リキッドの奮闘記

リキッドの奮闘記

下書き・12



白い壁に囲まれたシンプルな広いブリーフィング室に基地のパイロットが全員集められた。前にある巨大なモニターの前にはディックマンや他の将校達が立っていた。どうやら、ワルキューレ隊の新隊長ジョニーはまだ来てないらしい。少し離れた椅子の上でヴォレンが少し不安そうに頭を掻いているのが分かった。どうやらMig-21に乗っている撃墜王らしいが・・・・・・どんな人物なんだろう。
ブルーレイト基地の司令官はゴットベルグ中将だったのだが、飛行機の事故に巻き込まれたらしい。何とか生きているが、しばらくは戻って来ないそうだ。
周りを見回すと見知らぬ顔が多い。そんな中、新しいF-14Dを支給されたばかりのマクロードは足を組みながら頭を垂れてのんきに居眠りをしている。
そして大声がパイロット達を襲う。マクロードが魚の様に飛び起きた。
「ヘリックス中将だ!気をつけ!」
基地の高級将校らしき男の声だった。大きなモニターの横にブロンドの髪を持った四十近くの帽子を被った中将がコート姿で現れる。
空気を察してアンダーソンを含むパイロットが立ち上がろうとするが、ロバート・ヘッリクス中将は右手をかざして制した。
「そのままで結構だ諸君!座ってくれたまえ!」
陽気な声が大きな部屋に反響した。帽子とコートを部下に預けると、ヘリックスは微笑みながらモニターの前に立つ。にっこり笑っているつもりだが、心の中はそうも行かず、無理矢理笑っている様に見える。
「ジェントルマンの諸君、時間が無いので急ぐ!先程バルメシア軍がタウゼント要塞を目指して前進を開始した」
部屋がザワザワした。
遂に来たか。
「我々は総力を上げて砦を守る。これから状況を説明するから、良く聞いていてくれたまえ!」
部屋が真っ暗になり、巨大な画面が作動した。

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とうとうバルメシア軍は我が軍の最後の防衛拠点とも言えるタウゼント要塞へと進撃を開始した。この要塞が突破された場合、すぐに敵は首都へと雪崩れ込むだろう。そうなるとフォーバット軍は総崩れになる。よって、他の戦線を連合軍が守っている間に我々はタウゼントを守りきり、敵を押し返す必要がある。
タウゼント要塞は三つの巨大な壁で構成され、その壁の後ろに司令部がある。壁には可能な限りの防御兵器を設置しているが、人員不足や整備不良で動かない物もあり、その上三つ目の壁はまだ完成しておらず、二つ目が突破された場合我が軍は窮地に陥る事が予想される。
空軍は壁を死守する地上部隊と連携して要塞を守る。
オーシアが援軍を送ってくれるが、来るかどうかは分からない。君たちが頼りだ。
敵国バルメシアをここで食い止めるのだ!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「では諸君!武運を祈る!出撃だ!」
ヘリックスは声を張り上げる。笑みはとっくに消えていた。搭乗員が急いで部屋を出て行く中、ヴォレンはこっそりアラン少佐に耳打ちした。
「あの、ジョニー中佐は?」
アラン少佐は頭を抱えた。
「まだ来てないんだ。予定ではもう来てもいいのだが・・・・・・仕方が無い、今は一人でやってくれ」
了解・・・・・・。
基地の人間はほとんど外かハンガーに出ている。我先にと何本もある滑走路から戦闘機が飛び立つ。アンダーソンのF-15も巨大な飛行場から空へと飛び立つ順番が来る。ふと空を見上げると、何十機もの友軍機が頭上を飛んでいた。無線も大量に飛び交っていた。
<<こちらバットマン2!離陸する!>>
<<レッドロック3!離陸を開始!>>
<<うひょー!やっぱ新品のF-14はいいね~>>
<<ローンウルフ3、離陸完了>>
<<ワルキューレ、準備良し>>
<<イーグルクイーン隊、全機空にあがった!>>
<<隊長!F-14Dは高いんですから調子に乗らないで下さいよ!>>
<<んなこたぁ分かってるっての!>>
<<ウォッチマン・リーダーより各機へ、これよりタウゼントへ向かう!>>
<<ローンウルフ1だ。気を引き締めろ!>>
ジークフリート隊も次々に空へと上がり、飛行場にあった戦闘機はほとんど無くなっていた。
「よし、ジークフリート隊、頑張れよ!」


