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「畿内 古墳探訪ガイド(改訂版)」松本弥 メイツ出版 百舌鳥・古市古墳群の世界遺産認定を受けたからだと思うが、昨年11月に改訂版が出された。著者は松本弥さん。日本の考古学者でもなければ、最近多い市井の趣味人でもない。エジプト古代史学者である。そのせいか、素人が分かりやすい体裁を持ちながら、専門的なツッコミもある。私的にピッタリなガイドだった。 特に全ての地図にGoogle Earthの図版を使用しているのが良い。遺跡というものは、よっぽど有名でないと、観光地図にも載っていなければ、近所の人も知らない。「えっ?裏山が古墳だったの?」と驚かれることはしょっちゅうである。地形や山が直ぐに分かる写真は、古墳探訪にピッタリだと思う。場所は「所在地」「座標軸」もあるからスマホ検索で特定できる。アクセス方法も詳しい。その他、探訪に便利な編集がされている。 ほとんどの写真は、松本さん家族が撮り貯めてきた物らしい。時々、墳頂から見える景色が載せられている。こういうのが大切なんですよ、古墳巡りは!そこから色々想像するロマンが、遺跡巡りの真骨頂です。 県ごとにまとめてはいますが、その中で地域ごと、歴史順に載せています。通して読むと、文献にはない古代史を「想像」できるように構成されています。松本弥さんの想いをこういう所からも汲むことができる。 多くは、既に探訪した地域ではあるが、正直「こんなにもとりこぼしていたのか!」と絶望的な気持ちにもなった。まぁ目標ができたから嬉しい。 その中で、京都山城は全然探訪していなかった。弥生重要遺跡でもある森山遺跡、庄内式土器が出土した芝が原古墳、それらを解説した城陽市歴史民俗資料館があり、いかねばならない地域になった。 ※松本弥さんは、箸墓の宮山型特殊器台は、総社の宮山展望古墳(この名称は何処から来たのか?我々は宮山遺跡としか見ていない)からしか出土していないことを大きく重視している。改めて、調べてみたい。そもそも箸墓とここがリンクしているのならば、弥生時代末とすると、50年の間隔がある。この特殊器台は、果たしていつの時代のものなのか? 位置 34°39’39”N 133°44’51”E
2020年01月29日
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「魏都・洛陽から倭都・邪馬台国へ」石野博信編 雄山閣 私いからである。でも、邪馬台国が何処か?という事にはあまり興味はない。私は西日本は、諸外国と比べてかなり平和的に統一されたと思っている。その時の列島統一の仕組みを知りたい。邪馬台国論争と同じ事じゃないか?というわけではない。最終的に1番大きな統一国家を作ったのは大和政権である事は確かなのだから、その国家形成の過程を、(400年後に書かれた記紀のような)文献資料ではなく主に考古資料で辿ることが重要なのである。その副産物として邪馬台国の場所も自ずと判るかもしれない。 私は私なりの仮説を持っているけれども、情け無いことに25年間仮説のままだ。 「ふたかみ邪馬台国シンポジウム」(01〜17)は1度も参加できなかったけれども、そういう私の問題意識を満足させる内容に満ちていた。その最後のシンポの記録だ。しかも、その時代を東アジアから眺めるという、最も魅力的な内容だった。 ご承知のように、倭国と違い、中国には信頼できる文献資料がある。朝鮮半島にも、相当数ある。資料批判を私は出来ないが、慎重に参考にさせてもらいたい。 前振りだけで、500字弱かかってしまった。以下、私にとっては本題で、他多くの読者には文字の羅列に過ぎないかもしれない情報(つまり私的メモです)を迷惑にならないぐらいの規模で箇条的にまとめた(いや、多分迷惑と思います。無視してね)。 (石野博信) ・寧波沖合いの舟山列島には、かつて帆船が停泊し、風に乗れば1週間で日本列島に到着できた、という。 ・飛鳥・奈良時代にも邪馬台国論争があり、書記編纂時にも決着がつかなかった。(略)このときに既に国家意識か芽生えていて、倭人伝の「下賜」や「生口」などの倭を下位とする記事や、「卑弥呼」などの卑字は引用していない(略)もしかしたら、書記編纂者は神功を女王・卑弥呼、た応神を「男弟」に当てているかもしれない。 (来村多加史) ・難升米が献上したのは、奴婢10人と反物5巻のみ。魏の朝廷は呆れたはず。それでも10倍返の物をあげ、更に「特に」金塊8両、125センチの刀など二振り、銅鏡100枚、鉛丹(赤色顔料?)50斤などを卑弥呼のために下賜している。240年元旦の朝貢の儀式でもらう。 ・その後の朝貢で更に銀印8個もらい、合計金印1銀印10が何処かに眠っているはず。 ・247年、邪馬台国は狗奴国と交戦か。 (高久健二)・190年(初平元年)公孫氏遼地域を支配下、楽浪郡も支配。204年(健安9年)公孫康が楽浪郡南側に帯方郡を設置、238年(景初2年)魏は公孫氏を滅ぼす。313年(美川王14年)高句麗により楽浪郡滅ぼされる。427年、高句麗は楽浪郡故地の平壌に都を移す。 。 ・三韓地域は2世紀後葉になると楽浪郡交流を示す漢式遺物と共に大型木槨墓が造営。良洞里162号墳(2世紀後葉)大型木槨墓、多数の鉄製品。後漢鏡も(←楽浪郡)。小型ほう製鏡(←北九州)。良洞里235号(3世紀前半)大型木槨墓。楯築遺跡は良洞里162号とほぼ同時期、楽浪郡の上位階層を象徴する厚葬木槨墓を強く志向していた事を示しているだろう。塚(←この上位階層が公孫氏とどういう関係にあるのか?それが1番大事なのに一切コメントない!おそらく楽浪郡に前から住んでいた在地豪族であったことが推察されるだけ)西谷3号墳も同時期であり、木槨墓。ホノケ山古墳(3世紀前半)も木槨墓。糸島平原1号墳(弥生後期後半)には漢式文物の環頭大刀(同時期楽浪郡古墳からも出土)、三韓地域でも環頭大刀を製作。長野県根塚遺跡からは渦巻文装飾付鉄剣が出土。(←良洞里212号からも出土していて、弁韓や辰韓鉄器の特徴)。馬形帯鉤の長野県浅川遺跡から出土。朝鮮半島では、嶺南地域から洛東江を遡り湖西地域に至る内陸ルート、これがおそらく倭から楽浪郡に行くルートの一つだろう。「魏志倭人伝」には西海岸ルートがあるが、海の難所なので、普通は行かなかったのではないか? 久住猛雄 奴国代表=福岡市埋蔵文化財課) シンポジウムが最後なので「かなり大胆なことを話」すと前振りして、大胆な事を話したが、私は批判・検討する力量を持ち合わせていない。残念ながら、省略する。 (福永伸哉) ・190-250年(箸墓築造)が庄内式土器(大阪北部)の時代。弥生後期には、大型銅鐸の畿内、広型銅矛の北九州、特殊器台の吉備・山陰の仲間内意識があった。この地域の「まとまり」が取り払われる時期が庄内式土器の時代。その時代、特殊器台だけが残って使用は少なくなる。箸墓が始まり、布留式土器が始まる。 ・卑弥呼「共立」の時代が庄内式だった。 ・第一次政権時。景初3年(239年)「親魏倭王」獲得まで。 ・←炭素年代法の仕組みと、限界を解説していて、よくわからないけど、「賭け」として、こちらの方を信頼しようと思う(福永さんとか、松木さんとか、尊敬する学者が採用しているという非科学的な理由で)。 ・卑弥呼第二次政権では、下賜された三角縁神獣鏡の権威を利用した、というのが福永さんの意見。(←私はそれには保留) ・何故三角縁神獣鏡か。デザインが繰り返しが多く、簡単に作れるので、魏王が100枚を作るのに便利だった。 ・箸墓は卑弥呼の墓である。(←保留) (石野博信) ・沖ノ島に、3世紀の纒向式(庄内式)土器が数点含まれていた。正に邪馬台国と中国との交流の時代だった。 ・北部九州20遺跡に、纒向式土器が分布。 ・博多西新町遺跡には、3ー4世紀に、在地、近畿、伽耶土器が30%づつあった。 (シンポジウム) ・博多遺跡(3世紀)の鉛器(鉛耳杯?)は仙薬を作るのに使ったのではないか。 ・楽浪郡のデン室墓に使用されたデン(レンガ)の中に、兎が仙薬を作っている文様がある。鉛器もデン室墓から出土。2-3世紀の限られた時期のみに鉛器(容器・車馬具明器)が副葬。 ・鉛耳杯は中国武漢で出土、楽浪郡でも出土。鉛製のミニチュア品を用いた神仙的な物は、中国南方から沿海部の東北にかけて広がったのではないか? ・漢代のしなんひょうは、真上から見るとキャンディーを包んだような形。これは西王母のシンボル。仙薬を飲む。これは西王母の耳飾りで、不老長寿を願うもの。桜井茶臼山古墳からの出土品も同じ意味だったのではないか。 ・2世期末から3世紀前半の狗邪韓国(金海)はどうだったか。そのあと3世紀後半に金官伽耶に変化(この変化は邪馬台国から初期大和政権への変化と対応している)。 ・2世紀後半に金海では鉄生産が本格化、大型木槨墓。良洞里162(2世期後葉)後漢鏡と倭製の小型ほう製鏡、良洞里200(広形銅矛)、212(3世紀前葉)235(3世紀中葉・陶質土器)、大成洞29(3世紀後葉から末・金官伽耶へ)この時から夫余族の移住により新しい支配者集団になったのでは。 ・良洞里と大成洞の遺物は東義大学博物館にある事が判明。 ・3世紀前半の邪馬台国時代には、北九州の青銅器。3世紀後半では釜山地域(東菜貝塚)布留式土器 ・韓国土器と庄内式や布留式土器の併行関係は未だ「暫定」。北部九州の布留ゼロ式は、李盛周氏の2-4以降の弁辰韓土器は明確に併行する。それ以前はまだまだ。勒島時代はまだまだ。 ・三角縁神獣鏡を3か月やそこらで100枚も作れるのかの質問に対して、説得力持って答えている。(←卑弥呼の鏡は三角縁神獣鏡の気がしてきた)
2020年01月28日
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「桃太郎は盗人なのか?−「桃太郎」から考える鬼の正体−」倉持よつば 新日本出版社 滅多に五つ星は付けない私ですが、文句無しの五つ星!六つ付けても良いくらい。着眼点→仮説→調査・研究→仮説→研究→結論への道筋が素晴らしい!大人の私も「負けました!」。しかも、写真もイラストもよつばさんオリジナル、物凄くわかりやすい! 去年偶然、芥川龍之介の「桃太郎」を読んだ時には、理由なく鬼を退治し、三匹の子分と共に極悪非道の限りを尽す桃太郎は、芥川特有の軍国日本を皮肉ったパロディであり、基本的に彼の創作だと思っていました。そうではなく、これは江戸時代に種本があって、それを元に少し時代に合わせて変えただけだったんですね。 私は吉備の国の住人なので、もともと桃太郎(吉備津彦)が鬼(温羅)を侵略したのだと思っていましたが、そういう単なる「意見」とはレベルが違います。小学5年生のよつばさんは「あの有名な福沢諭吉」が「桃太郎は盗人だ」と言っていたという事を読んで夏休みをまるまる使って徹底的に調べたのです。図書館レファレンスを使って200冊の本を調べて、博物館の学芸員に協力してもらって古文を読んでもらって、県内や近県や親戚の県に実地に行って神社を見たり、詳しい人の話を聴いて「調査・研究」しています。そこで優しい鬼を見つけたりして、鬼の正体を7点に絞ってまとめています。移動はお母さんの手を煩わせていますが、基本的に全て自力で、「まとめ」まで漕ぎ着けています。「あれ」だけをひと夏だけで?うーむ、参りました。 私は20数年来の研究テーマがあって、朝鮮半島へも何回も行きましたが、結局彼女のようにまとめることができていません。申し訳ありません。 桃太郎盗人説も、鬼の正体も、彼女が調べる前から実は詳しい研究書はあります。けれども、おそらく彼女の研究は、それを何処か一部分では突き抜けているのではないか?と思う。それほど鋭く分かりやすいものでした。 全ての小学生高学年へ。全ての研究テーマを持つ大人に、読んでもらいたい!
