島流れ者 - 悪意なき本音

島流れ者 - 悪意なき本音

2004.07.07
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カテゴリ: 休日の過ごし方
今回のアメリカ独立記念は久しぶりに、ここから北に車で三時間ほどの、ケンブリアに行った。そこは人口6千人ほどの小さな町で、いまどき珍しいチェーン店は一切なく、昔ながらの小さな店が並ぶのどかな海沿いの観光地である。

毎度このケンブリアに来ると人ごみがなくて、ほっとする。ハズバンドのジャックの実家ということもあり、海の見える部屋での寝どころはあるし、食べ物は彼の母親が面倒を見てくれ、しかも、彼女とその旦那さんで、(ジャックの義理の父親)広告代理店を営んでいる為に、あちこちのレストランとの契約で、食事をタダで出来るという、まことに恵まれた環境なので、私達はここを‘ベッド&ブレックファースト・リゾート’と呼んでいる。

ジャックの母親はとても素敵な人で、多分50代半ばと思われるが、ヨガやダンスに毎週通い、食べ物にも気を使っているために年よりもぐっと若く見える。ジャック曰く、彼女はヒッピー全盛期にはとんでもない浮かれた女であったそうで、彼女の初めの結婚でジャックを筆頭に三人の子供をもうけた後に離婚し、その後、結婚離婚を二回ほど繰り返し、ようやく本当の意味の‘生涯を共にする人’と巡り合う事が出来た。

この四人目の旦那さんはとても思慮深く、辛抱強い人で、なおかつ頭がいい。彼女は彼のお陰で人生の後半を安泰に過ごせているといっても過言ではない。自由をこよなく愛し、今でもヒッピー的なものなら何でも試しては、ちょっとやばいのではという物までも信じてしまう彼女を上手に説き伏せては普通の道に戻すのは彼である。一見まじめすぎるように聞こえるそんな彼と、フウテンな彼女がなぜ一緒になったかというと、それは、彼がミュージシャンであったからである。

アコースティックギター、ベースなどの主に弦楽器を得意とする彼のジャンルはジャズ。ずっと昔はプロとしてやっていたが、今では本業の傍ら、地元のレストランやバーなどで週に二回ほど演奏をしている。以前何回か聞きにいった事があるが、やっぱりステージの彼は、家で見るリラックスして大きな熊のようにテレビを見ている姿とは打って変わってとても素敵で、はは~ん、彼女はこれに惹かれてしまったのね、と納得するほどであった。

それはさておき、今回のベッド&ブレックファースト・リゾートも、ジャックと私よりも一日前から滞在していた義父の友達のランディー、その彼女のバーバラを交えてビーチに行って小さなボートに乗ったりしててとても楽しいものだったが、後半のアメリカの誕生日を祝うディナーでちょっとしたハプニングがありいつもと違ったリゾートに仕上げてくれた。

このディナーのゲストにはてっきり私達、上記のカップルだけと思いきや、義母の女友達三人が更に加わった。一旦酒が入ると誰でも逃げていくアル中のグレンダ、中年の危機を迎えて最近離婚したバーバラ、それからオーストラリア移民で、今でも離婚しただんなとの生活を恋しがる寂しいジャマ。彼女達は義母と同じくらいの年かさの女性達だが、みんな彼女に負けず劣らずヒッピーな女達で、ダンスの仲間でもある。それぞれダンス仲間と話すときには‘ダンス名’で呼び合ったりなんかして、今でも彼女達はあの時代の世界に生きているのだ。

彼女達がドアに現れ、アル中グレンダを見た瞬間から嫌な予感がしたのだが、その反面、お酒に加えてヒッピーには欠かせないとある植物で酔いを増した彼女達を傍から見るのはある意味で、エンターテイメントであった。まずはこれらのヒッピー達とは全く正反対の現実主義者のニューヨーカー、バーバラと、義母のヒッピー友達の同じ名前のバーバラのやり取り。

数時間前にビーチで義父が男性器似た海からの流れ者を拾ってきて自分の股間に当ててじゃれていたたその代物を、持ち帰ってきたニューヨーカーバーバラが、ディナーテーブルに飾ろうとしている。が、なかなかうまいこと出来ないでいるとそこにヒッピーバーバラがやってきて、しきりにこれはこうしたほうがいいとおせっかいを焼いてくる。



ヒッピーバーバラ “これはこうするのよ、ハニー、(子ども扱いするような相手を蔑んだような言い回し)”

ニューヨーカーバーバラ “でも、それじゃ、ここがが...ウンヌン”

ヒッピーバーバラ “だからこうしておけばうまいコト行くじゃない!”

ニューヨーカーバーバラ “っん、もう、これはこれでいいのよ!(ぷんぷん!!)

二人とも負けちゃ~いないのである。

その件が終わったと思いきや、今度は義母が私に聞いてきたと同じコトを彼女のヒッピー仲間に聞いている。

義母 “ねえ、このバーバラ(ニューヨーカー)案、どう思う?このテーブルクロスの生地を窓の上にこうして掛けたらどうかしら。”

ヒッピーバーバラ “だめだめ!そんなのぜんぜん良くないわ。”

アル中グレンダ “そうよ、こんなの腐ってる、”

ジャック “そんなの飾ったら、せっかくのオーシャン・ヴューが台無しになっちゃうよ、シンプルが一番!”