気持ちの悪い沈黙・・・・・・塹壕の空気は重々しい。ヴァンドランだけは戦闘開始を待てないのか、銃を構えて引き金を引く準備をしている。しかも何だか奇妙なまでの笑みを浮べていた。やはりちょっとおかしい。
まだ午前だが、既に空は明るくなり、森の色の落ちた葉が照らされている。木の向こうも後ろも平静そのもの。クリスは銃の動作確認をしようと思ったが、今一発でも撃つと部下達の心臓が止まるかもしれない。
しかし、無駄な心配だった。突然、凄い噴射音がし、ロケット砲が頭上を飛び去り、遥かかなたへ消えて行った。森付近に配備された何十台ものMLRS―――多連装ロケットシステム―――が攻撃を始めたのである。
勿論、そのままバルメシア軍は攻撃をさせておくつもりは無い。戦闘機が飛来し、ロケット砲と森を襲う。グラッツ中尉が叫んだ。
「空襲だ!伏せろ!」
轟音と爆風が辺りの空気を揺るがす。閃光が光ると同時に木が吹き飛び倒れる。人間の醜い争いに巻き込まれていく動物や植物。塹壕の中に木や鉄の破片や土が大量に降って来た。ヘルメットを抑えてフォーバット軍の兵士は耐えている。しばらくそんな状態が続く。
その間に要塞の対空火器が一斉に射撃を開始し、空にいる標的目掛けて弾を撃ち込む。ロケット砲が止み、敵の攻撃機部隊は対空火器を優先目標にした。
クリス達が恐る恐る塹壕から顔を出すと、森の向こうから何かがやって来るのが分かった。バキバキと木を倒す音がかすかに聞こえる。そしてエンジン音も。グラッツが塹壕の部下に向かって吼える。
「戦車だ!対戦車戦闘用意!」
兵士達は皆銃やAT-4―――使い捨ての個人携行対戦車弾―――等を構え、木々の間に敵が見えるのを待った。塹壕周りの木は大半が折れているか、炭になっているかだが。
やがて空での戦闘の音と混じって戦車の動く音が大きくなってきた。横にいる部下の手が震えているのにクリスは気付いた。同時に目の前にある木々がバキバキと音を立てて砕け、ゆっくりと戦車の車体が現れる。
T-90だ。振動と共に灰色の戦車がこちらへと近づいて来ていた。歩兵は戦車の後ろだろう。
「撃て!」
中隊長の号令と共に対戦車兵器が火を噴く。ビマー二等兵が他の兵士と一緒にAT-4CSを撃つ。火の玉が物凄い速さで戦車へと飛ぶ。命中したが、当たる角度が浅かったせいで弾き返された。クリスはビマーに言った。
「キャタピラを狙え!」
ビマーは頷いたが、戦車が砲撃を開始し、近くで爆発が起こる。土砂がヘルメットに降り注いだ。二等兵は言われた通りに代えのAT-4でキャタピラを狙う。
