こたつネコ反古草紙☆

2007.08.25
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カテゴリ: 不思議ばなし


殺してる現場を夢に見る訳じゃなくて、「自分は人を殺したことがある」という記憶が忽然と蘇ってきて思わずギャッと叫んでしまう、みたいな夢なんだそうですが、或る意味では実際に殺す夢よりもそっちの方が怖いかもしれない。自分の記憶が信じられなくなるって怖いですよね。足下の地面がにわかに崩壊していくような感じで・・・

これに似たような話が夏目漱石の「夢十夜」にあったと思う。
第三夜だったっけ?まあともかく、主人公の男が子供を背負って夜の原っぱを歩いている、という場面から始まる話です。「左に行くと日ヶ窪、右に行くと堀田原」という道しるべが出てくるので、場所はおそらく江戸の下町でしょう。「日ヶ窪」ってのは今の六本木ヒルズがある辺りで「堀田原」は蔵前の方面ですから、主人公が歩いてるのは本所・深川界隈の町はずれかと思われます。

男は自分の子供を背負っているはずなのに、不思議なことにいつの間にかそれが盲目の坊主---いわゆる「座頭」ですね---に変わっている。驚いた男は「早く森へ行ってこいつを捨ててしまおう」と思って森の方に足を向けるんですが、急ぎ足で歩いていくと、背中の座頭が「もう少し行けばお前にも分かる。ちょうどこんな晩だったな…」とか不気味なことを言い始めるんです。そう言われても、過去の「こんな晩」にいったい何が起こったのか男には見当も付かない。それなのに、歩を進めていくうちに男は次第に「自分でも何かを知っているような」気がしてくる。よく分からないながらも、「ただ、こんな晩だったように」思えてくる。アレは確かにこんな晩だったな・・・でも「アレ」って何よ、という感じですね。

このあたり、夜の暗闇と記憶の薄闇という二重の闇の中で覚束なく足だけを急がせている主人公の心細さが、漱石せんせーの淡々とした筆致からでも(いや淡々とした語り口のせいで余計に効果的に)伝わってきます。実は、この話の中で一番怖いのは森に辿り着くまでの道行きなんですね。何があったのか分からないけど確かに何かを知っているような気がする。その「何か」はとても恐ろしい事のような気がするんだけどどーしても思い出せない、というくだり。「何か」の正体が分かってからは正直それほど怖くない。

これ以上ストーリーを書くとネタバレになっちゃうので止めときますが、「自分の中に何か恐ろしい記憶が眠ってるらしい」と不意に気づいた時の慄然とした恐怖感は、人間の感じる恐怖の中でもかなり高順位にランクされそうな気がします。自分は大丈夫か?と疑ってみるだけで、ちょっと不安になってきませんか?私なんか特に子供の頃から忘却力が旺盛なタチで、物心つく前に見たモノなんか殆ど忘れてますからねー。「それ」を知ってしまったら人生ガラッと変わっちゃうような、世にもおぞましい記憶を密かに抱えてるかもしれないんですよね実は---ま、思い出せないまま一生が終わることを祈るのみであります。皆さんも記憶の畑を無闇に掘り返さない方がいいですよ。もしかしたら死体が出てくるかもしれませんから・・・





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Last updated  2007.08.25 15:17:48 コメント(4) | コメントを書く


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