JEWEL

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碧き竜の子守唄 第一話

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

一部性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。

「んっ、やぁ・・」
炎のような美しい髪を振り乱しながら、海斗は夫からの愛撫に耐えていた。
「もっと良い声で啼け、俺の花嫁。」
海斗に覆い被さっているのは、数時間前に彼女と祝言を挙げたジェフリー=ロックフォードだった。
人と妖が共に生きる世界で、海斗は鬼族の娘として産まれた。
「海斗様、あなた様に縁談が来ましたよ。」
「縁談?」
「ええ、お相手はジェフリー=ロックフォード様です。」
女中からその名を聞いた海斗は、幼い日に彼と交わした約束を思い出した。
海斗がジェフリーと初めて会ったのは、年に一回、龍神の里で開かれる桜の宴だった。
「海斗、余り遠くに行っては駄目よ。」
「わかっているよ!」
真紅の振袖姿の海斗は、里の子供達と遊ぼうとしたが、彼らは海斗に石を投げた。
「鬼だ!」
「頭から喰われるぞ!」
「お前達、そこで何をしている?」
海斗が泣いていると、そこへ一人の少年がやって来た。
輝くような金髪をなびかせ、濃紺の着物と白い袴姿の少年は、泣いている海斗を蒼い瞳で見つめると、少年は海斗の手を掴んで走り出した。
「もう、泣くな。俺が、お前を守ってやる。」
「本当?」
「あぁ、約束だ。」

それから、長い年月が経ち、海斗はあの少年の事など忘れかけていた。

そんな中、疫病が人の世界に広まった。

高熱を出し、死に間際の顔が恐ろしいという事から、その疫病は、『鬼面病』と呼ばれるようになった。
人々は、疫病に効くという薬を売っては荒稼ぎをしたり、疫病に罹った者とその家族を迫害したりした。
ある意味、人は妖よりも恐ろしいのかもしれない。
海斗の元に、ジェフリーとの縁談が来たのは、そんな頃だった。
「まぁ、お似合いですわ。」
白無垢姿の海斗を見た東郷家の女中達は、そう言って感嘆の声を上げた。
「海斗、これを持って行きなさい。」
友恵がそう言って海斗に手渡したのは、美しい花嫁のれんだった。
鬼の一族には、嫁入りの際美しいのれんを作り、それを婚家の仏間に飾る風習がある。
「ありがとう、母さん。」
こうして、海斗はジェフリーの元へと嫁いでいったのだった。
龍と鬼の婚礼―それは政略結婚だったが、久し振りの慶事に妖の世界は喜びに沸いた。
祝言を終え、海斗は湯浴みをした後、ジェフリーの寝所へと向かった。
「若様がいらっしゃいました。」
海斗は、寝所に入って来たジェフリーが無言で自分を見つめている事に気づいて思わず俯いてしまった。
「あの・・」
「顔を上げろ。」
海斗がゆっくりと顔を上げると、そこには優しい笑みを浮かべたジェフリーの姿があった。
「やっと、約束を果たせたな。」
「あなたは、あの時の・・」
ジェフリーはおもむろに海斗の顎を掴むと、その唇を塞いだ。
「ん・・」
ただ口吸いをしただけなのに、下腹の奥が熱く疼くのを海斗は感じた。
「なんだ、感じているのか?」
「いいえ、そんな・・」
「これは、どうだ?」
ジェフリーはそう言った後、海斗の下腹をまさぐり始めた。
「ああっ!」
軽く触れられただけなのに、海斗は激しい快楽の波に浚われた。
「良い声で啼くな、もっと聞かせろ。」
ジェフリーに愛撫され、海斗は達した。
(こんなの、俺じゃない・・)
「そろそろ頃合いか。」
ジェフリーはそう呟くと、海斗の中に己の分身を埋めた。
海斗は弓なりになって達した。
「こらこら、まだ夜は長いぞ。」
海斗の奥を穿ちながら、ジェフリーは器用に海斗の感じやすい場所に刺激を与えた。
ジェフリーに揺さぶられ、海斗は甘い声を上げた。
「愛しているぞ、カイト・・」
海斗は、ジェフリーに耳元でそう囁かれた後、意識を手放した。
「海斗様、おはようございます。」
「おはようございます。」
海斗が目を覚ますと、寝所にジェフリーの姿はなく、身体は既に清められていた。
「お務めは、果たされたようですわね。」
新婚夫婦の寝所に入って来たロックフォード家の女中達は、真新しい敷布が赤く染まっている事を確めると、そう言って海斗を見た。
「あの、ジェフリーは・・」
「若様は、つい先程外出なさいました。お帰りは夕方になります。」
「あの、俺が出来る事は、ありますか?」
「若奥様の務めは、一刻も早く若様の子をお産みになる事、それだけです。」
「はい・・」

