舞い降りた天使は闇夜を照らす7

ドアが開き青山さんがぴょこんと小さくジャンプしながら部屋に入ってきた。



そして「こちらの方がF女子の如月(きさらぎ)輝美ちゃんです」と右の掌を女性に向けて左手で自分のスカートの裾をつまんで軽く膝を折りおどけてその女性を紹介してくれた。




如月さんという女性は少しはにかんで「初めまして、如月輝美です」と簡単に自己紹介をした。



その一部始終を僕たちは昼間のワイドショーを呆けたようにブラウン管越しに見ている主婦のように見つめていた。



如月輝美という女性は多分身長は僕と変わらないくらいの170センチ前後、ハイヒールを履いているから本当はもう少し背は低いだろう。



肩より少し下まで伸びた髪の毛はキレイな栗色で所謂「名古屋巻き」、おそらく栗色の髪の毛は染めたものではなく自毛だろう。
僕の掌くらいしかない小さな顔にアーモンド形のつり目がちな大きな目と芯の強そうな眉。少し上を向いた鼻梁もぷっくらとした唇も全てが非の打ちどころがない。



僕は生れて初めてこんなに美しい人を見た。
週刊誌で見るアイドルなんかより如月さんは美しかった。



健也が一瞬逡巡した後「全員揃ったからもう一回乾杯しよう! 幸一ピンポン押せ! 一応言っておくけど卓球じゃないぞ」と物凄くつまらない事を言った。さらに「ピンポンダッシュでもねぇぞ!」と重ねて言った。



やばい!場が白ける!と僕が呼び鈴を押しながら如月さんを見ると先程まで緊張気味だった顔が幾分綻んでいた。それを確認して僕は安堵のため息を吐いた。



如月さんはモスコミュールを頼んで僕たちはビールをピッチャーで頼んだ。
最初の作戦では一次会では飲み過ぎないと言うことだったのだが如月さんが来たことで気分が高揚して喉が渇いてしまった。



バタコさんと青山さんも各々にカクテルを頼んでいたが僕たちは如月さんにばかり意識がいってしまいウェイターに注文をしている内容を聞き逃した。



「如月さんはF女子なんでしょ? 青山さんと同い年? 文系?」健也が煙草を忙しなく吸いながら如月さんに尋ね始めた。 良く見ると煙草を持つ手が少し震えている。



「はい、同い年です。 私は一応文系でフランス語を学んでいます。」少し舌足らずの喋り方で如月さんは話を始めた。



問いを受け取り青山さんは「如月さんはクウォーターでお爺さんがフランス人なんです


だからこの栗色の髪の毛も自毛だし。 帰国子女だから何ヵ国語もペラペラなんです。」



誠も健也も「そうなんだ、セレブだな~」と羨望の眼差しで如月さんを見つめた。



僕も何かを言わなくてはと思えば思うほど言葉が出ない。



やっと出た言葉が「ちょっとトイレに行ってきます」という何とも情けないものだった。



何で敬語?



と自分でも疑問に思ったけど気にしないことにした。



別に尿意を催したわけでもなかったのだが如月さんと同じ空気を吸っていると言うだけで緊張してしまって胸がいっぱいになってしまうのだった。



「お、じゃあ俺も行くぜ」と健也が一緒にトイレについてきた。
そして僕に信じられない事を話し始めた。



「青山にも確認してあるんだけど、如月さんは幸一に気があるんだってさ。」男子トイレでお互いに便器に向かう形で横から健也が言ってきた。
僕は驚いてまだ尿が出ている最中だと言うのに健也に向き直って話をしようとしてしまった。



もちろん健也に怒られた。



「お前の男子校病克服と童貞卒業の計画的な合コンは青山と誠と相談して決めたことなんだ。」健也は神妙に話し始めた。
だから今日は俺たちは全員幸一の味方だし如月さんもお前に夢中だし。
いけるところまで行ってこい!



健也は僕の両肩に手を置いて身体を揺さぶった。
酔いが少し回った。



てか健也、手を洗ってくれ。


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