その前にビマーの眉間に弾丸が命中した。脳が死に、目の前の部下の体は倒れこんだ。一緒にAT-4を担いでいた兵士のヘルメットにも穴が開いていた。敵の歩兵部隊が戦車の後ろからライフルを乱射して来た。塹壕のフォーバット軍は大きなM40106mm無反動砲で反撃を行い、何台かの戦車を停止させる。同時に機関銃が火を吹く。クリスは身を屈めて銃弾を避け、再び上半身を出してM16の引き金を引き、またすぐに隠れた。塹壕の前の土地を無数の弾丸がえぐり、土ぼこりが舞い上がる。無反動砲の攻撃を逃れた戦車部隊が草や木をぺしゃんこに潰しながら更にこっちに進んできた。
クリスはダニエル軍曹を呼ぶと、一緒にAT-4を担ぐように指示した。ダニエルと一緒にビマーの所有物だった筒を持ったクリスは戦車の砲撃の合間を縫ってT-90めがけて弾を放つ。ちゃんと命中はしたが、効果が見られない。
やっぱりこれでは・・・・・・。
停止したのは数台だけで、残りの敵車両の大口径の砲弾が塹壕の近くに次々着弾。クリスはAT-4とダニエルと一緒に塹壕に転げた。轟音の中、彼は塹壕の中を屈んで通信兵のそばへと向かった。途中で何度も死体が土と一緒にこっちに覆いかぶさってきた。
「通信兵!航空支援を要請しろ!」
「しました!でも、まだ来ません!」
くそ!さっさとしてくれないとこっちは木っ端微塵になってしまう。
手榴弾を取り出した彼はピンを引く抜き、すぐに敵めがけて投げ込む。戦車の近くで爆発したが、これも効き目が無い。自分の目の前に弾が直撃したのでクリスはすぐに塹壕に屈む。ダニエルがこっちへ来た。
「味方の戦車は何処なんです?」
確かに友軍の戦車が見当たらない。さっきの空爆でやられてしまったのか?
「これじゃやられっ放しです!」
「分かって――――――」
いきなりミサイルが頭上を通り過ぎ、一番先頭のT-90を鉄屑に変えた。
頭上をトーネードが高速で通り過ぎ、続いて数台の敵戦車が吹き飛ぶ。
兵士達は喜んだが、それもつかの間。敵と塹壕の距離が縮まって、攻撃が激しくなった。空を飛んでいたトーネードの一機がAAMを翼に受けてくるくる回転し、クリス達の後方に落ちた。
「E中隊!後退だ!味方の機甲部隊の支援を受けられる場所まで撤退だ!」
グラッツがそう言ったので、中隊員は全員撃ちながら塹壕から這い出た。出た瞬間に命が尽きる兵士が何人も出る。クリスは自分の小隊を逃がしてからまた手榴弾を取り、姿がもう十分見える敵兵目掛けて投げつけた。そして逃走しようとしたが、ヴァンドランだけライフルを奇声を上げて銃身が焼け切れる程撃っている。
「ヴァンランド!撤退だ!」
ヴァンランドは意外に忠実で、クリスより真っ先に塹壕を出た。
「何だそりゃあ!置いて行くな!」
クリスも身を屈めて後方の陣地へと撤収した。


