ボクらのカリカチュア

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2009/10/16
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カテゴリ: クロノス
街路樹の葉が色づき始める季節。


はじまりの街。この街の中心には広場と、冒険者の旅立ちを祝福する女神像が座する噴水がある。そこはいつも、行き交う冒険者たちや露店が賑わいを見せている。
噴水の前は専ら、旅の仲間を見つけたり、待ち合わせに利用されたりと、多くの者たちの交流の場となっていた。


足元に小さな影を落とし、頭上をトンボが飛んでいった。それを眺めながら「もう秋か」と、一人ごちる男。噴水の脇で一人、物思いに耽っているのはパラディンのソフィアンであった。

彼がはじめて大陸に降り立った季節も秋だった。ちょうど、今ではすっかり馴染みとなった南瓜祭に、皆が心を奪われていた時期の事だ。

あれから数年。いざ思い返してみると、「あっという間だった」なんて一言では片付けられないほどに、この大陸では多くの経験を得ていたことにソフィアンは気がついた。

それは戦闘で得られる経験値だけではない。南瓜祭は勿論、政府の主催する多くのイベント。一般の冒険者が独自に企画した祭事にも、数多く参加してきた。
そして、開拓や探索を通じ、仲間と過ごしてきた、たくさんの日々。ソフィアンは自然と目を細めて、それらの思い出を反芻していた。



物心ついたとき、家族は既に父と自分の二人だけだった。父は母の事を一切話さなかったけれど、片親であることを苦にせず、一生懸命に彼の事を育てた。父は冒険者だった。

しかし彼の父は、ソフィアンが義務教育を修了してすぐ、病に臥せってしまったのだった。彼は父が療養に必要な薬代を稼ぐ為に、自身もまた冒険者となったのである。

そんな彼の元に、先日故郷から訃報の便りがあった。実家の父が亡くなったという報せだった。

実家で父の葬儀を終え、大陸に戻ったのが二日前。それとなく決心はついていたけれど、やはり彼は、大陸を去るつもりでいた。
父はソフィアンの仕送りを、僅かずつではあるが彼の為にと、手をつけずに貯金していた。相続するのは勿論ソフィアンである。
彼自身にも幾分蓄えがあり、併せれば暫くは働かなくとも、一人で暮らすのに十分な額となった。

「暫く休んで、それから・・・畑でも耕すかw一人で暮らすにはそれで十分だ」

思いながら、ぼんやりと空を見つめる。ギルドセンターの上を、ひつじ雲の群れがゆっくりと東へ流れていくところだった。

いつもは何気なく眺めていた空も、こうして感傷に浸ってみると普段とは随分違って見えるものである。
冒険者としての自分は、あと何度こうして空を眺めるのだろうか。そして二度と、父と同じ空を見上げることが無いことに気づくと、とても悲しい気持ちになった。

「さて、」



「最後くらい、景気良く叩いてみるとするかな!」





「随分と溜め込んだものだな。しかし、大掃除には少し早いんじゃないのか?」

倉庫を漁るソフィアンの様子を眺めつつ、木箱に腰掛けたイートンがパイプの煙をくゆらせながら言った。

「ああイートン、ちょうど良かった。確か倉庫のどこかに、エンチャントストーンをまとめて預けていたかと思うんだけど。場所がわかんなくなっちゃって困ってたんだよね」



イートンは台帳を手に取ると、慣れた手つきで目録を確認していく。

「こっちの倉庫だな。どうした、個人商店で出品でもするのか」

「それがね、」

ソフィアンは自分が大陸を去ることと、その経緯について話して聞かせる。

「なるほど。まだ若いのに大変だったな」

「あんまりさ、まだ自覚は無いんだよ。で、エンチャンストーンなんだけど」

「今まで自分が使ってた装備とか、とにかく装備を叩くんだろう?」

「良くわかるね。元冒険者の勘ってヤツ?」

「そういうわけじゃあない。ただ、同じような連中を何人も見てきたからな。冒険者を引退する連中が、最後の博打。エンチャに興ずるなんてザラさ」

「まあ、良く聞く話ではあるよね」

「お前さんみたいなマジメな人間がやるとは思わなかったがな」

「エンチャ大会っていうの?一回やってみたかったんだよね。それに俺は別にマジメだったわけじゃないよ。不器用だから、エンチャは今まで敬遠してただけw」

言って、ソフィアンは「ハハっ」と笑って見せた。

「そうか。まあ、止めはせん」

表情を変えずにイートンは言う。


「さて。必要なエンチャントストーンは全て出したし、倉庫の整理も終わった。これで、もうここに来るのも最後かな。イートンにも世話になったね」

「他の引退した冒険者も同じなんだが。倉庫はいつでも使える状態にしておく。もし戻って来るような事があったら。その時はいつもどおり、好きなように使うがいい」

「ありがとう」

「商売人としての常套句さ、気にするな」

「OK。それじゃあ、またね」

「ああ。達者でな」





エンチャ大会に必要なエンチャントストーンや装備、処分してお金に換えるアイテムなどを手に、ソフィアンは家路に着いた。

「エンチャが終わったら、木賃宿も払わなきゃイカンなー・・・なんだか面倒になってきた」

自暴自棄になっていたとか、過去を断ち切るために、などと理由があるわけではない。なんとなく、胸のうちの靄をスッキリさせるにはエンチャが良いのではないかと思いついたのだった。

「最高位の精錬アイテムが出来ちゃったらどうしよっかなー。やっぱり復帰しちゃおっかなー」

そう考えると、なんだか不思議と楽しくなってきた。
装備の展望をはじめとする皮算用は、やはりいくつになっても楽しい。己自身の育成方針や、将来身につけるであろう装備の数々。それらを夢想して練磨する日々こそ、冒険者としての何よりの生きがいではないか。

最後の博打、とイートンは言ったか。エンチャ大会を前に。我知らず興奮しているのかもしれない。
こういう浮かれた時に限って、どこかに忘れ物をしたり、物を落としたり、近視眼的になりがちであることに自覚はあった。
財布の所在や貴重品の忘れ物などを確認しながら、どこか慎重に歩き始めたソフィアン。しかし、傍から見た彼はどうにもそわそわしているように見えてしまうのだから滑稽だ。彼の決して憎めない人間性が伺える。

ソフィアンの寝起きしている木賃宿は、街のやや外れに建っている。人の往来の少ない路地を、近道にと選ぶ。
すると、ソフィアンの目の前を、人目を忍ぶようにコソコソと歩く人物が横切った。

「む」

気になって、その人物が入って行った道を覗いてみる。陽の当らない、建物の間の狭い道。
怪しい人物はひとつの裏木戸へ隠れるように入って行った。

物取りか何か。兎に角怪しいことに、違いは無い。正義感は強い方ではなかったが、流石に見過ごすこともできないと、ソフィアンは彼を追って薄暗い路地に入って行った。

「この家か・・・?」

閉まりきっていない木戸が、キイと僅かな音を立てた。隙間から中を覗こうとしたそのとき。

「ぬあああああああ!」

建物の中から聞こえる絶叫。ソフィアンは舌打ちをして、扉の中へと進入した。





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Last updated  2009/10/16 06:40:43 PM
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