君が居た場所~エピローグ~

エピローグ



「アスラン、まだ?」
「悪い、もうちょっと。」

オーブ行政府の執務室。
今日は仕事帰りにキラと食事をして帰る約束だ。
なのに、俺の仕事がなかなか終わらなくて・・・。
一足先、定時にシステム管理部の仕事を終えたキラが、俺を執務室まで迎えに来てくれたのだ。

「手伝おうか?」
「え?いいのか?助か・・。」
「あまり甘やかさないほうがいいぞ?キラ。」

ありがたいキラの申し出を受けようとすると、ドアのほうからからかうような声が聞こえた。
「カガリ!」
「ダメだぞ?キラ。あんまり甘やかすと、癖になるぞ?こいつは。」
「誰が甘え癖がついてるって?」
軽くカガリをにらむと、彼女はそれすらもおかしそうに、くすくすと笑った。
「甘やかすつもりはないんだけど、この後レストランを予約してるんだよね。」
「そうなのか?じゃあ、もっと仕事を増やしてやろうか?アスラン。」
「カガリ~・・。」

俺がキーボードから手を離し頭を抱え込むと、カガリはとうとうゲラゲラと笑い出した。
「あっはははは。もうお前ら反応素直すぎ。嘘だよ嘘嘘。私だってそこまで無粋なことはしないさ。それにアスラン。」
「何だ?」
「お前、もう帰っていいぞ。その書類来週の分だから。」
「は?」

今カガリはなんて言った?
来週?
来週の仕事を俺は躍起になってこなしていたのか・・。
「はぁ~~~。」
「悪い悪い。お前に書類渡した後で来週の分まで混ざっているのに気がついてな。けどまぁ、お前なら仕事速いし大丈夫かな~と。」

カガリらしいといえばカガリらしい。
けど、そうと判ればもうここに居る必要はないんだ。

「そういうことならもう俺たちは帰るぞ、カガリ。いいよな?」
「あぁ、悪かったな?キラも、待たせちゃって。」
「ううん、いいよ。予約した時間はまだだし。」


俺はすばやく帰る用意をして、キラの手をとった。
「じゃ、カガリ。又来週。お疲れ様。」
「あぁ、又な。」
「カガリ、またね。」
「あぁ。またな?キラ。あ、今日は外冷え込んでるからな、風邪なんか引くなよ。」
「大丈夫だよ。じゃあね。」



予約していたレストランでの食事はとてもおいしく、楽しい時間を過ごした。
「また来ようね」と約束をして店を後にする。



「うあ~、ほんっと寒いね?アスラン。」
ガレージに車を止めて外に出ると、冷たい北風が容赦なく吹き付けてくる。
「あぁ、早く家に入ろう。」
「うん。」

鍵を開け家の中に入ると、空気がほのかに暖かい。
「なんか、暖かいね。」
「そうだな。こんなに外は冷えてるのにな。」
「あー、お風呂入りたい!僕用意してくるね。」
「あぁ。」


二人でゆっくりとお風呂で温まり、その温もりが冷めないうちにベッドへ入る。

「は~、暖かい。」
「そうだな。キラは猫みたいに暖かいな。」
「そぉ?暖かいのはアスランじゃない?」
キラは俺の胸に頬を摺り寄せた。

「あ・・・。そっか・・。」
「なに?どうした?キラ。」
「ふふっ。これ、シンの温もりかな?」
「え?シンの?」
「うん。シン凄く温かだったよね?」
「そうだったな。」


シンとの別れから数ヶ月が過ぎ、季節は冬へと変わっていた。

住所を聞けば会いたくなると、俺たちはユズキ夫妻の連絡先を一切訊かなかった。
きっともう、シンに会うことはないんだ。

最後に撮ったあの写真は、焼き増ししてリビングと寝室に。
キラに抱かれる笑顔のシンからは、今にも笑い声が聞こえてきそうだった。


ここに確かに君は居た。
毎日笑って、泣いて、遊んで、時には俺たちを困らせて。

けれど君の存在はいつも俺たちを温かくしてくれた。
心も身体も温めてくれた。

傍に笑顔の君が居る。
この温もりは、シン、君が残してくれたものなんだな?

「シンの温もりだな。」
「うん。」

ベッドの真ん中、俺たちは抱きしめあい、互いの体温とシンの温もりを感じながら眠る。
外の寒さなど、まるで関係ない。


シン、君に逢えて良かった。
きっと君は俺たちを憶えてはいないだろう。
それでも俺たちは、君の輝く未来を祈らずにはいられない。

シン、どうか幸せに。

俺たちは君に逢えて、本当に幸せだったから。

だから、どうか・・・・。




君は確かにここに居た。

リビングに、ダイニングに、そしてこのベッドの真ん中に。

シン、君が居た場所は今も温かいよ・・・。



Fin

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