じゃくの音楽日記帳

じゃくの音楽日記帳

2013.04.28
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大植&大フィルのマーラー「復活」を聴きました。この4月にリニューアルオープンしたフェスティバルホールのこけら落とし、「第51回大阪国際フェスティバル2013」の一環の演奏会です。


4月26日 フェスティバルホール

指揮 大植英次
独唱 スザンネ・ベルンホート(ソプラノ)
   アネリー・ペーボ(アルト)
合唱 大阪フィルハーモニー合唱団、大阪新音フロイデ合唱団、神戸市混声合唱団、ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団

コンサートマスター 田野倉雅秋
管弦楽 大阪フィルハーモニー交響楽団




大植さんは、2003年5月、大フィルの音楽監督に就任して最初の定期演奏会で、マーラー「復活」を演奏したそうです。それ以来10年ぶりの、大フィルとの復活ということです。
もっとも僕は、2003年の時点では、大植さんの存在をほとんど意識していませんでした。僕が大植さんを初めて聴くことになるのは、その2年後、2005年の大フィル東京公演でのマーラー6番でした。それ以来、大植&大フィルのマーラーをいろいろと聴いてきました。6番、3番、5番、1番、4番、大地の歌、3番、9番、5番。そしていよいよ「復活」が聴けます。

この演奏会、新生フェスティバルホールの歴史が始まるという大きな節目の演奏会であり、しかも10年ぶりの大植&大フィルの「復活」という貴重な演奏会でしたから、チケットは超入手困難でしたが、ぐすたふさんのおかげで、この日ホールに臨むことができました。実にありがたいことです。

FestivalHall1.jpg

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FestivalHall3.jpg

FestivalHall4.jpg

弦は対抗配置、Cbは下手で、その奥にベル。しかしベルはチューブラーベルではなく、板の鐘でした。ハープ2台は上手に位置していました。

第一楽章、遅めのテンポです。テンポの動きやアゴーギグは思ったよりも控えめです。そんな中で極端にテンポが落ちたのは、練習番号16からの、低弦が付点のリズムを重々しく刻んでいくところです。このあとの「怒りの日」の旋律に基づく主題が初登場するのに向かって歩んでいく重要なところですが、ここが非常に遅く、重苦しく、印象的でした。

第一楽章が終わって、大合唱団が左右から入場。舞台最後部に横にびっしりと並び終わると、今度は独唱者二人が入場し、指揮者のすぐそばに、向かって右にソプラノ、左にアルトのペーボさんが着席しました。

第二楽章が終わって、アタッカで第三楽章へ!(今回は結局、第二楽章以後最後まで、全部アタッカで通しました。)

第三楽章が終わる寸前にペーボさんが静かに立ち、そのまま第四楽章に。第四楽章、ペーボさんの歌に、大植さんがすぐそばで全身を使った身振りで、一緒に歌っているかのような濃厚な指示で、ペーボさんを歌わせます。これぞ大植さんのマーラーの歌です。かつての3番(2005年)の第四楽章で、坂本朱さんにこのような指示を出し、それにこたえて歌う坂本さんの名唱に、深い感銘を受けたことが思い出されます。ペーボさんの歌はちょっと明るすぎると思いましたが、大植さんの歌が心にしみました。また途中のオーボエのソロも、素晴らしく美しかったです。

正直僕は第三楽章までは今一つ音楽に没入できなかったのですが、この第四楽章から、音楽に没入し始めました。

そして終楽章、長い進行の中で次第次第に感動が深まっていき、終わってみれば大感動という、大植マジックに圧倒された終楽章でした。



そのような大きなスパンでみての緩急の繰り返しが、合唱が始まってからの音楽の流れに、そのまま有機的に結びついているように感じました。合唱が31で入り、オケの間奏(32~34)、ふたたび合唱(35~36)、オケの間奏(37~38)と交互に繰り返されるところで、オケの間奏がゆっくりとしたテンポで美しく、特に38は静かで清らかな美しさに包まれ、息をのみました。