2020年01月27日
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「ひめは今日も旅に出る」そねともこ 長久啓太編著 日本機関紙出版センター ALS(筋萎縮性側索硬化症)の闘病記になるような本は、最近目につくようになった。しかし未だ闘病=悲壮という図式が多かったと思う。その中で、昨年映画になった「こんな夜更けにバナナかよ」は、全く違う病気とはいえ、筋ジストロフィー患者とボランティアのあり方に劇的な変革を求めるものだったと思う。この本は、ALS患者本人が発信している。この本も、その生活のあり方を劇的に変える本になる可能性がある。 そねともこさんは、岡山県民主医療機関連合会に勤務していた。42歳の時に病気が確定したときに一生分の涙を流したあとは、比較的早く「自分を取り戻した」ようだ。2年後に退職した後は、ご主人と2匹の猫と、たくさんのサポートを活用して、多くの保障と経験を成し遂げている。手記は基本的に彼女がスマホにタッチペンで書いている(補助具MOMOも自分で調べて申請)。その知識と健康的な権利意識は素晴らしいと思う。申請主義のためにあまり知られていない活用できる制度は出来るだけ使い、申請者第一号になることも少なくない。行政の心ない対応を改めさせたことも書いている。この本は民医連新聞に連載されていたエッセイをまとめたものなので、そういう視点で書かれてもいるけれども、もう一つの大きな特徴は「今できる事を思いっきり楽しもう!」ということだ。 車椅子でベルリンへ。24時間人工呼吸器装着になって沖縄へ。青森へ。京都へ。函館へ。富士山河口湖畔へ。しまなみ海道へ。京都へ。青森へ。山陰・松江へ。徳島へ。長野へ。奈良へ。またもや沖縄へ二回旅している(以上17年2月〜19年3月)。詳しいサポート体制はよくわからなかったが、実際行ったということが素晴らしい。ご主人の理解あるサポートは勿論のこと、友人たちの集まりも頻繁にあるようだ。 文字も大きく、写真も多い。これからのALS患者と家族を大いに励ます本であると思う。
2020年01月26日
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「101歳。ひとり暮らしの心得」吉沢久子 中公文庫 昨年3月、101歳で他界した家事評論家の吉沢久子さんは一昨年「100歳の100の知恵」という本を出したくらいだから亡くなる直前までお元気だったのだと思う。これはその本やその他を再編集・加筆したもの。たいへん参考になった。 実際私も仕事の関係で、この数年間に100歳以上のお年寄りと5人ほどお知り合いになった。みんな穏やかに歳をとり、認知症を患っていても、亡くなる直前まで外に出れるくらい元気な人が多い。頭のクリアーな方も多い。秘訣を聞いても、そう簡単には教えてくれない。 そういう意味では、この吉沢久子さんはクリアーに秘訣を語ってくれています。繰り返しが多いという勿れ。それだけ、秘訣はシンプルなんだと思う。 1ページまるごと「秘訣◯◯(例えば、美しいものは小さなものでも見逃さない)」と見出しだけを書き、つぎは1-4ページかけて、中くらいな字体で、優しく内容を語りかけるという体裁です。 曰く。 ・歳を重ねた分「いい思い出が増えていく」と考える。 ・歳をとると、できなくなることが増える。変わる工夫をしてみる。それと、潔くあきらめる。 ・年下の友人は人生の宝物。そんな機会を持つ(毎月数十人のメンバーが交代でひとつのテーマを発表する「むれの会」を主催。40年以上続いている)。 ・いくつになっても、新しいことを始める。 ・手紙は毎日何通も書いている。郵便ポストまで手紙投函が外を歩く機会になっている。 ・「断捨離ブーム」に流されない。思いつきで簡単に暮らしは変わらない。変えない。 ・家事は手抜きでもいい。投げやりにはしない(内容読むと、私は大変反省させられました)。 ・介護保険創設に携わった人なのに、未だに介護保険を使っていない。昨年、初めて申請だけはした時に役所の人と「その歳でどうして被保険者証がないんですか!」と押し問答をしたほど。もちろん甥とかには助けてもらっている。 ・いざという時の備え。「身の回り入院セット」寝間着用に仕立てた俗衣、バスタオル、おしぼりタオル、下着、洗面用具、乳液、コンパクト、口紅、ヘアブラシ、ポケットティッシュが(1)、ご飯茶碗、湯呑みと茶碗、箸と布巾、はごき、便箋、ボールペン、封筒、原稿用紙、万年筆、認印、健康保険証が(2)「災害セット」も。 ・66歳からひとり暮らし。60代は自分の生き方を考える時期。「日本人の生活史」について学び、まとめた ・遺言は弁護士に渡している(今が3代目の弁護士)。無理な延命処置はしない。お葬式について。財産処分について書いている。本は図書館が受け入れOK、献体の登録も。
2020年01月26日
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「丕緒の鳥 十二国記5」小野不由美 新潮文庫 シリーズ中、屈指の読み応えであった。全4編を、主人公を説明することで順に批評する。 「丕緒の鳥」 丕緒(ひしょ)。慶国の祭祀吉礼において催される射儀を司る責任者。官吏なので仙籍に入り、歳を取らない。悧王以降4代に仕える。陶製の鳥を射て、美しい音を立て華やかに砕ける事を愉しむ儀式を司り、そのためだけに存在する。鳥とは鵲(かささぎ)でなくてはならない。丕緒は自問自答する。 ーーいったい何のためにこんな儀式があるのか。 百数十年生きても、尚わからない。蓋(おもうに)「極める」とは斯くの如しか。 「落照の獄」 瑛庚(えいこう)。柳国の国府(最高裁判所)の司刑(裁判長)である。法治国家の体裁を採り、合議制で結審する。殺罪などの大罪に対する刑罰の最重刑は死刑つまり「大辟(たいへき)」と云う。調べると、この言葉は四書五経の中の言葉だった。しかも、始皇帝の焚書坑儒により、大半の原典は我々の世界では喪われている。柳国では活きている。この短編には、その頃の専門用語が多く出てきて、その分瑛庚の決する最終刑はわかりにくい。しかし1番のカギは、主上(王様)が「大辟を用いず」方針に責任能力を持たなくなったことにある。我々世界の問題(死刑是非論)とリンクしているようで、実はリンクしていないことは留意すべし。古代漢字を現代小説に用いるために、著者は、奄奚(げなんげじょ)、豺虎(けだもの)、殺刑(しけい)、刑案(うったえ)、徒刑(ちょうえき)、刑徒(しゅうじん)等々と翻訳してみせる。不亦面白乎(またおもしろからずや)。 「青条の蘭」 標仲(ひょうちゅう)。一転、この短編の主人公は、最初からずっと移動し続けていて、ラスト近くで倒れて仕舞う役割。わかりやすい。下級役人の1人で、新しい植物や鳥獣を集めるのが仕事である。何処の国の話かは、最後の最後にヒントのみ与えられる。シリーズファンならば直ぐ判るだろうという憎い演出である。はっきりハッピーエンドか、バッドかは描かれていないが、ファンならば判る。また、王様の長きに渡る不在とは、つまりは国が滅亡に近い処までいくことなのだと、この短編により、よく判るのである。 「風信」 蓮花(れんか)。最後の少女は、不老不死の役人でさえもない。標仲も蓮花も、2013年の文庫書き下ろしらしい。シリーズが始まって、20年以上が経っているのに、つい最近始まったかのようなこの瑞々さは何なのだろう。物語は、正に「月の影影の海」「風の万里黎明の空」の時間軸と慶国内の出来事で物語られる。景麒も陽子も微かにも出てはこない。その中で、正に十二国ならではの出来事で、蓮花は希望を見出すのである。 この本で、年表に新たに付け足す事はなかった。
2020年01月26日
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「水は海に向かって流れる(1-2巻)」田島列島 講談社 純情な高校生、なに考えているのかよくわからないけど魅力的な歳上の女性、或いは漫画家のおじさん、ハーフっぽい占い師、たまに帰ってくる教授、その人たちが一つ屋根の下でルームシェアして生活する。青年漫画、高橋留美子『めぞん一刻』以来、鉄板の設定である。 という風に展開するのは、平成で終わったのだろうか(もしかして昭和で?)、歳上の女性は実は高校生の父親のダブル不倫相手の娘であり、高校生は早々とその秘密を知り、更には女性は父親と鉢合わせ、或いは次々と隠れた関係が「突き合わされる」。結構ドラマチック、でもかなり日常系(キャラも)。でもまだ第二巻。うーむ展開がようわからん。非日常系日常マンガ?これが令和の日常系下宿ものか? 一応、2020年「このマンガがすごいオトコ編第4位」ということで読ませてもらった。面白くないわけじゃなく、退屈せずに読ませてもらったんだけど、おじさんはようわからん。
2020年01月23日