海斗は、女中達のよそよそしい態度を見て、自分がこの家に歓迎されていないのではと思うようになった。

「はぁ・・」
針を只管動かしながら、海斗は何度目かの溜息を吐いた。
ジェフリーと結婚して、もう一月になろうとしているが、彼は毎日朝早く外出し、深夜まで戻って来ない。
(避けられているのかな・・)
所詮、彼とは政略結婚で結ばれたのだから、ジェフリーが自分を避けても仕方が無いと思っている。
「若奥様、失礼致します。」
襖が開き、一人の女中が部屋に入って来た。
彼女は、海斗が持っているジェフリーの羽織に目を留めた。
「それは?」
「繕い物を・・」
「まぁ。若奥様、若旦那様の事を誤解されているようですわね。若旦那様は、若奥様を避けてなどいませんよ。」
「え?」
「では、わたくしはこれで。」
同じ頃、ジェフリーは行きつけの居酒屋で焼酎を飲んでいた。
「おいおい、新妻を放っておいて、こんな所で独り酒か?」
そう言いながらジェフリーの肩を叩いたのは妖狐のキットだった。
「キット・・」
「最近、お前の新妻をつけ狙っている奴が居るぞ。」
「どんな奴だ?」
「黒髪に緑の瞳をした美丈夫らしい。早く家に帰って、新妻を抱いてやれ。」
「あぁ。」
 ジェフリーが屋敷に戻り、海斗の部屋の前を通ると、中からくぐもった声が聞こえた。
ジェフリーが部屋の中を覗くと、自分の羽織の匂いを嗅ぎながら、海斗が自慰をしていた。
「どうした、そんなに俺が恋しかったのか?」
「あ・・」
海斗は、ジェフリーが部屋に入って来た事に気づくと、恥ずかしそうに目を伏せた。
「申し訳ございません・・」
「謝るな。この羽織、袖の所が破れていたから捨てようと思っていたんだが、綺麗に繕われている。それに、この刺繍が見事だ。」
「不死鳥が、お好きだと聞いたので・・」
「そうか。カイト、いつもお前に寂しい思いをさせてしまって済まない。毎日俺の帰りが遅いのは、疫病の事があるからなんだ。」
「疫病?」
「あぁ。あの疫病は一時期猛威を振るっていたが、今はもう治まりかけている。だが、その所為で人と妖の世界でおかしな事が起きている。」
「おかしな事?」
「最近、妖の世界に人が迷い込んで、厄介事を起こすようになってな。注連縄で一応結界を張っているんだが、それをわざわざ破ってくるんだ。」
「へぇ・・」
「カイト、もし人間がここに入って来たら、迷わず逃げるんだ、いいな?」
「わかった。」
ジェフリーとそんな話をしてから数日後、龍神の結界を人間が破ったという事件が起きた。
「カイト様、こちらへ・・」
女中達と共に、海斗は離れへと避難した。
「良いですかカイト様、人間達が去るまで決してここから出てはなりませんよ。」
「うん・・」
暫くすると、人間達が龍神達の結界から出て行く気配がした。
「一体、何があったの?」
「人間達は、ここを運気が高まる場所だと思っているようです。」
「何処から、そんな噂が?」
「さぁ、わかりませんわね。」
「カイト、無事か!?」
「ジェフリー!」
海斗は夫の顔を見て思わず安堵の笑みを浮かべた。
「良かった。」
海斗とジェフリーは、その日の夜は何度も愛を交わした。
「人間達は、これからも妖の世界に入って来るのでしょうか?」
「それはわからない。だが、結界を強めないといけないな。」
ジェフリーはそう言うと、海斗を褥の上に押し倒した。
「もう、これ以上は・・」
「朝まで、寝かせないぞ。」
翌朝、海斗の部屋に女中が入ろうとすると、中から男女の睦み合う声が聞こえた。
「二人はどうした?」
「お取込中でした。」
「そうか。」
ジェフリーの父・エドワードは、そう言うと扇を閉じた。
「この調子だと、孫を抱く日は遠くないかもしれませんね。」
「そうだな。」
「楽しそうに、何のお話をされているのです?」
そう言いながら部屋に入って来たのは、エドワードの妻・エセルだった。
「ジェフリーは、カイトさんと上手くやっているようだ。」
「そう。カイトさんには、男の子を産んで貰わなくてはね。わざわざ陰の一族から嫁を貰ったのですから、それ位の事はしてくれないと・・」
二人の会話を、海斗は廊下で聞いてしまった。
彼女はその場を後にすると、龍泉へと向かった。
そこは、龍神がその神力を高める為に入る場所だった。
海斗は、そっとその中に肩まで浸かった。
(あの人は、俺の事を認めていないんだ。確かに、俺はこんな身体だし・・)
彼女は、男女両方の性を持って生まれて来た。
そんな自分が、子を授かれるのだろうか。
