かずやんの旅日誌

かずやんの旅日誌

2009年11月29日
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カテゴリ: アート関連
私が写真を撮る際に、大事にしているものがあります。

それは「景色を切り取る」のではなく、

「ファインダーの景色に物語を語らせる」

です。


景色で物語を語るとはどういう事なのか。


私自身も、未だに完璧な答えは見出せていません。


今回は、未完成ながら「試作」として発表させていただきます。



短編小説 一期一会の景色達


「もう一つの世界」

もう一つの世界



ある晴れた日の午後。
キリュウは、喪服姿で田舎の民家に立っていた。

「シンイチが死んだ」

学生時代からの旧友だったシンイチとは、よく青空を見上げていた。
お互い雲が悠々と流れる青空が好きだったのだ。
そんな空を見上げながら、将来のことを語り、他愛もない話をしたり、たまにはケンカもした。

社会人になってからはお互い目が回るほど忙しく、
会う事は殆ど無くなっていた。
しかし、時間があればお互いどこかで繋がっている青空を見上げていた。

あまり、物事に捉われないキリュウが、唯一「親友」と呼べる存在だったのかもしれない。
そのシンイチが死んだ。

3日前の事だった。

河原の土手で息絶えているシンイチが発見された。
死因は心臓発作。原因は過労だった。

毎日の激務に追われていたシンイチが久々に取れた休暇に、大好きな青空を眺めていたらしい。
その証拠に、シンイチは空を見上げながら胸に手を組み息絶えていたと。

法要が終わり、キリュウは民家の庭に出た。
タバコに火をつけ、煙を吐きながら空を見上げる。
今日もシンイチの好きな青空である。
雲が一つ二つ。

数えるうちに、自然と涙が溢れる。
涙を拭うように視線を落とすと、そこには水瓶に映し出された「もう一つの世界」があった。

この世界はシンイチのいる世界に繋がってるんだろうか。
シンイチは向こうでもこの青空を見上げているんだろうなぁ。

この世界の空も、もう一つの世界の空も綺麗に晴れ渡っている。

本日快晴日本晴れ。

晴れ渡った空から吹いた風が、シンイチの笑い声に聞こえた。





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最終更新日  2009年11月29日 21時51分55秒
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