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「ロボ・サピエンス前史(上・下)」島田虎之介 講談社 2020年「このマンガがすごい!オトコ編2位」なので紐解いて見た。題名は、「サピエンス全史」をもじっているのは明らか。つまり、長い長い人類・前史の後に急速に人類正史が始まって終わる。そして長い長いロボ・サピエンス前史が始まるのだろう、という作品なのだろう。 普通のSF小説にあるように、人類VSロボットの歴史は、ここでは描かれない。おそらく、ほとんど最初の数十年間でそれは終わったからだろう。最初から人類とロボットは共存している。人類とロボットの結婚もいつか許されている。それでも、人類は衰退していき、メンテナンスすれば永遠の生命と過酷な環境での生存と情報保持を能力として持つロボットは、生き残る。21世紀に起きた原発事故の後に原子力管理の完遂に25万年かかるロボットの行末、人類の依頼に応え続ける「自由ロボット」の抱え続けた情報の行方。それらはほとんど「死」いや「詩」である。 「万葉集」はこの作品と関係ないけれども、私は1300年前に歌われた一つの歌を思い出した。こういう「想い」が、おそらく25万年先までの射程を持っている、と確信できた。そういう作品である。 父母が 頭かきなで 幸あれて 言ひし言葉ぜ 忘れかねつる(防人の歌)
2020年01月22日
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「SPY×FAMILY(1〜3)」遠藤達哉 集英社JUMP comics plus ジャンプコミックスには、伝統的に扉表紙裏に作者のメッセージを書くという欄がある。これはたいていはAmazon紹介にも載っていない、手に取った者だけが読める「秘密の暗号(別名おまけ)」である。それを特別にお見せしよう(一巻目だけ)。此処に、なんと「2020年このマンガがすごい!オトコ編第1位」を獲得したこの作品のエッセンスが隠れているからである。 映画やアニメの「正体を隠してる」系のお話が好きです。バレそうなヒヤヒヤ感や、本心を打ち明けたいのにできないもどかしさ。本作品にはそんなもの微塵もございませんが、楽しんで頂けたら幸いです。 微塵どころか満載である。大嘘つきだけど、可愛い登場人物たちが活躍する徹底エンタメである。オトコはこのぐらい振り切らないと、彼らのように偽装結婚にも踏み切る勇気が持てないのが、昨今なんでしょう。 綾瀬はるか主演「奥様は、取り扱い注意」や深田恭子主演「ルパンの娘」の話を足して2で割ったような話になっている。よっておそらくテレビドラマと相性が良いと私は推察する。ではヒロインはどうするか?実は桜井日奈子をお薦めする。えっ?あの大根を?という勿れ!(いや、失礼。個人的な主観です)彼女は実は現在格闘術特訓中なのだ。いつもはおっとり天然だけど、「殺人技術」だけは超一流というこの役柄に合っている。となると、夫は横浜流星か。凡ゆることに超一流のスパイという設定も、彼ならば器用にこなすだろう(視聴率も連れてくる)。問題なのは、現在の子役陣の中に、読心超能力を持つ(全ての人間関係を把握しているホントの主役の)7歳の女の子をできる子が見当たらないことである。この子が見つかれば、直ぐにでもドラマができる。 現在3巻まで出ている。何巻まで、この設定を面白いまま引きずっていけるか、見ものだ(我ながら斜め上から観た意地悪な読者だなぁ)。
2020年01月20日
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今月の映画評は「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」です。 昨年映画館で観たのは111作品でした。マイ基準で合格点に滑り込んだベスト20を、独断と偏見で発表します(鑑賞順)。 「鈴木家の嘘」「パッドマン 5億人の女性を救った男」「あの日のオルガン」「グリーンブック」「ヒューマン・フロー/大地漂流」「翔んで埼玉」「バーニング劇場版」「ビリーブ 未来への大逆転」「金子文子と朴烈」「バイス」「洗骨」「アベンジャーズ/エンド・ゲーム」「エリカ38」「新聞記者」「僕たちは希望という名の列車に乗った」「天気の子」「コールド・ウォー あの歌、2つの心」「存在のない子どもたち」「ジョーカー」「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」邦画は6作品のみ。低邦高洋の傾向は続いています。 さて、『スター・ウォーズ』全9部作が完結しました。いつものようにDVD作品ではなく、現在公開中の作品をあえて紹介する理由は、最後に述べたいと思います。 スター・ウォーズは英雄譚です。そして繰り返しの物語です。英雄は或る辺境において召喚され、試練に遭います。誘惑され、それを乗り越えて、勝利し、自分が何者なのかを発見します。そして帰還し、物語は閉じるのです。 女性の主人公レイ(デイジー・リドリ)は砂漠の星から旅立ち、さまざまな戦いを経験し、繰り返しフォースの暗黒面への誘惑に遭い、そして自分が何者かを見つけて、最後には砂漠の星に戻り終わりました。 やはり映画館で観るべきだと思います。ライトセイバーの殺陣とフォース対決、大規模な艦隊戦とドッグファイト、二転三転の物語とか、やはり「嫌な予感がする」「フォースと共にあらんことを」とかのお約束の言葉を直に聞きたいとか、不死身のファルコン号を目に焼き付けたいとか、そういうことではありません(笑)。我々の世代で、もうこれ以上の英雄譚は目にすることが出来ないのではないかと思うからです。我々以前の世代では小説などで、もっと古代では洞窟の中で語り部から英雄の物語を聞いてきたと思います。映画として、今回とりあえずの最高のエンディングを迎えました。最後の最後は字幕も消えて、闇の中に満点の宇宙の星々で終わります。それを是非体験してもらいたいと思います。次の世代は、立体ホログラムで時代を代表する英雄譚を経験するのかもしれません。その世代に「我々の世代ではこういうお話があるんだよ。遠い昔、はるかかなたの銀河系で‥‥」と話を始めてほしいから。(まだまだ公開中、米国J・J・エイブラムス監督作品)
2020年01月19日
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これが今年の最後。全部で111作品を観ました。「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け(字幕版)」(フリーパスポート第11弾)スター・ウォーズは英雄譚です。そして繰り返しの物語です。古今東西の英雄譚が繰り返し同じ構造を持っているから、それは自明のお話なのです。けれども、繰り返し話を求められる。おそらくホモ・サピエンスのDNAに刷り込まれているからに他ならぬ、とまで私は思っています。どういう物語か。英雄は或る辺境において召喚される。そこで試練に遭う。誘惑される。それを乗り越えて、勝利し、自分が何者なのかを発見する。そして、英雄は帰還し、物語は閉じる。レイは砂漠の星から旅立ち、さまざまな戦いを経験し、繰り返しフォースの暗黒面への誘惑に遭い、そして自分が何者かを見つけて、最後には砂漠の星に戻り、シェダイとして生きることを決意したかのようにして終わった。これは、最初期の三部作、次回三部作はダーベーダーになったので叶わなかったが、最後の三部作で見事にスカイウォーカーの物語にケリをつけて、全体としては「語り継ぐべき」英雄譚として終わった。やはり映画館で観るべきだと思う。映像の迫力とか、物語の二転三転とか、やはり「嫌な予感がする」「フォースと共に」とかのお約束の言葉を直に聞きたいとか、「七人の侍」のオマージュに気が付きたいとか、不死身のファルコン号を目に焼き付けたいとか、そういうことではない(笑)。我々の世代で、もうこれ以上の英雄譚は目にすることが出来ないのではないかと思うからです。我々以前の世代は、小説などで、もっと古代では洞窟の中で語り部から聞いてきた英雄譚は、映画として、今回とりあえずの最高のエンディングを迎えた。最後の最後は字幕も消えて、闇の中に満点の宇宙の星々で終わる。それを是非体験してもらいたいと思うからである。次の世代は、立体ホモグラムで時代を代表する英雄譚を経験するのかもしれない。その世代に、我々の世代では「こういうお話がある。」と話を始めてほしいから。(ストーリー)はるか彼方の銀河系で繰り広げられる、スカイウォーカー家を中心とした壮大な<サーガ>の結末は、"光と闇"のフォースをめぐる最終決戦に託された─ 果たして、彼らを待ち受ける運命とは?そして、いかなるエンディングを迎えるのか?監督 J・J・エイブラムス出演 デイジー・リドリー、アダム・ドライバー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック、マーク・ハミル、ビリー・ディー・ウィリアムズ、キャリー・フィッシャー[上映時間:142分 ]2019年12月23日TOHOシネマズ岡南★★★★★「カツベン!」「かつて映画にはサイレントの時代があった。けれども日本には真のサイレントの時代はなかった。なぜなら、日本には活動弁士がいたからである。稲垣浩」チャップリンのサイレントでさえも、活動弁士は換骨奪胎自分の作品としてしまった。そういう弁士に客は群がった。そういう時代があった。その作品を知っている人は少ない。現代でも弁士はいる。しかし、あの頃の弁士がどうだったのかは、今では想像するしかない。じゃ想像して見せてもらおうじゃないか!これはそんな作品である。いやあ活動写真の如く、何が出るか予測できない、楽しい作品でした。(ストーリー)子どもの頃、活動写真小屋で観た活動弁士に憧れていた染谷俊太郎。“心を揺さぶる活弁で観客を魅了したい”という夢を抱いていたが、今では、ニセ弁士として泥棒一味の片棒を担いでいた。そんなインチキに嫌気がさした俊太郎は、一味から逃亡し、とある小さな町の映画館<靑木館>に流れつく。靑木館で働くことになった俊太郎は、“ついにホンモノの活動弁士になることができる!”と期待で胸が膨らむ。しかし、そこには想像を絶する個性的な曲者たちとトラブルが待ちうけていた!俊太郎の夢、恋の運命やいかに…!?監督 周防正行出演 成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊[上映時間:127分 ]2019年12月23日TOHOシネマズ岡南★★★★「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」違う種族との共存を目指して闘ってきたバイキングの一族三部作の最終篇。ヒックは竜をずっと「相棒」と呼んでいた。対等に扱おうという気持ちは間違いないとは思うが、やはり竜に自由を「与える」という意識が見え隠れする。そもそも竜が対等だなんて、日本人の感覚じゃない。日本人にとっては、恐れ多い、畏れ敬う対象なのです。でも、竜の存在を当時の北方から来た青い目の外国人だと想像したならば、ほんの数人の外国人を保護するために神の位置まで引き上げた古来の人たちの知恵もありうるかなとも思い出した。ちょっと私の小説構想のヒントを貰った。(ストーリー)かつてドラゴンは人間の敵だった。弱虫のバイキングの少年“ヒック”と、傷ついたドラゴン“トゥース”の活躍で彼らは共存する道を選び、バーク島で平和に暮らしていた。だが、ドラゴンが増え続けたバーク島は定員オーバー!亡き父の跡を継ぎ、若きリーダーに成長したヒックは、島を捨て、ドラゴンたちと新天地を探し求める決断をする。しかし、大移動の旅の途中、最凶のドラゴンハンターに命を狙われ、“トゥース”の前には白い謎のドラゴン“ライト・フューリー”が姿を現す…。そして彼らが辿り着いたのは、人間は住めないドラゴンたちだけの<隠された王国>だった―! “ヒック”と“トゥース”は別れる運命なのか?監督 ディーン・デュボア出演 声の出演:田谷隼、寿美菜子、宮里駿、南部雅一、村田志織、浅井孝行、田中正彦、深見梨加、小松史法、松重豊、岩崎ひろし[上映時間:107分 ]2019年12月30日TOHOシネマズ岡南★★★★フリーパスポート13弾「ジュマンジ/ネクスト・レベル 」初めて観た。ゲームも慣れて来ると、サクサク進む。その分大変損をしている。面白かったけど、今はなーんにも残っていない。(ストーリー)ジュマンジ~!!!!!と叫んで、ジャガー像に宝石をブチ込み、ゲームクリアしたのが2年前。当時高校生だったスペンサー、マーサ、フリッジ、ベサニーもそれぞれの路を進み、今は大学生。しかし、あの時の興奮が忘れられず、粉々に破壊したハズのジュマンジをこっそり修理し始めるスペンサー。その瞬間、またしてもゲームの中に吸い込まれてしまった。スペンサーを救出する為に、再びジュマンジにログインする3人。しかし、壊れたゲームの世界はバグっており、なぜかスペンサーのお祖父ちゃん達もジュマンジの中に!?!?そこはジャングルのみならず、砂漠、氷山など新たなステージが追加され難易度もアップ!監督 ジェイク・カスダン出演 ドウェイン・ジョンソン、ジャック・ブラック、ケヴィン・ハート、カレン・ギラン[上映時間:123分 ]2019年12月30日TOHOシネマズ岡南★★★フリーパスポート第14弾「男はつらいよ お帰り 寅さん」そうだよね、こういう作りにならざるを得ない。いくら名作だと言っても「口笛を吹く寅次郎」の高梁市の一場面が出てくるはずもない。柴又と柴又の駅と細々と続いているとらやとその奥の居間が何度も映し出される。こういう作りにならざるを得ない。満男が主人公にならざるを得ない。そして分かることがある。いくら満男が寅さんの血筋を引いていようとも、いくら満男が優しさを見せようととも、やはり満男と寅では格が違うのだ、と。時は流れて、大きく変わったことがある。例えば、おいちゃんとおばちゃんは鬼籍に入っていた。さくらと博は、荒川土手の建売を畳んでとらやに引っ越していた。その他、いろいろ。そして、最大の関心事も、あゝそうなのだ、と得心した。それから、私だけの説だったのだが、寅さんとリリーは、実は結婚していて時々別居しているだけなんだと思っていたのだけど、今回明確に否定されてしまった。少し笑った。少ししんみりした。大きく感動はしない。けれども、寅さんのことをこんなにも忘れない人たちが、こんなにもいるということを確信できる。そういう正月になるだろう。これをネタに「今月の映画評」が書けるかな、と期待していたけど、そういうインパクトはなかった。(ストーリー)小説家の満男(吉岡秀隆)は、中学三年生の娘と二人暮らし。最新著書の評判は良いが、次回作の執筆にはいまいち乗り気になれないモヤモヤした日々。なぜか夢の中には、初恋の人・イズミ(後藤久美子)が現れて悩みだす始末。そんな時、妻の七回忌の法要で柴又の実家を訪れた満男は、毋・さくら(倍賞千恵子)、父・博(前田吟)たちと昔話に花を咲かす。いつも自分の味方でいてくれた伯父・寅次郎(渥美清)との、騒々しくて楽しかった日々。あの寅さんへの想いが、蘇る―監督 山田洋次出演 渥美清、倍賞千恵子、吉岡秀隆、後藤久美子、前田吟、池脇千鶴、夏木マリ、浅丘ルリ子、美保純、佐藤蛾次郎、桜田ひより、北山雅康、カンニング竹山、濱田マリ、出川哲朗、松野太紀、林家たま平、立川志らく[上映時間:116分 ]2019年12月30日TOHOシネマズ岡南★★★★フリーパスポート第15弾
2020年01月18日
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12月に観た映画のまとめ、3つ目。「午前0時、キスしに来てよ」マスク越しのキス、鼻への予約キス、そして本気キスの三つだけのアイドルと女子高生との恋、まぁまぁまぁまぁリアルでした。(ストーリー)優等生の日奈々(橋本環奈)は誰もがみとめる超・マジメ人間。でも、ほんとはおとぎ話のような王子様との恋にあこがれる夢見がちな女子高生だった…。そんなある日、国民的スーパースター・綾瀬楓(片寄涼太)が、映画の撮影で学校にやってきた!運命の出会いをするふたり。ま、まさか、これはおとぎ話のはじまりっ?!楓の気取らない性格とやさしさにふれ、どんどん楓のことが好きになっていく日奈々。絶対バレてはいけない国民的スーパースターとJKのヒミツの恋の行方は?監督 新城毅彦出演 片寄涼太、橋本環奈、眞栄田郷敦、八木アリサ、岡崎紗絵、鈴木勝大、酒井若菜、遠藤憲一[ 上映時間:115分 ]2019年12月17日TOHOシネマズ岡南★★★フリーパスポート第9弾。「HUMAN LOST 人間失格」2時間近く地獄めぐりをしてきたような、悪夢を見ていたような、実際半分以上は寝ていたのだけど、久しぶりに何がなんやらわからない、凄い変な作品だった。観客は約8人ほど。全員40ー50代のおっさん。一応原作は太宰治「人間失格」と冒頭に出てくるのだけど、ほとんど類似点が見つからない。(ストーリー)医療革命により、“死”を克服した昭和111年の東京――人々は体内の“ナノマシン”とそれらを“ネットワーク”により管理する“S.H.E.L.L.”体制により、病にかからず、傷の手当を必要とせず、120歳の寿命を保証する、無病長寿を約束された。しかし、その究極的な社会システムは、国家に様々な歪を産み出す。埋まることのない経済格差、死ねないことによる退廃的倫理観、重度の環境汚染、そして、S.H.E.L.L.ネットワークから外れ異形化する“ヒューマン・ロスト現象”……。日本は、文明の再生と崩壊の二つの可能性の間で大きく揺れ動いていた。※PG12監督 木﨑文智出演 声の出演:宮野真守、花澤香菜、櫻井孝宏、福山潤、松田健一郎、小山力也、沢城みゆき、千菅春香[ 上映時間:110分 ]2019年12月17日TOHOシネマズ岡南★★「国家が破産する日」字幕監修を浜矩子がしていた。登場人物は脚色されているが、起きていることはホントだっただろう。IMFを受け入れる前に、やはり大きなリスクを感知して、日米借り入れやモラトリアムまで方策に入れていたとは思わなかった。私は98年に初めて韓国に行った。けれども、いくら思い出してもそんな危機の影は思い出せない。2泊3日で明洞ギョーザを食べ、明洞聖堂に行った覚えしかない。ホテルも、食べ物も、それから5年くらいは同程度の値段だった。2004年ごろに、初めて1週間ほど地方を旅した。その時に初めて韓国の貧しさは日本の30年前だと思ったのだ。それから10年、今はほとんど日本と同じで、価格も日本と同じである。最も、最賃もその時は100円ほどだったのに、今は日本を超えている。07年ごろに400円だった美味しい定食は、現在は800円以上している。もはや、韓国に行けば安く旅できると誰も言えない。あの時に、韓国の資本主義は大きく市場国家に舵を切った。今はどうなのか?そしてTPPを受け入れた日本はどうなのか?(解説)韓国を震撼(しんかん)させた1997年の通貨危機の裏側を暴いた、史実に基づくドラマ。史上最悪の通貨危機に立ち向かった人々を描く。