「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の 愛妻家の食卓
『天使の手鏡』・第18章~最終章
地上に行ってからは辛い事があっても以前の様にあまり泣かずに我慢してきたサラがこらえることなく泣いていました・・・
(どうしたんだ、サラ・・・)
私が何度も鏡に向かって問いかけてみますが、私の声は届かず、いつまでも泣いていました。
そして、私は少し前にサラが言っていた事を思い出しました・・・
彼が年老いて歩くことも出来なくなったと・・・
(まさか・・・)
私は心配しましたが、その日からしばらく泣いているばかりで何も語ってくれませんでした。
私も同じように悲しみに沈みました・・・
毎日、診察が終わってすぐ手鏡の前に座り込み、サラが現れるのをひたすら待っていました。
そして、2人が疲れ果てる頃、やっとサラは話してくれました。
(先生・・・彼は不治の病に侵されていました。そして・・・今日の昼亡くなりました・・・)
やはり私の嫌な予感が的中していました。
(彼の最後はとても穏やかで、まるで眠りについただけのように感じました。ただ眠っているように・・・地上に来てからの日々はあまりに一瞬でした。人の命は短すぎます。私たちとほとんど同じ姿をしているのに・・・その命はまるでつまれた花のようです・・・でも最後に彼は「ありがとう」と言ってくれました。「幸せだった」と言ってくれました・・・)
そう言って泣き崩れました。
(サラ・・・)
私は言葉を詰まらせました・・・愛する者が目の前で急速に老い、亡くなってしまう・・・想像したサラの悲しみと辛き日々があまりにも悲境で・・・
そして、長い間泣き崩れていたサラは再び空を見上げ、言いました。
(先生、彼は自分が天使でいた事をうっすらと憶えていました・・・私より辛かったでしょう・・・でもなぜ神様は私たちを人と違うように作られたのでしょう?なぜお互いに試練を与えるのでしょうか・・・)
(・・・サラ、それは私にも分からない・・・でも、きっと何か理由があるんだよ、その疑問を生まれ変わり、後世に残しながら人も私たちも少しずつ悟っていくんだろう・・・きっと・・・)
こうしてサラと私は悲しみを心に抱き、いつもより長く語り合いました。
そして、サラは最後に・・・
(寂しい)
そうつぶやいたような気がしました。
そして、その日の夜・・・私が寝ていると突然、閉めていたはずの窓から風が吹き込み、私の隣に誰かが立っていました。
驚いて見上げると、それは見知らぬ1人の男でした・・・
「誰だ、勝手に私の部屋に!」
[・・・]
男は私をただ見つめ、黙っていました。
しかし、突然の出来事だというのに怖さは感じず、なぜか温かさまで感じ、男が話すのを待ちました。
容姿は若く月光でその体は少し透け、光って見えました。
「まさか!サラの・・・」
[ずっと会ってみたいと思っていました。御礼を言いたくて・・・ありがとうございました。私のことを、サラのことを理解していただいて・・・本当にありがとうございました・・・]
「・・・それが正しいと思ってのことです。本当に生まれ変わって人になることがあるのですね・・・」
[いえ、生まれ変わったのではなく、堕天使との戦いで人に変えられたのです。呪いでした・・・]
「・・・」
[しかし、そんなことは今となってはどうでもいいことなのです。今では意味があったと思っています、それより私がここに来た理由はもう一つあるのです。それは彼女のことを頼みたいということです。どうか側で守ってやってください。私がいなくなった今、なぜ早く迎えに行ってあげないのですか?]
