・・・。
  起きてたんじゃなくて、起こしたのかもしれないけど。

  少なくとも、自分が彼女のことを考えてるのと同時に、
  彼女も気にかけてくれてる・・・。

  ケータイを握り締めて、寂しさと嬉しい気持ちとを抱きしめてた。

  と、今度は電話の着信音!

  不意をつかれて、手元からケータイが滑り落ちた。

  転がるようにベッドの下のケータイを掴んで、
  床に座り込んだまま、耳に当てる。

   「・・・は、い・・・。」

  声がかすれてうまく出せない。
  胸の鼓動が速くなってく・・・。

   「・・・だいじょうぶ?・・・どうかしたの・・・?」

  何日か振りに聞く、まいちゃんの声。

  ささやくような、遠くに聞こえる声。



  真夜中。

  ケータイを耳に当てる彼女の姿が目に浮かぶ。

   「・・・。」

  とっさに何も言えなかった。
  何を言えばいいのかもわからなかった。

   「相葉くん・・・? なにかあったの?」

  なんでそんなに優しく訊くんだよ・・・。 胸が痛む。

   「・・・ごめん・・・。 こんな夜中に・・・。」

  喉の奥に何か突っかえてるような、乾いて貼り付いてるような感じがして、
  声を出すのが苦しかった。

  ・・・話したかった。

  話したいことがいっぱいあったはず・・・なのに・・・。

   「そんなこと、いいよ・・・!
    それよりだいじょうぶ?  
    具合悪いの? なにかあったの・・・?」

  本当にまいちゃんは心配していた。

  早く元気に答えなきゃ。 なんでもないんだって。
  心配かけすぎはかっこわるい。

   「ゴメン・・・! なんでもないから・・・!
    なんか眠れなくってさ・・・。
    メール、起こしちゃった?」
   「ううん、私も起きてたし・・・。
    それよりびっくりしちゃって・・・。
    メール、なんかいつもと違うし、
    声聞いたら元気ないし・・・。 ほんとに・・・。」

   「返事来るって思ってなかったから、びっくりして・・・。」
   「・・・ほんとに・・・だいじょうぶ? お仕事、大変そうだね・・・。」
   「うん・・・、忙しいけど楽しいよ。 好きでやってるから。」
   「そう・・・、好きなこと仕事にできる人って、そういないよ。」
   「うん・・・、まいちゃんも好きなこと仕事にしてるよね。」
   「そうだね・・・。 でもプラネタリウムの星はただの照明だから。
    石垣島・・・? いいよね~・・・、満天の星、でしょ?」

  立ち上がって、バルコニーの窓を開ける。

  プラネタリウムとは違う、浮かび上がるように瞬く無数の星を見上げながら。

   「うん、星の数が違う・・・。 ほんとに降ってくる感じ・・・。
    もう、まいちゃんに見せたいくらい・・・!
    ひとりで見るのがもったいなくってさ・・・。」
   「いいなぁ~・・・、行きたいなぁ~・・・。」

   「おいでよ!・・・って、明日は俺もういないんだ・・・。」
   「帰ってくるの?」
   「うん、午前中にはもう東京。」
   「ふ~ん・・・、フリータイムもナシ?」

   「次の仕事があるから・・・。」
   「ホントにたいへん・・・。」

  フリータイムなんかどうでもよかった。

  星空は、こっちの方がキレイに決まってる。

  でも、早く帰りたいと、ふと思った。

   「・・・あした・・・。」無意識に口をついて出た。

   「・・・えっ?」

  たしか、明日の晩にぽっかり時間が空くはずだった。
  撮影が早く終われば、次のスタジオまでの移動の時間も合わせて・・・。

   「あした・・・、プラネタリウム、見に行っていいかな・・・。」
   「ほんと? もちろんどうぞ! ひさしぶりだね・・・。」

  彼女の声がほんの少し明るくなったような気がした。
  そんな些細なことでも、嬉しくなる。

   「あ、そうだ! ごちそうするっての、忘れてないから!」
   「ふふっ・・・!」
   「2時間くらいしかないけど、いいとこあるかなあ・・・。」
   「外食ばっかりでしょ? 食べたいものある?」

  まいちゃんの手料理! なんて言えるワケないか・・・。

   「ほかほかごはんっ!」
   「おっけー! いいトコありますよ! おいしいお惣菜も・・・!」 
   「腹へってきた~~!!」
   「ホント、私も!」

  心が軽くなっていく・・・。

  いつのまにか、元気に笑う自分がいた・・・。


つづく  02,Feb.2005





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