ああ、少一時間ほど前に義母に同意を求められた事なかれ主義の私がいい案だと同調してあげていたのに、このヒッピーババたちに散々けなされ、更にジャックからも...そっとこの案を出した本人ニューヨーカーバーバラを横目で見るとそれはそれは不快な顔をしてさっさっとその場から離れていくのだった。



ビーチから帰ってきてすぐに支度に取り掛かったので、取り合えず全ての下準備は整っていたものの、いざ調理に取り掛かるという段階で、すでに別世界に来行き始めていた義母だったので、私がそこからは取り仕切ることにした。そうして何とかおひょうのグリル、ハーブの蒸しポテトとグリーンサラダという簡単メニューのディナーを完成させると、皆食卓に着き始めた。

ここでもヒッピーバーバラがおせっかいにもみんなの席を決めている。“ええと、ジャマはここに座って、ロジャーとバーバラはそこがいいわ。それからホストで頑張ってくれたP(義母)はここ。で、XX(島流れ)はここね。”と私にあてがわれた席は、6人用テーブルで10人がひしめき合う角の、しかもアル中グレンダの横だった。昔のだんながジャパニーズだったが彼は日本に一度もつれてってくれなかったという話をしていたと思ったら、突然違った話題に飛んだりする彼女の子守をしていた私はせっかく好物の魚をじっくり味わうことは出来なかった。

そして夜も深まり、ヒッピーババ達の酔いもどんどん深まって行く中、恒例の花火が始まった。高台にあるこの家は、遠くからでもビーチで打ち上げられる花火が良く見える。美しいその花火を見ながらふっと日本の壮大なる花火大会での光景を思い起こしながら、一人でメランコリックに浸っていると、その横で、“よっしゃ~、おりゃ~、いいぞ~~、アメリカバンザ~イ!!!”花火が上がる一つ一つに向かっていちいち町中の人が聞こえる大声で叫ぶアル中グレンダ。ああ、台無しなんだけど...

あまりにも煩くて、もう花火見ていてもつまらなくなってしまった私はジャックと二人で逃げ場を探そうと家に入ると、なんと、溶けたロウソクから周りを飾っていたポプリに火が引火して、ぼうぼうと燃えているのを発見!あわてて消すとどやどやとみんなが集まってきて、大騒ぎ。一件落着した後に、まだ酔っている義母は、“私の家をXXが救ってくれたのよ!!”私をまるでヒーロー扱いのように褒め称えるのだった。

その光景を見た義父は、“去年に引き続きまた今年もこれか!こんなことでは家が燃えてなくなってしまう。”とぼやく。そもそもロウソクの周りをポプリで飾り、木製のトレイに置く人が義母以外にいるんだろうか?火災未遂の興奮も冷め遣らないのも手伝って、普段は大人しい私が、トレイを木製以外のものに変えたらどうだと、提言するが、頑固な義母は、私とジャック何とかきれいにしたそのトレイに早速元通りにロウソクを置きなおすのだった。“小さいロウソクはすぐ溶けるから危ないけど、大きいのは大丈夫よ”って。



その輪に義父とジャックも加わって、ヒッピーババ達が早く帰ってくれるようにと心の中で祈っていると、まるで、その祈りが聞き入れられたかのような出来事が起きた。それは、消防車が二台も近所にやってきたのだ。サイレンこそは鳴らしてはいなかったが、何度も何度もこの家の周りをぐるぐる回っている。多分近所の誰かが通報したんだろう。恐れをなした義父は、いつの間にかこのしらふグループに加わって、うだうだあほなことをほざいているアル中グレンダに、“静かに!”っと厳しく注意しながら、急いでキッチンから持ってきたやかんの水ででチムニーの火を消そうと必死。しかし彼が水を掛ければ掛けるほど、それまで以上にもくもくと、どす黒い煙が立ち昇り、まるで本当に火事になっているかのようだった。いつその消防団がこの家を見つけるかとおびえている私達の傍らでヒッピー義母、“ほらほら、パイプを隠すのよ!!”と、まるで悪い事しているのを親に見つからないように隠す、いたずらっ子のような顔をしている。この一連の出来事の真っ只中、たった一人のジャパニーズの島流れは、“こんな光景、日本人のまじめな家庭で育った人と結婚したらまず見ることないだろうな...”と妙に感心しながら映画か何かの観客のような気分であった。

楽しかった?パーティーの翌朝、ジャックはさんざんの出来事だったとちょっとご機嫌斜め。それは自分の愛する母が時としてこんな風にまるで子供のようになってしまうこと。彼曰く、“そもそも私達や他のゲストが来ていると言うにもかかわらず、クレージーな友達を呼んで、自分が面倒見切れないからってゲストにその子守を押し付けるんだからやってらんないよ!!”と。全くその通りではあるが、実は私は結構これでも楽しんでいたのだった。確かに疲れたけど。子供の頃に本当にヒッピー生活をしていた彼は、今回のようなことは日常茶飯事だったという。6歳ごろから母親から葉っぱを盗んでは友達と隠れて吸っていた彼はティーンエイジャーを過ぎた頃に’卒業’したそうだ。周りの頭のおかしい大人たちに囲まれて、あんなふうにはなりたくないと思ったそうだ。分かるような気がする。

両親が起きないうちにさっさと置き手紙をしてケンブリアを後にした私達は、二人だけの本当ののんびりとしたアメリカ建国記念日をもう一度我が家で楽しむのだった。その後電話でのジャックとの会話で義母は、“楽しかったわね~、ちょっとハプニングがあったけど。”と言いつつも、迷惑を掛けたとか言う誤りの言葉は一切なし。そして、ジャックの、“次回に招待してくれるなら、僕達だけにしてよね。”という言葉に対し、ふふふ、と、のん気に笑っていたようだ。そんなヒッピーな彼女は、わたしにとっては最高のMother・In-Lawである。





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最終更新日  2004.09.11 05:07:29
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