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⑭睡眠時無呼吸症候群(SAS)
日時 :3月6日 読売新聞
記者名: 科学部 片山 圭子
ニュースタイトル:
睡眠時無呼吸症候群
大惨事 起こす前に・・・
ニュース内容:
JR山陽新幹線「ひかり126号」で居眠り運転した運転士(33)は、昼間の活動時に強い眠気を催す重症の「睡眠時無呼吸症候群(SAS=Sleep Apnea Syndrome)だった。
こうした睡眠障害が重大事故の引き金になる危険性は、専門家の間では以前から指摘されていた。
自動制御装置のない電車や高速道で同様の事態が起きたら・・・。
大惨事を未然に防ぐための対策が急がれる。
この新幹線は”運転士不在”のまま、最高速度270キロで8分間、約26キロ走り続けた。
運転士は体重百キロを超え、高血圧気味。
前夜に飲酒していた。
SASは肥満の中年男性に多い。
運転士は、数年前から熟睡できず、昼間激しい眠気に襲われるという自覚症状があり、典型的な患者だったといえる。
肥満の人は就寝中、のどの奥の気道がふさがりやすく、いびきがひどい。
長い時間、呼吸が止まって家族を驚かせる。
「10秒以上続く呼吸停止が、一時間に5回以上」をSASとするのが国際的な診断基準で、20回を超えると要治療となる。
国内の患者は二百万人との推計もある。
だがまだ日本では、良質な眠りが得られない睡眠障害が病気であるという意識が低い。
この患者が公共交通機関の運転者となり、治療を受けてないことは大きな潜在的リスクだが、社会全体の問題と自覚されることは、これまでほとんどなかった。
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記者の「症状」体験談
(科学部記者 佐藤 良明)
SASはきちんと診断、治療を受ければ怖い病気ではない。
記者も「就寝中、呼吸が何度も止まるよ」との家族の指摘を受け、虎ノ門病院の無呼吸外来を受診。
昨年7月にSASと診断されたが、CPAP(シーパップ)装置で治療を受けてからは心地よい睡眠を取り戻している。
治療前、一日で最も疲労感が強いのは起床時だった。
爽快なはずの朝がつらい。
JR西日本の居眠り運転士は「前夜に十時間は眠った」と述べたが、「SASは長く寝るほど疲れる」というのが私の実感だ。
診療は日中の眠気に関する問診=表参照=から始まる。
その夜は自宅でセンサーを付け、寝ている間の呼吸状態をチェック。
軽度なSASと診断された。
CPAP装置は、診察を受ける前提でレンタルできる。
保険がきくので支払いは一回三千円程度だ。
初めは鼻マスクに違和感があり、ホースから送り込まれる空気も気になって目が覚めた。
それでも一ヶ月試すと、慣れてぐっすり眠れるようになり、今では手放せないくらい快適だ。
だが根本的解決法は体重を落とし、のどの奥の肥満を解消することだ。
SAS患者は高血圧、動脈硬化にもなりやすい。
健康の自己管理の大事さを痛感する。
★ではチェックしてみましょう★
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---SASなど睡眠の問題が絡んで起きたとされる主な事故---
◆1979年 米スリーマイル島原発事故
◆1986年 米スペースシャトル「チャレンジャー」爆発事故
◆1986年 ソ連チェルノブイリ原発事故
◆1989年 アラスカ沖タンカー座礁
◆1995年 「スター・プリンセス号」座礁
専門家が詳しく調べると、睡眠障害が絡んでいると見られる重大事故は驚くほど多い。
1995年にアラスカ沖で起きた米客船「スター・プリンセス号」の座礁は、SAS患者の航海士の判断ミスが原因だった。
米スペースシャトル「チャレンジャー」爆発事故でも、不眠不休の職員が注意力散漫となり、整備不良を発見できなかったとされる。
「国内でも重大なトラブルは起きている」と指摘するのは、虎ノ門病院呼吸器科の成井浩司医師だ。
重症のSAS患者だった私鉄の運転士が、停止すべき駅を通過するミスを二度繰り返し、社内処分を受けた。
トラック運転手が月に5回も居眠り事故を起こして解雇されたケースもあった。
欧米の調査では、SAS患者が交通事故を起こす危険性は、健康な人の約7倍に上るとされる。
順天堂大の井上雄一講師の調査でも、SAS患者の交通事故頻度は一般の2.5倍との結果が出ている。
☆「治せる病気」☆
深刻な病気のようだが、実は治療は難しくない。
鼻のマスクに圧力をかけた空気を持続的に送り込むCPAP(シーパップ)療法は、有効性が国際的に認められている。
成井医師は、年間約二千人の患者を診察するが「治療後の患者で、居眠り事故を起こした例はない」という。
「大事なのは患者の”堀り起こし”。それには国や雇用企業の意識向上が不可欠だ」という。
米国では約10年前、睡眠障害による経済損失が年間70兆円とはじき出されたことをきっかけに、SASなどの睡眠障害による人身事故や医療ミスを減らすための具体的な取り組みが、国を挙げて始まった。
各地域に啓もう、診断・治療にあたる専門の睡眠センターが設けられ、今では約四千の専門機関が整備されている。
これに対し、日本ではわずか三十か所。
検査に手間がかかる割りには、診療報酬が低いこともあって、立ち遅れている。
厚生労働省では今年度、睡眠障害と事故の関連をテーマにした研究班を発足させたばかりで、対応は後手に回っている。
今回の事態を重く見たJR西日本などは、SASの問診など緊急対策を打ち出した。
意識改革としては一歩前進だが、対策を企業任せにしているのでは、なかなか改善しないだろう。
一般向けにSASの簡易診断を広めている筑波大学の谷川武・助教授も「精密検査でなくても、重症患者は発見できる。高速化する公共交通機関の運転士などには、職場での健診を義務付けるといった対策を国が促す必要があるだろう」
と訴える。
国土交通省や厚労省も、睡眠障害の検討会や勉強会を開くことにするなど、重い腰を上げ始めた。
いずれにせよ、何か重大な事故が起きてからでは遅い。
鉄道事故に詳しい井口雅一・東大名誉教授(交通システム工学)は「当事者の責任を追及するだけで終わらせず、今こそ根本的な対策を練ることが社会的利益となる」と指摘している。
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