空想世界と少しの現実

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緋褪色

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美羽子 @ Re:小説、しばらくお休みさせていただきます。(09/16) お話をより良くする為のデータ移しや編集…
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翠嵐とシンディの会話。ほんの僅かに開いていた、仏間の引き扉から聞こえてしまった。
私はこの2人に対して、残酷な事をしていたんだな。すまない、2人共・・・心の中で謝罪する。

結局は私も心の中から、妻の存在を消し去る事が出来なかった。想い出という、心の働きを制する事が出来なかったんだ。



自身の想いを翠嵐に打ち明けても、彼女を抱く事が出来なかったのは、迷いがあったから。もう断ち切ろう、過去の想い出を。これ以上彼女達が苦しむ様を見たくはない。深く溜息をついて自身に言い聞かせる。

引き扉をノックすると、中から2人の返事。 はい! シンディの声がする。中を覘くと先程より顔色が良くなっている。大丈夫そうだな。


部屋の入り口までシンディに寄り添って来た翠嵐に、少し部屋の外で待っていてくれるか?声を掛けると はい と返事をする。
私はシンディを、食事を用意した部屋まで連れて行くと、シンが気がついて走り寄り、 お連れ致します

頼む。部屋から貧血の薬も持ってきてやってくれ。 畏まりました。 シンに任せておけば大丈夫だろう。彼女を支える彼に、ちょっといいか?目配せをして耳元で話をすると顔色一つ変えず、小さく頷く。 行ってらっしゃいませ。どうかお気をつけて。 声に出さず唇の動きでそう言ったのが判った。

この男はいつもそうだ。小さな配慮をするシン。私と翠嵐の事に気がついているのは、シンと瞑月と妻シンディだけ。逢いたいと言うと、シンが翠嵐に連絡を取ってくれていた。

でも今日でそれも無くなるかもしれない。密かに決意した事を想い出しながら、部屋を後にする。

仏間の部屋の前で、所在無げに立ち尽くす翠嵐。私の顔を見て少しだけホッとしたような表情をした。彼女を伴って自室へ向かう。
ポケットから鍵を取り出し、白く塗られた木製のドアの鍵を開けて、彼女を招き入れる。

絨毯敷きの部屋は靴を履いたままだ。部屋に入った私は、ゆっくり翠嵐を抱きしめた。

厳の行動を予期していなかった私は、驚きで眼を見開いたまま体を硬直させる。心臓の鼓動だけが高鳴って、声を出す事すら出来ない。
動揺を無理やり押さえ込んだ。瞳を閉じて彼の温もりを確かめる。ワイシャツからは僅かにタバコの香り。大人の男性って気がして、嫌いじゃないわ・・・

抱きしめられていた時間は、あっという間だったのでしょう。でもとても長く長く感じられた。
私の右頬に大きな温かい手が添えられる。小さくキスをされて何だかとても幸せな気持ちになる。


明日は休みだ。ホテルにでも泊まらないか。 彼からの誘いを瞳を閉じたまま聞き入る。不器用な人、もっと甘い囁きで誘う事出来ないの・・・

これでも精一杯努力をしているつもりだが。大体50代の男に甘い囁きを期待するのも、どうかと思うぞ。(>д<;)

ちょっぴり意地悪言っちゃった。嘘よ、嘘。貴方にしては上出来だわ。少し笑って彼の胸の中に顔を埋める。

翠嵐、私の車で一緒に出ていいか?それともお前はタクシーで後から来るか? 少し驚いて厳を見つめる。彼の問いかけに含まれるのは、私達の交際を世間に公表するという意味なんだ。

思案し、一緒で構わないわ。堂々としていたほうが楽だもの。恥じる事ではないのだし。
再び小さくキスを奪われる。一瞬で瞳を閉じる事が出来なかった。

此処の部屋から、直接駐車場に出る事が出来るんだ。 彼が話しながら、私をエスコートして部屋を横切る。一番奥の木製の引き戸を開けると、同時に壁の照明が点き、ストレートの階下へ降るアルミ製の階段が現れた。

傾斜は緩やかだけど、2人が同時に下りるのが、やっとの狭い階段だ。
階下から少しひんやりした空気を感じる。
足を滑らさないよう気をつけろよ。

私の右側には厳、左側にはコンクリートの壁しかない。彼は左腕で私の腰を支え、自身の右腕で階段の手すりを握って慎重に降りて行く。

一番下まで下りると、そこは公用車も置いてある大きい駐車場だった。
手前の車、Double Sixシルバーの丸目のジャガーの鍵を開ける。

これが貴方の車なの?
そう。外見が気に入って買ったんだが、そろそろ手放そうと思っている。これが購入したばかりの時の写真だ。14年乗ったんだ、もういいだろう。燃費が良くて、環境に優しい車に乗らないと、国民に示しがつかんだろうしな。土禁じゃないぞ、そのままで乗ってくれ。

ジャガー

お気に入りの写真なのでしょう。手渡された写真は公道で撮影されたものだった。厳の言葉に思わず笑いがこみ上げる。車好きの人は土禁にしている人が多いもの。それにジャガーじゃね、土禁にしていてもおかしくないかも。左ハンドルのジャガー。私は右の助手席に座り、シートベルトをつける。

レディーに土足禁止を強要するほど、無神経では無いつもりだ。
汚れたら掃除すればいいだけだしな。話しながらキーを回すと、力強くエンジンが掛かる。久しぶりに乗るがエンジンの調子はいいようだな。シンがまめにメンテナンスをしてくれているから、常に外観も綺麗で程度は良い。



左腕のIWCのクロノオートマチックローレウスエディションを見つめる。午後7時50分か。此処から移動しても僅か10分ほどの距離。目的地はワットリー・マナーをイメージしたという、私の親友が総支配人を務めるホテルだ。





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Last updated  2007/11/24 01:48:24 PM
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