第九章~Voyage



 さんざんな戴帽式が終わりました。厳粛なはずの戴帽式が下手な寄席より笑えるなんて・・・。

ラーズ:ほっといてんか!ワテの人生、こんなんばっかしや!

 取り敢えず講堂を出て、天文台下層のテオの執務室の方向にラーズが歩いていると、学舎の玄関からひょっこりとリクが顔を出しました。

リク:誰と話してんだ?

ラーズ:リク!・・・あ、いや、・・・。

リク:2年もあとに入学してきたお前がもう卒業しちゃうなんて・・・、ガッ
   コもつまんなくなるなぁ。しかもユートム行きなんてさ・・・。そんで
   18歳未満でもうセージだ・・・。「准」がついてないんだもんな。
   いろんな意味でお前が遠い存在になって行くなぁ・・・。

ラーズ:リクだってあと2ヶ月ちょっとで2回生じゃん。卒業なんてすぐだ
    よ。准セージったってアカデミーの卒業生だからあと2年経ったら
    僕と同じセージだよ。

リク:ああ、そうだったな・・・。

ラーズ:そうそう、地方の私塾を卒業したら1等修道士と准セージが1年ずつ
    長いんだから。

リク:あの・・・俺さ・・・、マグオーリ分校行きを志願しようと思ってるん
   だ。俺まだムドラも具現化できないから・・・聖闘士を目指して見よう
   かと思うんだ。

ラーズ:聖闘士?あのティアマトのセージの中にいたって言う・・・?

リク:うん、そう!それ。
    世情も微妙だから実験的にマグオーリ分校で1等修道士から志願者を
   募るんだって。その中から総督府付きの聖戦士を育てるんだって。俺、
   あの事件以来頑張ってオーラで葦の茎を金棒並に丈夫にすることは出来
   る様になったんだ。今は30分くらいしか持続できないんだけど・・・。

ラーズ:凄い!

リク:うん、老師が仰ってたんだけど、大昔は修道士は天数石(*1)で術師
   (*2)向きとか聖戦士(*3)とか聖闘士(*4)に向いてるとかっ
   ていう適性を調べて「アヌンナキ」っていう捕食者がいつ襲ってきても
   戦える様に育成してたんだって。
    でも後代のバカな王様が「育成には金と時間がかかるから、アズール
   人の傭兵を雇った方が余程安上がりだし、そこそこ強い」って、全部育
   成にあんまり金がかからなくて、後々金を稼いでくれる様になる術師型
   一辺倒にしちゃったんだって。確かに防具や装備は金かかるし、戦争が
   ないなら時間と金をかけて育成しても活躍の場がないもんね。

***********************************

*1、天数石=天数とは運命に相通じる言葉で、天数石とは魔精石で作ったタ
   ロットの原型の様なモノ。* 宮廷医師のミフューレはこれを患者さん
のカウンセリングに活かしています。

*2、術師=動植物・昆虫型のムドラを具現化して式神の様に操ったり、自然
      界に存在する風・火・水・金・土・木の属性のマナス(精霊)を
      操って敵を攻撃したり、武器や祭器型のムドラで心霊治療を行う。
      シャーマンタイプ。

* 3、聖戦士=オーラで武具を強化して闘う。上級者になると収斂したオー
   ラを弾丸や矢の様に放って敵を攻撃できる。軽装で機動力に
        富む。弓・短剣・片手持ちの長剣や槍などを装備。技・ス
ピード重視。

*4、聖闘士=オーラで武具を強化して闘う。上級者になるとオーラで身を包
       んだ体当たり攻撃で並み居る敵を蹴散らしたり、障壁を破壊し
       たりする。筋力に富んでいるので重装備が可能、両手持ちの大
       剣・戦斧・槍斧などを装備、破壊力重視。

***********************************

 このバカ王とはイエルカ3世のことです。これには王宮内のサリエスが先導して謀叛でも起こされたらかなわんから、王宮内での武装を厳禁し、不穏分子になりそうな輩の牙を抜いた・・・という意図もあった様です。
 つまり、愛国心の強いサリエスや聖戦士・聖闘士達は「国を守る」という大義のためなら命も捨てる忠臣ですが、国を思うあまり時には王にも刃向かう諸刃の剣になりかねない存在です。
 その点、傭兵は金さえ払えば仕事と割り切ってくれるので謀叛の心配はないだろう・・・ということです。

 リクが続けます。

リク:老師がね、“ お前さんは聖戦士・聖闘士のどっちにも向いとる。大きな
   図体をしておるが、意外に器用ですばしこいようだからな。だが、せっ
   かく王都でも稀に見る大きな体をしとるんじゃ。聖闘士が一番じゃろう
   な・・・、まあイムラントの時代であればの話だがの・・・ふぉっふぉ
   っふぉっ“・・・だって。

ラーズ:じゃあ、いずれ王都にも聖戦士団が復活したら王府付きの聖闘士にな
    って陛下をお守りするかもしれないんだ!?・・・なんか凄いな~。

リク:いや、陛下は恐れ多いし・・・遠すぎてね・・・。

ラーズ:えっ?・・・だって・・・。

リク:うん。俺が守りたいのはテオ先生やシグル先生なのさ・・・。
   シグル先生のこと、鉄骨銅身なんて誰が言ったか知らないけど、この
   間の裁判とかロンガーのこととかでさ、ホントは温かい人なんだって
   解ったんだ。ただちょっと融通が利かなくて、頑固なだけなんだって
   ね・・・。
    俺、偉いサリエスにはなれそうもないけど強い闘士にならなれるか
   もしれないから・・・。だから・・・。

ラーズ:・・・。

リク:これからは歩んでいく道が違っちゃうけど・・・、だからお前は俺の分
   まで頑張ってさ、テオ先生やシグル先生みたいになってくれよ。

ラーズ:えっ!?・・・え・・・と。

リク:お前が観星官になったら先生方と一緒に守ってやっからさ!!

