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2006.11.28
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カテゴリ: 邦書

 創元推理文庫の江戸川乱歩全集第二巻。乱歩の初期の短編10編が収録されている。


粗筋

「二廃人」大正13年6月発表
 井原は、旅先で知り合った斎藤氏に、自分が巻き込まれた事件について語る。
 子供の頃夢遊病に悩まされていた井原は、その病気が再発したことを知る。そのことで友人の木村に迷惑をかけることになった。ある日、井原は自分が眠りながら動き回っていた最中に、近所の老人を殺害してしまった。彼は夢遊病者です、という木村の証言で、井原は実刑を免れた。井原はその後田舎に帰った。ショックの為か、夢遊病は治った……。
 その話を聞いていた斎藤氏は、それは違うだろうと言う。老人を殺したのは木村だと。ただ、自分が罪に問われたくなかったので、井原に被せた。といって、井原が殺人犯として裁かれたら可哀想なので、夢遊病が再発したように本人や周りの者に見せかけ、井原に罪を着せながらも井原が殺人犯として裁かれないよう、手続きした。
 ……シンプルな、どうってこともないプロットで、トリックにも意外性はないが、文体が独特で、引き込まれる。
 ただ、当時の法廷が単に夢遊病者ということで被告を精神喪失と見なし、無実にしてくれるだろうかが疑問。現在だってそう簡単に認められない筈。

「D坂の殺人事件」大正14年1月発表
 名探偵明智小五郎初登場の短編。
 明智と「私」は、近所の本屋の様子がおかしいと感じ、本屋に上がった。すると、奥の部屋で本屋の妻が死んでいた。表は人通りが多く、人目に付く。裏においては、犯人らしい人物は通らなかったとの証言があった。犯人はどこに消えたのか。
 また、本屋にいた二人の客は、障子の隙間から犯人らしい人物が望めたという。一人は犯人が白い着物姿で、もう一人は犯人が黒い着物姿だったと証言した。
「私」は、独自で捜査した。「私」は、犯人が白と黒の縦縞の着物を着ていたと推測する。また、本屋の近くにある蕎麦屋に、白と黒の縦縞の着物を着た男が裏口から入ってきたという証言を得る。その男は容姿が明智そっくりだった。また、本屋の電灯には明智の指紋しかなかった。死体を発見して電気を点けた際、元の指紋を消したのだろうと警察は推測したが、「私」は元々明智の指紋しかなかったのだろうと推理した。
「私」は、明智が犯人だと指摘する。
 明智は、その推理を聞いて笑い出す。状況証拠は揃っているようだが、事件の心理面をまるきり無視していると。
 明智は自分の推理を述べる。二人の客が見た白と黒の着物は単なる錯覚。蕎麦屋が明智に似た男が裏口から入ってきたと証言したのは、「私」がそう言うよう無意識に誘導したからだった。実は蕎麦屋の主人こそ犯人だった。実は、蕎麦屋の主人と殺された本屋の妻はサドマゾの関係にあった。本屋の奥さんはその行為の最中に死んでしまった。要するに事故死である。
 ……電灯が点いたのは、スイッチを入れたからではなく、明智が慌てて触った為切れた電球がくっ付いたから、など、現在では首を傾げてしまうような内容や、「読者諸君」と「私」が作中で読者に語りかける部分は、古臭いといえば古臭い。が、あまりにも現実離れしていて、別世界の出来事のようにも感じる。ホームズ物語の霧とガス灯の世界に通じている感がなくもない。別世界なので、古臭くなっても時代遅れにはならない物語。
 明智小五郎が頼りなさそうな青年となっているのは面白い。髪がもじゃもじゃなのは金田一耕助の影響か。あるいは逆か。あるいは当時の流行だったのか。明智の住まいは書物で溢れていて、座る場所もなかった為、「私」が仰天するが、こちらはそれに近い環境で生活しているので、びっくりするほどのことかよ、と思ってしまう。
 乱歩というと怪奇趣味が思い浮かぶが、こういった論理的な推理小説も書いていたんだなと思わせる。この手の小説をもう少し書いていれば、現在乱歩は怪奇小説家より推理小説家としての名声が高くなっていたと思うが、時代が許さなかったのだろう。
 本作品では「モルグ街の殺人」と「まだらの紐」のネタバレがあるので注意。

