【九〇】 先 君 (小田原藩主大久保忠真) 鵜 沢 氏 に 謂 て 曰 く。 汝 不 学 を 憂 うる 莫 れ。 寡 人 (私) 博 渉 を 務 む(ひろく通じることに努める)と 雖 も、 而 も 其 の 要 、 貝 原 篤 信 の 大 和 俗 訓 、 林 道 春 の 貞 観 政 要 諺 解 に 存 す。 汝 此 の二 書 を 誦 して 可 なりと。 至 言 と 謂 うべけん。
1 『報徳秘稿』三六五「松影公(大久保忠真)鵜沢氏に謂いて曰く、汝、不学を憂えるなかれ。我れ万巻を見るといえども、その要は貝原(益軒)の大和俗訓、道春(林羅山)が貞観政要諺解に止る。この書を見て可なり。」
【九一】 孔 子 曰 く、 閨 門 (家庭)の 内 、 礼 を 具 うるなり。 是 れ 万 世 不 刊 の 良 典 なり。 古 えより 以 来 妻 妾 の 繆 る 所 と 為 る 者 多 し。 小 田 原 藩 老 服 部 ・ 三 幣 二 氏 倶 に 智 勇 を 兼 ね、 其 の 君 を 相 け 政 を 為 す。 諸 士 敢 て 違 う 者 莫 し。 然 れども 其 の 終 を 全 うする 能 わず。 是 れ 閨 門 治 らざるの 致 す 所 なり。 嗚 呼 、二 氏 の 智 勇 以 て 妻 妾 を 制 する 能 はず。 豈 察 せざるべけんや。
1 『報徳秘稿』四九七「閨門の内、礼を備うるかな、これ慎むべきの名典なり。いにしえより賢哲多くこれがため謬(あやま)らる。相陽(小田原藩)服(服部十郎兵衛)・三(三幣又左衛門)氏、知仁勇兼ね備わる。君を助け国政を司り、一言出して諸士二言を出すあたわず。これ閨門のために窮するなり。ああ、二氏が智勇をもって一己の卑妾を制するあたわず。丈夫たる者、察せざるべからず。」