キャストには『修羅の華』などのキム・ヘス、『バーニング 劇場版』などのユ・アイン、『おまえを逮捕する』などのホ・ジュノ、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』などのヴァンサン・カッセルらが集結。『パーフェクト・ボウル 運命を賭けたピン』などのチェ・グクヒがメガホンを取った。(ストーリー)1997年の韓国。韓国銀行のハン・シヒョン(キム・ヘス)が通貨危機を予測し政府は非公開の対策チームを招集するが、国家の破産までわずか7日に迫っていた。同じころ、危機の兆候を独自に察知した金融コンサルタントのユン・ジョンハク(ユ・アイン)は、一獲千金をもくろむ。一方、町工場の経営者ガプス(ホ・ジュノ)は、大手百貨店との大型取引を手形決済の条件で引き受ける。2019年12月22日シネマ・クレール★★★★「映画 妖怪学園Y 猫はHEROになれるか 」新「妖怪ウォッチ」シリーズ。ところが、前回とは全く違う。しかもこの映画版。大人が観ても、好きな人にはとっても好きな、いわゆる「タイムボカンシリーズ」系統の親父ギャグ満載の凄い造りになっている。しかも、クロスカウンターや、君がいるからここにいる、等々70ー80年代のギャグであって、お父さんと観ても何やこれというのが多々ある。ラストの歌さえピンクレディーに新曲作って歌わせているという徹底ぶりである。孫もわからないギャグ満載だから、子どもが喜ぶために作っているのではない。大人を喜ばそうとして作っている。しかも「孫とおじいちゃんが密かに面白かったねーと言わせるのがコンセプト」の作品である。この辺りを間違えると「すべる」可能性がある。私が観た時には、私以外には子供と「お母さん」の2カップルしかなかった。お母さんは白けていたのではないか?でも、私は敢えて言う。これは力作です。(ストーリー)トップクラスの能力を有する者だけが入学を許される超エリート校・Y学園。その学園で新たに設けられた選出基準『YSP』により選ばれたのが、主人公・寺刃ジンペイ!さらに、ジンペイたちには、学園の「不思議解明ミッション」が下される。YSP基準とは一体なんなのか?謎のアイテム『YSPウォッチ』とは…?変身ヒーローあり!熱いバトルあり!巨大ロボあり!?ジンペイたち『YSPクラブ』が数々の怪事件に挑む!はたして、Y学園に隠された謎とは…。今こそ、学園最大の謎を解明せよ!監督 髙橋滋春出演 声の出演:木村佳乃、渡部建(アンジャッシュ)、田村睦心、井上麻里奈、遠藤綾、戸松遥、増田俊樹、小桜エツコ、小野友樹、日野聡、竹達彩奈、関智一[上映時間:100分 ]2019年12月23日TOHOシネマズ岡南★★★★
2020年01月17日
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12月に観た映画のまとめ第二弾です。 「アナと雪の女王2」フリーパスポート第5弾。ファンタジーの王道に戻った。そしてエルサの作る雪の結晶の美しさ、細かい表情、お金をかけている。(ストーリー)アレンデール王国を治めるエルサとアナの姉妹は、深い絆で結ばれ、幸せな日々を過ごしていました。しかし、エルサにしか聞こえない不思議な“歌声”によって、姉妹は未知なる世界へと導かれます。それが、エルサの“魔法の力”の秘密を解き明かす、驚くべき旅の始まりとなったのです…。なぜエルサに力は与えられたのか?彼女が目覚めさせてしまった精霊とは?アナとエルサに加え、前作で大事な仲間となったクリストフとオラフと共に歩む先で待ち受ける冒険と明かされるすべての秘密とは一体・・・?監督 クリス・バック、ジェニファー・リー出演 声の出演:松たか子、神田沙也加[上映時間:103分 ]2019年12月17日TOHOシネマズ岡南★★★★ 「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション 」まさかのフランス実写版。舞台はフランスで、俳優は全員フランス人なのに、何故か主人公たちだけは日本人名という不気味さ、かつギャグテイストと真面目テイストが7:3の割合で、これはコミックとちゃうんとちゃいまっか?フランス人のシティ・ハンター像はこうなのか?ちょっと複雑。どちらにせよ、少しだけ笑えた。それでよしとしよう。(ストーリー)ボディーガードや探偵を請け負う凄腕のスイーパー「シティーハンター」こと冴羽は、相棒の槇村香と日々様々な依頼を受けている。ある日、ふたりに危険な依頼が舞い込む。それは、その香を匂った者を虜にする「キューピッドの香水」の奪回。これが悪用されたら世界は大変なことに!タイムリミットは48時間。冴羽と香は、時間内に香水を取り戻すことができるのか!?元傭兵の海坊主、美人刑事の冴子を巻き込みシティーハンターの香水奪回作戦がはじまるーー。監督 フィリップ・ラショー出演 フィリップ・ラショー、エロディ・フォンタン[上映時間:93分 ] フリーパスポート第6弾。「ルパン三世 THE FIRST」「考古学者も泥棒も、共通点はあるぜ」「なんなの?」「どちらもロマンチックってことさ」山崎監督は、こんなCGを作っている方が良い。原点に帰ったようなヒューマチックな冒険もの。でも、今更ナチスの残党を持ってくるのは、わかりやすいけど、古すぎるんじゃないかな。しかも、時代は明らかに70年代か80年代。ファーストだからかな。だとすると、あと30年くらいは作るつもりなんだろうか?銭形警部を昭和一桁世代だと言っていた。それが本当ならば、現代だと90歳近い。やはり70年代ってことか。(ストーリー)かのアルセーヌ・ルパンが唯一盗むことに失敗した秘宝ブレッソン・ダイアリー。その謎を解き明かしたものは莫大な財宝を手にするといわれている。そんな伝説のターゲットを狙うルパンは考古学を愛する少女レティシア(広瀬すず)と出会い、2人で協力して謎を解くことに。しかし、ブレッソン・ダイアリーを狙う秘密組織の研究者ランベール(吉田鋼太郎)と、組織を操る謎の男ゲラルト(藤原竜也)が2人の前に立ちはだかる・・・・・・。ブレッソン・ダイアリーに隠された驚愕の真実とは一体!?監督 山崎貴出演 声の出演:栗田貫一、小林清志、浪川大輔、沢城みゆき、山寺宏一、広瀬すず、吉田鋼太郎、藤原竜也[ 上映時間:93分 ]2019年12月17日TOHOシネマズ岡南★★★★ 「屍人荘の殺人」「隔絶された別荘での殺人事件」の体裁を持ちながら、まさかの◯◯◯展開という色物に見せながら、実はまさかの本格モノという展開も面白いし、葉村、明智、剣崎ともにキャラが立っていて、しかも無理なく「痛い変人」という側面も見せている。笑うところもあるし、真剣なところもある。果たしてこれ以上のインパクトある展開を作れるかどうかはべつとして、浜辺美波の剣崎比留子をまた見たいと思ったぞ。(ストーリー)神紅大学のミステリー愛好会に所属する葉村譲(神木隆之介)と明智恭介(中村倫也)は学内の事件を推理する自称【ホームズ】と【ワトソン】。しかし葉村はミステリー小説オタクなのに全く推理が当たらない万年助手。事件の匂いを嗅ぎつけては首を突っ込む会長の明智に振り回される日々を送っていた。そんなある日、2人の前に剣崎比留子(浜辺美波)という謎の美人女子大生探偵が現れ、ロックフェス研究会の合宿への参加を持ちかける。部員宛てに謎の脅迫状が届いたこと、去年の参加者の中に行方知れずの女子部員がいることを伝え、葉村と明智の興味をひく。監督 木村ひさし出演 神木隆之介、浜辺美波、葉山奨之、矢本悠馬、佐久間由衣、山田杏奈、大関れいか、福本莉子、塚地武雅、ふせえり、池田鉄洋、古雄輝、柄本時生、中村倫也[上映時間:120分 ]2019年12月17日TOHOシネマズ岡南★★★★
2020年01月15日
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昨年最後のTOHOシネマズのフリーパスポートを取得した。その関係で12月は17作品を観た。四回に分けて紹介します。 「殺さない彼と死なない彼女」なかなか良かった。当初は観るつもりはなかったが、幾つかの理由で見てみたら当たりでした。理由の一つが、ひとつぐらいは郷土のスターの彼女を映画館で観ておかないとなあという義務感だったのだが、演技力の無さを上手いこと表情の少ない役柄として使って補っていて、なんの違和感もなかった。決めるところはちゃんと決めているので、ゴルフのひなこも頑張っていることだし、頑張ってもらいたい。冒頭6人の高校生男女が登場する。仕掛けは、冒頭から気がついていたけど、伏線回収が見事なわけではないので、それに期待すれば肩透かしを食う(しかも制服がバラバラという伏線はついに回収されなかった)。そうではなくて、「殺す」とか「死ぬ」とか、「好き」とか短い言葉を何度も何度も使いながら、不器用に気持ちを伝え合う高校生たちのコミニュケーションがいじらしい。そう言う映画である。(STORY)高校3年生の小坂れい(間宮祥太朗)は、退屈な学校生活を送っている。ある日彼は、教室でハチの死骸を埋葬しているクラスメートの鹿野なな(桜井日奈子)を見掛ける。リストカットを繰り返し「死にたい」が口癖の割には、死んだハチの命を重んじる彼女に小坂は興味を示し、鹿野も小坂に心を開く。やがて二人にとって一緒にいることが当たり前になる。