「赤い部屋」大正14年4月発表
 T氏は、ある会で、自分が99人も殺したと告げる。ただ、一度も捕まったことがないどころか、容疑をかけられたこともないと言い張る。彼の「殺害」法が巧妙だからだ。
 例えば、重傷の患者を腕のいい医者ではなく薮医者に紹介したり、踏切を渡ろうとしている老婆に対し「危ない」と声をかけて驚かせ、足が止まったところを列車に轢かせたりなど、無関係な者に対し親切にしたように見せかけて殺していたのだ。
 T氏は、銃を取り出し、撃ってみせる。空砲だった。女に渡し、自分を撃ってみろという。女性はT氏に向けて撃ったところ、実弾を食らって死んだ。
 会の者は、T氏は自分自身を100人目にしたのだと納得したところで、T氏は起き上がり、実は99人を殺したことは全部嘘だと笑う。
 赤い部屋も単なる錯覚だった……。
 ……子供騙しみたいな作品。奇怪な雰囲気は出ているが……。

「白昼夢」大正14年7月発表
 薬屋が棚に飾ってある人形は、実は妻の遺体だった……。
 ……ショート・ショートの割には訳が分からなかった。

「毒草」大正15年1月発表
 流産を促す毒草をある女性に渡したところ、村中の女性が次々流産を選ぶ……。
 ……これもショート・ショートの割には訳が分からなかった。

「火星の運河」大正15年4月発表
 男が散歩中に幻想を見る……。
 ……これもショート・ショートの割には訳が分からなかった。
 乱歩のショート・ショートは幻想的なのが多く、普通の読解力しか持たない身としてはチンプンカンプン。

「お勢登場」大正15年7月発表
 格太郎は、息子とかくれんぼうして遊んでいたところ、自分自身を長持に閉じ込めてしまう。外出から帰ってきた妻のお勢は、夫が長持から出られなくなったのを知っていたが、病弱な夫の世話に飽きていたお勢は、知らん振りをする。やがて格太郎は死体として発見されるが、お勢は罪に問われることなく難を逃れる。
 ……捻りも何もない短編。独特の雰囲気は出ているが……。

「虫」昭和4年6月発表
 柾木は、舞台女優になった幼馴染みと再会する。もしかして彼女は俺に恋をしているのでは、と柾木は勝手に思うが、幼馴染みはそうとは微塵にも思っていなかった。虫酸が走る、と思っていたくらいだったのだ。
 怒った柾木は、幼馴染みを殺すことにした。車内で絞殺して、自宅の井戸で埋めると計画する。が、殺した途端に、遺体を埋めるのは惜しいと考え、側に置くことにした。が、遺体は徐々に腐敗していく。
 柾木は慌てて遺体の腐敗を止めようと考えるが、上手く行かない。せめて化粧を、と思って化粧を施すが、腐敗によりそれも台無しになってしまう。
 柾木は幼馴染みの横で死体となって発見された。
 ……これも乱歩流怪奇が全開の短編。柾木の動機や行動(覗きで幼馴染みの本音を知る)は「?」が付くが、細かいところを気にして読む小説ではなかろう。
 腐敗現象のディテールはリアルで気味悪い。

