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2016.10.16
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カテゴリ: 邦書

 著者を代表する浅見光彦シリーズの一つ。
 主人公の浅見光彦が、副知事の秘書として、秋田へ飛ぶ。


粗筋

浅見光彦の兄で、警察庁刑事局長の陽一郎は、文部省の望月世津子と知り合いだった。世津子は、秋田県で起こった県営住宅建設会社の汚職事件をきっかけに、副知事に就任する事か決まった。
 そんな彼女に、脅迫めいた手紙が届く。事実、彼女が調べると2つの死亡事件が当初は殺人事件として捜査されていたのに、いつの間にか自殺として処理されていた。何か大きな力が動いていると察した彼女は、陽一郎に相談しに来たのだった。
 警察組織の幹部とはいえ、県警レベルで「事件性が無い」と判断を下したものを何の根拠も無く覆す事は出来ないし、表立って捜査する事も出来ない。そこで提案する。探偵めいた事をやっているルポライターで弟の光彦を秘書として起用し、捜査に当たらせてはどうか、と。
 彼女はそれに賛成し、光彦は秋田へ向かう。
 秋田は、汚職事件で大きく揺れていた。秋田県が出資した住宅建設会社が、欠陥住宅を売り捲っていたのだ。被害は数百件にも及び、額も百億近くになっていた。大元とされる元社長は行方をくらましていた。
 自殺したとされる2人は、その後始末の為に奔走していた人物だった。多大なるストレスを抱えていたのは事実だが、焼身自殺する程とは思えない、と遺族は訴えていた。
 秋田県庁も県警も、汚職事件をさっさと過去のものにしたいと考えており、光彦の捜査にはあまり協力的でないのが殆どだったが、どうにか疑問を抱く協力者を探し出し、捜査を続ける。
 最終的には行方をくらましていた元住宅会社社長を探し当てる。元社長は、自殺したとされる者の遺族に対し、2億円の「示談金」を支払うと切り出す。
 遺族は、光彦の予想を裏切り、見舞金を受け取ってしまう。
 光彦は、「自殺者」を殺した実行犯の暴力団を探し当てた時点で捜査結果を全て警察庁に報告。警察庁も、漸く本腰を揚げる。
 流石の秋田県警も警察庁の圧力に耐えられず、多数の者が左遷させられ「自殺」も殺人事件として本格的に捜査される事に。秋田県庁にもメスが入る。
 それを見届けた光彦と副知事は、退任する運びとなった。
 秋田を去る直前、何者かが住宅の件で被害を受けた者らに対し2億円が寄付されていたのを知る。光彦は、遺族が元社長から金を受け取ったのはこの為だったのか、今更気付いた。



解説

本作は、秋田で実際に起こった県営住宅建築会社による不正をきっかけに書かれたらしい。
 いわゆる社会派小説、という事になる。
 不正を世間に訴えたい、正したい、という著者の思いは痛い程理解出来るが、小説そのものは著者の自己満足に終わっていて、何も響いてこない。

 主人公の光彦は警察庁刑事局長の兄が一目を置く程優秀な探偵、という設定になっているらしいが、その優秀振りが発揮される事は最後まで無い。何かあると、「私はあの警察庁刑事局長の弟です」という事実をさらけ出し、警察関係者から情報を無理矢理引き出すか、嫌がらせする警察関係者を引き下がらせるだけ。兄の七光が無かったら、何の動きも取れないと思われる。

 光彦の探偵としての作法は、事件関係者の元に足を運んで、ひたすら質問するだけ。
 必ずしも間違っている訳ではないが、やり方を見る限りでは、何度か足を運んでいる内にその中の誰かが「分かりました。私が犯人です。全てをお話しします」と認めるのを期待しているかの様で、探偵ならではの閃きや推理というのは一切無い。

 光彦の無能振りを象徴するのが、遺族が元社長から金を受け取ると、「遺族は金に目がくらんでしまったのか」と勝手に判断し、失望して、それまで密に連絡を取っていたのに、関係を一切絶つ場面。
 後に新聞で2億円が寄付されたのを知って、遺族が自分らの為に金を受け取ったのではない、と気付くのである。
 様々な人間と接している筈の「ルポライター兼名探偵」で、「勘が良い」と兄から評されているのに、この程度の読みすら出来ないのはおかしい。

 光彦の実家は、警察組織の官僚を輩出しているものの、昔からの名家という訳ではない。にも拘らずお手伝いさんがいて、そのお手伝いや母親が「スーパーマーケットはお坊ちゃまが行く様な場所ではない」と光彦を諌める等、妙に名家ぶっているのも、嫌味にしか見えず、キャラの好感度を下げている。

