余生

余生

遺言シリーズ4



もう30年前、阿部公房の「密会」を私の部屋で見つけ、母が「不道徳な本を隠し持っている」と騒いだことがあった。
私にしてみれば、新刊が出れば買うことに決めている作家の一人、騒がれる理由がわからなかった。
マルキドサド、バタイユ、倉橋由美子、当時のすかした読書家の女の子はそんな悪徳をテーマにした本にかぶれたものだ。
そして自分の中の悪意を最大限拡大して、妄想を日記に書きつけ、不道徳極まりない妄想を書き込んだレポート用紙を小さく畳んで毎日親友と交換した。

頭の中で不道徳を遊ばせる以上のことを当時の私も友人もやりはしなかった。
やることを想像する自分に恐怖を覚えたりはしたけれど、決して実行に移しはしない自分を知っていたように思う。
思うこととやることの間にはものすごい距離があったのだ。

今その距離をあっさり乗り越えられる少年、少女が次々に現れている。

それはなぜなのだろう。ネットというツールを手に入れてしまったからなのか、あるいはミヤザキ、サカキバラという既にやった奴の存在がその距離を縮めてしまったのだろうか。

詩が人を殺さないために、人に殺されないために私に何ができるのだろう。




Last updated November 14, 2005 11:51:03

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