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第6章 生物種の絶滅
第6章 生物種の絶滅
■かつてない速さで生物種が絶滅している
現在、地球歴史上かつてない速さで生物種が絶滅しています。
N.マイヤースの『沈みゆく箱船』によると、
恐竜時代に1000年に1種絶滅していたものが、
1600~1900年には約4年に1種、
1900年代前半には約1年に1種、
1975年ごろには約9時間に1種、
1975~2000年には約13分に1種絶滅しています。
現在では、さらに加速していると思われます。
国際自然保護連合(IUCN)発行の2002年版のレッドリスト
によると、現在絶滅の危機に瀕する生物種数は、動物種が
5453種、植物種が5714種ということです。
しかし、これは名前が付いている生物種に限っての数値です。
地球上に存在すると推定されている数千万種のうち、現在名前
が付けられているのは180万ほどにすぎません。
それほど、生物種については不明な点が多いのです。
なお日本では、1995年に絶滅が確定した「トキ」をはじめ、
ニホンオオカミ、エゾオオカミ、ニホンアシカ、リュウキュウ
カラスバトなどが絶滅しました。
■種の絶滅の意味
種の絶滅というのは個体の死とは本質的に異なります。
たとえば、
「ツバメの1羽が死ぬのではなく、ツバメという種そのもの
が地球上から消滅すること」
「63億の人間が、ひとり残らず永遠にこの地球から姿を消す
こと」
なのです。
前述のように、地球上に存在する生物は数千万種と言われて
います。
その生物種が、現在年間4万種以上というすさまじいスピード
で絶滅しており、地球の生態系を維持してきた「生物多様性」
が失われつつあるのです。
ここで「生物多様性」とは、WWF (世界自然保護基金)は、
「遺伝子、種、生態系など全てを包括する言葉で、地球上の
生物の多様さと、自然の営みの豊かさを指す」
「簡単に言うと、地球上の生物が、バラエティに富んでいる
こと・・・・つまり、複雑で多様な生態系そのものを示す言葉で
ある」
と説明しています。
すべての生物(もちろん人類も)は、単独では存在できません。
食物連鎖(食物網)の中で、相互に関係しあいながら生かされ、
また生きているのです。
その関係の中でひとつの種が消えると、必ず多くの種が影響
を受け、場合によっては道連れになってしまいます。
この意味で、
「種の10%が消えても、まだ90%も残っている」
と悠長に構えている訳にはいかないのです。
今の生態系は、「積み木崩し」の積み木を何本か抜いたものの、
かろうじてバランスを保っている状態と同じです。
ひょっとすると「あと1本抜いただけで」崩れ落ちてしまう
かも知れません。
このままでは、すべての生物が絶滅する可能性は否定できま
せん。
また少々人間優先になりますが、「どこかである種が絶滅して、
ガンやエイズの最後の特効薬が地球上から永遠に失われる」
こともあり得ます。
つまり、「遺伝子という資源」も失われる可能性があるのです。
さらに天敵が消えて、病原生物が異常繁殖し、伝染病が大流行
するかも知れません。
■過去にも大絶滅が5回あった
生物の大絶滅が過去に5回ありました。
オルドビス期、デボン期、二畳期、三畳期、白亜期と呼ばれる
時代です。
2億5千万年前の二畳期には90%の生物種が、また6500万
年前の白亜期には恐竜など75%が絶滅したと言われています。
ただし、これらの絶滅は一瞬にして起こったのではなく、数千年
から数万年かかって徐々に進行したのです。
ところが現在は、過去のどの時期よりも急激な大絶滅が始まって
いるのです。
■生態系そのものが破壊されている
恐竜時代などは、隕石の落下など、天変地異で多くの種が消えた
とされていますが、この場合でも数万年かかって絶滅が進行した
のです。
ところが、人類が誕生してからは、食糧や衣類などの生活物資を
得るために行う狩猟によって、ある特定の種が絶滅に追い込まれ
るようになりました。
いわゆる乱獲です。
マンモスも実は人間の手によって絶滅させられた、という説が
有力になっています。
近代に入ってからは、人間の欲望を満たすための毛皮や象牙など
を得るために、多くの種を犠牲にしてきました。
リョコウバトや美しい羽根をもっていたドードーという鳥などの
絶滅がこれに当たります。
ところが最近の絶滅は、事情がまったく異なっています。
特定の種だけでなく、広範囲でしかもごっそりと生物種が失われ
ているのです。
人間、特に私たち先進国の人間が、水を汚し、異常気象の原因を
作り、紫外線Bを増やし、森を破壊したりして、地球規模で生物
種を絶滅させているのです。
