ボクらのカリカチュア

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さいこ@エク

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2009/10/21
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カテゴリ: クロノス
その日から早速「エンチャントの練習」がはじめられた。

まず叩いたのはアヴァロンペンダント。ほんの肩慣らしのつもりで叩いたつもりであったが、ペンダントは無残にも最初の一撃で粉々に砕け散ってしまった。

気を落とす木綿子。それを見たソフィアンは自分も同じように、別なアヴァロンペンダントをエンチャントして叩き壊して見せた。

「なかなか難しいもんだな。まあ、最初はこんなもんだよ。焦ることないって」

「・・・うん」


結局その日は、タイタンアーマーが目指す、目標の精錬度のアイテムを作成することはできなかった。

翌日も、ソフィアンは木綿子の家にエン石を持って訪れた。ソフィアンは口出しをせず、木綿子がエンチャントするのをただ見守ることに努めた。


彼が昼に訪れ、日が暮れて帰宅するまで、エンチャントの練習は続いた。
ソフィアンは彼女が思いつめないように、時に励ましの言葉を与え、また時には気晴らしの為にか、自分に裁縫を教えてくれと申し出た。


それを見た木綿子はそれまでの緊張が無かったかのように、無垢な笑顔を彼に見せた。

「おまwwえwwwそれ何だよwwwカビの生えた大福か?w」

「和菓子に例えるな!これはアレだ、スライムだ!」


ソフィアンはまた、夕餉の食材をいつも持参して来た。

「今日はロン牛の肉を持ってきた。これは高級だぞ!それに栄養満点だ!お前は普段栄養が足りていないようだからな。だからそんなに育ちが悪いんだ」

「大きなお世話だバカ!」

ソフィアンは木綿子の作る食事を、毎晩美味そうに食べた。

ソフィアンは母の手料理を食べる機会がなかったが、きっとこんな味なんだろうと感じていた。
木綿子は未だ家族が皆で、この家で過ごしていた頃の楽しかった記憶を思い出していた。彼女もまた早くに母を亡くし、父の手ひとつで育っていた。
彼らはどちらも兄妹はいなかったが、ソフィアンは母か妹、木綿子は父か兄の姿を、お互いに重ねているようであった。

今はもう自分以外、他に家族を持たない二人である。



そんな生活をするようになって4日目。はじめて目標とする精錬度が達成された。そのとき、ソフィアンはまるで自分の事のように喜び、木綿子を褒め称えた。木綿子はそれを受け、一層練習に熱を込めた。

そうする内に、段々と精錬の結果に変化が現れはじめた。
最初こそ、ここぞというタイミングでは装備を壊し続けてきた木綿子であったが、三つに一つは目標の精錬度のアイテムを手元に残すことが出来るようになっていたのだ。


そんな充実した楽しい時も、いつまでも続くわけではなかった。しかし、可能性はエンチャントの成功確率分、確かに残されているのだ。

明日は借金の返済期日である。きっと。



木綿子はそう願って止まなかった。


そして。その時は突然やってきた。木綿子がいつものように、訪れたソフィアンに茶を出し終わった頃。雑談に興じる二人の耳に扉を乱暴に叩く音が届いた。かと思うと、誰が返事をする間もなく扉が勢いよく開け放たれた。

ずかずかと、無言のまま横暴に家に踏み込んできた、その男たちは三人。
まず、長髪のオールバックとスキンヘッドが一歩、板の間へと踏み入ってくる。その様子を、戸外から黒ずくめの服装をした金髪の男が不機嫌そうに眺めていた。この初老の顔面には大きな、額から顎にかけて袈裟斬りにされた古い傷跡があった。

部屋に踏み入ってきたスキンヘッドが口を開こうとしたとき、彼はソフィアンの姿を見つけて絶句した。

「あ!あ、あに、」

ソフィアンも一瞬戸惑ったような様子であったが、直後に状況を判じた様子で、眉根を寄せた鋭い目つきで闖入者をにらみ付けはじめた。その眼光にすくむ二人の男たち。

「なんだ、どうした」

戸外から訝しげな表情で、金髪が部屋の中へと足を踏み入れる。やはりソフィアンに一瞥をくれると、僅かながらその表情には変化が見て取れた。
しかし、前の二人のような動揺は無く。むしろ予想外の役者の登場に嬉々としているようにも見える。

「これは、客人の前で失礼。けれどもう、出直すような事は残念ながら、無い・・・このまま続けさせてもらうぞ」

「おい」と金髪が、ポケットに両手を突っ込んだまま顎をしゃくる。それを見たオールバックたちは我に返ると、若干戸惑いながらも二の句を次ぎ始めた。

「さ、探すのに随分骨が折れたぞコラ」

「さんざ逃げ回りやがって、あまり手間を取らせるんじゃねえ」

「別に、逃げ回ってなんかない」

木綿子は中腰になって気丈に言い放つ。

「ああ?それじゃあ、売春宿の面接をしてやろうとしたときに、うちの事務所から泣いて逃げ出したガキは誰だったんんだぁあ?」

スキンヘッドの大男が、ソフィアンを気にしながらもすごんで見せる。オールバックの男がそれを制するように一歩前に出る。

「クリフ、もういい。・・・悪いがお嬢さん、もう待てない。俺たちは十分我慢した、俺たちは何度も返済期限を延ばしてやった。約束の期日には少し早いが、今ここで出すモン出してもらうぞ」

ソフィアンは彼らの様子をただ窺っているようで、口を出そうとはしない。
リーダー格らしき黒ずくめの男が、大儀そうな所作で框の手前まで歩み入る。

「それで、決まったのか。叩くのか、それとも叩かないのか。まあ、どの道何年かは娼館に入ることになるんだが、」

そこでソフィアンをチラリと見る。ソフィアンは男を睨みつけたが、そこには一種諦観の色が浮かんでいる。そして、

「大丈夫だ。ユウコ、鎧とエン石を持って来い。俺のカバンの中に、一等力をもったエンチャントストーンがある。それを使うんだ」

ゆっくりと、安心させるように言った。

「でも、」

「大丈夫だ。自分を信じろ」

手下と思しき二人の男たちは先ほどの乱暴な口ぶりとは裏腹であった。今はもう何故か不安そうに、そして憐れむかのような視線をソフィアンたちへと向けているのだ。
一方黒ずくめの男は冷笑を称え、まるで今の事態を予期していたかのような様子である。


エンチャントの準備を終え、自分の横に腰を下ろした木綿子。その心臓の音が、聞こえた気がした。ただ、実際には彼女の小さな、押し隠そうとした息遣いが耳に届くばかりである。それから、僅かな耳鳴りがしているようだ。手にはじんわりと汗が滲んでいた。


目を瞑り、エンチャントストーンを両手で握りしめていた木綿子は一つ大きく息を吸うと、目をしっかり開いてソフィアンを見た。ソフィアンはその目をじっと見ながら、頷いてみせる。

鎧に向き直った木綿子が、エン石をゆっくりと振り上げる。

そして。

エンチャントストーンが、鎧を打つ音が室内に響き渡った。





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Last updated  2009/10/21 09:10:46 PM
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