殺意の理 3

「川島和夫容疑者25歳は本日正午過ぎ、戦後最悪にして前代未聞の凶行に及びました。新宿のアルタ前にて刺身包丁と未だ入手経路不明の小型の拳銃を使い9名の尊い命を奪いました。 お亡くなりになられた9名の方のご冥福を心からお祈り致します、残されたご遺族の悲しみは計り知れませんがお悔やみ申し上げます。
本日は予定を変更しまして新宿アルタ前無差別連続殺傷発砲事件をお送りしています

4人が刺殺、5名が銃殺されました。

あ、はい…かしこまりました。

たった今入った情報によりますと重篤状態であった男性が搬送先の病院で息をひきとったとの事です。
これによりこの事件での死者は10名になってしまいました。」



主婦に人気のある若いアナウンサー兼司会者がいつもより少しトーンを低くしてブラウン管を通し全国に事件の概要を伝えている。
それを川島刑事はじっと見詰めている。
今はどの番組も川島刑事の息子が起こした残忍な所業を伝えるべく
番組の内容を変更して流している。
マスコミが手に入れた情報は限られている、その限られた情報を何度もリピートしている。



テレビを見つめているとアナウンサー兼司会者が
「本日は緊急に宝林大学から犯罪心理学を研究されている菰田教授にお越しいただきました」と言った。


そこそこに有名な学者だ。
川島刑事も親交があった。
だがマスコミも菰田教授も犯人が「刑事の息子」だとはおくびにも出していない。



徹底的な緘口令がしかれている。
警視庁の刑事の身内、息子が起こした過去類を見ないこの事件に対して警視庁のお偉方自体が困惑している。



しかし一番困惑しているのは川島刑事に違いない。
否、もしかしたら息子…和夫自身が困惑しているかもしれない。



川島刑事は精巧に作られた小型拳銃から何か得体の知れない息子の悪意を感じていた。
包丁は近所のホームセンターで購入したようだ。
しかし、小型拳銃の入手経路がまだ分かっていない。
この小型拳銃は闇で売られているものだ、裏でなにか大きな組織が動いている。
しかし和夫は殺人のためだけに購入したのだろう。
精巧に作られていてもこの小型拳銃は正規の拳銃のではない。しかし銃弾を挿入すれば発砲することが出来る、偽ものといえども充分な殺傷能力を持つ。
最近闇でコレクターなどがコレクション的に購入し、銃刀法違反で捕まる事件が増えているといつか聞きいた。




しかし和夫は違う。
「人を殺す」という明確な意志を持ってこれを購入したのだ。
闇での売買と言う事は金額も相当なものだろう。
だが和夫は購入、した。
川島刑事は和夫の底知れぬ恐ろしさをその瞬間感じた。




そして川島刑事はだめもとでもう一度息子に面会させてもらえるように新宿署の署長に直訴しに行こうと決め、睨み付けていたテレビから視線を外し署長室の方向へ足を向けた。



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