また、ダムや山林を削っての道路建設、ゴルフ場やリゾート地の
開発、海岸の埋立などによっても、その地域全体の生物種が消え
ています。
生物をとりまく環境はすべてが連動していて、どこかが破綻する
と、食物連鎖を通して最後には生物種の減少につながってしまう
のです。
■森林の消失で生態系が崩壊する
森林破壊のところで書きましたように、熱帯林を含む森林の消失
速度が益々加速してきています。
IUCN(国際自然保護連合)やUNEP(国連環境計画)など
は、「消失速度が現在よりも50パーセント速まれば、2040
年には熱帯林に生息する生物種の30%以上が絶滅する」と予測
しています。
森林の消失は、地球温暖化や酸性雨などの地球環境問題や大規模
な開発が大きく係わっています。
生物種の絶滅の主な原因は、明らかに人間の活動にあるのです。
■私たちにできること
「生物種の絶滅は結果」ですから、これを解決するには「他の
環境問題を解決する」ことが必要です。
そのためには、これまで各章で述べたことを参考に、できる
ことから実践することが大切です。
ここでは、「いのちのつながり」という視点から解決策を考えて
みたいと思います。
以下の提案は、「いのち」というテーマを扱っているため、やや
哲学的・宗教的に感じられるかも知れません。
私は環境問題を解決するには、「すべてを幸せにするための」
哲学や宗教が大きな役割を担っていると信じています。
◆インタービーイング(相互共存)という考え方に立つ
環境問題に取り組んでいる人は、たいてい「すべてが関連しあって
いる」と語ります。
「すべては一人のために、一人はすべてのために」という言葉に
通じるものでしょう。
このことは宗教でもよく語られています。
聖書では、
「ひとつの部分が苦しめば、すべての部分が共に苦しみ、ひとつ
の部分が尊ばれれば、すべての部分が共に喜ぶのです」
ということを教えています(パウロ、コリント信徒への手紙)。
仏教でも、「すべてが関連性で生じており、この世にそれ自体で
個として独立して存在するものはひとつとしてない」
という表現があります。
このような関係をティク・ナット・ハン氏は
「インタービーイング(相互共存)」
と呼んでいます。
つまり「私は私自身と私以外のすべてからできており、あなたは
あなた自身とあなた以外のすべてからできている(無我)」と
いうことです。
森羅万象がこの道理で存在しています。
これを地球環境問題に当てはめてみると、
「地球温暖化やオゾン層破壊などがそれぞれ単独にポツンと存在
するわけではない」
ということです。すべてが全部つながっていて、どこから入って
もすべての環境問題につながります。
しかも最終的には、生態系の崩壊を経て、必ず人類に悪影響を
もたらします。
たとえば、「温暖化→酸性雨→森林破壊→土の流失→砂漠化→
生物種の絶滅→食糧危機→飢餓」、「オゾン層破壊→生物種の
絶滅→食糧危機→飢餓」のようなルートをたどり、やがて人類
消滅の危機を招きます。
反対に言えば、「どこかが良くなるとやがてすべてが良くなる」
と言うことです。
こちらの方が、前向きで明るくていいですね。
地球上の生物(生態系)に目を向けると、それらは見事な多様性
を維持しながら、複雑なネットワークを作ってきました。
この芸術的な生物のつながりを人類は無造作に切断しています。
私たちは、目先の利益や「自分さえ良ければそれでいい」という
発想から、全体のつながりを尊重したワンネス(すべてはひとつ、
ひとつはすべて)発想に転換する必要があります。
今までの発想のもとでは、個別の環境問題を解決する素晴らしい
技術を編み出したとしても、全体の関連性を無視しているために、
やがて新たな問題を引き起こすことがよくあります。
特定フロンがオゾン層破壊物質として生産禁止になりました。
そこで、オゾン層を破壊しない代替フロンというものを開発
したものの、それが地球温暖化を加速しているということは
前に述べた通りです。
このように全体の関連性を考慮しなければ、モグラ叩きのように
ひとつの現象を抑えても、次から次に新しい問題が発生すること
になってしまいます。
自分たちは一生懸命やっているつもりでも、予想もしないところ
(全体性を考えれば予測可能ですが)で問題が出始めるのです。
少なくとも、多くの犠牲が出た後で
「そのようなことは(当時の科学では)予測できる範囲を超えて
いた」
という言い訳だけはしたくないし、聞きたくありません。
「インタービーイング(相互共存)」という言葉を忘れないように
したいものですね。
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