空想世界と少しの現実

空想世界と少しの現実

俺はSeraphins

俺の名前はセラヒン。通称セラって呼ばれてる。
歳は32歳。×1男だ。別れた女房との間には6歳の1人息子がいるよ。

セラヒン

もともとは俺は神父だった。親父がプロテスタントの神父だったからな。
ところが親父がプロテスタント監督教会の人間と揉めて、独立した自身が教祖の「足枷と十字架」という新興宗教を作り上げた辺りから、何だかおかしな事になり始めたんだ。

親父はプロテスタントの教義を歪曲し、全くの邪義を唱え始めた。わずか100人ほどしかいない村に、あっという間に「足枷と十字架」の教義は知れ渡り、皆がこの新興宗教を信じるようになっていった。親父は義理堅い上に人望も厚く、教義も上手かったからな。村人は邪義を唱える親父を疑う事など無く、次第に信じるようになっていったんだ。

俺とお袋は「足枷と十字架」の邪義に反発し、村人を説得に当たったんだけど、所詮2人で100人もの村人を相手にあの教義はでたらめだっ!といくら叫んでも焼け石に水。逆にお前らのほうがおかしいんだっ!って誰も俺とお袋の話に、耳を傾けようともしなくなった。

酷い時には水を掛けられたり、石を投げられたり。こりゃ説得は無理だなと考え、仕方なく村を出たんだけど、いつの間にか俺の女房まで親父に心酔してしまっていて、彼女は子どもと村に残ると言い出したんだ。

説得をするも、話し合いは平行線のまま、何の解決にもならなかった。俺は女房を説得するのを諦め、離婚届に判を押して役所に出した後2つほど山を越えて、お袋と二人新しい町にやって来た。

風の噂で今は女房は親父の妻だってさ。いい歳した親父が息子の別れた女房に手をつけるとは、憤りを通り越して反吐が出るぜ。

あいつらはやっぱりおかしいんだ!そう思い込むことで必死に憤りを堪えてきた。お袋も俺もな。奴らを蔑む事で、何とか気持ちに折り合いをつけようとしているんだ。此処に来て3年が経とうとしている今も尚・・・

神父でなくなった俺は、食う為に働き始めた。と言ってもあまり褒められた仕事ではないな。
なんて事はない。客にお姉ちゃんを世話する仕事さ。俺のボスはここら一帯のdreamモーテルチェーンのオーナー。74歳にもなってお金儲けに励む、「お金大好き」と豪語する元気なニコラばあさんだ。

強欲だけど、情にはとても厚い。村に来たばかりの頃、ホテルのロビーで僅かばかりの所持金を、額を擦り合わせるようにして紙幣を数える俺とお袋の様子に、何かあると察したのだろう。事務所からわざわざ出てきて、彼女自ら事情を聞いてくれ、現金が足りなくて途方にくれている俺達親子に、部屋と食事を与えてくれた。

一宿一飯の恩義は、ちゃんと返さないといけないもんな。翌日から俺は自ら申し出て、ニコラばあさんの仕事の手伝いを始めたというわけ。

子どものいないニコラばあさんは、孫のように年の離れた俺を可愛がってくれる。
他人だけど、まるで祖母のような温かさを感じる。こういうのって悪くないよな。

俺の担当エリアは、レンガ街の奥の方にある小さな5室しかないモーテルだから、目立たないし密やかに通ってくる常連も多い。ここレンガ街は飲み屋も多く、フリーで客引きするセクシードレスの女性も目立つ。

俺の役割は、通りすがりの金持っていそうな客に声を掛けること。乗ってきたら値段交渉と、店で待機をしてる女の子の写真を見せて好みを聞く。先に金を貰って部屋に客を案内したら、持っているトランシーバーで、事務所で待機している女の子に声を掛け、部屋番号を伝えて客の許に向かわせる仕事なんだ。

レンガ街は比較的治安は良いのと、リッチマンの所有する船舶の港が近いこともあり、客の入りはなかなか良い方だ。ニコラばあさんも大枚持って喜んでるよ。

そして最近になってとても若い女性が、客引きに立っている姿を見かけるようになった。手には花嫁が持つようなブーケ。声を掛けるわけでもなく、俯き加減でただ立っているだけ。
かなりのシャンだ!容姿もさることながら、ブーケを持って客引きはさぞ目立つだろうに。

少女

ところが不思議な事に、誰も彼女に声を掛けないんだ。??一体何故?
若いし美人だぜ!シカトされるほうが不思議なくらいなのに。

彼女がこの場所に立ち始めて一週間経った時、俺から声を掛けてみた。実は初めて見かけた時から声を掛けるか迷っていた。ポリの囮だったらまずいからな。暫く様子を伺っていて、どうやらそうじゃない事が解かったからだ。

「ねぇ、君ずいぶん若いけど新米なの?」


!!