「石榴(ザクロ)」昭和9年9月発表
 刑事の「私」は、旅先で猪股という人物と知り合う。「私」は、自分が担当した事件の中でも最も奇妙なのについて語る。
 死体が発見された。硫酸により、顔がザクロのように潰れていた。身元がなかなか割れなかったが、谷村絹代という女性が現れ、知人の琴野ではないかと言う。絹代の夫と琴野は、商売敵で、元恋敵でもあった。琴野は、夫を呼び出したところ、殺されてしまったのでは、という。なるほど、服装は琴野のものだった。谷村は、犯行時刻後に一旦帰宅したが、その後家を後にし、消息を絶った。
「私」は、事件を捜査している内に、被害者と加害者が逆では、と考える。死体の指紋が、谷村の日記に残された指紋そっくりだったからだ。琴野は谷村を殺し、顔を潰した。死んだのが自分であるかを装う為、谷村の家に入り、谷村が生きているように見せかけ、姿を消した。絹代は、犯行日に夫らしき人物と一言も交わさなかった、ということもその推理を補強した。
 が、琴野の行方は結局分からないままだった。
 猪股は、「私」の推理が間違っているのでは、と指摘する。死んだのは谷村ではなくやはり琴野だった。谷村は、「私」の裏の裏をかいていたのだった。谷村は、別の女と浮気していた。赤字続きの事業を清算し、長年のライバルを殺害しようと考え、この計画を実行に移したのである。
 また、猪股こそ谷村だった。
 谷村は浮気相手と共に大陸に渡った。整形し、日本に戻った。しかし最近、愛人が死んでしまった。その為、谷村は「私」に全てを話し自殺した。
 ……本作品は、ベントリーの「トレント最後の事件」と、クロフトの「樽」を述べている。
 裏の裏をかいているというが、なぜ警察がこの程度の工作を見抜けなかったのかと首を傾げてしまう。谷村が経営する事業が火の車だったのだから、谷村をもう少し疑うべきではなかったのか。また、顔が潰れている死体の身元確認を、衣類だけで済ませてしまうのはどうか。その後指紋を照合するが、それもずさん。現在は遺伝子レベルで行うので、到底無理な犯行。時代を感じさせる。警察が谷村の浮気を掴めなかったというのもおかしい感じがする。
 谷村の動機も分からない。商売敵といっても、琴野はとっくに廃業していたし、自分も廃業するのである。代々の商売敵とはいえ、互いに廃業するのだから、殺す必要はあるだろうか。元恋敵を殺したかった、という動機もおかしい。なぜなら、その競争の対象となった女性こそ絹代で、谷村は琴野から勝ち取ったその妻を捨てて別の女と逃避行するのだから。

「防空壕」昭和30年7月発表
 東京大空襲の最中、ある男が防空壕に逃げ込む。そこには若い女性がいた。二人は肉体的に結ばれる。翌朝、若い女性の姿はなかった。男は防空壕の土地の持ち主を突き止め、そこの老女に若い女性について尋ねるが、知らないと言われる。男は諦めて帰った。
 実は、その老女こそ「若い女性」だった。暗かったし、男は眼鏡を失っていた為、老女を若い女生と勘違いしたのだ。
 ……いくら暗く、眼鏡を紛失していたとはいえ、老女を若い女と間違えるか。ま、四十くらいの女性なら勘違いするかも知れないが、老女を勘違いするのは有り得ないだろう。当時の性交は下半身だけしか使わなかったのか。
 奇妙な物語だが、これと同じ内容の少女漫画を読んだことがあるので、新鮮味がなかった。「金田一少年の事件簿」を読んだ後に島田荘司の「占星術殺人事件」を読んだ気分。


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解説

やはり大正時代に発表されたものは独特の雰囲気が出ていて、乱歩らしい奇怪な世界を作り出している。昭和のも戦前のが大半で、現在の小説とは印象が異なる。最後の「防空壕」は体験者でなければ知り得ない空襲のディテールが盛り込まれていて興味深い。
 ただ、ショート・ショートはいただけない。どれも構想を練っていない感じ。一定の長さでないと考えがまとまらないのだろうか。



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Last updated  2006.11.28 16:54:48
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