 そう言ってリクはパーン!と勢いよくラーズの背中を叩きました。

ラーズ:痛っ!!

リク:えへへ・・・、じゃあな。

 手を挙げて去って行ったリクの横顔はどこか寂しげでした・・・。

===================================

 リクと別れたラーズは御礼かたがたテオの執務室に出向きました。

テオ:ユートムの遺跡管理人というのは確かに閑職だけどね・・・、あのカデ
   ィール大兄の後任でもある訳だから・・・とにかく誠実に職務を全うし
   て、実績を積んで、そしてまた王都に帰っておいで・・・。

ラーズ:えっ?診療所勤務じゃないんですか?

テオ:それがね・・・、ミュカレ老師が急にお見えになってね・・・、“ユー
   トムの遺跡を調査したいから助手をよこせ“って仰るんだ。診療所は老
   師が診て下さるそうだから、多分寝起きはそこですることになると思う
   し、当然お手伝いも頼まれるだろうけど。

ラーズ:すると2足のワラジって訳ですね・・・。

テオ:そうだね。ちょっと大変かも知れないけど地方の暮らし向きを知る上で
   は良い経験になると思うよ。君の観星官への道はまだ閉ざされたわけじ
   ゃないんだ。君が帰って来るまでには妖怪退治も大掃除もしておくか
   ら・・・。そうすればシグル先生も余計な心配を・・・あわわわ・・・。

ラーズ:は?

テオ:あ、いや、ユ・・・ユートムならシジムも近いし、ねっ・・・、村のみ
   んなも喜ぶだろうから、シグル先生も余計な心配をしなくて済むかな~
   って・・・。(;^_^A アセアセ… あっ、そうそう!カダージがマグオー
   リ分校の2部(夜間)に移籍したんだ。昼間はシジムで塩造りを手伝っ
   てるんだって。日焼けして真っ赤だったよ。顔を見たら励まして・・・。   

 ラーズはテオの顔をじぃ~~~~っと見ています。

テオ:な・・・何だい?(O.O;)

ラーズ:先生・・・、今気づいたんですけど・・・。

テオ:はぃい!?((◎-◎;)ドキッ!!・・・まさか今回の人事のカラクリがバレ
   た・・・とか?)

ラーズ:僕も大概だってリクに言われるんですけど・・・、先生の方が僕より
    濃ゆいですよね・・・眉毛。(^▽^

テオ:う~ん、そうかな~?・・・ってほっとけ!!(▼▼メ)

ラーズ:わわわっ!ごめんなさ~い(^^ゞ

 一端は逃げる様に駆け出したあと、くるりと振り返って

ラーズ:え・・・と、先生!7年8ヶ月間、本当にありがとうございました!

 執務室を出ていったラーズを見送ったテオは、「よかった。それほど落胆はしていない様だ・・・。頑張れ!!」と呟きました。

===================================

 一方、王府ではシグル達使節団の旅支度も追い込みの段階に入っていました。

 ルーテシアのメリキニク王は成り上がりの覇王です。もと海賊というスネに傷持つ身で、近隣諸国の王からは「しょせんは海賊」と軽く見られていて、「1200の伝統ある王家であるイエルカの王女様のいずれかを、自分の息子であるイカル王子の妃に迎えたい」と所望していました。和親条約を結ぶ上で、事実上の人質要求かと思われます。

 第2王女のアヤはその気だての良さや物腰の柔らかさから引く手あまたですが、今はルーテシアに程近いアプラサスという国の第2王子、アトリ王子とのお見合いが控えています。

 第3王女のアスタリテは既にシグルの妻です。

 しかし、婚礼の相手が決まっていない第1王女のラニーニアは「死んでもイヤよ!第2王女のアヤが第2とはいえれっきとした王子様と縁談があるのに、何で第1王女の私が海賊の子なんかに嫁がなきゃいけないの!イヤといったらイヤ!」と地団駄踏んで駄々をこねます。

 王も、シグル達も天を仰いで嘆息します。

アヤ:お姉様。お辛いかも知れませんが、これには王都3万8千と周辺都市に
   暮らす20数万の民の未来がかかっています。王女として生まれたのも
   運命。お覚悟の程を・・・。

ラニーニア:第2王女の貴女が私に意見しようと言うの?王女と生まれたのも
      運命?そう思うのなら貴女が行けばいいでしょう?

アヤ:でも私にはアプラサスの・・・。

ラニーニア:黙りゃ!!アプラサスには私が参ります!

国王:ラニーニア、それではルーテシアにもアプラサスにも申し訳が立たぬぞ。

ラニーニア:あら?ルーテシアの国王陛下は“王女の内の誰か”をご所望なの
      でしょう?第2王女が行ったとてなにも礼を失する様なことなど
      ないではありませんか。アプラサスの国王陛下だって第2王女よ
      り第1王女を御子息の妃に娶った方が“名誉なこと”とお喜び
      になられるに違いありませんわ。オホホホホ!

シグル:(いや、あんたお呼びじゃないんだってば!(`ヘ´))

ラニーニア:とにかくイヤ!死んでもイヤ!どうしてもって言うなら死にます
      からね!・・・私が死んだ後にこの国に何があっても私の知った
      ことではありませんわ!!オホホホホホホホホ・・・・!!

 愚かなりラニーニア!この国の運命やいかに!?

つづく


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: