第三章~エンスール灘の変



 ラーズ・キサラ・リクの一行は眼下に広がるエンスール灘と、その沖の春霞にけむるルーテシア海を望む丘の道を、シジムの村目がけて下って行きました。

 砂漠の都市イエルカと違い、ここシジムを吹く風はしっとりと優しく肌になじみます。周囲を包む空気も、先月来たばかりだというのに郷愁を誘う潮の香りです。

 村の入り口では村人が数人で天日塩を作っています。華奢(きゃしゃ)で小柄な男性と、水泳選手のように逞しい体格の女性達です。
 男性は上半身裸で、柔道の腰下のようなズボンを履いていて、女性達は七分袖の麻のワンピースを着て、腰のところを編み紐で縛っています。

 普通、塩は塩田で作るものですが、ここでは物干し台のような台を幾つも並べて、麻布に海水をかけ、天日で乾かして採取しています。多少手間暇はかかりますし、一度に採取できる量も少ないのですが泥臭くない良い塩が作れます。

ラーズ:マジャホおじさん、こんちはー!

マジャホ:おーっ!スクナじゃんかー!もう半年経ったっけなぁ?

ラーズ:いや、ちょっと急用でさ・・・。

リク:スクナぁ~?

ラーズ:うん、イエルカに行く前の名前・・・。「ちび」って意味だよ。赤ん
    坊のころは妹のマナより小さかったからね・・・。おじさん。この人
    が塩買いたいんだって。

 ラーズはキサラを紹介しました。
 キサラの故郷であるエルモは穀物や野菜は豊富なのですが、海のない淡水湖の畔(ほとり)の都市なので塩が乏しいのです。

キサラ:へぇ~・・・塩ってこうやって作るんですね~・・・。初めて見まし
    た・・・。それにしても、この布・・・随分長いんですね~。

マジャホ:ん?これか?これオイラのフンドシ・・・ヾ(^▽^☆彡ケケケ!

キサラ:えっ・・・((((〇o〇;)!!?

リク;ぶーーーーーーーっ!!ε´○);;;;;

ラーズ:おじさん!悪い冗談やめなよ!わざわざエルモから来てくれたお客さ
    んなんだよ!マグオーリの悪徳商人とは違うんだからさー。

マジャホ:えっ!?そんなに遠くから?いや、そいつぁ悪かったねー・・・。
     どうも白い連中は信用ならんのーが多いけぇなー。ついつい、いつ
     もの癖でよー。だけんどそうだなぁ~、あんたらスクナのお友達だ
     で、いい衆に決まってらぁな~。いや堪忍してくりょう。m(_ _)m

リク:じゃあフンドシってぇのは?

マジャホ:いやあ!ウソウソ。ありゃあよ、製塩のためにこさえた専用の布だ
     ぁね。手で編んでるから結構目が粗いけんどもよー。 

キサラ:ああ、びっくりした・・・(¨;)

ラーズ:じゃあ、キサラ姉さん、必要なだけ袋に詰めてもらって・・・。あ、
    そうそう、ねえおじさん、母さん達は?

マジャホ:イリアか?たぶん岩場の方ずらよ。

ラーズ:解った、ありがとう。ちょっと行って来る。

マジャホ:じゃあ、できたてのヤツを詰めとくで、お姉ちゃんもアンちゃんも
     せっかく海女のいる村へ来ただで、とれとれの魚でもよばれた
     らどうかね?

ラーズ:あっ!それいいかも!

リク:ホント!?いいの!?オレ塩物じゃない魚なんて初めて~(^◇^)

キサラ:私も!海魚は初めて!(^0^)

マジャホ:あ、そう?そりゃよかった。じゃあ行っといで。(^^)

3人;行って来ま~す!!

 3人は塩工房(?)を後にイリア達がいるという岩場の海岸にやって来ました。漁の時には必ず小舟が出て、待機しているはずなのですが、それが見あたりません。

ラーズ:え~っと・・・、この辺のはずなんだけどなあ・・・。

 すると海面から、何やら黒光りするものがいくつも顔を出し、やがて岩場をはい上がってきました。その風貌たるや・・・、

キサラ:ゴッ・・・ゴキブリ~~~~~~~!!!!!!(〇o〇;)

リク:ゴキブリ~?(‥?・・・それって何だ?

