「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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走れよ、メロス!第1話
走れよ、メロス! 第1話
さく utty
むかし、ギリシャにメロスとイカロスという大の仲良し二人組がいた。
メロスはセイント(聖闘士)と呼ばれる軍人、イカロスは蝋人形などの蝋細工を作る職人をしていた。
しかし、イカロスは蝋人形の需要などほとんどない為、毎日、空を飛ぶことばかり考えている少し変わった男だった。
そこである日、メロスが休暇を利用して気分転換に、イカロスを数十キロ離れたアテネの町に遊びに連れていくことになった。もちろんメロスのおごりでである。
その日、二人は、早朝日も上らぬうちから弁当をもって、当時ギリシャでは一番の都会、アテネへと向った。
歩き通しで、二人がアテネに着いたのはもう夕暮れ近くになっていた。
これまで、朝作った弁当を昼前に食べたきりだから腹ペコだったので、まずは、アテネグルメ巡りとしゃれこむ事となった。
そこはギリシャでも超有名な三ツ星レストランで、今まで見たことも喰ったこともない料理が次から次へと出て来た。もちろん、見たことも喰ったことも、聞 いたことさえない料理なのだから、注文するのも適当で、自分達が喰っているものがなんという料理で、どのように作られているのかという疑問も抱かないわけでもなかったが、とにかくその美味さと珍しさで、パセリ一つ、骨一本残さず出てくる料理をすべて平らげた。
いいだけ喰ってふと気がつく。
「あれっ!」
財布がない。二人分の金はなくすと大変なので、どちらかというとしっかり者のメロスが出発前にきちんと忘れないように、いや、もし忘れそうになったとし ても顔を洗うときに気づくように確かに・・・確かに顔を洗うとき・・・洗面台のところに・・・忘れて来ていた。
にわかに青くなるメロスに、イカロスも気づいたようだ。
「メロス!まさか!?」
イカロスの問いにメロスは片目をつむり、首を斜に曲げながらうなづいた。これはメロスの癖だった。何かヘマをやらかしたときは必ずこうする。二階に住ん でいるイカロスを呼ぶために、石ころを拾って窓にぶつけようとして、勢い余って窓ガラスを割ってしまったときも確かこんな顔をしていた。イカロスの仕事場へ来て蝋人形の首を折ったときも確かこんな顔だった。メロスがこんな顔をするときは決まってイカロスが被害にあうのだ。確か、ガラスの時は母親に、首の時は親方に、怒られるのはいつもイカロスだった。付き合いの長いイカロスには今どういう状況なのかそれを見て一発で把握できた。
「やべーよ、逃げるか?」
イカロスは取りあえずいってみた。一人だけ怒られるのも嫌だったし、メロスに罪をなしつけるのも嫌だった。
メロスは当たりを見回して、今度は大きくうなずいた。
二人は意を決して店を飛び出そうとした。しかし、慣れないことはそううまく行くものではなかった。
二人は店を出る前に店員に呼び止められてしまった。だが、ここで強引なことをしてはいけない。警察沙汰はご免である。二人は家に財布を忘れて来たのでと りに帰ると言った。もちろん、すんなり二人が帰れるわけもなく、軍人で足も速いメロス一人がとりに帰ることになった。出掛け際、メロスが言った。
「絶対、明日の正午までには戻ってくる。それまで俺を信じて待っててくれ」
「ああ、もちろんだ。本来なら俺が空を飛べたらすぐに行くことができるのだが・・・」
「お前まだそんなこと言ってるのか」
イカロスは空想癖があったので、よく空を飛ぼうとして屋根から落ちて怪我をしていたものだった。今回アテネに来たのもそんなイカロスを思いやってののこ とだったのだが・・・
「ああ、今日は羽を家において来たのでな、俺には待つことしか出来ないが、君を信じて待ち続けるよ」
どうやら、アテネに来た効果はあまり期待できないようだ。
そのやり取りを聞いていた店主がこう言った。
「おもしろい。もしも、明日の正午までに貴様が戻らねば、この男を警察に突き出すことにしよう。食い逃げ犯としてな」
メロスとイカロスは、その話を聞いて、余計なことを言っちまったな。と、後悔したが、言ったことも本心な訳だし、この店主スゲー嫌な奴だなと思いつつも、 その条件をのむことにした。
そして、メロスはアテネのまちをあとにした。
メロスの足は予想以上に速かった。途中、先ほど食べたものが幾度となく逆流 しそうになったものの、日付けが変わるか変わらないかのうちに彼はもう家に着いていた。
メロスは、十六の頃に両親を亡くしてからは、当時小学生だった妹と二人で暮らしていた。今日は泊まる予定だったので妹には、用心のため、鍵をかけて早く 寝るように言ってあったから合鍵で開けようとしたが、手元が暗くてどの鍵かわからない。そこで、せっかく眠っている妹には悪いが、内側から開けさせることにした。
「ピンポーン」家の中のほうでチャイムが鳴っている。しばらくして、明かりが灯り、ドタバタという音とともに妹の声がした。「はーい。どちら様ですか?」
「俺だ、メロスだ、開けてくれ!」
「えっ!?兄さん?」
驚いたような声がしてドアが開けられた。
