第十章~笑う海賊王3



 船倉の仕度部屋ではラーズが泥のように眠っていました。

 眠っていても掌と左右の肩胛骨の辺りが“ぼうっ”と光っていて、そこから光の粒子が手の甲と両肩に向かって流れ、革手袋の甲と肩に嵌め込んだ魔精石に吸い込まれていました。

シグル:(一度に2つのムドラを発現させながら肉体労働に従事するなんて・・・、
    全く無茶な話だ)

 シグルはラーズに駆け寄ると、すぐに手袋を外しにかかりました。すると、眠ったままのラーズがシグルの腕を掴み、手袋を外すのを拒みました。

 その時シグルに見えたビジョンで、ラーズは手の甲の部分に翼竜の絵柄入りの魔精石をあしらった革手袋をリクに渡す夢を見ていました

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ラーズ:これ・・・、きっと役に立つから使ってくれないかな?

リク:いいのか?これはお前と一緒に育ってきた力だぞ?それにシグル先生の
   お供がしたくて新技まで開発したんじゃないのか・・・?

ラーズ:リク・・・、僕には格闘技の才能はないみたいだからいいんだ。それ
    にリク、凶器を持った相手に一度も刀を抜かなかったじゃないか・・・。
    これからもその信念を貫くつもりなんだよね?

リク:ん?いや・・・なに・・・。(..;)"""">

ラーズ:だからこそさ、リクに受け取って欲しいんだ。

リク:お前・・・。

ラーズ:リクが先生の傍にいてくれて本当に良かった。あとは頼むよ。

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 ラーズは自分がムドラを失うことと引き替えに、リクに精神・物理両面の攻撃ができて、しかも相手を殺さずに倒せる「光の弓矢」の能力を贈るつもりの様です。

 そしてラーズ自身一度も使ったことがありませんが背中にある翼のムドラも魔精石に移植していました。これは誰に贈るつもりなのでしょうか・・・。

シグル:(ムドラの移植をする気なのか・・・。いつの間にかこんな方術まで
    覚えたか・・・。しかしリクのオーラと相性が良ければいいが・・・、
    はたしてそこまで考えているのだろうか?)生活班の人!誰かいない
    か!?

トール:へい、何でげしょ?

シグル:悪いがこの者が自然に目を覚ますまでそっとしておいてくれないか?

トール:は?

シグル:この者はある方術の契約をしながら働いていたが、はっきり言って無
    謀なことなんだ。この方術はかなり・・・、そうだな・・・、1日に
    2ユーゼンナ(約30km)走ったくらい体力を消耗してしまうんだ。

トール:ええっ!!(@_@;)

シグル:このまま同じ事を続ければ骨と皮だけになって、契約自体も御破算に
    なるかも知れないんだ。無理はさせたくないから暫く催眠状態にして
    おく。3~4日後に自然に目覚めるだろうから、それまで起こさない
    でやってくれ。

トール:そんなこととは露知らず「やっぱり都会育ちのモヤシっ子だな」なん
    て思っちまいやした・・・。

 トールはそう言うと、寝ているラーズに向かって「勘弁しておくんなせぇ、・・・この通り(-人-)」と言いました。

シグル:まあ、普通の状態ならどちらかというと元気が有り余ってる部類なん
    だけど、昔から瞬発力のわりに持久力がなくてね・・・。暴れた後は
    すぐ寝ちゃうんだ。
     それでも彼は動物好きだから仕事は楽しんでやってたはずさ。気に
    病まないでくれ。あ、それと彼が目覚めたらアルムレーベ(ルーテシ
    アの表玄関にあたる港町)港近くの「金獅子亭」という宿屋で待つよ
    う伝えてくれ。後で使いの者をやると・・・。

 シグルがそこまで言いかけたとき、

ラーズ:はい、待ちます。・・・待ってます。

 と、ラーズが答えました。シグルが「起きていたのか?」と訪ねると、彼は小さな寝息をたてていました。どうやら寝言だったようです。

 シグルはラーズの額に人差し指を当てると、オーラで催眠効果のある神聖文字「I(イーサ)」を書き、そのまま船倉を出て行きました。

 ラーズが怒られるのではないかと心配で船倉の扉の前で待っていたリクとミアキスは、あまりにあっけなく出てきたシグルを見て「あれ?」という顔をしています。

リク:ラーズにお咎めは?

シグル:彼はこの船の船員に拉致されたんだろう?だったらお咎めはナシだ。

リク:(ほっ・・・(;-。-;))

ミアキス:じゃあお供に加わるのね?