(キャスト)間宮祥太朗、桜井日奈子、恒松祐里、堀田真由、箭内夢菜、ゆうたろう、金子大地、中尾暢樹、佐藤玲、佐津川愛美、森口瑤子(スタッフ)監督・脚本:小林啓一原作:世紀末音楽・主題歌:奥華子2019年12月2日MOVIX倉敷★★★★ 「ぼくらの7日間戦争」フリーパスポート第一作目実写版では、校則だらけの「大人の理屈」に対する反抗で、少し大げさだったけど、多くの若者も共感できる「理由」があった。けれども、今回は議員の父親の「目上のものには従うものだ」という特殊な事情に、5人だけが「付き合った」理由になり、途中で外国人就業家族の子供を助けるという理由が付けくわわったけど、理由としてはかなり弱い。現代風の抵抗になっていて、そこは楽しいけれども、アニメまでにして再構築する「理由」がわからない。宮沢りえの特別出演も、「(学校のことも家族のことも)なんとかなるんじゃない?」という台詞にリアリティを持たせるには抜群の効果を発揮したけど、それだけ。残念な作品。(ストーリー)いつもひとりで本ばかり読んでいる、鈴原守。話し相手といえば、同じ歴史マニアが集うチャットのメンバー。「青春時代は、人生の解放区よ」。平均年齢還暦越えと思われるその場所で、今日もメンバーの一人が、恋に悩む守にからかい半分のエールをくれた。片思いの相手は、お隣に住む幼馴染の千代野綾。しかし綾は、議員である父親の都合で東京へ引っ越すことを迫られていた。しかも、いきなり一週間後。それは守が密かにプレゼントを用意していた彼女の誕生日の目前だった。「せめて、17歳の誕生日は、この街で迎えたかったな」。やり場のない綾の本音を聞き、守は思い切って告げる。「逃げましょう……っ!」。監督 村野佑太出演 声の出演:北村匠海、芳根京子、潘めぐみ、鈴木達央、大塚剛央、道井悠、小市眞琴、櫻井孝宏[上映時間:88分 ]2019年12月15日TOHOシネマズ岡南★★★ 「映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!」実は、このシリーズを初めて観た。驚いたことが2つ。小さな子供が多いのに、字幕も吹き替えもない(最低限の字幕あり)。それと、案外CGもアニメも使っている。いろいろやるんだけど、退屈でしばらく意識消えていたけど全くノープロブレム、十分話を追って行ける。結局、この作品は、細部に命があるのだ。群衆シーンのそれぞれの動きや表情は、かなりなアニメではないと描けないだろうし、あの質感はアニメではムリだろう。まぁ良い経験でした。(ストーリー)ショーンと仲間たちがのんびり暮らす中、突如UFOがやってきた。町はたちまちUFOフィーバーに沸き、牧場主も宇宙をテーマにしたアミューズメントパーク“FARMAGEDDON”を作り、一儲けをしようと企む。そんな中、ひょんなことから牧場に迷い込んだルーラは、ショーンたちと出会いすぐに仲良しになる。家族が恋しくなったルーラを家に帰してあげようと計画をたてるも、思いもよらぬハプニングが次々と巻き起こる。ルーラを故郷に返すためUFOに乗り込んだショーンとビッツァーの運命やいかに――!監督 リチャード・フェラン、ウィル・ベチャー[上映時間:86分 ]2019年12月15日TOHOシネマズ岡南★★★★ 「ドクター・スリープ」前作も、原作も観てはいないが、キングの原作通りに作ったらこうなるのかな、と思わせる外連味のある作品になった。エンタメとしてはこれが正解と思うが、逆にキューブリックの作品はどんなだったんだろうと気になってきた。(ストーリー)40年前の雪山のホテルの惨劇を生き残ったダニー(ユアン・マクレガー)の周りで、児童ばかりを狙った不可解な失踪事件が起きる。ある日、彼の前に「特別な力(シャイニング)」を持ち、事件を目撃した少女アブラ(カイリー・カラン)が現れる。ダニーと少女はこの事件の謎を追い、あの惨劇が起きたホテルへ向かうのだが…『シャイニング』を超える衝撃の結末。呪われたホテルの惨劇を生き延びたダニーが、なぜ、再びあのホテルに戻るのか?そして、彼は狂気に取り憑かれた父と同じ運命を辿ってしまうのか?『シャイニング』遂に完結―※PG12監督 マイク・フラナガン出演 ユアン・マクレガー、レベッカ・ファーガソン、カイリー・カラン[上映時間:152分 ]2019年12月15日TOHOシネマズ岡南★★★★
2020年01月14日
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「日本夜景遺産」丸々もとお 丸田あつし 河出書房新社 表紙は静岡県日本平からの夜景。15年に渡って「日本夜景遺産」を認定してきた活動の集大成。241カ所の全てを紹介し、なおかつ123カ所の夜景を載せる。いわゆる「自然夜景遺産」と共に、スカイツリーや東京タワー、あるいはサンシャイン60などから眺める景色も「施設型夜景遺産」として認めている。松本城や神戸ルミナリエなどの「ライトアップ夜景遺産」も認めている。他に「歴史文化夜景遺産」も。 「この世界の片隅に」では、広島県呉の灰ヶ峰の麓にあるすずさんの家から見える呉の景色が何度も出てくるが、現在は旧海軍の高角砲台の石積みの上に展望台が建設されて絶景が見えるらしい。そこの夜景を観たときに、ひらがなで「くれ」の文字が浮かび上がると、幸せになるという「伝説」があるらしい。この写真には、わざとなのか、そもそも浮かび上がらないのか、よく見えなかったが、この写真集で唯一新たに行きたい場所だった。 紐解いたのは、何度も見ている「鷲羽山スカイライン」からの夜景があるか確かめたかったから。この写真集でも見開きにして、1番迫力があった。水島コンビナートの夜景が真下に見えて、いっときはカップルの溜まり場だった。でも、私はここよりももっととっておきの場所を知っている。それは秘密だけど(笑)。
2020年01月13日
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「心臓」奥田亜紀子 リイド社 1月8日の夜コンビニで、ビックコミックオリジナル増刊号を立ち読みして衝撃を受ける。奥田亜紀子「あんきらこんきら」は、認知症のおばあちゃんの心の世界を、マンガでしか描けない方法で描いていた。次の日には、奥田さんの昨秋に出た6年ぶりの単行本を買っていた。 2011年のデビュー作から昨年5月の最新作まで、短編6作が収録されている。 確かに表題作「心臓」は、なんとも衝撃的でかつ、わかりやすいデビュー作をつくっていた。心臓に持病があって余命宣告さえ受けている女子高生の心の内を、身体の周りにコロボックルのような村人たちを配して描く(←説明しても意味わからんですよね)。表現はリアル。 一方、アフタヌーン四季賞準入選を獲った「ニューハワイ」(2008年)は、20代フリーターの女性の不安定さを、独特なタッチで描くちょっと異質な作品。異質な自分を見つけたくて、暗中模索している。 生命のゆらぎ。世界は、一面じゃない。暗中模索、行ったり来たりしながら、最近は目に見える風景が、実は二重にも三重にも意味ある風景に見えてゆく作風に変わっているような気がする。特徴的なのは、難解のように見えてとてもわかりやすいこと。でもまだ謎はある。それはおそらく作者のせいではなく、私の感性がそこまで届いていないからなのだろう。そういう作家だと思う。 かなり寡作だと思う。けれども新刊が出て、約半年の間に2作の新作が出た、ということは動き出したという証拠なのだろう。高野文子系列だけど、恐ろしいほど絵が上手いわけではない。世界観を愉しむ作家である。どうしても読んでおくべき作家かと聞かれたら、私は是と直ぐには答えられない。けれども出来たら、立ち読みで増刊号は読んで欲しい。
2020年01月12日
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「一ノ関圭本(漫画家本vol11)」小学館 4年前、2015年刊行の『鼻紙写楽』が出たときに、33年ぶりに彼女の新作が読めて大いに興奮した。「まだ現役でいてくれた!」と。しかし私は勘違いしていた。彼女は一度も引退などしていなかった。そもそも『絵本江戸の歌舞伎』が発展して『鼻紙写楽』になったのだ。そもそも彼女は画家の夢破れて漫画家になったわけじゃない。漫画家になるために芸大に入ったのである。というようなことを、今回ロングインタビューを読んで知ることができた。彼女は古いタイプの漫画少女だった。 今回作家の伊藤比呂美などが「漫画は三度の飯より好きだけど、何回も引越ししてその度にほとんどの本を処分してきた。ずっと持ち続けてきた漫画は一ノ関圭だけだ」と告白しているように、彼女の漫画にはカリスマ性がある。こういう本にありがちの「圭論」などや、扉絵原本、ネーム公開、そして単行本未収録の「クレソン」掲載などがあるが、最も貴重なのは、ほぼ100ページに渡る、著者本人がほぼ全ての作品について語り尽くすロングインタビューである。 今までの一ノ関圭は「生ける伝説」だった。この本によって「生ける巨匠」になった。今後、作品の再読をしていかねばならない。表紙は『らんぷの下』小学館叢書および小学館文庫カバーイラスト。
2020年01月11日