ねえ君

「あっおいっ!!ちょっとっ!!」

ヵ゙クゥ━il||li(っω`-。)il||li━リショック!声を掛けただけなのに一瞥して、すっごい驚いた表情で逃げられたよ・・・親父だからか。・゚・(*ノД`*)・゚・。自分では若いつもりなのにな(>д<;) マジ凹むぜ・・・

余程慌てていたのだろうか。持っていたブーケを落として走り去った少女。ガデットブルーの大きな瞳が印象的な美少女だった。


今は夜の7時。白夜のせいか暗くならない街。あの子がいつも街角に立ちはじめる時間だと考えて、レンガ街の片隅身を潜めた。俺を見たらまた逃げてしまうかもしれない。そのように考えた俺は、停車中の車の陰に身を隠して、じっと彼女が来るのを待つ。
現れた!間違いない、あの子だ!周りを見回しながら恐る恐るといった感じで、姿を現した彼女。俺を警戒しているんだろうか。今日は何も手に持っていない。この間のブーケは俺が持っている。返そうとしても、また逃げられてしまうかも。待ち伏せなんて姑息な手段だけど、落し物は持ち主に返さなきゃね。言い訳がましく自身に言い聞かせてみる。

待ち伏せしている本当の理由、ブーケを返すのが目的じゃないと既に解かっている。何となく気になるんだ、あの子の事が。一目惚れ?いや違うな、見てはいけない存在に目がいくような感覚なんだ!惹かれてはいけないものに、抗えない心。あの子はおそらく・・・自分の予想が間違っていると思い込みたい。だけどそのように願いながらも、98%の確率で自身の予想が的中していることにため息をつく。

俯き加減で、レンガの壁に寄り掛かるあの子。もう出て行ってもいいだろうか。タイミングを計り車の陰から突然飛び出した。「失礼、お嬢さん!どなたかと待ち合わせですか?」

一瞬ぎょっとした表情をして、たちまち警戒心を浮かべた表情をして、大きな瞳で俺の顔を睨みつける。口を真一文字に結び、あからさまな敵意に満ちた表情をして。「ちょっと、そんな怖い顔で見つめないでよ!何も取って食おうって訳じゃないんだから」笑顔で語りかけても、一向に警戒心を解く気配がない!

セラヒン

「参ったな・・・」小さく呟き困惑してこめかみを小指で掻く。彼女は黙って俺の持っているブーケを指差す。「返せって事?」問いかけると不機嫌な表情で黙ったまま頷く。「はい、どうぞお嬢さん!」手渡すと、引っ手繰るようにしてブーケを受け取る。何でこんな態度を取るのか解からず、「やれやれ」と言ったら


「ブーケを拾ってくれた事に感謝する。だけどお前は私の敵だ!私の意思に関係なく、無理やり天に送り返そうと企んでいるんだろうっ!!」
「はぁっ!?」彼女の言葉に呆気に取られて素っ頓狂な声を出してしまった。 「!?何で?俺が!?」

「誤魔化そうとしても無駄だ!お前の胸には十字架が掛かっている!」 強い口調で俺を強く睨みつける少女。「これが嫌なのか?なら外してやるよ」ネックレスを外すと、小さくため息をついて、少しだけ少女の顔が和らいだ。「君、名前は?」尋ねると 「・・・・・竜胆・・・・」

十字架

「変わった名前だね?それは何という意味なの?」彼女に尋ねると、花の名前りんどうだと言う。この子は東洋人なのか?薄いブロンドなのに?困惑する俺に、少し口元を上げて微笑む様子は、まるで小悪魔のような印象を与える。

「お前の名前は?」 大きな瞳で真っ直ぐ見据えて、逆に問いかけられた。「俺はセラヒンって言うんだ。宜しくな!」 「セラヒン?」 「そう。親父から名付けられたんだけど何か変か?」しばらく考え込んでいた彼女。流し目で俺を見つめて、 「Seraphinsね。天使の中でも最高の愛の焔の所持者か。」 呟いた彼女は、さも楽しそうにクスクスと声を出して笑う。
「ふーん!お前気に入ったよ。仲間じゃないけど共通点はあるようだな、天使様!」 いたずらっぽい話し方で呟いた後、彼女の差し出した手を握り返すと、驚くほど冷たい手をしていた。まるで背筋が凍るようだっ!!

「人間の手って温かいんだな・・・私の手が溶けてしまいそうだ」 静かな口調でそんな事を呟くもんだから、慌てて彼女の手を離した!俺も自身の手の温かさで竜胆の手を、氷のように溶かしてしまうんじゃないかと思ったからだ。


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