出会い-完結編バレンタインデー


「おいしい食事のお礼にバレンタインデーにチョコ1年分はいかがですか?」と聞いてみると、「カラオケで歌えるようなテープがいいなあ。」

うわ、困った。仕事に夢中で何が流行っているのか全然わからない。
雑誌もあんまり読まない上にテレビも見てないし...。聞くと駐在員時代にはお客様とカラオケに行くことが多く、一時は随分凝っていたのだと言う。

困った時には友達。理由も言わずに「流行ってる歌ってどうしたらわかるの」と聞いてみたら、土曜日深夜の番組を教えてくれた。
うーん、テレビか...リビングのは夜中に見てたら両親や妹にもうるさいよなあ...ビデオ撮っても父が起きてる間はずーっとテレビ見てるし...

そうだ。自分用のを買えばいいんだ、ボーナス出たばっかりだし。お正月の初売りを利用してビデオ一体型のテレビとミニコンポを買った。

バレンタインまであと一ヶ月と少し。土曜日にはいつも番組を見ながら録画して、日曜日に何度も巻き戻してチェックした。
ふんふん、ドラマの主題歌なのね、とか、あのコマーシャルの曲なのね、とか。曲を絞り込み、レンタル店で借りて聞いてみと、サビだけ聞くのとどうも印象が違ったりする。テープに録音する順番もけっこう難しい。
単純に曲の長さを足し算していって、うまく納めるとまとまりにかけたものになったりする...うーん、難しい。
あっという間に一ヶ月が過ぎた。こんなに長い間楽しみながら人に贈るものを準備したことはあとにも先にもなかったように思う。

バレンタインまで一週間の日曜日。数時間を費やしてテープは完成した。
ミニサイズの手帳に歌詞を書き写す。でも、これだけ渡すのはちょっと寂しいかなあ。チョコレートを好まない「彼」なので、前日早めに帰宅してチーズケーキを小さい型でいくつも焼いた。きれいな色に焼けたものだけ選んで、セロファンとリボンで一個ずつ包む。これを全部籐のバスケットに詰め合わせたら、なんだかすごく大きな仕事をした気分になった。
あ、カードはどうしよう...しばらく考えてこう書いた。
「もし、4月5日のお誕生日に更新版をご希望の場合はお早めにお申し込みください。」

当日。会社で顔をあわせた時に「お約束のテープ持って来ましたよ♪」と声をかけた。「じゃ、帰りに食事しに行こう」と「彼」は答えた。
そして仕事を終えた私達は、クリスマスイブを過ごした店に足を運んだ。

プレゼントを渡すと、中を見た彼はしばらく何も言わなかった。
「こんなに嬉しいプレゼントは生まれて初めてだ。」と言うのが最初に出た言葉だった。

この日まで、一緒に過ごすことなんて数えるほどしかなかった。
日光にゴルフに行ったのを除けば、あとは全部偶然のなせる業。
でも...数少ない一緒の時間は例外なく楽しかったのだ。

「結婚するつもりはまだまだない。でも、将来結婚するということを前提にしてつきあいたい。」
「彼」のそんな言葉に私はただうなづいた...

【おしまい】
こんなノロケ話におつきあい頂いてありがとう。
これを書いた理由は、最近忙しいことばかりでオットの気持ちを思いやる余裕がなかったり、子供に怒鳴ってばかりいたり...
この間はついに生涯忘れられないようなすごい喧嘩をしてしまったり、だったので、彼をすごくすごく大事に思ったあの頃の私の気持ちをもう一回思い出そうとしたからです。
初心って忘れがちだけど、でも時々取り出して埃を払ってみるとまだまだ輝くかもしれないな...と思いました。

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