「そうするつもりです、明日すぐに・・・しかし、あなたはこれから何処へ?」
[それは分かりませんが、肉体を離れるとすぐに何かの力に引き寄せられているのが分かりました。今はその力に身を任せようと思っています。私のことは気になさらずにいてください。命尽きるまで愛されたことを幸せに思っています]
「そうですか・・・」
[はい、そう感じています・・・もう行かなくては・・・]
「最後にもう1つだけ聞かせてください。人として短い生涯を終えて何か悟ったものはありますか?今度、生まれ変わるとすれば天使と人、どちらを望みますか?」
[悟りでは無いのですが、懸命に生きたので短かったとは感じていません。そして、まだまだ人の世にも光はありました。一瞬だからこそよいのかもしれません・・・私は昔と違い、人は人でしか助けられないのではないかと感じました。生まれ変わるとしたら人を望むかもしれません・・・それではサラのことを頼みます・・・]
「そうですか・・・ありがとう・・・」
私がそう言うと彼はゆっくりと舞い上がり、そして最後に彼はこう言い残して行きました。
[ここにはガブリエル様に導いてもらいました。会うことがあればお礼を伝えください・・・]
私は彼が去った後、すぐに目を閉じ、ガブリエル様を呼んでみました。
(ガブリエル様・・・)
すると、いつものようにユリの花畑で彼女は現れました。
〈お久し振りですね、彼と会いましたか?〉
「はい、お礼を言ってくれと・・・私からも、ありがとうございます」
〈彼の意思を尊重したまでです〉
「・・・」
〈どうしたのですか?何か気になることでもあるのですか?〉
「彼の魂は何処へ行ったのですか?」
〈あなたになら・・・少しだけ見てみますか?〉
「いいのであれば是非、お願いします」
〈それでは目を閉じて〉
言われるままに目を閉じました・・・
目を閉じてここに来ているというのに、その中でまた目を閉じる事はとても不思議な感じがしましたが、目の前は確実に世界が変わりました。
暗く、上下も左右も無く、見渡すかぎり星の世界・・・
「ここは?」
〈ここは宇宙です〉
「・・・ここの何処かに彼が居るということですか?」
〈そうです、魂というエネルギーとなって今は終わりのないこの世界を飛び回っているのです〉
「エネルギー?・・・」
〈はい、きっとあなたならいつか悟るでしょう〉
「・・・」
そうして再び彼女の世界へと戻りました。
〈サラの所へ行くのでしょ?どうかお願いします・・・またいつか会うことになりますが、それまで変わらずにいてください。ずっとそのままで・・・昔のままに・・・〉
「離れなくてはいけないのですか?」
〈はい・・・私には私の使命があるのです、また会う日まで・・・〉
そうして彼女は消え、私はまた知らぬ間に眠りについていました。
『天使の手鏡』・最終章『愛』
朝、サラを今すぐにでも迎えに行きたいと強く思っていましたが、やはり診療所を私事で休むわけにはいきません・・・
そうして心の中で葛藤しながら診察の準備をしていると、突然ドアを叩く音がしました。
ドンドン!
[先生!ダニエルです!]
「ダニエル・・・どうしたのだ?こんな朝早くに、何かあったのか?診療所はどうした?」
[診療所はレミィとアンディに任せてきました]
「大丈夫なのか?」
[はい、実は・・・明け方、不思議な夢を見たのです。私はなぜかユリの花畑の中にいました。そしてサラさんによく似たとても美しい女性が現れ、こう言ったのです。
(先生を助けてあげなさい、あなたの助けが今、必要です)
と、それは夢とは思えないほど、とてもはっきりとしていました]
「ガブリエル様・・・」
[あれがガブリエル様?それではサラさんは・・・あれは夢ではなかったのですね]
「そうだ。しかし、詳しい事はまた今度にしてくれ、急ぎなのだ」
[はい]
「来てくれて本当にありがとう、今日だけここの診療所を私に変わって任せたいのだが、頼まれてくれるか?」
[もちろんです、とても光栄です]
「頼んだぞ、診察が終わる頃には必ず戻って来る」
[はい、お気をつけて・・・]
私はダニエルに託し、飛び立ちました。
そして、出来る限りの力を振り絞って飛びました・・・
(サラ、待っていてくれ・・・愛している・・・・愛している)
そして、サラの住む家の前へと舞い降りました。
「サラ・・・」
サラの住む家の前に立った私は胸が張り裂けそうに高鳴っていました。
今までどれだけサラに会いたかったか、この手で抱きしめたかったかと思うとドアを叩く手も震えました・・・
ドンドン!
