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2011.04.20
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カテゴリ: box
「ごめん、楓。楓はここにいて」

有無を言わせないような悠斗の言い方に、疑問を感じはしたけれど、おとなしく従おうと、最初は確かに思っていたのです。その証拠に、もう一度、椅子に腰を下ろしさえして。

・・・だけど。

やっぱり何かが気になって、そーっとそーっとドアを開けた私は、外の様子を伺ってみました。あまり声が聞こえない。足音を潜めて、少しずつ、受付に近づいていくと、フジシマくんが受付に帰ってきました。手には大金。私を見ると、少し、咎めるように目を細めます。その時、悠斗の声が、聞こえました。

「何って、母さんこそなんで、、そんな・・」

・・・母さん?

悠斗のお母さんが来てるの?だったら、ご挨拶しなきゃ。って、紹介もされてないのに、出すぎてるかしら?そんなこと思って躊躇する私の耳に、

「はい。おかあさま」

って女の人の声。



ってことは、瑞希ちゃんも来てるんだ?だったら、尚のこと、ご挨拶したいな、そんなこと、思ってしまった私は、つい、考えなしに、受付のカウンターを回って、展示部の方に足を進めて。

真っ先に目に入ってきたのは、見慣れた悠斗の背中。そして、その向こうに、確かに悠斗を少し思わせるご婦人と、、、、若い女性。瑞希ちゃんではなくて。その意味が一瞬のみこめず、とにかく、引き返したほうがいいって、思ったときに、声がかかりました。

「あら、あなた。・・・たしか・・・」

悠斗のお母さんから。私は、返そうとしていた踵を止めました。逃げ出したりするなんて失礼なこと、できるはずないもの。

「悠斗のお友達ね。たしか、お名前は・・」

・・・・ユートノオトモダチ・・・

その言葉に、若い女性が私を見る目つきが少し鋭くなった気がするのは気のせいだったのでしょうか。ただ、私のココロは今は何も考えないほうがいい、と、警笛を鳴らしているように思えて、深く考えることなく自己紹介をしようとしたのだけれど、お母さんはそれをさえぎりました。

「・・・いつまでも、いい、お友達でいてあげて頂戴ね」

・・・イツマデモオトモダチ・・・

重ねてその言葉を選ばれても、私のココロは、一時停止状態で。だけど、その若い彼女の視線が、今度こそ間違いなく、敵意を帯びた、そう感じた瞬間に、私の背中に、悠斗の手が触れる感触。そして。

「母さん。紹介するよ。俺の恋人の、浮田楓さん。彼女とは結婚を考えてる」



今ここでそんな言葉が出るなんて。驚いて、悠斗を見上げた私。横からの痛いほどに突き刺さる視線を感じました。だけど、悠斗は、どこまでも甘く微笑んでいて。

「・・・悠、、斗・・?」

小さく呼びかけようとしたそのときに、

「まあまあ、悠斗ったら、何を言い出すのかと思ったら」

お母さんの笑い声に、悠斗の目が鋭くなりました。



挑発的な言い方をする悠斗に、お母さんはあくまでも悠然と微笑んで、

「だって、可笑しいわよ。楓さんが一番驚いてるじゃないの」

可笑しそうにいいながら、私に向けられた微笑をたたえた目。

・・・そう、その目は、確かに微笑んでいて。しかも、優しそうでさえあったのです。

「楓、俺、本気だから」

悠斗が私の顔を覗き込むようにして言います。私が何かを答える前に、

「はいはい。あなたの気持ちはよく分かったわ、悠斗」

「分かった?」

驚いたように問い返す悠斗に、お母さんは、

「あなたが楓さんを大切に思ってるってことはね」

「それじゃあ」

心なしか少しほっとした様子の悠斗が、半信半疑な声で聞きかけるのを目で制して、

「だけど、こんなところでできる話でもないでしょう?そんな大切な話を立ち話でするつもりなの?あなたは。・・・今日はしおりさんもいることだし、またゆっくり聞くわ。何にしたってこんなところで、プロポーズだなんてあまりに無粋よ。楓さんだって困ってるじゃないの。ねえ?」

そういうおかあさんの、掛け値なしの笑顔を向けられて、私は、ただあいまいにうなずくことしかできませんでした。

「本当にいいんだよな?」

どうしても話をつめようとする悠斗に、おかあさんは、ただ黙って微笑んでから、

「あ、そうだったわね、ねえ、楓さんは陶芸をなさるのよね?すばらしいわ。それで、悠斗もここに、そういうことね」

一人合点にうなずきながら、また作品たちの方に目を向け、今日、購入してくれたらしい、茶碗のひとつを手に取りました。私の作品。中でも一番のお気に入り。

「あぁ、それにしても、この作品は素晴らしいわ。ねえ、楓さん、私、今日はこの作品をいただいたんだけど、特にこの作家の作品にはここのところ注目して・・・・」

お母さんは言いながら、ゆっくりと、ゆっくりと、私を見ました。

「・・るのよ」

そういって、穏やかに私に笑いかけるおかあさん。

・・・気づかれた・・・?