<<こちら空中管制機スノー・アイ。全機に告ぐ、要塞の防衛、及び敵地上部隊の撃破を直ちに行え。対地攻撃と対空攻撃を両方実行する必要がある。的確な判断をせよ>>
AWACSの聞き慣れた声が要塞を目前にしているアンダーソンらの鼓膜を震えさせた。
周りには多数の戦闘機。アンダーソンらのイーグルは今回は爆弾を積んでいた。
「こちらジークフリート1。ウォッチマン隊、地上攻撃の援護を頼めるか?」
通信は四機のトーネードF.3―――トーネードIDSをベースに開発された防空戦闘機―――に届いた。
<<イエッサー、こちらウォッチマン・リーダー。ジークフリート隊を支援せよ>>
<<ローエングリン1だぁ。俺が空を見張るから地面を頼むぜよ>>
ヴォレンはその手の通信を聞きながら、自分の一番機は一体どうしたのかと思っていた。
例え来ても、この先不安だ・・・・・・。
バルメシア軍も航空部隊を大量に投入しており、壁の上も下も大混乱だった。壁の前には森が広がっているが、あちこち燃え上がり、木が押し倒されている。
アンダーソンはレーダーを頼りに高度を上げて、敵の車両の上に爆弾を落とそうとした。既にイーグルはサイドワインダーとスパローを合わせて八発積んでいるが、それに加えて誘導爆弾を積んでいた。そのせいか何だか重く感じる。実際に重いのだが。
<<爆弾で機体が重いですよ。早く切り離しましょう>>
フロートが唸るように言った。
<<ちゃんと狙うんだぞ、フロート>>
普段はあまり話さないバートンが言う事をなかなか聞かない子供に言う様に無線越しに言う。
<<分かってますよ>>
「聞いての通り、ちゃんと爆弾を落とせ。敵の装甲部隊は森の中にいるからちゃんと見分けるんだぞ」
アンダーソンが高度を下げると、他の機も散らばってそれぞれの目標を探す。レーダーとIFFを頼りに、森を見ると木が倒れる瞬間が目に入った。敵性反応だ。木が倒れた地点より少し前を狙って急降下し、彼のイーグルは爆弾を一つ切り離す。黒い金属の塊が地上目掛けて落ちて行く。爆弾が落ちると、轟音と同時に炎と爆風が木々を切り裂いた。レーダーの点が何個か消えたところを見ると、命中したらしい。
確かにこの機体でも十分対地攻撃は可能だが、やはりA-10やF-15E等には及ばない。
再び上昇しているとレーダーに敵機が映った。
<<こちらウォッチマン・リーダー。敵機がそっちへ向かっている。迎撃する>>
トーネードが対地攻撃機を狙う敵機を追う。一機のMig-29がアンダーソンの視界を横切り、その後ろにトーネードが既に居座っている。アンダーソンは援護を信じてまた攻撃を行おうとしたが、新たに敵の反応。さっき目の前を横切った二機の後ろだ。
「新たな敵機が接近!ウォッチマン隊、注意しろ!」
<<了解・・・・・・ミサイルだ!回――――――>>
ファルクラムを追っていたトーネードがAAMをまともに食らい、弾け飛んだ。アンダーソンはウォッチマン隊の一機を落とした犯人を見た。
J-10だ。
後ろに食い付かれない為にアンダーソンは低空飛行をしようとしたが、危うく高い木に鼻先から突っ込みそうになったので断念した。そこを狙ってJ-10が後ろに現れた。
「くそっ!誰か何とかしてくれ!」
ブラックアウト覚悟のGを己の身にかけ、何とか逃げようとする。しかし、敵も何とか付いて来ていた。圧力のせいで視界がぼんやりして来る。体もだんだん言う事を聞かなくなっていた。アンダーソンはロックオンされるのを覚悟して速度を落とし、また高度を下げた。前方に三本の高い木がある。J-10のパイロットはF-15をもう少しでロック出来そうだったので、木の存在に気付いていない。そして相手をロックオンした時にはイーグルが急上昇し、バルメシア軍のパイロットの機体は木々の間を乱暴に通過し、羽がもげる。ベイルアウトした直後に機体は森に弾丸のごとく突っ込み、燃え上がった。戦闘機の残骸は無残にも自軍のT-90に踏み潰された。
アンダーソンは敵の勢いが思っていたよりも激しいので、一旦補給に戻らなければいけないだろう、と思った。
しかし、そんな余裕はなさそうだ。
壁の前を守る陸軍は徐々に押され、壁の上の対空火器も多数が潰されている。この防壁には巨大なゲートがあり、バルメシア軍はそれを狙っていた。
ジークフリート隊は自分に近い目標に爆弾を落としていった。木のせいで敵が何処にいるのかよく分からないが。友軍の上に落ちていない事を願うばかりだ。
<<こちらウォッチマン・リーダー。あまり助けにはなれない。うちの隊はもう二機落ちた>>
「分かった。埋め合わせはこっちで何とかする」



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