シグル:いや、それはない。彼もそのつもりはないだろう。

ミアキス:え~?だって弓使いがいると便利なんだよ。それにお供したくてつ
     いて来てたんでしょう?

シグル:そうだ。だが彼は自分の本分に気づいたのさ。それに別の弓使いがあ
    と3~4日で加わることになるだろうから・・・。いや、生まれると
    言った方が正確かな?・・・そうなったら頼むよリク。

リク:は・・・(-_^)?

ミアキス:ヽ(。_゜)ノ?

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 御用船がマグオーリから出港して5日と半日後、メリークイニーク号がデジュラ港を発ってから4日目の朝、船はアプラサスの表玄関であるカルディナ港の沖までやって来ました。港に着いたらアヤ・シグル一行とミアキス・ケディ一行が入れ替わりで船を乗り換え、お供のサリエスになりすましていた囚人達は放免となります。

アヤ:もうそろそろカルディナ港ですね。

 アヤは港の上の方に広がる丘陵地帯にそびえる、白胡椒の様な色の城塞都市を見ていました。そこに本来のお見合い相手であるアトリ王子がいます。・・・今、どんな思いで見つめているのでしょうか・・・。

ヤジル:むさ苦しい船に3昼夜も・・・さぞお疲れだったでしょう?

アヤ:いいえ、とても楽しい時間を過ごさせて戴きました。なんだかお名残惜
   しゅうございます。

ジャド:あ゛ァ゛っ!!勿体ねぇ御言葉で・・・。くっ!(ノ_<。)

海賊達:あ゛ァ゛っ!!・・・(ノ_<。)

ケット:なぁ・・・。お前等さ、姫さんが何か言う度に鼻の下伸ばして“あ゛
    ァ゛”(*´д`)とか言うのやめねェ?・・・見てると背中痒くなる
    んだよ。

 ケットは思いっ切りディフォルメした海賊達の顔マネ(*´д`)をしながら毒づきました。

ジャド:ンなこたぁ~言ってねえゾ!この盗掘野郎!簀巻きにして海に放り込
    むぞ!

海賊達:そうだそうだ!

ケット:ぬかせっ!返り討ちにしてやらぁ!!

ヤジル:子供のケンカじゃあるまいし、よさねぇかテメエら!

 そうこうしているウチにメリークイニーク号は港の桟橋に横付けしました。

シグル:もうその辺にしておけ。姫君がお発ちになられるぞ。

アヤ:本当にお世話になりました。皆様もどうか恙無きよう・・・。

海賊達:あ゛ァ゛っ!(T^T)

ケット:ほら!・・・今“あ゛ァ゛っ(*´д`)”ってやったよな?

海賊達:;;;(*‥*);;;

 アヤ・シグル・ケットの一行がタラップを降りて行くのと入れ違いで、ミアキスとケディが乗り込んで来ました。

海賊達:わぁ~い!またお姫様だ~~~!でぇ~へ~へ~!!(#^д^#)

ミアキス:汚ぇ顔を近づけんじゃないよ!!向こう行ってろ!!じゃないとそ
     の長い鼻の下蹴っ飛ばすよ!!


ヤジル:わわっ!!?

ジャド:偉ぇガラ悪いお姫様だな~・・・((((;°д°))))

海賊達:(・・)(。。)(・・)(。。)ウンウン・・・あっちのお姫様とは偉ぇ違いだ!

ミアキス:何だってぇ!!?アンタらぶっ飛ばされたいの~~~!?

ヤジル・ジャド・海賊達:うわ~~~~~!!

コラマテ~!((ノ`´)シ..・ヾ( ><)シ..・ヾ(。><)シ ウワ~~~!!

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 御用船は物資の補給と乗組員の休息のため、一昼夜カルディナ港に停泊した後、ルーテシア海を西へ2日進み、マグオーリ港を出航してちょうど8日目の朝にルーテシアの表玄関、アルムレーべ港に入港しました。

 すっかり痩せこけて、青白いくせに妙に爽やかな顔のラーズがリクの所にやって来ました。

ラーズ:リク・・・、えっとこれさ・・・、あの~・・・、受け取って貰えな
    いかな?

リク:何これ?