なお、合唱団は座ったままで歌い始め、ずっと進んで44にはいったところで立ち上がりました。この合唱団起立のタイミングは衛星放送で見た2003年のアバド&ルツェルンと同じです。(衛星放送では立ち上がる瞬間は映っていないけれど、前後から判断してここしかないと思います。)このようにしばらく座ったまま歌わせる方法、とても良いと思います。

さらに今回の大植さんは、独唱者もはじめのうちは座ったままで歌わせていました。この31~32のソプラノを座って歌わせるというのはかなりユニークだと思います。今回、歌手の位置が指揮者のすぐ横だったので、座ったままで歌わせるということは、斬新なだけでなく、ソプラノが視覚的に目立ちすぎないという意味で、かなり効果的でした。(アバド&ルツェルンでは、独唱者はオケの中に位置していたということもあり、31のソプラノから、その都度立って歌わせていました。)それにしても今回のソプラノのベルンホートさんの声、とても素晴らしかったです。

独唱者がその後いつ起立したのかは、もうすでに記憶があいまいです(汗)。44の開始の時にソプラノとアルトの二人がそろって立って、それと同時に合唱団が立ったような気がしますが、もしかしてもっと先に、39からのアルトソロでアルトが立ち、41からのソプラノソロでソプラノが立ったのかもしれません。どなたか覚えていたら教えてくださいますか。

そしてこの44の始まったところで、舞台裏のバンダ隊が、下手からホルン隊、上手からトランペット隊が入場し、来るべきクライマックスに向けていよいよ全員集合。期待が高まります。



今夜の演奏、すべてがここのため、この1点にむけて緻密に設計され、周到に演奏され、それが見事に成就した、大感動のひとときでした。

合唱が終わってオケの後奏は、ふたたびそれほど遅くない通常のテンポに戻り、一気に終結を迎えました。大植&大フィルの復活、ここに成就せり。


今回の演奏で一つだけ残念だったのは、ベルが、板の鐘だったことです。この曲の鐘は、終楽章の展開部(16の中ほど)と、曲の終結部に出てきますが、どちらも、板の鐘の持つ、つぶれたような暗い曇った響きは完全にミスマッチだと僕は思います。9番の鐘ならそういう音色も良いのです。しかし「復活」の鐘は、信仰の強さというか、教会の高い鐘楼の鐘から鳴り響いてくる音をイメージできるような、大きくはなくても、明るく力強い音でないと困ります。曲の最後は特にそうだし、展開部の鐘にしても、曲の最後ほど目立たないにしても結構重要な役割で、良い鐘の響きで聴くと本当に感動させられます。

しかしその他の点では、大植さんならではの素敵な工夫がありました。第五楽章始まって間もなく練習番号3で、舞台裏のホルンが遠くから、ドソーーーー、ドソーーーー、ソドソドーーーーレーーーーと響きますね。ここのところに工夫がありました。基本は下手側の舞台裏で吹かせたのですが、2回目のドソーーーだけ、反対の上手側の舞台裏で吹かせたのです。スコアには2回目のドソーーーに「エコー」と書いてあり、まさにエコーとして響きが遠くから返ってくるイメージを見事に出していました。こう書くと単純なことのようですが、実際にこういう演奏に接したのは初めてで、その効果はなかなかで、さすが大植さんの工夫でした。なおこの舞台裏のホルンは、後程29でもう一度出てくるところでも、同じ方法で、エコー効果を出していました。

オケは尻上がりに調子を上げていったように思います。木管はいつもながら良い音だったし、トランペットの秋月さんの美しい音も健在、トロンボーンの力強さも立派だったし、ホルンも立派でした。

あと、特に良かったのが舞台裏のトランペットです。練習番号22~24の、舞台裏のトランペットと打楽器がファンファーレを繰り返しながら次第にもりあがっていくところもきっちりと決めていたし、それから練習番号29~30の、マーラーが「大いなる呼び声」と呼んだ、4本のトランペットが遠くから響き、舞台上のフルートとピッコロが鳥のさえずりを歌い、合唱を導入する部分、トランペットも、それからフルート、ピッコロのいずれも非常に美しく、ほれぼれとしました。

