「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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リキッドの奮闘記
下書き・4
レーダーの点は今の所八つだけだが、恐らくどんどん増えてくるだろう。八つの赤い点はどんどん近づいてくる。
「各機、敵攻撃機を近づけるな。攻撃される前に落とす」
アンダーソンはそう言うと、真直ぐ敵機の方向へと機首を向ける。
「ゴールドマン、着いて来い。残りは別方向からの敵機を警戒しろ」
“イエッサー、こちらゴールドマン。何なりとご命令を”
バルクホルム曹長の元気な声が飛んできた。
朝日はさらに辺りを明るくし、夜は逃げていく。
明るくなったので、敵の機種が肉眼でも良く確認できた。Q-5が四機編隊を組んでこっちに目を向けている。ファンタンと呼ばれた攻撃機は敵機が自分達に向かってF-15が飛んで来るのが分かると、二機編隊に分かれて散らばった。後ろからはマクロードのF-14Dが単独で着いて来ている。更に後ろにはSu-27と三機のF-5Eがいるらしい。ヴォレンのワルキューレ隊も分散して、敵機を狙い始める。新米にしてはなかなかいい動きだ。
アンダーソンは操縦桿を横に倒して、その後引いた。敵は地上部隊への攻撃を優先している為か、後ろが空いている。旋回すると丁度ファンタンの後姿が見えたのだ。食らい着こうと、アンダーソンは速度を上げた。体が少し後ろに引かれる気がした。
Q-5は何とか振り切ろうと上下に動いたが、彼とバルクホルムのバルカン砲が二機に襲い掛かり、一機は爆発し、一機は細い煙を噴いて、乗り手はベイルアウトした。深追いはせずにアンダーソンは別の編隊を狙った。八機のファンタンは既にこちらの攻撃で完全に散らばっている。
しかし、敵はこれだけでは無い。レーダーに次々に赤い点が現れ始めた。護衛機も混じっていることだろう。
同時に友軍機の点も新たに現れた。
<<こちら第85戦術飛行隊だ。支援に回る>>
<<こちら第55戦術攻撃航空隊!交戦を開始する>>
無線を聞きながら、アンダーソンは地上部隊から目を離さないようにしていた。今の所攻撃を受けている様子は無い。
二機のQ-5が地上部隊に接近していたが、Su-27が一発AAMをお見舞いし、後からF-5がバルカン砲の雨でファンタンを落とした。見事な連携攻撃だ。さすがはヴォレンだけあって、新米の教育が上手だ。
負けじとアンダーソンはまだ飛んでいる敵機をHUDの枠に入れた。ファンタンは旋回したが、彼は動きを読んでいた。敵が旋回する数秒前に、彼は獲物と同じ方向に旋回していたのである。そして速度を落としながら進路にバルカン砲を撃ち込んだ。背中を穴だらけにされたファンタンはパイロットを椅子ごと吐き出すと、そのまま地面に落ちた。
<<ナイスキル!>>ゴールドマンが言った。
さっきまで八機いたQ-5はほとんど落ちたらしい。アンダーソンは地上部隊の頭上に戻った。朝日がほとんどその丸い姿を現し始めた。更に明るくなった空で友軍機と敵機が空気をかき乱している。レーダーの右にある赤い点が一番近い。アンダーソンはそっちに機種を向けた。Mig-21らしい。どうやらロケット砲を括り着けている様だ。今度は戦闘機なので、多少は手こずりそうだ。そう思いながら、彼は数機のフィッシュベッドのうち一機をヘッドオンした。敵もこちらをロックオンし、ミサイルを――――――放ったものの、アンダーソンはGに耐えながらもAAMを放った後、機種を思いっきり下げてそれを回避していた。一方、ミグの方は不意を突かれて顔面にミサイルを食らい、鉄砲で撃たれたスイカの様に弾け跳んだ。Gから解放された後、ジークフリート1はバルクホルムが敵機の後ろに食らい突いているのが目に入った。彼の獲物は逃げ惑っているが、ゴールドマンは機体を回転させながら敵を機銃の巣に巻き込んだ。エンジンの部分から炎を噴いたフィッシュベッドのパイロットは迷わず座席ごと愛機から飛び出す。
まだ彼は二十四歳だった。彼はあまり裕福でない家庭の育ちで、自分を育ててくれた親に経済面で楽をさせようと、二十歳で傭兵を―――この時に丁度オーシア大陸東部で戦争が起きていた―――始めた。しかし、三年後に親は二人とも飛行機事故で死ぬ。バルクホルムの稼いだお金での初の海外旅行だった。もはや傭兵をして世界で目の前の敵を破壊し続ける事に何の意味も感じなくなった彼はフォーバット共和国誕生をきっかけに、この国へ来た。そして迷わず空軍に入る。
彼も自分に劣らず敵を地面に落としているだろう。
パイロットの抜けたMig-21はまるで紙飛行機が落ちるように落ち、草地に叩きつけられた。そして砕け散る。草は燃え、抉り取られた。
アンダーソンはそれを見た後、地上軍と連絡を取った。
「こちらジークフリート・リーダー。状況は?」
<<こちら地上部隊。撤退は順調に進行中。引き続き援護を・・・・・・うおっ!>>
ドゴン、と言う音が無線から聞こえた。敵の対地ミサイルらしい。
アンダーソンはバルクホルムを連れて、またしても地上部隊の上へと機体を走らせた。一機のA-10が味方の防空網を越えて、地上軍に機銃掃射を加えている。