ただ微笑んで動揺を抑えようとする私に、おかあさんは、

「ひょっとして、あなたもこの窯の関係の方なの?」

とたずねました。

「あの・・」

答えあぐねた私の後ろから、いつの間にか戻っていたフジシマくんが、素早すぎない早さで会話に割って入りました。

「いえ、彼女とは私が個人的に知り合いで、時々手伝いにきてもらうんです。お待たせしました、ミヤワキ様、こちら受け取りになります。いつもありがとうございます」

フジシマくんが差し出す小さな封筒を受け取りながら、おかあさんは、

「あぁ、そうなの。でも、楓さんも、ひょっとしてこの作家の方、ご存知?」

声を潜めるようにして、たずねるおかあさん。私よりも先に、

「いえ、彼女は何も知りません。ミヤワキ様、その点は、もうなにとぞご容赦ください」

丁重に言うフジシマくんでしたが、おかあさんは、ふふっと笑って、

「あら、残念。ほんとに、ガードが固いったらないんだから。どんな方なのかしら」

・・・ばれたわけじゃなかったんだ。

安堵しかけた私。おかあさんは続けます。

「・・・いえ、どんな方だとしても、こんなに素晴らしい作品を作られる方だもの、きっと素晴らしい方ね。・・・だけど」

おかあさんはそこで私を見据えて言いました。

「だけど、作品につけているお値段を拝見しても、ちょっと、常識をわきまえていらっしゃらないみたい。要は世間というものを分かってはいらっしゃらないんじゃないかしら」

私だと分かって言っているわけではない、そう思うには、あまりにも視線がまっすぐに私に向かっていて。

「何決め付けてんだよ?」

たまりかねたように、口を挟む悠斗。おかあさんは、ただ、微笑んで、

「・・・何もあなたが怒ることないでしょう?」

とだけ、言ってから、

「それはそれで素晴らしいことだと思うわ。その分、こんなステキな、無垢な作品を作れるのだから。だけどね、陶芸家として素晴らしいからといって、フツーの人間として素晴らしい人生を歩めるとは限らない。いえ、むしろそんな生き方して欲しくない。これほどの才能があるのだから」

おかあさんはそこで視線を私から作品に移し、

「もっともっと素晴らしい作品を作れるはずだわ。だから、この作家の方には、結婚なんてせずに、陶芸一筋で、生きていってもらいたいものだわ」

「・・・っ」

今にも何か言い出しそうな悠斗を、フジシマくんが、

「悠斗くん」

と静かに止めました。悠斗が激昂することで、私の正体がばれないように。

・・・でも、きっと、手遅れだわ。きっと、おかあさんは、とっくに・・・

不穏な空気を破るように、

「おかあさま、そろそろ・・・」

しおりさんがおずおずと声をかける。おかあさんは、

「そうね、そろそろ私たちは失礼するわ。次の予定があるの」

そう言って、フジシマくんに挨拶をし、私に、

「お会いできて光栄でしたわ、楓さん。また近々お目にかかりましょう」

またさっきの様に穏やかに微笑んで。

さっきと同じように優しさを湛えてさえいる瞳で私を覗き込んで。

そして。

その瞳に覗き込まれることで、私は、今更になって、ずっと一時停止だった思考が動き出し、霧が晴れわたるように、今置かれている自分の立場を理解することができました。

『おかあさま』と呼ぶしおりという女性。その人から向けられた敵意に満ちた目。今も私の隣を通り過ぎながら、チラリと向けられる冷たい視線。

悠斗の私に言えない悩み。こんな場所で唐突に持ち出された『結婚』という言葉。

私をその作家だと認めた上で、お母さんが口にした言葉の数々。

・・・悠斗、そっか、そうだったのね。

そうきっと。

・・・私は、悠斗と結婚を望んだりしてはいけない人間で。

だけど、悠斗は、本当に私を愛してくれていて。私との結婚を望んでくれていて。

だけど、だけど、それでも、お母さんが、最後までどこまでも優しく微笑んでくれていたのは、きっと、全く相手にもされていないから。

・・・悠斗の想いも。私という存在も。

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最終更新日  2011.04.21 01:32:48
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