JEWEL

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不死鳥の花嫁 第1話


―あぁ、約束だ。

それは、幼い日に交わした、他愛のない約束。
何故、今頃になって、思い出すのだろう。

「有匡様、起きていらっしゃいますか?」
「あぁ。」

1862(文久2)年、京。

京都守護職を幕府から任命された藩主・松平容保は、約千人もの会津藩士を率いて上洛し、黒谷の金戒光明寺に入った。
「寒いなぁ。」
「会津も寒いが、京も寒いなぁ。」
藩士達がそんな話をしながら荷物を解いていると、そこへ有匡が廊下を通りかかった。
「おい、あれ・・」
「江戸から容保様と共に来た・・」
「女のような顔をしているな。」
「あんな花のような顔をしているからって、侮っちゃならねぇ。あいつは、剣も槍も強ぇ。」
藩士がそんな話をしていると、山本覚馬が藩士達をそう諫めた後、有匡が消えていった容保の部屋へと目を向けた。
「容保様、お疲れ様でございました。」
「有匡、其方は京に詳しいと聞く。」
「京には、昔住んでいた事がありました。ですが、二十年前の事ですし、土地勘がないにも等しいので、余り容保様のお役には立てないかと・・」
「そうか。」
外からは、雪がはらはらと降る音が聞こえた。
「会津も、今頃降っているのだろうな。」
「はい。」
その夜、容保が藩士達を労う為、彼らを島原遊郭へと連れて行った。
「京の女子はいい香りがする。」
「華やかな所だなぁ。」
有匡達がそんな事を話していると、向こうに人だかりが出来ている事に気づいた。
「何だ?」
「あれは・・」
人だかりの中心に、美しく着飾った夜の華―太夫が揃いの髪型と着物を着た禿を従えて、内八文字の形を高下駄で描きながら客が待つ茶屋へと向かっていった。
その太夫の、眩い金色の髪と、血の如く美しい真紅の瞳に、有匡は“誰か”の姿と重ね合わせていた。
「殿・・有匡殿?」
覚馬に肩を揺さ振られ、有匡が我に返ると、あの太夫の姿は何処にもなかった。
「さすけねぇか(大丈夫か)?」
「すいません、少し呆けてしまいました。余りこういった華やかな場所は苦手でして・・」
「何を言う、この色男が!」
そう言って有匡に絡んで来たのは、会津藩士の山田洋平だった。
「噂で聞いたが、お前江戸に居た頃女からの恋文が山程届いたそうじゃないか!?」
「色男は羨ましいなぁ~」
「厠へ、行って来ます。」
有匡はそう言うと、山田達から逃げた。
厠から宴席へと戻る途中、氷が張った水溜まりに映った己の顔を見ながら、有匡は溜息を吐いた。
異人との混血児として産まれ、この碧みがかった切れ長の瞳の所為で、鬼の子だ、魔物の子だと幼少の頃から気味悪がられ、石を投げられた記憶は忘れられない。
(この瞳を見ても怯えなかったのは、“彼女”だけだった・・)
有匡の脳裏に、幼い日にあの約束を交わした“彼女”の姿が朧気に浮かんだ。
宴席に戻ろうかと有匡が廊下を再び歩き出そうとした時、向こうから走って来た娘と彼はぶつかりそうになった。
「怪我は無いか?」
「すいまへん、おおきに。」
そう言った娘は、真紅の瞳で有匡を見た。
「其方・・」
「紅玉、こげな所に居たがか!捜したぜよ!」
そう言って酒臭い息を吹きかけながら娘の手を掴んだのは、土佐弁を話す男だった。
「おんし、わしの相手をするぜよ!」
「嫌、はなして!」
「やめよ、嫌がっておるだろう?」
「何じゃ、おまんは黙っとれ・・」
娘と男との間に割って入った有匡は、男の顔に掌底打ちを喰らわせた。
「今の内に、逃げよ。」
「おおきに。」

有匡は、廊下で気絶している男を放置し、覚馬達が居る宴席へと戻った。

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