JEWEL

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炎の月に抱かれて 第一話



(かあさま、会いたいよぉ・・)

少女―火月は、亡くなった母と共に、鎌倉で暮らしていた。
決して豊かではなかったものの、母との暮らしは幸せそのものだった。
しかし、母が肺結核で亡くなり、火月は父親の元へと引き取られた。
そこには父の本妻と、自分の異母妹である雪が居た。

“気味が悪い子ね。”

継母・佐知子は、そう言うと火月を冷たい目で睨んだ。

金髪紅眼の火月は、その人とは違う容姿故に周囲から虐められ、孤独な日々を送っていた。
そんな中、火月は運命の出逢いをした。
それは、朝から大雪に見舞われた冬の日の事だった。
「何しているのよ、愚図!」
「すいません・・」
「今日は雪お嬢様の大切なお客様がお見えになるんだからね、少しでも粗相をしたら、この家から追い出してやるからね!」
「はい・・」
火月はそう言って俯くと、割れた食器を片づけ始めた。
「そこはいいから、外で雪かきをしておいで!」
「はい・・」
「まったく、辛気臭い子ね。」
女中頭・トキは、そう言って火月を睨んだ。
寒さで悴んだ手を擦りながら火月が雪かきをしていると、一台の車が彼女の前で停まり、中から一人の男が出て来た。
長身を軍服に包み、射干玉の如き美しく艶やかな黒髪をなびかせた彼は、切れ長の碧みがかった黒い瞳で火月を見つめた後、徐に己が嵌めていた牛革の手袋を外し、それを火月に手渡した。
「これを。」
「そのような高価な物、頂けません。」
「いいから、取っておけ。」
男はそう言って半ば強引に火月に手袋を手渡すと、高原邸の中へと入っていった。
「あら、ようこそいらっしゃいました、土御門有匡様。」
「高原殿、お久し振りです。本日はお招き頂きありがとうございます。」
「いえいえ、有匡様にいらして下さり、光栄ですわ。」
「ええ、本当に。」
高原家の三人から歓待を受けた男―土御門有匡は、“ある事”に気づいた。
「失礼ですが、こちらにもう一人、娘さんがおられると聞きましたが・・」
「えっ・・」
有匡が三人に玄関先で会った娘の事を話すと、彼らは一斉に気まずそうに俯いた。
「どうさました?」
「あ、有匡様、お姉様は・・」
「火月でしたら、自分の部屋で休んでおりますわ。あの子は恥ずかしがり屋で・・」
「そうですか。」
邸の中で父達がそんな話をしている事など知らず、火月は寒さに震えながら雪かきをしていたが、雪掻きをしたところからまた雪が積もってゆくので、中々終わらなかった。
邸の中からは時折、楽しそうな父達の笑い声が聞こえて来て、何故だが火月は泣きそうになった。
(さっきの人と、何処かであったような気がするな。)
時折夢に現れる、自分に優しく微笑んでくれる、“誰か”の姿。
あぁ、“彼”と出逢ったのは、こんな冬の日だったっけ。
(僕、一体何を・・)
―僕、あなたの子供を産みたいんです。
闇の中から聞こえる、“誰か”の声。
「今日は、本当においでいただきありがとうございました。」
「有匡様、またいらしてくださいね。」
高原邸から出た有匡は、雪の中で何かが光っている事に気づいた。
(何だ?)
紅い月が、雪の中に倒れている少女―火月を優しく照らした。
―僕、あなたの子供を産みたいんです。
火月の耳に光る紅玉の耳飾りを見た有匡の脳裏に、一気に“前世”の記憶が流れ込んで来た。
「やっと会えたな、火月。」
「まぁ有匡様、その子の事は放っておいて下さいな。」
「彼女を、わたしの妻として貰い受けます。」

有匡は冷え切った火月の躰を外套で優しく包むと、車に乗り込んだ。

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