大植さんと大フィルの復活、聴くことができて本当に良かったです。ぐすたふさんありがとう。終演後、ちょっとでしたがぐすたふさん、ヒロノミンVさんとお会いでき、うれしかったです。

いずれまた、5年後か10年後とかで良いですから、大植&大フィルの復活を聴きたいと願います。

FestivalHallAfter.jpg





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Last updated  2013.04.30 14:19:13
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Re:大植&大フィルのマーラー「復活」(04/28)  
ヒロノミンV さん
 当日は、少しの間でしたがお話しできて良かったです。あの時にじゃくさんがおっしゃっていた言葉(確か、「今日はあの第五楽章がすべてだ」でした)の意味が、こうしてブログを拝見するとわかりました。僕はとにかくディテールの美しさと音楽の大きなうねりの中に没入してしまって、この演奏の全体の大きな構造に目を向ける余裕がありませんでしたので・・・
 第五楽章序盤のホルンは、確かに驚きました。自分の周りの客席では自分も含めてキョロキョロする人多数(笑)
 この日は、『演奏がすべてを物語っているから大植さんに合わなくても大丈夫』と思っていましたが、こうして見るとお会いして聴きたいことがたくさん出てきますね。
http://lazy-hironomin.blog.so-net.ne.jp/ (2013.04.29 00:57:12)

Re[1]:大植&大フィルのマーラー「復活」(04/28)  
じゃく3  さん
ヒロノミンVさん超速のコメントありがとうございます!
「ともかく28日中には記事を書き上げよう」と一生懸命書いて、書き終わってお風呂にはいって、上がってみたらもうコメントをいただいていたので、びっくりしました!ちょうどヒロノミンさんも同じころに書き上げてらしたんですね。

> この日は、『演奏がすべてを物語っているから大植さんに合わなくても大丈夫』と思っていましたが、こうして見るとお会いして聴きたいことがたくさん出てきますね。

本当にそうですね。大フィルのブログによると、マーラー自筆のスコアで練習されていたということですので、そのスコアでもちょっと見せていただきながらお話をうかがえば良かったです。
(2013.04.29 02:06:16)

Re:大植&大フィルのマーラー「復活」(04/28)  
ぐすたふ さん
過分なお言葉をいただき、恐縮です。こちらこそ、じゃくさんとこの記念碑的演奏会をご一緒できたこと、光栄に思います。

僕は、最初の復活も聞いているのですが、その時は、五楽章が割と普通で、バーンスタインの使徒といえど、師のやり方を踏襲するわけではないのだなあ、あんな風にはやってくれないんだ、と思った記憶があります。今回は、大植さん、あのpesanteに全てを注ぎ込んだ、という感じですね。

次の復活、僕も聞きたいです。大植さんは、節目の曲、と常々言って居られますから、あるとすれば、大フィル50年かな? (2013.04.29 09:49:58)

Re[1]:大植&大フィルのマーラー「復活」(04/28)  
じゃく3  さん
ぐすたふさんありがとうございます。ぐすたふさんとともに、かけがえのないマーラーをまたひとつ体験できたこと、本当にうれしく思います。大植体験のあとは毎度のことですが、頭の中を復活の断片がぐるぐるとまわって顔をだしたり引っ込んだり、これが当分続きそうです(^^)。

>僕は、最初の復活も聞いているのですが、その時は、五楽章が割と普通で、バーンスタインの使徒といえど、師のやり方を踏襲するわけではないのだなあ、あんな風にはやってくれないんだ、と思った記憶があります。今回は、大植さん、あのpesanteに全てを注ぎ込んだ、という感じですね。

そうですか!そのあたりのことうかがいたかったので、なるほどです。前回は就任直後で、完全に自分のやりたいようにというよりは、いろいろな意味である種妥協というか、安全性を重視したのかもしれませんね。その後だいぶ年月が立ってからの大フィルとの最初の3番の終楽章でさえ、そのような感じを抱きましたから。

>次の復活、僕も聞きたいです。大植さんは、節目の曲、と常々言って居られますから、あるとすれば、大フィル50年かな?

今回のフェスこけら落としの演目予想を、早くからずばり的中させたぐすたふさんですから、また現実になることを期待して、待ちましょう。

しかしこういう演奏を体験してしまうと、今はレパートリーに考えておられないという8番も、いずれ大植さんに是非演奏していただければなぁ、と思います。
(2013.04.29 11:50:05)

Re:大植&大フィルのマーラー「復活」(04/28)  
jupiter さん
じゃく3さん
私の拙BLOGにコメントありがとうございました。
28日のうちにこれだけの文章を書き上げられたとは!大植さんの緻密さには本当に敬服しますが、じゃく3さんの解析の緻密さにもいつも感動させられます。
私も次の復活を聞きたいですが、やはり7,8,10番といったところもお願いしたいです。
(2013.04.29 23:27:19)

Re[1]:大植&大フィルのマーラー「復活」(04/28)  
じゃく3  さん
jupiterさんコメントありがとうございます!
解析だなんてとんでもないです、好き勝手なことを書いているだけです。28日は何年かぶりに復活の古いスコア(ずっと昔買った全音の小さいもの)をいろいろ見ながら、思いだしつつ書いたのですが、字が小さくて当方はもはや読めないところが多々あって、困りました。大植さんを真似して大きな虫めがねを買おうかな(^^)。
今や世の中に出回っているのは新しい校訂版でしょうから、そろそろ新しい版を買おうかな、そのときは字の大きいのにしないと、と思った次第です。

>私も次の復活を聞きたいですが、やはり7,8,10番といったところもお願いしたいです。

まったく同感です!これも勝手に個人的希望優先順位としては10番全曲(版はなんでも可)、8番、7番、あとおまけに嘆きの歌、ひらにお願いいたします。
<(_ _)>


(2013.04.30 08:50:18)

Re:大植&大フィルのマーラー「復活」(04/28)  
じゃく3  さん
ここにいただいた大変ありがたいコメントを1件非公開にさせていただきました。のちほどお返事の形でコメントを追記しようと思います。とりいそぎ、心からの感謝をこめて。 (2013.05.11 10:03:38)

Re[1]:大植&大フィルのマーラー「復活」(04/28)  
じゃく3  さん
5月11日にコメントくださった方へ、あらためてお返事いたします。
私にはもったいないお声かけです、本当にうれしく、ありがたく思います。

数年前に読んだ、SF作家のかんべむさし氏が書かれていたエッセーの中に、興味深い文章がありました。
かんべ氏は、音楽に関する基礎知識はまったくないそうですが、ユダヤ系の音楽に接すると理由がわからないが非常に惹かれる、という体験を繰り返したそうです。そうしているうちに、「もし前世というものがあるとしたら、自分はそこではユダヤ人だったのではなかろうか」と半分本気で思うようになった、ということが書かれていました。

この文章を読んだ時に、とても親和性を感じました。自分も、なぜだかわからないけれど、マーラーや、ロマの音楽や、クレズマーの音楽に、なぜか強い親和性を感ずるからです。それで、もし自分に前世というものがあるとしたら、きっとユダヤの血が流れている人だろうなぁ、などと空想したりしてました。(歴史に名を残すような偉大な人物ということではなく、ただ単に、そういう血が流れている人、という意味ですけれど。)

自分はただただマーラーの音楽を愛するひとりの素人音楽ファンにすぎませんが、それだけに好き勝手なこだわりを持ってマーラーを聴いています。6番の楽章順の問題にしても、音楽的には第三楽章アンダンテを断然支持するものです。(近年の国際マーラー協会の、ひとつに決めつけようとする方向は、狭量にすぎると思います。)何かそういうことがらで新発見の事実など、いずれ何らかの形で世に出てきたら、うれしいです。

いただいた謎の答えが、いつか自分に分かる日が来ればいいな、と思います。そして次の機会に、自分にもそれが見えたらいいなぁ、などと思いを巡らします。

どうぞ健康に気を付けられて、さらなるマーラー世界の開示を続けていってくださいますことを、心から願い、応援しています。
敬意と感謝をこめて
(2013.05.12 19:55:59)

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