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「月刊たくさんのふしぎ 琉球という国があった」上里隆史・文 富山義則・写真 一ノ関圭・絵 福音館書店 この前沖縄に行ったからこの本を紐解いたわけではない。ましてや、この表紙を見ると池の上に赤い屋根の首里城が見える。昨年秋に同じ景色を見たけど、赤はもう見えなかった、などと言いたいわけじゃない。絵を「あの、一ノ関圭」が描いていることを知ったからである。えっ?あの?一ノ関圭ってだれ?と思った貴方、おそらく40代以下ですよね。漫画界のあの生けるレジェンド、18回ビッグコミック賞を開催して、2人しか選ばれなかった中の1人、1975年にデビューしてコミック単行本は現在のところ4巻でほぼ全てという寡作ぶり、油絵作家と見紛うような画力、現代の漫画家がめんどくさくてほとんど採用しない構図の採用、かなり入り組んだストーリー、くっきりしたキャラ、誰もが認める完成度‥‥キリがないのでこの辺りにします。あの一ノ関圭が、絵本の絵は、これまで5冊も描いていたということを最近知った。この「たくさんのふしぎ」シリーズ3冊と、岩波書店の絵本2冊である。もっと検索したら、単行本の表紙も何冊か描いていた。 とりあえず、彼女の絵を観た。当たり前かもしれないが、漫画のように吹き出しは無い。キャラも作っては無い。むしろ、ここまでやるのか、というほどに学術的正確さを追求した絵を描いていた。貿易品、船、那覇港の昔の俯瞰図、そして市場の様子。そうだった。この徹底さが彼女だった。お手本はある。私はこの秋、那覇市歴史博物館で実際の絵を幾つか見ている。市場の絵などは、遥かに生き生きと描いている。 描かれた人物を見てみると、やはり紛うことない彼女だった。 文の内容は、とても小学生向けとは思えない。琉球歴史入門として、この間に読んだ沖縄関連本のどれよりも詳しく書いてあった。
2020年01月10日
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「風の万里 黎明の空(下)」小野不由美 新潮文庫 この巻は物語の王道を通って、見事に終着しました(少女たちの成長物語、ラスボスの正体)。この巻には、慶国のみならず、芳国、才国、柳国、恭国の状態まで出てきます。これまで巧国、戴国、雁国が出てきているので、これで八国の状態がわかりました。国境を越えると明らかに国力に格差があるとか、十二国で生きることが、立体的にわかってきました。 解説の金原端人が、『ナルニア物語』『指輪物語』を例示してこのシリーズの最後を示唆しています。つまり、世の名のある英雄物語は『英雄の帰還』だけでは終わらない。英雄の『死』によって終わるのです(例えばヤマトタケルは白鳥になって去っていった)。もちろん、この時点で金原も私も、最後を知らない。「物語の運命」という見方で最後を予想するのは、ファンタジーの一つの愉しみです。シリーズが折り返し地点を過ぎた今、だんだん見えてきたような気がします。 ここまでわかった年表を訂正加筆して載せます。 1467年 六太1歳応仁の乱で罹災する。 1470年 六太4歳延麒となる。 1479年 瀬戸内海賊村上氏により海辺領主小松氏滅亡 (大化元年) 雁国延王尚隆が登極 1500年(大化21年)元州の乱 斡由誅殺 X元年 泰麒 胎果として日本に流される X4年 才国采王黄姑が登極 X9年末 慶国予王が登極 X10年 泰麒 2月蓬山に戻る 戴国泰王驍宗が登極 X11年 泰麒 4月日本に戻る X 12年 芳国峯王仲韃崩御、娘の祥瓊の仙籍剥奪 X 13年 芳国の麒麟の卵果触により流される X14年 5月慶国予王崩御。 X15年(1992年?)1月?陽子日本より来たる 10月慶国景王陽子が登極 X 16年 慶国で和州の乱 鈴と祥瓊は王宮へ 陽子伏礼を廃す X17年 泰麒 9月戴国に戻る
2020年01月08日
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『称えることば 悼むことば』加藤周一 鷲巣力編 西田書店 他をして自らを語らしむ。加藤周一の書物への推薦文も、友人の弔文も、結果的には自画像になっていたと私は思う。2008年12月5日、日本の知性は、そのひと頭分低くなった。10年を過ぎて、少しその幻影を追ってみた。 自己の感受性に忠実に生きるということ。夢想家だけが、帝国主義戦争の本質を見破れるだろう。(『片山敏彦著作集』1971) その仕事は、近代日本の散文の基礎を築くことであり、全く独創的な一つの文学形式を生みだすことであった(いわゆる史伝)。しかも科学者としては、衛生学の技術を輸入し、実験科学の精神を説き、思索家としては、儒家の伝統に従って、超自然的な絶対者をではなく天下国家の現在と将来を考え、儒家とは異なり、単に政策ではなく社会構造そのものに思いを致した。仕事は多方面に渡り、業績は、何れをとっても、群を抜く。(『鴎外全集』1971) いま日本の思想家を、その独創性、対象の包括性、論理の整合性、影響の拡がりによって測り、五指を屈するとすれば、たとえば仏家に空海・道元、儒家に徂徠・白石、国学に宣長をみるだろう。(『荻生徂徠全集』1972) 中村真一郎に三善あり。第一は、天下の政事に係らぬことである。故に安んじて風雅の道に遊ぶことができる。第二は、書を読んで古今東西の文芸に渉ることである。したがって文壇一時の流行を文芸の大道と心得ることがない。第三は、その文章が明快で、おどろくべし、読めばその意味がはっきりとわかることである。思わせぶりの美辞麗句の落ちついて考えれば何のことかよくわからぬ深刻さがないのは、けだし当代文苑の奇観というべきだろう。(中村真一郎『この百年の小説』1974) この人々は、単に気分に従って生きたのではなく、考えて自己の生涯を択び、常に大勢に順応したのではなく、しばしば少数意見に徹底し、近代日本の発展を、単純な成功物語ではなく、激しい批判の対象としても捉えていた。(『日本人の自伝』1980) 大江健三郎は何故抗議をするのか。(略)それはおそらく平和であり、樹木であり、生命の優しさでもあるだろう。たしかにそれこそは、もし文学者が語らなければ、誰も語らないだろう壊れ易いものである。(『大江健三郎同時代論集』1980) 二葉亭四迷は、いやだから首相の宴会には行かない、といった人である。「このいやといふ声は小生の存在を打てば響く声也」。そのことと、彼がロシア文学の中で、ツルゲーネフばかりでなく、ガルシンやゴーリキを訳したこと、また小説を書いて同時代の日本の一市民の日常生活を、その条件を超えようとする願望との関連において描いたこと、さらに日本語の散文を日常的な話し言葉に近づけた(一致させたのではない)こととは、密接に係っていたにちがいない。(『二葉亭四迷全集』1981) 日蝕がいつ起こるかは正確に知ることができるが、革命がいつ起こるかはわからない。しかし日蝕よりも革命の方が、われわれの生活に大きな影響を与える。自然科学と社会科学とでは、予見可能性と共に扱う対象の性質が違う。その方法はどう違うか。社会科学的の広大な領域を見渡して、およその見当をつけるためにこの講座は役立つだろう。(『岩波講座 社会科学の方法』1992) ーーーーここに至るまで、未だ全体の1/4ほどからしか抜書きしていない。何処を抜書きしても、恐ろしいほどにその著者の本質を突き、怖いくらいに加藤周一自身を語っているようにしか思えない。たった200-800字ほどの文の中に、加藤周一ほどに10数巻に渡る全集の本質を閉じ込める力量を持つ評論家を、現代日本において私は知らない(誰かいたなら教えて欲しい。しっかり読んで批評させて頂きます)。 「悼む」文章は「称える」よりも比較的長いが、長くても10ページほどに過ぎない。その中に人物を簡潔に的確に纏めて余す所がない。いや、ほとんどはもっと短く纏める。私は40年前に朝日新聞で「福永武彦の死」を読んだ(1979.8.15)。1800字程の文章の中に、未だ読んだことのなかった福永武彦の全てと、限りない友情が詰まっていた。加藤の尊敬するサルトルの弔文、青年時代の師匠林達夫への弔文・弔辞、その他さまざまな友人たちへ捧げる文章。加藤周一ほどに友情を大切にする文学者を私は知らない。 いかん。だんだん、だらだらした文章になってきた。切ります。(文字総数1801)
2020年01月07日