ラーズ:テカテカ黒光りする脂ぎった虫だよ。バンディの頭みたいなヤツさ。

リク:いつもすまないねぇ・・・(^^ゞ

 そう、乾燥したイエルカには存在しないのでリクが知らないのは無理もありません。しかし気候が穏やかで湿潤なエルモにも、ここシジムにもいるのです・・・。 そして、世の多くの女性がそうであるように、キサラもまた、こいつが大ッ嫌いでした。
 しかも体長が2m近いヤツが集団で、となれば・・・・。

キサラ:きゃーっ!!きゃーっ!!きゃーーーーーーー!!!;;;(> <);;;

 キサラは既にパニック状態で、「ちょっと、大丈夫で(すか)・・・」と近寄ったラーズに抱きついて来ました。

リク:あっ!いいなぁ~・・・。

ラーズ:(えへへ、役得役得。それにしても、いい匂いだなぁ・・・)

 と、ラーズがデレッとして小鼻が広がった次の瞬間・・・!!

ラーズ:キサ・・・姉・・・ちょっとッ・・・苦し・・・!(>.<)

 この細い腕のどこからそんな力が出るのか、信じられない程強烈な力で胸を締め上げられ、ラーズは窒息寸前です。

 13歳の頃から貿易船の積み荷である綿花の出荷を手伝って鍛えたキサラの腕力は半端じゃありませんでした。

 巨大ゴキブリ(?)達はおかまいなしに続々と上陸してきます。

キサラ:゛(ノ><)ノ ?????#&%~~~~~!!!!!!

 ↑キサラの悲鳴も既に言葉になっていません。とうとうラーズは落ちてしまいました。

リク:ラーズはだらしないなぁ、あんなの見て気絶なんて・・・よ~し、来い
   この野郎~!!

 リクはボディビルダーのように大胸筋、上腕筋をムキッとさせ、身構えました。するとその時・・・。

「あれ、スクナじゃない?」「えっ?スクナ?」「えっ?お兄ちゃん?」

 と、巨大ゴキブリ達が喋りました。

 あまりのことに、リクは後ずさり、キサラは飛び上がってしまいました。

  ゴキブリ達はすぐさま立ち上がり、脱皮するように外皮を脱ぎ捨てました。

すると・・・。

リク:おお~~~~~~~~~~ッ!!!!Σ(○0○;)

 ゴキブリから出てきたのは、胸も露わなフンドシ一丁の女性達です。
イリア(38歳)を筆頭とする13人の海女達は、小麦色に焼けた肌と長い手足、そしていずれもさっき塩を作っていた女性に負けない鍛えられた筋肉の持ち主達でした。

イリア:あら、やだ!お友達も一緒だったの?すぐ文明人のなりをして来るか
    ら・・・。(^^ゞ;;;

 しばらくして女性達はさっき塩を作っていた女性達と同じ格好をして戻って来ました。

マナ:お母さん、お兄ちゃん伸びちゃってるよ。

  マナはラーズと同じ17歳。8月生まれなのでラーズは兄として一緒に育ちました。

リク:ああ、それはさっきの皆さんを見て・・・。

ラーズ:うっ・・・ぶは~~~~っ!!はあ、はあ・・・・。あ~~~っ、死
    ぬかと思った~!凄い力・・・。

リク:何だよだらしないな~・・・、あんなのがそんなに怖いか?

ラーズ:何言ってんだよ!僕が伸びたのはねぇっ・・・!

 そこまで言いかけた時、心配そうにラーズの顔を覗き込んでいるキサラを見て、二の句が継げなくなってしまいました。

リク:何だよ?

ラーズ:うるせー!

 イリアは見慣れない顔のキサラをまじまじ見て言いました。

イリア:あの~、貴女様はどちらの方ですか?

ラーズ:ああ、その人はキサラ姉さん。7年前にシグル先生とエルモに行った
    時にウルガル(狼)に追っかけられていた所を助けてくれたんだ。昨
    日までイエルカで機織りの技術指導でね・・・、今日は塩の買い付け。

イリア:それはそれは、息子が危ないところを・・・、またシジムの塩をご贔
    屓に、どうもありがとうございます~。

キサラ:あっ!いえいえこちらこそ。若先生には日頃からお世話になって・・・、
    今、読み書きと計算を教わってます。

三つ指ついての挨拶合戦はしばらく続きました。

つづく


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