舞い降りた天使は闇夜を照らす 1

●舞い降りた天使は闇夜を照らす●


健也は僕にこう言った。


「幸一、大学生活とは浪費の時だぞ。
それで未来の自分がいかに学生身分で女と遊び勉学に励まず単位を取ったかと自慢するためにあるんだ



一回しかない人生で何を学び得て、一生の仕事を決めるなんて入学する18や就職を決める22やそこらの若僧に出来るわけねぇんだ。



明日もしかしたら死ぬかもとか言ってる馬鹿がいるだろ? 俺たちはそんなんじゃねぇ、神様とやらのお陰か?元気で生きているだろう。



だから俺は好きなだけ女の尻を追いかけて親からの仕送りをスロットにつぎ込んでるんだ。



将来の心配する暇なんかあるんだったら親の金使って大学院に上がりゃあイイ。 それでも足りないなら留学でもすりゃあイイんだ。」



僕は中学時代から悩みに悩んで今の大学に入る決意をし勉学に励んだ。
僕と健也が在学している大学は都内でもトップレベルの偏差値を誇る大学だ。



僕は中学の頃からひたすらに勉強に励みこの法学部に入った。
健也は「自称」だが勉強を全くしないで同じく僕と同じ法学部に入ったという。



「法学部って言うとイメージとして弁護士やら裁判官なんてお堅いのが頭に浮かぶだろ? 安定してて一生の仕事って具合によ。
それがイイんだよ、女は安定を望むんだ。



でも俺のこの毎日雀荘行って煙草プカプカ吹かしてる不安定なキャラがギャップを生んで女はイチコロよ。



で、話ってのは他でもないんだが…ときに幸一くんよ、今日は暇か?」



健也は急に畏まって僕の眼を上目遣いに見つめてきた。
眼が三白眼になった、白目の部分は洗いたてのシャツよりも白くだらしなく垂れた前髪がその大きな眼に入ってしまいそうだった。



僕は話の長い健也に付き合わされてうんざりしていたので



「暇だよ、暇で健也に迷惑かけたか?」とついきつい口調で応えてしまった声にしてからしまった、不遜だったと心が痛んだ。



しかし健也はそんな僕の返事にも軽い口調で僕にこう言った。


「あぁ、すげー迷惑だよ。 国民の税金ばら撒くどっかのお偉いさんより、老人から金を奪い取る政治家なんかより断然迷惑!



だからよ、その迷惑かけた代償にチョット顔を貸して欲しい会議があるんだ」



上目遣いだった健也は今度は椅子の背に凭れて身体を伸ばしながら欠伸をした。
僕もつられて欠伸をしそうになったのだけれどもなんとか噛み殺した。



伸ばした身体を今度は縮めて靴ひも気にする素振りを見せ長い後ろ髪を弄くりながら健也は会議について話し始めた。



関係ないけれど健也は良く動くなぁと僕は思った。



「集合場所は渋谷ハチ公前、時間は遅目の8時、持ち物はコンドーム」



僕は一瞬頭の中が全て



「? ? ? ?」



になってしまった。
そんな僕の顔を見て笑いながら健也は続きを話し始めた。



「文学部に青山って一個下の女がいるんだ。 そいつらと今日3対3で飲むことになってる。準備は万端だから心配しなくてイイぞ。
俺と幸一とあと誠が来るから」
話している間も健也は何が面白いのかくすくす笑っている。



僕は健也に「ちょ、それって合コンか? 俺最初に健也に女関係は苦手だって言っただろう?勘弁してくれよ。」



そうなのだ、僕は大学2年生にして童貞なのだ。
健也が言うには「童貞は今じゃあ小学生でも捨ててるぜ」との事だ。
でも僕は本当に本当に女性が苦手なのだ。



今まで女性と付き合ったこともないし、手なんて繋いだこともないし、キスだなんて… キャー



「兎に角、俺行かないから! 健也たちだけで遊べばいいだろ。俺がいても盛り上がらないよ、逆に白けるに決まってる。」僕は本心を述べた。悲しきかな本当の事なのである。



世に言う



「男子校病」



なのである。



「大丈夫だって、誠も俺も幸一が童貞捨てられるようにサポートするから。 金の心配ならいらないぞ、誠の親父が経営する呑み屋だ。

ちなみに近くにホテルがたくさんある、『ラブ』のほうがな」
健也は笑い声をあげながら



「じゃあ、8時にハチ公前! よろしく!」
と椅子から降りて教室から出て行ってしまった。


合コン、ゴウコン、あぁ王様ゲームしか連想できない。
あ、あとポッキーゲームなんてのもあったかなぁ~


などとどうでもいいことを考えているこの瞬間もタイムリミットの8時は迫ってくる。



いや、タイムリミットの後の方がもっと数多くの困難が待ち受けている~と一人教室で六法全書で机を叩いた。



しかし不思議と「行かない」という選択肢は頭に浮かんで来なかった。


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