 推理小説、とはなっているが、圧倒的なトリックは無く(謎めいた2つの殺人事件は、結局暴力団関係者が直接手を下しただけ)、ラストでのどんでん返しも無く、物語の展開も先が読めてしまう。
 無駄に長いだけで、何の驚きも感動も無い代物に仕上がっている。
 出版社の事情で書店の棚を埋める為に、著者はその原稿を埋めているだけで、技巧を凝らしている余裕なんて無い、といった感じ。

 社会派小説は、本来は社会の問題点を小説という形で炙り出し、世間に訴え、世論がそうした問題の解決へと動くよう、促す為のもの。
 しかし、本作は全て著者の自己満足・自己完結で終わっている。
 作中の住宅汚職問題も解決する流れへと向かう形になっているし、殺人事件も解決するし、罰せられるべき者は罰せられ、称賛されるべき者は称賛される。
 著者は、本作を読んだ読者が何をする事を期待するのか。大抵の読者は、本作を読む事で本作のベースとなった実際の事件も「解決した」と見なし、それ以上追及しないだろう。
 社会派小説が、現実問題が小説の様に見事解決していると読者に錯覚を与えるようでは、本末転倒なのだが。

 錯覚を与える社会派小説も、フィクション上のカタルシスを与える程度なら問題は無い。
 本作の問題は、秋田県警の腐敗振り、そして日本の警察制度の問題が炙り出したのに、その事については軽くしか触れておらず、「悪いのは秋田県庁と暴力団」とされ、秋田県警の処分は主要人物の左遷や降格人事でお茶を濁している事。
 光彦も、それを良しとしている。
 ルポライターで、ジャーナリストの端くれの筈なのに、警察組織の腐敗振りは弁護しながら、県庁や県職員の腐敗振りには執拗に批判するダブルスタンダード。一番ライターに適していない人物である。
 作中で、光彦は「警察という組織は強いが、個々の警察官は弱く、組織の意向に従わざるを得ない飼い犬的な存在」と評している。
 この発言は、警察という組織に直接属していないにも拘わらず、身内が警察官という事で、光彦自身が警察に飼い慣らされた飼い犬である事を示している。
 もし光彦の発言が正しいとするのなら、ナチスのメンバーが犯した犯罪は、幹部以外は無罪放免にすべき、という事になってしまう。

 本作では、二人のヒロインが登場、という事になっている。
 一人は副知事に任命された望月世津子。
 もう一人は、自殺者(実際には殺人被害者)の娘で、元社長の「示談金」を受け入れてしまう留美子。
 望月世津子は、美人で、やり手の官僚で、正義感が強い……、という「善い人」を漫画風に描いたキャラで、深みが無く、リアリティに乏しい。
 にも拘わらず、作中で何度も登場させ、彼女がいかに魅力的であるか、読者に訴えようとするのだが、全く伝わって来ない。
 留美子は、最初は光彦に警戒感を抱きながら、徐々に信頼していき、協力していく。こちらの方が、キャラとしては深みがある。しかし、「示談金」を受け入れた時、光彦が「金に買収された」と勘違いした結果、物語から退場してしまう。
 何故光彦が留美子に対し「示談金」を受け入れたのか、と訊いて、理由を知って納得する場面や、謎の寄付金が贈り付けられた後に「示談金はこの為に受け取ったんだね」と話し合う場面を盛り込まなかったのか、よく分からない。
 魅力に乏しい望月世津子は執拗に登場させているのに、若干だが共感出来る留美子は扱いが雑という、著者の意図が分からない。

 本書は、巻末に、「ファンによるコメント」らしき雑文を掲載している。女性の副知事、という点以外はこれといった特徴の無い女性キャラを本書におけるヒロイン扱いして見せたり、本書のとるに取らない場面を、まるで手汗握るサスペンスに満ちたシーンであるかの様に絶賛したりしている。
 本シリーズがいかに人気であるかをアピールするかの様に。
 児童文学ならともかく、大人向けの読み物とは思えない。

 本シリーズに人気があるとすれば、それは低予算でテレビドラマ化し易く、その手の物を有難がって観たがる視聴者がいるからだろう。
 冷静に考えてみれば、人気となる要素は何も無く、出版社や放送局によって都合よく「作られた人気」であるのがよく分かる筈なのに。







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Last updated  2016.10.21 17:34:44
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