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軍事力で平和は守れるのか
南塚 信吾、油井 大三郎、木 幡洋一、山田 朗 著
長期視的点で戦争と平和の関係を見直す
中京大学教授 佐道 明広評
ロシア、ウクライナ戦争が長期化し、今度は中東情勢が危険度を増大させている。日本周辺でも北朝鮮の核開発やミサイル発射が続き、「台湾有事は日本の有事」という言葉が頻繁に使われている。人々は、今後国際情勢が悪化していくことを懸念しているのではないだろうか。日本も含めて多くの国が軍備増強を行い、次の紛争に備えていく姿勢がみられている。本書の言葉を借りれば、「平和のためには軍事力が必要なのだという考えが広まっている」状況にある。
本書は、歴史学の立場から「軍事力では平和は守れない」という教訓を再検証しようという試みである。現在、紛争現場の個々の先頭経過や、真偽不明を含めた短期的情報が多数を占める中、本書のように長期的視点で戦争と平和の関係を見直す試みは挑戦的である色調である。
以下、本書の構成を説明すると、「現在のウクライナ戦争から学ぶべきものを検討する」第一部、「フランス革命以後の近現代における戦争と平和の歴史を振り返る」第二部、「日清戦争以来の日本の戦争と軍拡・軍事同盟の歴史を検討し」「日本を取り巻く東アジアにおける平和の可能性を考える」第三部からなっている。各部は複数の筆者が執筆する章から構成されており、複数の章を執筆している著者もいて、個々の問題を扱っていながら全体が関連性を持った構成となっている。
多くの歴史的事象にも触れているため、個々の歴史解釈については異論もあるだろうが、各章で行われている問題提起は貴重なものが多い。例えば「ウクライナ戦争はどのようにして起こったのか」という第 1 章は、欧米中心の情報に接している多くの国民にとっては、情報を相対化するために有効だろう。 NATO の東方拡大ということがロシアにどのような影響を及ぼしたのかを知らずに、今回のウクライナ戦争を理解することはできない。また、筆者の一人である木畑洋一氏が指摘する「植民地戦争」の重要性は、今後も繰り返し検討されるべきだと考えられる。
さて、歴史学の立場から戦争と平和を論じた本書には、長期的視点から得られることも多かったが、いくつかの疑問も生じた。たとえば、ウクライナ戦争にしても、その原因を振り返る場合、いつまでさかのぼるべきかという点は議論があるだろう。ロシア帝国、ソ連時代の関係から考えると、植民地戦争の色合いが強くなる。 NATO の東方拡大にしても、ロシアと関係が深かった東欧諸国がウクライナ支援に熱心な理由も、そこにあるだろう。たしかに、木畑氏が指摘するように、欧米の軍事支援が戦争を長引かせている理由の一つであろうが、それでも植民地化を拒否するウクライナを支援しなくていいということにはならないだろう。
歴史からすぐに教訓を得ることは難しい。しかし台湾有事をめぐる日本の言論の問題性への指摘も有益であるし、今後の日本の針路についても考えるヒントが歴史の中にあることを教えてくれる本書を多くの人に薦めたい。
◇
みなみづか・しんご 千葉大学・法政大学名誉教授。世界史・ハンガリー史。
ゆい・だいざぶろう 一橋大学・東京大学名誉教授。米国現代史・現代世界史。
やまだ・あきら 明治大学教授。日本近代史。
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