<<空軍に援護要請!敵の攻撃機が――――――>>
一台の戦車がミサイルの直撃を受けてひっくり返った。むなしいザーッという音が無線機から聞こえる。
アンダーソンはまずバルクホルムにA-10を狙わせ、後ろを守ろうとした。気が付くと、レーダーに赤い点が一つ。自分の背後だ。
そしてミサイル・アラートがけたたましく鳴った。
<<ジークフリート1、ブレイク!ブレイク!>>
近くにいた友軍機―――ヴォレンの様だ―――が叫んだ時には、既にアンダーソンはGに体を押されながも操縦桿を横に倒し、引いていた。アラートが鳴り止む頃には敵のF-4の背中が彼の視界に入っていた。イーグルのバルカン砲が唸り、ファントムの翼を引き裂く。そして、数発がコクピットに命中。中の人間は即死だった。
その間にゴールドマンはA-10に既にAAMをプレゼントして、地上に落下させていた。多少の被害は出ているものの、空軍の援護は的確な物だ。それでもレーダー上の友軍の光点は減っている。
<<ちっ!キャタピラがイカれた!>>
<<脱出して輸送車両に拾ってもらえ>>
地上からの声が聞こえる。撤退中の車両部隊に置いて行かれるのは、やられた車両の残骸か、対空車両の生み出す薬莢だけだった。なるべく早く撤退すべく、ジープの予備のタイヤも捨てられる。
<<こちら第5戦車大隊。防衛拠点までかなり接近した。もう人踏ん張り頼む>>
「了解」と、言っているうちに近くの友軍機の光点がレーダーから消えた。
<<ワルキューレ3!脱出しろ!バックス!>>
ヴォレンの声だった。どうやら彼の隊の一人が落とされたらしい。
<<くそっ・・・・・・>>ヴォレンの悪態が聞こえる。
同時に隊員達の声。
<<ジークフリート2、敵機撃墜>>バートンだ。
<<ジークフリート5、FOX2――――――命中>>フロートの声。
<<ローエングリン1、フェニックス発射ぁ!―――二機撃墜!>>
味方機が落ちても、正直構っていられないのが自分達の戦争だった。うちの隊の連中は十分それを理解しているだろうし、マクロードやマーカス・ヴォレンもそうだろう。
敵の攻撃はいよいよ激しくなって来た。地上部隊がゴールに近い事を敵も分かっているらしい。少しだけ機体を傾けて地上を見ると、丁度細い煙が自分の下を通り過ぎていくところだった。同時に何かが爆発する音が辺りに響く。
夜の暗さはとっくに消え去り、まだ低い位置にある太陽に目が眩みそうになった。それでもアンダーソンは次々に飛んでくる攻撃機を機銃を浴びせて追い散らす。
「隊長!いい加減ゴールしてくれないとこっちも持ちません!」
赤い羊、フロートが無線機に言った。そろそろ着いてもいい頃だが、まだミッションが終わる兆しは無い。
「もう少し頑張ってくれ!赤い羊の名を敵軍に知れ渡らせるんだ!」
<<了解ぃ!>>
こっちに飛んでくるミサイルは無く、地上軍を狙って飛んでくるのは良く見る。見ている場合ではないのだが。戦闘機も装甲車両や輸送車両を襲い始めていた。
<<こちらAWACS!敵の増援部隊が更に接近中!>>
レーダーを見ると、更に敵の点が増えていた。次から次へとやって来る。管制機の声もろくに聞いていられない。
<<援護要請!援護要請!前にいた装甲車が蜂の巣になった!>>
<<ハリー!応答しろ!ハリー!くそぉ!>>
<<前の戦車邪魔だぞ!さっさと――――――あっ!>>
無線が途切れる事は珍しくなかった。手が回らなくなっているのが自分にも分かった。さっきまでは均等だった両軍。今ではバルメシア軍の方が多い。
何故連中はここまで戦争の準備をしているのだろうか?
まるで何年も前から心構えをしていたかの様に。
アンダーソンはA-10を見つけるとすぐにバルカン砲でエンジンを狙った。損傷したサンダーボルトが傾く。次にAAMを打ち込んだ。さすがの厚い装甲も砕け散った。燃えかすが重力に引かれて落ち葉のごとく落ちていく。
さらに敵が攻撃してくる。地上部隊の被害も増えつつあった。空軍も同じだ。
このままだと護衛任務は失敗する。
すると、レーダーに友軍機や地上火器の点が大量に現れた。どうやらゴールらしい。間一髪だ。
敵機がどんどんガラスの円から出て行くのが見て取れた。
アンダーソンはほっと息をついた。無論彼だけではないが。
<<こちらAWACS。敵機は撤退して行く。任務完了だ>>
ジークフリート隊の隊長は隊員達に帰ろう、と言うと、アルシム基地のある方向へ機首を向ける。どうやらまたしても全員無事らしかった。部下の命を背負う者としては、これ程嬉しい事は無い。
だが、ヴォレンは違ったらしい。彼のフランカーがちらっとキャノピーの端に見えたとき、アンダーソンはそう思った。
彼は一人だった。後ろにいたF-5は一機も見当たらない。どうやら落ちたらしい。ヴォレンの苦しみは計り知れないだろう。
<<アンダーソン・・・・・・機体の調子が悪い。すまないが、俺の基地まで持ちそうに無い。一緒に連れてってくれ>>
ヴォレンが暗い声で話しかけてくる。確かにアルシムはここから一番近い。
アンダーソンは、勿論、としか言えなかった。
第二章 完
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