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2007.08.23
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僕の左隣に座るアユミは言った。「それはインチキをしているからでしょ?私わかるわよ。あなたがポーカーしてるときの顔って見たことないけど、きっと表情だけで見抜けると思うわ」




トカゲは右手の人差し指を自分の顔の前に出して左右に振ると汗を存分にかいたジョッキに注がれたぬるくなったビールをごくりと一口飲み込み、得意そうに言った。「君、インチキだってひとつの戦法なんだぜ、それは正しくはないが間違ってもいない、結局は見る角度の問題なのさ」

「でも正当ではないじゃない、ルール違反なんでしょ?」と言ってアユミは僕を見た。「うん、そうだね、ルール違反だ」「やっぱり。反則じゃないの、トカゲくん」アユミはニシシと笑った。彼女は特徴的な笑い方をする。





「さっきも言ったようにさ、それはやっぱり見る角度の問題なんだよ」とトカゲは火をつけようと咥えた煙草を口から離して言った。それからもう一度煙草を咥え、カウンターのバーテンダーにマッチをもらって三回ほど擦り、やっと火がついたそれを煙草に移した。マッチの火をジョッキの表面に付着した水滴で消して、煙草を手に取り息を深く吐き出した。とても手慣れた、とても長い一連の動作だった。僕らはその間何も話さなかった。トカゲとの会話における彼の間の取り方というのは実に魅力的だった。



「ルールというのはあくまで物事を束ねるための表面的なものなんだ。その束ねられた物事の表面は見えても中は見えない。そこが面白いんだな」

彼は続けた。「今はなにもかもがつまらなくなりすぎている。学習できないんだ。風邪を引けば自分が悪い、金をとられても自分が悪い。そういうものの見方はやっぱり大事だぜ。もちろん盗むやつが悪いけど、それを個人の問題として見ればそこには自分しかいないんだな」





「故に騙されるやつが悪い、と」と僕が言うとトカゲは煙を吐いた。「ああ、だがポーカーでの騙しはルール違反じゃないとオレは思うぜ。それは表面的にはルールに則してるんだ。ニュースでは報じられない。誰も気づかない。罪は気付かれてはじめて罪となるからな、それまではしっかりとした正当な行為とみなされるんだよ。理不尽かつやや理解しがたいけど、それもまたルールなんだ。そこのへんもやっぱり見方次第だろうな。几帳面な人間は正しくあることに美意識を持つ。とすればやっぱりオレみたいなやつもいるわけで」



おー、とアユミがうなった。「トカゲくん、あなたやるわね」

「どうもありがとう」







「太宰治的だな、きっとトカゲは」と僕は言った。「『とにかくね、生きているのだからインチキをやっているのに違いないのさ』ってか?」

「そのとおり」トカゲは得意げに笑みを浮かべた。




トカゲは、今夜も賭けで手に入れた小銭をポケットにじゃらじゃらと鳴らしながら、さびれたバーを出て行く。





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Last updated  2007.08.24 01:17:01
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