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2008.01.15
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カテゴリ: lovesick
打ち合わせが終わったのは、19時ごろでした。ふ~、へとへとです。フジシマくんは相変わらずへっちゃらそうにしています。すごいスタミナだなあ、と感心します。
「あ、そうだ。引き出物の数、はっきりした?」
私はうなずいて、指で数を示すと、
「そうか、じゃあ準備したので、十分だな。で、どれにするって?やっぱりあれ?楓のお気に入りのやつ?」
もう一度うなずくと、
「了解。今朝、チェックしてきたけど、そろそろ、素焼きしても大丈夫そうだったよ。いつからはじめる?」
と、聞かれ、
『あれ?もう大丈夫なの?』
と聞くと、

私はちょっと考えました。フジシマくんは、窯のそばにある私の実家に祖父と一緒に住んでいますが、私は実家に帰らないことを知っているので、今晩一緒に帰ろうとは言いません。でも、私は思いました。家に帰ってみようかな、と。
『ねえ、私の部屋、今日いきなり帰っても眠れるかなあ?』
フジシマくんは、びっくりしたように、
「家帰るの?いや、そりゃ、大丈夫だろう。ちゃんと掃除してあるはずだから。ベッドにシーツくらいはしなくちゃいけないだろうけど。」
私は続けて、
『じゃあ、今日一緒に乗せて行ってくれる?』
と、フジシマくんに言うと、今度は驚かずに、すんなりとうなずいて受け、
「じゃあ、用意しといでよ。ご飯はどっか、帰り道で食べよう」
と、気が変わるのを恐れるかのように、慌てて言いました。

寝室でバッグに着替えを詰めながら、悠斗も、まさか、今日来るなんてことないよね?と思っていたら、ちょうど、悠斗からのメールです。

悠斗→楓:おつかれ~。怖~い打ち合わせ(笑)はまだ続いてますか?こっちは、撮影ノビノビで夜中までかかりそうな勢いです。寝不足だけど、合間に寝まくってがんばってます。



悠斗→楓:あれ?もう泊まりになっちゃうんだ。了解。寂しいけど我慢します。またメールするわ。

楓→悠斗:うん。こっちもメールするね。無理しないでね。

リビングに戻ると、フジシマくんが電話を切ったところでした。
「一応、もう一度軽く掃除しといてくれるように、サチさんに言っといたから、眠れるようにしておいてくれると思うよ。驚いてた。それに、泣きそうな声してた」
私は、自分も泣きそうになりながら微笑みました。サチさんは、実家の家政婦をしてくれている人です。もちろん、私と悟のこともよく知っていて、私は、随分心配をかけてきました。

『ありがとう』
と打ち込みました。フジシマくんは、何も言わず、にこっと笑いました。私がパソコンをバッグに入れると、
「準備できた?行こうか?」
私からバッグを取りあげるようにして持ってくれ、玄関の方に促し、部屋の電気を消しました。

実家に向かう道。これまで何度も同じ道のりで、窯への往復を繰り返してきたけれど、実家に帰る、と思うと少し気分が違いました。色々なことが心に浮かびかけては消えました。ひとつ、消えずに残った気持ち。それは、悟の家へいってみようということです。明日は土曜日。お父さんもお母さんも家にいるだろうから。ゆうべ、式に出ることを決めて、私はきちんと向き合うべきことがたくさんあることに気づきました。先に、ちゃんと挨拶しにいっておこう。ちゃんと謝りに行っておこう。悟の位牌に手を合わせることも、今ならできるような気がしました。気が変わらないうちに、行ってしまおう。
私は、私を育ててくれたものすべてを、悟の思い出と同じように捨てようとしていました。私を包んでくれるはずだった人も、癒してくれるはずだった場所も、すべて。私が手元に残そうとしたものは、陶芸だけだった。だけど、ちゃんと取り戻そう。まだ、間に合うなら。そう、まだ、許されるなら。

家に着く直前、悟の実家の前を通ります。少し緊張する私。フジシマくんはそれをきちんと分かっていて、でも意識していないように、家の前での停車に向け、自然にスピードダウンしていきます。門灯を横目でちらりと確認し、それ以上何も考えないように努力しました。決意が揺るがないようにするために。

車を車庫に回すフジシマくんよりも、先に降り、久しぶりに実家の前に立ち、ゆっくりと家を眺めました。とても古い、とても大きな家。出て行ったときと何も変わらず私を迎えてくれます。私の育った場所は、名前こそ市ではあるけれど、かなり田舎で夜は暗く、星がとてもきれいに見えます。そして、山間部にあるので、とてもとても寒い。ぼんやりと立ち尽くしていると、
「なんだよ、先にはいってりゃいいのに。風邪引くぞ」
振り返ると、フジシマくんが荷物を持ってきてくれていました。玄関の引き戸を開け、
「ただいま~」
と、フジシマくんが言うと、サチさんが出てきてくれました。
「楓さん、お帰りなさい」
私は懐かしいサチさんのその言葉に、心が暖かくなり、にっこり笑って、ただいま、の意志を伝えました。靴を脱ぎ、用意されていたスリッパを履きます。
「先生も、お待ちですよ」
「俺、部屋に、荷物置いてきてやるよ、、っと、パソコンは使うかな?」
私はうなずいてパソコンのバッグを受け取り、祖父がいる居間に向かいました。

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最終更新日  2008.01.15 01:27:48
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