2006.10.08
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久しぶりのリクエストフィクションです。

そばが弱点なのでうまくできません。

「1/4人前」

 ある天才パテシエがいた。
 彼はケーキ作りの基本、粉をふるって材料をまぜる、最高のの火加減で焼く、美しいデコレーションを施す。といった、ケーキの基本を完全にマスターしており、たった一人で、ものすごく美味しく、評判のいいケーキを作る職人だった。
 それでも欲のない彼は小さな店でほそぼそとケーキを作り続ける人生に満足していた。
 やがて彼は売り子として雇っていた娘を妻にめとり、さらに四人の娘も儲け、幸せに暮らしていた。

 ある日、彼の作るチーズケーキを食べた一人の男が言った。

その男の言葉が彼と彼の家族の人生を変えた。
 確かに、四姉妹もこれからどんどん大きくなっていく、いい学校にも行かせてやりたい。それには金が必要だ。
 彼はその男のいうとおりに借金をし店を改築した。
 店は大繁盛した。客も増えた。売り上げも上がった。だが、忙しくなった反面、店の売り子だけでなく四姉妹の面倒を見たり、家事などもしなければならない妻の負担は大きくなり、やがて体調を崩し、まもなく病を患って亡くなってしまった。
 彼は自分の人生を後悔した。なぜあの時あんな誘惑に負けてしまったのだろう。店を改築しなければ、借金さえしなければ妻が病で亡くなることもなかった。
 悩み続けた彼はやがて体調を崩し、仕事も手に付かなくなり、ついには借金を返し終える前に亡くなってしまった。

 悲しみに打ちひしがれる四姉妹の前にいつかのあの男が現れた。借金のかたに店を取り上げて、だったんそば屋にするという。四姉妹は父と母の思いの詰まった店を手放したくはなかった。
 そこで四姉妹は父のあとを継ぎ、店をやって借金を返すことを決心した。
 父は自分の仕事が忙しくて誰にもその技術を教えてはいなかった。だが、父の仕事をする姿が好きだった娘たちは父のする仕事を見て覚えていた。
 長女は粉をふるって卵やミルクと混ぜてスポンジの生地を作るの父の姿が好きでいつも見ていた。二女はその生地を最高の火加減で焼いたり蒸したりする父の姿が好きでいつも見ていた。三女はケーキを最高に美しく飾り付ける父の姿が好きでいつも見ていた。三人の姉妹が見て覚えていた技術は父のそれと全く同じだった。そして、四女は母が亡くなる前から母について店の売り子をやっていた、売るのにかけては父にも負けていなかった。
 そうして、四姉妹は4人で1人前のパテシエになった。


 噂を聞きつけやってきたあの男にもこう言わせた。
「むふふふふ。すごいな。この味、俺がほれ込んだ親父さんの味と変わらないじゃないか。わかった。借金はもう少しまってやろう」

 それでも父の借金を返すのは簡単なことじゃない。だが、4人ならやれると思えた。なぜならば彼女たちが父と母の血を引く四姉妹からだ。

おわり





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最終更新日  2006.10.08 20:26:41
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☆りん @ Re[1]:壁に向かって吠えてる犬(02/15) 小橋建太さんへ そうですね。 どこでどん…
小橋建太@ Re:壁に向かって吠えてる犬(02/15) 配信で紹介されてたんで来ただけなんだけ…
☆りん @ Re[1]:壁に向かって吠えてる犬(02/15) 小橋建太さんへ お、心当たりがあるのかな…
小橋建太@ Re:壁に向かって吠えてる犬(02/15) プロレスで決着つける感じですか?
☆りん@ Re[1]:水が美味しくない(07/06) akiさんへ 長文ありがとうございました。 …

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