そんな事を海斗が悶々と考えていると、突然彼女は何者かに背後から抱きつかれた。
「やっと捕まえた。」
「あなたは、誰?」
黒髪に美しい緑の瞳をした男は、海斗の唇を塞いだ。
「もう、あなたを離しはしない。」
男はそう言った後、海斗の鳩尾を殴って気絶させた。
「カイトが居ない?どういう事だ!?」
「はい。龍泉へ向かわれた御姿を見たのですが、カイト様は・・」
女中はそう言った後、気まずそうに顔を伏せた。
「どうした?何か知っている事があれば話せ。」
「カイト様は、黒髪の方に攫われたのではないかと・・」
(もしかして、キットが言っていた奴か?)
ジェフリーは、広間に部下達を全員集めた。
「カイトを何としても捜し出せ!」
(カイト、無事でいてくれ!)
ジェフリー達が海斗を捜している頃、海斗は見知らぬ部屋の中に居た。
(ここは、何処?)
「あの~、誰か居ませんか?」
海斗はそう叫んで辺りを見渡したが、誰も居なかった。
出口を探そうとしたが、そこは鍵がかかっていた。
(俺は、龍泉の所に居た筈・・でも、あの人がやって来て・・)
海斗の脳裏に、自分を見つめる緑の瞳を持った男の顔が浮かんだ。
「気が付いたか、カイト?」
部屋の扉が開き、海斗を攫った男が部屋に入って来た。
「手荒な真似をして済まなかった。どうしても、あなたをここへ連れて行きたかったから。」
「どうして、俺の名前を知っているの?」
「わたしは、ビセンテ=デ=サンティリャーナ。陰陽師をしている。」
「陰陽師・・」
男の言葉を聞いた海斗は、恐怖で震えた。
―海斗、陰陽師には気をつけなさい。あいつらに捕まったら殺されるわよ。
陰陽師は、妖の天敵。
「俺を、どうするつもりなの?」
「わたしは、君を妻として迎えたいんだ。」
「俺には、ジェフリーが居るんだ!お願い、ここから出して!」
海斗がそう言って男―ビセンテを見ると、彼は悲しそうな顔をした。
「そうか。」
ビセンテは、海斗を部屋に閉じ込めた。
「ビセンテ様!」
「レオ、どうした?」
「ビセンテ様に会わせろという男が先程やって来ました。」
「ほぉ、それはどんな男だ?」
「金髪碧眼で、不死鳥の羽織を着た男です。」
「そうか。」
ビセンテは羽織の裾を翻すと、屋敷の客間へと向かった。
「ここへ何をしに来た、龍神?」
「カイトを、何処へやった!」
ジェフリーはそう叫んでビセンテを睨みつけると、彼はジェフリーに向かってこう言った。
「一体、何の話だ?」
「とぼけるな、お前がカイトを連れ去った姿を見た者が居るんだ!」
「知らんと言ったら、知らん。レオ、客人にお帰り頂くように。」
(ジェフリー、俺はここに居るよ。)
海斗は叫ぼうとしたが、何故か声が出なかった。
「カイト、何処に居るんだ!」
「どうぞ、お帰り下さい!」
ジェフリーが屋敷の周辺を見渡すと、奥の方から微かに海斗の気配がした。
「カイト、何処に居るんだ!」
(ジェフリー、ジェフリー!)
ジェフリーは、海斗の部屋へと入ろうとしたが、強い結界が張られていては入れなかった。
「カイト、必ず助けてやる、だから、待ってろ。」
(待っているよ、ジェフリー。)
海斗が涙を流していると、部屋に金髪碧眼の少年・レオが入って来た。
「ビセンテ様がお呼びだ、来い!」
海斗がレオに連れられ、屋敷の大広間に入ると、そこにはビセンテの姿があった。
「お願い、俺をジェフリーの元へ帰らせて!」
「それは出来ない。」
「どうして?」
「あなたは、わたしの妻になるのだから。」
「嫌だ、あなたの妻にはならない!」
「そうか。ならば、わたしにも考えがある。」
ビセンテはそう言うと、海斗を横抱きにして大広間から出て行った。
「離せ、俺を何処へ連れて行くつもりだよ!?」
「わたしの部屋だ。」
ビセンテは自室に入ると、褥の上に海斗を寝かせた。
「やだ!」
「どうして、わたしの妻になってくれないんだ!」
ビセンテは、海斗を無理矢理抱いた。
「ジェフリー、あの陰陽師、どうしてカイトに執着しているのか、理由が判ったぜ。」
キットはそう言うと、意気消沈した様子でのジェフリーに、一冊の本を手渡した。
「あの陰陽師は、カイトに自分の子を産ませる事で、一族の力を強固なものにしたいらしい。」
「そんな理由で、俺のカイトを奪われて堪るか!
「おいおい、落ち着け。これからどうやってカイトを奪還するつもりだ?」
「あいつの結界を弱める方法を、考えている。時間はかかるかもしれないが、カイトは必ず取り戻す。」

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