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「加藤周一、米原万里と行くチェコの旅」小森陽一・金平茂紀・辛淑玉 かもがわ出版 「中欧から見た世界と日本」という副題がついているように、加藤周一と米原万里がチェコを案内する本ではない。そもそも2人とも既に故人だ。彼女たちと知古ある小森陽一と金平茂紀がこれをテーマにした団体旅行のコーディネーターを勤めた本である。最後の日に韓国ヘイトでパリに来ている辛淑玉の参戦もある。 ほとんど観光ガイドではない。地図は一切ない。ただ、加藤周一、米原万里、小森陽一と並んだだけで、私にとっては「特別な本」となる。加藤「言葉と戦車(1968)」の副読本であり、2004年9条の会立ち上げの裏話でもある。小森はチェコのロシア語学校の米原の後輩であり、金平も小森も米原の生涯の友達だから、たくさんの裏話を持っていた。なおかつ、小森の博覧強記がチェコのあまり知られていない国の歴史を概括的に説明する旅でもあった。 加藤周一は、私が最も尊敬している思想家だ。信条として政治参加しないとしていた彼が、信条に反して晩年に9条の会を立ち上げたのは、9条改憲の最大の危機を自覚したためだ。今回わかったのは、日本最高峰の知性が「今がチャンスだ」と戦略的に考えたからだった。加藤周一は後に9条の会の事務局長になる東大文学教授の小森陽一に聞く。 「小森くん、60年安保世代は今何歳だ?」 「当時20歳ならば63歳、30歳ならば73歳です」 「そうか。全員会社を辞めて組合からも自由だな(今が闘い時だ)」(56p) 実際、9条の会はその後急速に拡がり、やがて改憲反対の世論は、その後逆転するである。他にも幾つか逆転する要因はあるが、現在に至るまで改憲を許していない。私は9条の会を、「戦術的」ではなくて「戦略的」に、戦後の支配者側の思惑に勝った唯一の例だと思っている。 閑話休題。 金平さんはジャーナリストらしく、米原万里さんとの裏話を、かなりあけすけに語っている。驚いたエピソードがある。山口記者の伊藤詩織さんへの事件のような酷いことが、米原万里さんにも起きていた。当時橋本龍太郎首相のロシア語通訳を勤めていた米原万里さんに、橋本は酒に酔って米原さんの部屋に突然入ってきていきなり覆い被さって来たというのである。万里さんは腕力があるから蹴っ飛ばしてことなきを得た。橋本は「おれがこういうふうに来て、断ったのはお前が初めてだぞ!」と捨て台詞を残して帰っていったらしい(114p)。時の政権が山口を庇った理由がこれでも判る。 半分以上は、加藤周一・米原万里が見る世界と日本を、小森・金平そして辛の目から解説した内容である。私には、とっても面白い紀行本だった。
2020年01月06日
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「図書 2020年1月号」 三浦佑之氏の『風土記博物誌』が最終回を迎えた。最後は浦島伝説を取り上げる。丹後風土記逸文(原本は散逸して注釈書に残っているということ)のそれであるが、おそらく浦島伝説としてはもっとも古いものである。 亀をいじめっ子から助けたわけではなく、五色の亀を釣って船の中に置いておくと、亀は仙女になり、誘惑して、蓬莱山に連れてゆくというお話である。あとは世の浦島太郎伝説と変わらないと、私は判断する。 時間の概念云々ということも、三浦さんは述べているが、私が注目するのは小野不由美の『十二国記シリーズ』との関連で、「海」と「変身」と「仙女」と「蓬莱山」というワードだ。十二国記シリーズでは、日本から虚海を渡って十二国にたどり着くと、そこには仙女がいる。また、いろいろ変身できる妖魔もいれば、半獣もいる。蓬莱山は倭国という設定ではあるが、十二国には蓬山があり、そこに仙女はいるのである。「この発想は、中国の神仙思想に基づいた神仙伝奇小説と呼ばれる作品に影響されて生まれたものであ」るだろうと三浦さんは推測する。風土記成立は8世紀ごろだとすると、その神仙伝奇小説はどんなものなのかは気になるところではあるが、ここでは展開されていない。まぁ図書館で調べてみよう。 その他で面白かったのは、さだまさしと立川志の輔の対談、鹿子裕文の『方丈記』と『方丈記私記』についての前編などでした。
2020年01月05日
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「宮沢賢治のオノマトペ集」栗原敦監修 杉田淳子編 ちくま文庫 初めて賢治を読むとしたら、かなり高い確率で『風の又三郎』になるだろう。そしたら、冒頭から「どっどどどどうど どどうど どどう」と眼の中に飛び込んでくるだろう。いや、耳に聞こえるだろう。確かに風は「どっどどどどうど どどうど どどう」と鳴るのだ。そうやって、一挙に賢治の世界に引き込まれて、気がついたら40数年間が経っていた。 賢治のオノマトペは、それほどに強烈で独創的で現代作家でも比類が無い。この文庫本は、眼からウロコ、右にイラストレイターの文字、左に解説を書いて160近くのオノマトペを紹介している。 『しみ雪しんしん、堅雪かんかん』と云ひながら、キシリキシリ雪を踏んで白い狐の子が出てきました。(「雪渡り」) 子どもたちにとって「しんしん、かんかん」は常套句なんだけど、ホントの音はキシリキシリとやってくるんだ。 水が湧き出すのは「ころころころころ」(「双子の星」)湧き出したり、「ころんころん」と出たりする(「銀河鉄道の夜」)。そうだよ、霧は「ツイツイツイツイ降って来」るんだよ(「十力の金剛石」)。でも、そのあと霧は小雨に変わり「ポッシャンポッシャン降ってきました」。蛙が泳ぐ様はスイスイとは泳ぎません。「ちぇっちぇっ」「ツイツイツイツイ」「プイプイ」泳ぐのです(「蛙のゴム靴」)。小さき生き物をこんなにも観察している。 『クラムボンはわらったよ。』 『クラムボンはかぷかぷわらったよ』(「やまなし」) 「かぷかぷ」って何?「クラムボン」って何?やがてコレが水底の蟹の子どもたちの会話だとわかってくる。もうかぷかぷとしか笑わないと思えてくる。 引用は童話に限られていて、詩集からは採っていない。まぁそこまで広げたら収集がつかなくなること請け合い。ともかく、賢治は天才なんです。
2020年01月04日
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『銀河鉄道の父』門井慶喜 講談社 30年近く前、初めて賢治の故郷・花巻を旅したとき、最初に尋ねたのは賢治の生家だった。写真を撮っていると、木戸を開けて背の高いおじいさんが出てきた。一目で賢治の弟の宮沢清六さんだと分かった(のっぺりとした面長の顔で、賢治の面影があった)。 「何をしているのですか?」 「‥‥(すみません)」 「何処から来たのですか?」 「岡山県です」怖かった。 でも写真を撮っているのを咎めることもなく、 「この道を真っ直ぐ行って左に曲がると、羅須地人協会の跡があるから行ってみると良い」と言ってくれた。 と、いうことをこの小説を読んでありありと思い出した。清六さんは賢治の父、政次郎に瓜二つだったのかものかもしれない。穏やかで物事を全て見通して、しかも厳しい。(清六さんの本については「兄のトランク(ちくま文庫)」を2013年11月に書評した) 父親から見た長男・賢治像。 だからか、中学時代のヤンチャも、入院の時の初恋も、農学校時代の友情も、この小説には一切出てこない。でも知らなかったことも出てきた。人造宝石は聞いたことがあったが、製飴工場経営を夢想していたなんて初めて知った。父親からしたら、穀潰しのニートにしか見えなかったかもしれない。もとより、にわかファンならばいざ知らず、賢治ファンならば賢治が聖人君子ではないことは周知のことである。賢治も自覚している。だからこそ「おれはひとりの修羅なのだ」と謳ったのだ。そして妹のトシだけには見えていた。賢治の才能が。同時にその純粋性が天才なのだということも、トシともに私たちも知っている。ハッキリわかっていなかったのは、やはり政次郎なのだろう。でも、政次郎は私たちには及びもつかないほどに息子を愛していた。生涯かけて賢治を支援したのは確かなのだから、愛していたのはやはり小説的フィクションではなく真実なのだろうと思う。 写真を撮っていた時、生垣の向こうのあの二階で賢治は最期を迎えたのだろうか、と想像していた(実際は戦災で焼けたらしい)。最期のとき、忘れられないやりとりがある。父親に遺言は無いか、と聞かれて賢治は「法華経訳本を一千部刷ってみんなに渡して欲しい」と伝える。それを聞いて政次郎は 「えらいやつだ、お前は」 と云ったというのだ。 賢治は清六さんに 「おらもとうとう、お父さんに、ほめられたもな」 と呟いたという。 この最後のやりとりは、小説でも私の知っている通りに描かれる。私は、小学校の時に「伝記宮沢賢治」を読んで以来40数年間ずっと思っていた。賢治にとって、父親とはそれほどまでに「大きな壁」だったのか?と。 ところが、である。小説では、政次郎は(嘘だ)と心の中で抗議する。(とうとうどころの話ではない。これまで何度ほめたことか)。ここが、直木賞を獲ったこの小説の肝である。最初から壁なんてなかった。父親はいつでもお前(賢治)を認めていたし、愛していたんだ、と。それが父親なんだ、と。 私は思う。それは政次郎さん、あなたの思い込みです。初めての童話集を褒めたのは、貴方の夢の中だったんじゃないですか?賢治がどうして『春と修羅』出版に関しては、貴方の援助ではなく、知人からの借金で出版したのか。トシとの最期のやり取りは、アレはあれで真実だった。でも貴方は必ず横槍を入れるから貴方の知らない所で無理して出版したのです。その他いろいろ。賢治にとって、貴方はずっと「怖い」存在だったんです。最期の最期に法華経の頒布に貴方は賛成した。それは賢治にとって、無常の喜びだったはずです。「いい気持ちだ」それが賢治の最期の言葉でした。父と子は、古今東西こういう関係を持つのかもしれない。
2020年01月03日
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新年 明けましておめでとうございます 近くの氏神さまにお参りに行ったときに、こんなものを見つけました。 いいことやっているな、 真似したいけど、勇気ないな。 でも、元旦に良いもの見ました。 これだけではアレなので、 今年の金メダルを願って サービスのシブコです。
2020年01月01日
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