不思議の泉

不思議の泉

15.シェーラザード市場

15.シェーラザード市場




「りっぱな大門ですね。
 銀狼さん、アレはなんと書かれてあるんですか。」


シェーラザード市場の大門にはりっぱな大屋根。
西域風建築、見慣れぬ文字が彫り込まれて。


「『市は物と金を交換する場に非ず。市は人と人とが交わう場なり。』
 シェーラザード市場のフィロソフィーみたいなものです。
 奥方の直筆を写し取ったものです。祖国の文字だそうです。
 西域の国だったんですが、周辺国の騒乱がひどくなり、
 国ごと異空間に移動してかなり経ちます。」


通りの行く先は、遠く霞んで。
軒を連ねる数多の、店、店、店。


「私はチョット後ろの荷を降ろしてきます。
 森で養蜂場をやっているクマさんが捻挫したもので、
 代わりにハチミツを卸しに来たんです。
 お客人はこの先にあるパゴダで待っていてください。
 パゴダの中では珍しい観葉植物が花を咲かせていますよ。」


人混みのなか、若い物書きの肩にはキャンドルの妖精。
色とりどりの商いは、客寄せ。
     〈 詩らしき。  〈 詩らしき。  〈 詩らしき。  〈 詩らしき。





      【 フシギな窓硝子を売る、ガラス屋 】


      窓硝子をお求めでございますか。

                水色すり硝子『やすらかに』、

                オレンジ色まる硝子『だいおうじょう』、

                緑色うす硝子『そのままに』、

                黒色あつ硝子『おとしまえ』

      など各種ございますが。

      金色でございますか。

      なにぶんにも‘終焉の窓’でこざいますから…、

      執着の手がのびて旅立ちの妨げになるやもしれません。

      ひとたび窓が開け放たれましたら、

      なに1つ携えずに風とゆかれますので。

      はい、なに1つ。





      【 傷の特効薬を売る、くすり屋 】


   鞭先から滴り落ちる血をきれいにガーゼでふき取る、

          私は愛の手紙です。

   消毒薬のツンとした臭いは、

    行棚に巻きついた薔薇の香りに変わっています。

   傷口に激しく反応する泡は、

    シャボン玉の七色で文字に消えています。

   痛みに呻く嗚咽は、

    行間を流れる途切れのない音楽が飲み込んでいます。

   ここでは、マッチ売りの少女のユメは消えることはありません。

        私は、そうして傷を治しているのです。





   【 文句をいうグラスを売る、食器屋 】


なにもないの
貴方のいうとおりだもの きっと


     心は哀しい水色。

     羽を失くした白鳥。


ゆめはみないの
貴方とはちがうもの きっと


     空は遠い紫色。

     声を失くした白鳥。


            ヘイ、ヘイ、ガラスのハートさ、アンタ

            ヘイ、ヘイ、だからなんだってのさ


            ヘイ、ヘイ、こわれたオルゴールさ、アンタ

            ヘイ、ヘイ、それがどうしたってのさ


            のみほせば

            ただの Empty Glass またそそげるさ


            のみほせば

            ただの Empty Heart またそそげるさ





【 気分で色を変えるカレンダーを売る、本屋 】


客 「うぁ~すてきなパステルカラー!」

店員 「お買い上げありがとうございます。
     良い環境においてやれば、もっと美しい色合いが出ます。
     暗くジメジメしたところでは、黒色に。
     愚痴ばかり聞かされていると、灰色に。
     ですが、微笑みかけられれば、明るく輝きます。
     どうか日々をこのカレンダーとともに楽しく過ごされますように。」




【 踊る生クリームを売る、食料品屋 】


ふわっふわっ ふわっふわっ

ほいっぷくりいむ つくろうよ♪

      ズチャチャカ カシャシャ

おどるよ おどるよ くりいむ

      あわだて てまがいらないよ

            他にも、踊る小麦粉もあるよ
            篩(ふる)いの手間が要らないよ

でも でも おきをつけよ

おきゃくさん かみも かおも アララ まっしろけ♪







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