短編小説 -夢ー



------ 夢 -------



まだ夜が明けきらない時間

ぼくは目を覚ました

まるで、昨日の事はなかったんだよとでもいうような

いつもの見慣れた自分の部屋

目覚ましがけたたましく鳴るのがやで、

時計の裏側に手を伸ばし目覚まし機能をOFFにした、

全部、夢だったのか、

昨日のことだと思い込んでいたけど

もしかしたら、とんでもなく昔のことのような

でも、さっき見た夢のようにも思える。






暑い日差しの中を僕は歩いる

何かに導かれるように

そして、何か目的があるように

でも、何が目的なのか、何処へ行くのか、思い出せない

周りの風景は、見慣れた街のような、初めて観た風景なのか

それすらも思い出せない。

前から、足を引きずった老婆が歩いてくる

そしてすれ違いざまに

目を合わせ

「暑いね~ アルバート」

アルバート? 僕の名前なのか

その老婆は挨拶だけ済ませるとまた足を少し引きずりながらと歩いて行ってしまった。

すべてが必然のようで、不自然な感じする。

自分のようで、他人のような

まるで誰かの脳に間借りしてるような気分だ。

そして、また歩き始める。

道が下っている、その先、左側に小さな教会が見える

どうやらそこを目指しているらしい。

自分の目線がそこから離れないのだ。

次ぎの瞬間教会のドアの前に立っていた

でもなぜか、ドアを開こうとしない

その時突然、後ろから肩を叩かれた感触が

「アルバート」

初老の男が立っている

「なんだか入りづらくて・・・・」

アルバートが言う

「そんなこと言ってる場合か」

初老の男が、ドアを開け、教会に入っていく

しかたなく、その後ろをゆっくりとした足取りで付いて行く

外から見たときは小さな教会だと思っていたが、中に入ると以外に広い、

その広い教会の一番奥、祭壇のまえに神父が立っているのが見える。

その神父の顔がだんだんとはっきり見えてくる

見たことがある

でも見たことがあるのは、僕なのか、それともアルバートの記憶なのか

はっきりしない。

神父の目の前に立ったとき、あの初老の姿は消えていた。

そして、神父の顔を見たとき、それが誰だかはっきりわかった。

何度か、僕の夢に出できた老人の顔だ。

といっても、老人の時もあるし、青年の時もある

何度も夢の中で会っていた老人だが、言葉は交わしたことはない。

「よくきたな アルバート」

その老人の言葉が僕の耳に飛び込んできた

「やっとここへ来ることができました」

とアルバートが答える。

ぼくが答えたのではない、アルバートが答えたのだ。

「何か聴きたいことがあるのか」

神父は優しそうな笑顔でアルバートに話しかけた

「夢を見るんです、何度も何度も同じ夢を」

「どんな夢をみるのだ」

「なんと言ったらいいのか、全てが自分のような、他人のような、そしていろんな時代やいろんな場所にいる」

「夢だからな」

「でも全部自分なんです、それだけは確かなんです」

アルバートは少し興奮してきてるようだ

「そう、全てお前なんだよ」

神父は当然の事のように答えた。

そして続けた

「全てが同時に起きてるんだよ、過去も未来も、前世も来世も 全て一瞬の出来事なんだよ」

「同時?」

アルバートは混乱してきた。

僕はもう黙って聞いてられなくなった

「アルバート」

ぼくは自分に向かって声をかけてみた、

「アルバート ぼくがわかるかい」

アルバートは後ろを振り向いた、でも誰もいない

「後ろじゃないよ、ここだよ」

「ここって?」

「君の中だよ」

アルバートはますます混乱してきた

その時僕は全てを理解したような気がした

「君は僕の夢なんだよ」








起き抜けの頭をすっきりとさせたくてシャワーを浴びた

夜明け前に起きたはずなのに、

いつもと変わらない時間になっている

いつものように朝食を食べ、駅へと向かう

いつもの遅刻ぎりぎりの電車に間にあうだろうか

少し走ろう

もう、昨日の夢のことなど忘れていた

駅が見えてきた、時計をみる、なんとか間に合う



その時、頭の中で小さな声がした

「聞こえる? 僕だよ アルバートだよ、これは僕の夢なんだよ」

















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