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ひとごとではない薬の副作用
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中国製の「健康食品」でたくさんの被害者が出た。健康食品といっても医薬品成分などいくつかの化学物質を含んでおり、
実態は「薬の副作用」だ。薬を飲んでいるだけで死ぬとは一般には想像もつかないだろうが、医療の現場では決して珍しいことではない。
急性肝不全は、広く肝臓組織が壊れ、意識障害をまねく危険な状態。新潟肝疾患研究会の調査によると、2000年までの10年間に新潟県内16病院で84人の急性肝不全患者が出ていた。
大半はウイルス性だが、ウイルスが検出できずに状況や検査から主治医が「薬剤性」と判断したのが3割、25人もあった。うち19人が死亡し、2人が肝移植などでかろうじて助かった。
「死亡率が高いのに驚いた」と、調査の中心になった新潟市民病院消化器科副部長の畑耕治郎さんはいう。
原因と疑われた薬は、抗がん剤のほか、消炎鎮痛剤、抗生物質、循環器病薬、中枢神経薬、生薬など。
普通に使われている薬でも起きている。2カ月以上飲んで発病することが多かった。
「医師や患者が考える以上に薬の副作用は多い」と、立川綜合(そうごう)病院(新潟県長岡市)院長補佐の岡崎悦夫さん(病理学)は警告する。
米国での研究だが、各種調査から推計して、薬の副作用や処方ミスで亡くなった入院患者は年に約10万6千人に達するとの論文が98年の米医師会雑誌(JAMA)に出たほどだ。多くは病気で亡くなったと思われており、助かった重大被害者は20倍もいる。
多くの人に安全な薬でも、体質(遺伝子)の違いで、自分に合うとは限らない。
体調の変化があれば、飲んでいる薬を考え直さなければならない。えたいの知れないものを簡単に飲むのは論外だ。
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高齢者に出される不要な薬
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薬や検査に関係なく医療保険から一定の入院料が支払われる定額制度が90年に老人病院に導入され、どこの病院も薬を減らした。「そうしたら患者が元気になった」と、学会などで話題になったものだ。
医療現場では今でも高齢者に不要な薬がたくさん出されている。「筆頭が睡眠薬・精神安定剤」と、北摂総合病院理事の中野次郎さんは指摘する。
高齢者は薬の分解が遅い。安定剤ジアゼパムが血中で半分になるのに青年の4倍近く、約80時間もかかる。
不眠の訴えに医師は睡眠薬や安定剤を出す。薬が長く体内に残ってふらつく。倒れれば骨折して寝たきりになる危険性がある。
筋肉の緊張をほぐす作用を持つ薬だとさらに転びやすい。血圧を下げすぎてもふらつき、同様の危険性がある。
高齢者には孤独でこもりがちになり「うつ」傾向の人も多い。睡眠剤はうつを悪化させ、老人性痴呆(ちほう)を早める。
昼間は眠らず、適当に動いて体を疲れさせ、寝る前の興奮を避ける――など自然に眠る工夫がまず大切だ。
抗不整脈剤は逆に重い不整脈を引き起こし、心停止を招くことがある。高齢者に脈の乱れ(期外収縮)は珍しくないが、
大半は症状のない良性不整脈だ。約10年前から米国では無症状の不整脈に薬を出なくなったが、日本では簡単に薬を出す医師が少なくない。
「医療には限界がある」と全日本病院協会副会長の天本宏さん。79年の米厚生省報告によると、高齢者の寿命を決定する因子の半分(50%)は運動や食事、禁煙などの「生活習慣」だ。人間関係や住宅などの「環境」、生まれつきの「遺伝子」が各20%。そして、薬を含む「医療」が残りの10%に過ぎない。