妹は兄の顔を見るや否やこう言った。
「ど、どうして帰って来たの?今日は泊まるって言ったじゃない!?」
「いや、それどころじゃないんだ!」
メロスが家に入ろうとすると、妹がその前に立ちはだかった。
「おう、ちょっとどけてくれよ!」
メロスが妹を押し退けて家に入ろうとすると奥のほうで声がした。
「どうしたんだ?誰か来たのか?」
メロスには聞き覚えのない男の声だった。
「!!」メロスはそのときピンと来た。見ると、妹は苦い表情をしてうつむいている。確かにいつもとは少し格好が違う。普段は寝るときはパジャマなのに、 今日に限って下着にYシャツという格好だ。
「お前・・・その姿・・・まさか!?」
メロスは妹をほったらかして家の奥へと入って行った。
すると案の定、上半身裸の見知らぬ若者がズボンに片足を突っ込んで立っていた。
「誰だぁ、貴様!!」
メロスはその男を怒鳴りつけた。もちろんこの男が妹とどういう関係で、何をしていたかは大体見当はついていたが・・・。
「あ。いや、俺は・・・」
その男は驚きのあまりかなり動揺していた。しかも、ズボンをはこうとしたのだが、両足を同じ方に入れたのか、バランスを崩して顔を床にぶつけてしまう。 「み、見苦しいぞ!」
メロスはその様を見て、この場合適当な表現ではなさそうだったが、ついつい頭に浮かんだその言葉を口にしていた。この時少し、みっ、と詰まっているの はその男の喋り方がうつった為であろう。
「にっ、兄さん・・・」
妹はメロスに話し掛けようとした。この時少し、にっ、と詰まっているのはメロスの喋り方がうつった為であろう。
「にっ、兄、いや、君のお兄さんなの?」
その男は床に這いつくばりながらメロスの妹に問いかけた。この時・・・(以下同文)
すると、メロスの妹は小さくうなずいて、話し始めた。
「この人は私のボーイフレンドで、今日は兄さんがアテネへ行って帰らないというから用心のために来てもらったのよ。」
話を聞きながらその男はこくこくとうなずいていた。
するとメロスは、話を聞いていたのか、いなかったのかわからないがこういった。
「貴様の趣味か?」
それは、メロス以外の誰にとっても唐突な一言だった。
「はぁ?」
「とぼけるなよ。妹の格好だよ。下着にYシャツなんて、俺がいるときにはこ んな姿でうろつくような奴じゃない」
「あっ、ええ、まぁ・・・」
その男はメロスの勢いに押されたのか小さくうなずいた。
「やっぱりか!」
メロスは、それを見て大声を上げた。これにはこの男にも、メロスの妹にもこの後、血の雨が降るのを予想させざるを得なかった。
だが、メロスの次の一言はさらに二人の度胆を抜いた。
「俺も好きだ!」
一瞬、沈黙という空気が当たりを包んだ。
「なっ、何が?」
尋ねたのは妹だった。
「何がって、お前のその格好だよ。下着にYシャツ」
メロスは椅子に腰を下ろしながら言った。確かに、妹からは普段にはない色っぽさがあふれ出ていた。
「君も好きなんだろ。この格好、あっ、まあ座れよ」
「ええ、まぁ・・・」
男は言われるままに椅子に腰を下ろしたが、まだ状況がつかめないらしく、一応、生返事をしてみた。
「なるほど、君は僕と趣味が合うようだね。うん、これからは仲良くしよう」
メロスは男に右手を差し出した。それを見て男は、何とか事が荒立たないで済みそうなのに少しほっとして、メロスの右手をとり、かたい握手をした。
「はっ、はい。よろしくお願いします」
「ところで、君の名は?」
メロスがそう言うと少しほっとしていたもう一人の人物、メロスの妹が口を挟んだ。
「彼は靴職人のアキレスよ」
「ほう、靴職人ね」
メロスがうなずいて言った。すると、妹はメロスを紹介し始めた。
「兄のメロス。セイントなの」
「へぇ、セイントですか、僕も小さい頃は憧れてましたよ」
「メロスと呼んでくれ」
やっと和やかな雰囲気になり、一番ほっとしていた、いや、安心していたのはメロスの妹だっただろう。メロスがブチ切れてセイントの技である、流星拳 や昇龍覇を使っていたら、間違いなくアキレスは、少なくとも、大怪我だし、それが知れたらメロスは間違いなく傷害罪だった。そうなると自分は罪人の妹になるわけで、もちろん嫁にもらってくれる人もいなくなる。玉の輿の夢もはかなく消え去ってしまう。そんなのはごめんである。
彼女は少し微笑んでメロスとアキレスの会話を見守った。
「それにしても、メロスさんもあの格好が好きだったとは奇遇ですね」
アキレスが笑いながら言った。
「まったくだ。もしかすると、下着にYシャツっていうのは男なら誰でも好き なのかも知れませんなぁ・・・」
メロスが笑おうとした瞬間、アキレスがこう言いました。
「えっ!?彼女は下着なんてつけてませんよ。その方がよりセクシーでしょ?」
アキレスはにこやかだった。
「じゃあ、直接Yシャツ?」
その時、メロスの表情はなごやかムードから一変し始めていた。
「ええ、あのYシャツの中を想像するとたまらないでしょう・・・」
アキレスがにこやかにこう言っているとき、メロスの肩がかすかに震えているのに気づいているのはメロスの妹だけだった。
つづく
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