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2018年04月21日
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テーマ: 本日の1冊(3691)
カテゴリ: 万葉集



文学日記(13)「口訳万葉集」折口信夫

日本最古の歌集を、昭和の鬼才折口信夫が訳していた。しかも、口述筆記。3人の友人がテキストだけで辞書も持っていない折口から書き取るという形で、4500首ほどの訳を書き写したという。しかも漢字の割り振りは独特、句読点をつける等々、鬼才ならではのテキストになっている。

その中から池澤夏樹は203首を抜き取る。広く知られた歌が多いが、読んで行くと柿本人麻呂の歌が抜きん出て多い。何故か、は結局解説では展開されないが、池澤の私淑する丸谷才一の人麻呂評(359p)を読むと納得できるのである。

その中から更にわたしは何首かを選んで元歌と訳に対する感想を記す。記さざるを得ないほど、多くのことを思った。思うに、技巧の少ないこの歌に、人の気持ちのほぼ全てがあるやに感じるからである。今日はその前半だけを記す。

三輪山をしかも隠すか。雲だにも心あらなむ。かくさふべしや(井戸の王)
訳者は「山について思う所の浅い今人の感情との相違」を云う。山がどうなっているのか、それは人智を越えた神の世界がどうなっているのか?ということに繋がっていたのかもしれない。

あかねさす紫野ゆき標め野ゆき野守は見ずや君が袖ふる(額田女王)
・有名な歌である。これに天武天皇が「人妻ゆえにわれ恋ひめやも」と返した。折口は最初「心なき野守も見てはどうか」と、見てくれとばかりな訳にしたが、後年「それを野守は見とがめはしないか知らん」と直した。まあ秘めたる恋ならばそれが普通で、最初の訳の方がおかしい。けれども、この2首が勅撰和歌集に載っていることの方が、そもそも現代の常識とは違う。

あごの浦に船乗りすらむおとめらが、玉藻の裾に潮満つらむか(柿本人麻呂)
・「その美しい袴の裾に、挙げても挙げても、潮が満ちよせて来ているだろうよ」と訳す。それはエロいということの一歩手前の、なんとも眩しい情景。こういう情景を日本語が切り取ることのできた事実に先ずは驚く。

東の野にかぎろひの立つ見えて、かえりみすれば、月傾きぬ(柿本人麻呂)
・東の朝日、西の月。折口は(これは朝猟の後の歌)とだけ注釈を入れる。この世界(宇宙)の発見をもっと褒めそやしもいいように思うのに。

葦べゆく鴨の羽交に霜ふりて寒き夕は、大和し思ほゆ(志賀の皇子)
・なんと訳の最後に(傑作)という一言が着いている。傑作の全てをこの全集に入れているのかは知らないがあと6首ほどはある。柿本人麻呂と比べて、それほどまでにすごいとは私は思わない。ともかく寒い夜に故郷を思う、その気持ちはよくわかる。

我が岡のおかみに命ひて降らせたる、雪の破片しそこに散りなむ(藤原夫人)
・天武天皇が「俺ん所はこんなに雪が降ったぞ。お前の所に降るのはもっと先だろ」の歌への返歌。「おかみ」に折口はむつかしい字を充てている。しかも「雨龍」と訳している。言いたいことは「そんなことでご自慢をしてはしたない」ということ。しかし神の使い方がなかなか新鮮。

秋の田の穂向きのよれる片寄りに君に寄りなな。こちたかりとも(但馬皇女)
・こういう歌は男はやはり歌えない。どんなに世間が悪く言おうと、貴方に寄りかかる、という宣言である。本人は強いのに「寄りなな」なのである。守るでも、寄り添うでも、ない。それと、女性の家の周りにはやはり田んぼだらけなのかな、とも思った。

篠の葉はみ山もさやにさやげども、我は妹思ふ。別れ来ぬれば(柿本人麻呂)
・笹の葉はやはり「さやにさやげども」になるよねえ。この言葉の感覚!

降る雪はあはにな降りそ。吉隠の猪養の岡の寒からまくに(穂積皇子)
・但馬皇女の亡くなったあとの歌。芯の強い女性なのに、亡くなる時にはなくなるんですね。両想いでも上手くいかない。それを周りが理解して和歌集に載せる。この宮廷社会とはなんなのだろう。

鴨山の磐ねし枕ける吾をかも知らにと妹が待ちつゝあらむ(柿本人麻呂)
・「石見の国で死に臨んだとき、自ら傷んで作った歌」と詞書。どうして石見まで来ていたのか?鉱山発見のため?それにしても、言葉の力をしんじているからこそ、最後に妻のことを詠む。子供のことではない。ましてや、上司や仕事のことではない。歌人の仕事を最後まで自覚して逝ったということか。

田子ノ浦従(ゆ)うちいでて見れば、真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける(山辺赤人)
驚いた!小倉百人一首とは違うこんな別歌があったのか!「従うちいでて」とは、「歩きながらずっと先まで出て」という意味らしい。

あをによし奈良の都は咲く花の匂ふが如く今盛りなり(太宰の少弍 小野老 )
・「奈良の都は、まるで咲いている花が咲き満ちているように、今や繁盛の極点にあります。ああその奈良が恋しい」と訳す。そういう歌とは知らなかった。

吾がさかりまた復(を)ちめやも。ほとほとに奈良の都を見ずかなりなむ(師大伴旅人)
・「私の花の時代は、もう2度と若がえってくるはずがない。ひやいなことよ。奈良の都を、帰って見ることが出来なくなりそうだ。ひやひやする。」この訳のひやひやがよくわからない。自嘲気味に(^_^;)という意味だろうか?ならば、よくわかる。

しるしなく物思はずは、一杯(ひとつき)の濁れる酒を飲むべかるらし(大伴旅人)
・「役にも立たないのに、色々考えこんでいるよりは、一杯の濁った酒を飲んだ方がよいにきまっている」この歌ができて、古来果たしてどれくらいの酒がこの歌とともに飲まれたことだろうか。

世の間(なか)を何に譬へむ。朝発(びら)き、漕ぎにし船のあとなきごとし(沙弥の満誓)
・「あとのごとし」ではなく「あとなきごとし」と詠む、そのニヒリズムは、既に近代の人間が如し。






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最終更新日  2018年04月21日 18時38分14秒
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