 そう言ってリクが手袋を受け取り、力強く自分の手にはめると指先が破れてしまいました。

リク:あ・・・!Σ(゜口 °;)

ラーズ:あ・・・(--;)

 (しばし沈黙・・・)

リク:ちょっと小さかったみたいだね・・・?(^^ゞ

ラーズ:リク、前より大きくなってない?・・・ちょっと貸して・・・。

 ラーズはもう一度リクから手袋を受け取ると、思い切って指の付け根部分までばっさり切ってしまいました。

ラーズ:これでどう?

リク:うん!いい感じ。・・・うん!この絵柄もいいな。これは翼竜?カッコ
   いいじゃん!

ラーズ:そう?きっと役に立つと思うよ。

リク:何の?

ラーズ:えへへ、心優しい聖闘士様へのちょっとした贈り物。

リク:ふ~ん・・・、何だかわかんないけど、カッコいいから気に入ったよ。
   ありがとな。

ラーズ:どういたしまして。

 リクは夢で見たように「いいのか?」なんてことは言わず、すんなり受け取ってくれました。

リク:あ、そういえばお前・・・酷くやつれてんじゃん。大丈夫か?

ラーズ:えっ?

リク:そんなに辛かったのか・・・?

ラーズ:えっ?(ひょっとして方術の契約の影響って気づいてたのかな・・・?)

リク:・・・船酔い。

ラーズ:(。^。)ズルッ!

 この手袋に秘められた力に彼が気づいてくれる日は来るでしょうか?(¨;)

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 お供ではないラーズを港近くの「金獅子亭」に残し、アヤ・シグル一行はメリークイニーク王ことドゴー王の居城に向かいました。

 別れ際にヤジルが「何かあったらこの信号弾を打ち上げて下せえ!どこにいても全速力で駆けつけまさあ!」と、シグルにちょっと大きめの万年筆くらいの信号弾を渡して来ました。船上では海賊達が「御達者で!」「またお逢いしましょう!」などと口々に叫び、ちぎれそうなくらい手を振っていました。

 ミアキスとケディも変装を解いてもとのキュイルボイルの鎧に着替え、お供に加わりました。

 ミアキスは肩章のように肩に貼り付けられた魔精石をちらっと見て、そっと自分の手を添えました。港での別れ際にラーズが貼ってくれた物です。

 魔精石には水色の翼の絵柄が浮き出ていました。それはかつてラーズの背中にあったムドラを吸収したものです。

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ラーズ:ミアキス、ちょっと待って・・・。

ミアキス:何?

ラーズ:あの・・・これ。

 ラーズはそう言ってミアキスの肩に魔精石をあてがうと、何やら呪文のような言葉をブツブツと唱えました。

ミアキス:せっかくだけど・・・この鎧はね、皮鎧だけどロウで煮固めてあっ
     て鋼鉄並に固いんだ。だからちょっとやそっとの・・・。

ラーズ:やった!ひっついた!

ミアキス:えっ!?・・・何なのこれ?

ラーズ:えへへ・・・、お守り。

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 1200年前にスクナヒコは胸のダルマチャクラと背中にあった翼の刺青を発光させて雷を発生させましたが、はたしてこの翼のムドラにはどんな力が秘められているのでしょうか?

 トレジャーハンターとして、戦闘と冒険の中に身を置いてきたミアキスにとって、こんな形で人の温もりに触れるのは初めてのことで、正直戸惑っていました。

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 アヤ・シグルの一行はメリークイニーク王の居城に到着しました。

一行を出迎えたのは従侍長のシュルッパグでした。

従侍長:遠路ようこそお越し下さいました。陛下がお待ちかねでございます。
・ ・・申し遅れました。私、従侍長のシュルッパグと申します。

アヤ:お役目大義です。

ケット:・・・シュルッパグ?・・・(゜;)

 ケットは抑揚のない“ツルッパゲ”と同じ発音で従侍長の名前を復唱しました。

シグル:こら!ケット!(;・д・)

 シュルッパグは頭髪も、ヒゲも、眉毛もない特異な風貌をしていました。

従侍長:あはは、驚かれましたか?仰りたいことは解ってます・・・見ての通
    りツルッパゲですからね・・・。もう慣れっこですからお気に召され
    ずに・・・。

ケット:気にしてないってさ。

シグル:だからって失礼だろ?

従侍長:いいんです・・・。気にしてませんから。

シグル:申し訳ありません。

 「気にしてない」といいながら、従侍長は“反省”のような格好で門柱にもたれ涙を拭っていました。

従侍長:・・・(ノ_<。)

シグル:(気にしてんじゃん・・・(O.O;))

ケット:(気にしてんじゃん・・・(^^ゞ)

つづく


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