「サラ!迎えに来たよ!」
〈先生?・・・〉
愛しいサラ・・・私とサラは強く抱き合いました。二人の気持ちが重なり、胸に広がり、熱くなっていくのが分かりました。
「よく頑張ったね・・・もう大丈夫だよ、もう我慢せずに泣いてもいいんだよ」
サラは声をあげて泣きました。それはまるで、泣くことでしか伝えることが出来ない子供のように力いっぱいに・・・
私はそんなサラを黙って抱き続けました・・・
〈先生は私の事を許してくれるのですか?自分勝手な私を・・・何十年も違う男の妻だったのですよ?・・・〉
「・・・サラ、もうそれ以上言わなくていい・・・言わないでくれ、私がそれに対して苦しかったとしてもサラがそれ以上に苦しんでいた事は分かっているつもりだ」
〈だけど、先生はみんなに愛され尊敬されています。私のような者を愛してはいけません・・・〉
「いくら私でも愛の前では正気ではいられない・・・考えても、苦しくても、サラを想う気持ちは何よりも遥かに大きい・・・愛している、一緒に帰ろう」
〈先生・・・ありがとうございます・・・私も愛しています、信じてくれますか?〉
「信じていなければ、私はここには居ない・・・サラのことは翼からずっと感じていた・・・手鏡で見ていたよ」
〈先生・・・〉
「サラ・・・1つ頼みがあるんだ、サラの描いた絵を見せてくれないか?手鏡でいつも見ていたが、この目で見たいんだ」
〈はい、私もずっと先生に見てほしいと思っていました。ぜひ見てください、こちらです〉
サラは私を部屋に連れて行きました。
「こんなにも・・・」
その部屋には全ての壁に沢山の絵が飾られ、並んでいました。
私はそれを1つ1つ見ていきました。
その絵を描いている時のサラの心が、手に取るように感じられました・・・
「素晴らしい・・・どれもサラの優しさが感じられる・・・」
〈ありがとうございます〉
「しかし、この絵はどうしよう・・・今日、全て持って帰るのは難しいね」
〈いえ、この絵は持って帰りません。一枚は彼と供に、後は近くの教会に寄付しようと思っています〉
「・・・そうか・・・それがいいかもしれないね、サラが地上に居たという証にもなる」
〈はい、でも実は先生に一番気に入っている絵を取ってあるのですが、貰ってくれますか?〉
「本当かい?もちろん、嬉しいよ、それでその絵はどれだい?」
〈これです〉
サラが私に差し出した絵はサラが4枚の翼がある私に一輪の花を手渡しているとても美しい絵でした。
「これは・・・」
〈はい、私と先生です。他の絵を描きながら少しずつ、心を込め描きあげました〉
「そうか・・・ありがとう」
〈喜んでいただいて幸せです〉
「大切にする・・・と言うより、これは2人の物だね、これからはずっと一緒なのだから・・・そうだろ?」
〈はい・・・〉
「それじゃ、帰ろう」
〈はい〉
そうして、私はサラを抱きかかえ、天空へと飛び立ちました。
途中、見えなくなりそうな地上を見下ろしサラがつぶやきました。
〈こんなにも遠く離れていたんですね・・・〉
「そうだね・・・」
〈でも、どんなに離れていても心と愛は届くのですね〉
「そうだよ、私とサラのように・・・きっといつか人々にも・・・」
私たちは雲を抜け、天空に舞い戻りました。
「おかえり、サラ」
〈ただいま、先生・・・〉
終わり。
『先生からのメッセージ』
恋をしていますか?
愛する人は居ますか?
その人と出合ったこと、
巡り合ったことを偶然だと思いますか?
考えてみれば・・・
なぜ、あの時?なぜ、この人と・・・
そう思うことはないですか?
例えば運命の糸とか・・・
もし、それが何か見えない不思議な力、者によって導かれたと言えば
あなたは信じますか?・・・。
しかし・・・これはもう昔のこと、私たち天使と人が一番いい関係だった時のこと・・・
私たちはもうあなたの隣には居ません
しかし、今でも私たちは近くに存在しています
そして、またいつかあなたの隣に戻れることを願っています
あなたに愛を運ぶ存在になれるようにと願っています
愛とは何でしょう?・・・形は?数は?大きさは?見えますか?言葉にすることはとても難しいですね
もし、それが間違っていたとしてもそれに自信が無くとも言葉に表してみてはどうでしょう?行動を起こしてみてはどうでしょう?
いえ、思うだけでも・・・
きっとそこから何かが見えてくるはずです
みんなが愛について考えてくれれば、思えば 私たちは必ずまたあなたに愛を運びましょう
愛を探すのはそんなに難しいことではないのです・・・
そう、身の周りをよく見渡してください
隣を、目の前をよく見てください
きっとあるはずです・・・
それでも感じられず難しいのなら、空を見上げてみてください
私たちが見えませんか?
もっと周りをよく見渡してください・・・
鳥や動物を、木や草花が懸命に生きている姿はありませんか?
そうです、この世界にはあなた以外にも沢山の生命が懸命に生きています・・・
愛、それは優しい心・・・
愛、それは誰かを想う心・・・
愛、それは見えやすく見えにくいもの・・・
愛、それは見えにくく見えやすいもの・・・
愛、それは受け継いでいくもの・・・
愛、それは受け継いでいけば永遠なもの・・・
愛は必ず残ります
私はそう信じています・・・
では、また会う日まで・・・
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