ジョナサンズ・ウェイク

ジョナサンズ・ウェイク

空中ブランコ(奥田英朗)


問題精神科医である主人公、伊良部一郎(カバのような巨体に幼児のような発想をそなえる)の行動・言動はもう爆笑必至。いったいどっちが患者なのか? というツッコミを入れつつ(と同時に筒井氏の唱える「人間ミナビョーキ」という定理に納得もしつつ)読んでいくうちに、患者たちの、これまた一風変わった病状が治っていき、その過程で読者も不思議なカタルシスに包まれていく(ただし電車内で読むことはあまりお勧めできない。突然、吹き出したりしては、乗客たちに変な目で見られること請け合いなので)。
余談ではあるが「伊良部先生シリーズ」は、現在コミック版も発売されており、来年度には映画化もされるそうだ。

それから彼の犯罪長編小説の部類に入る『邪魔』、『最悪』というのを続けて読んだ。複数の物語が終盤あたりで一つに収斂されていく様はまさに芸術的だ。また彼の作品は、構成と人物描写がとても巧みで、だからこそ物語の中に引き込まれてしまうのだろう。
ほかの短編集では中堅サラリーマンをおもな主人公に置いている『マドンナ』がオススメ。
それにしても、作中で描かれている、社内での複雑な人間関係、それから中年社員の哀愁ただよう心理が、まだ青年(と自分では思っている)私の身を持って理解できるのは何故だろう・・・。

「空中ブランコ」奥田英朗(著)

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