リキッドの奮闘記

リキッドの奮闘記

下書き・13


ヴァンランドはそれすら気にせずに、銃身が真っ赤になるぐらいライフルを連射している。クリスは弾を使い過ぎない様に促したが、聞こえたかどうかすら分からない。仕方が無く彼も上半身を少し塹壕から出し、薄っすら見える歩兵目掛けて銃口を吼えさせた。何人か倒れたが、絶え間なく破壊された木々の間から敵が出てくる。横では通信兵が声が枯れるほど叫んでいた。
「こちらE中隊!敵の攻撃熾烈!長くは持たない!」
少し間が空いて、その兵士は再び話し出す。
「C中隊もF中隊も撤退したって?くそったれ!」
となると、こちらももう潮時だ。
クリスは身を屈めてグラッツ中尉の元へと向かった。塹壕の中には血で染まった兵士の死体が幾つもある。彼は致し方が無く、砲撃の中それを乗り越えて中隊長のところへ行く。グラッツはM16のマガジンを装填しているところだ。
「中尉!C中隊とF中隊は撤退しましたぁ!」
出来るだけ大声で叫んだのだが、丁度近くに飛行機が落ちたのでクリスの声はかき消されてしまう。
「あんだって!?」
「C中隊とF中隊は後退しました!こちらも引き揚げないとまずいです!」
今度は聞こえたらしく、グラッツは隣の兵士の肩を叩く。
反応は無い。
それが分かると同時に、迷彩服の男が後ろに倒れ、グラッツに血まみれの顔を見せた。鼻の辺りが砕け、もう人間の顔としては成り立っていない。グラッツは悪態をつくと、クリスの方へ向き直った。
「こっちも限界だ。撤退する!とりあえず戻って小隊を逃がすんだ!」
「イエッサー!」
クリスは銃弾の下を屈みながら走り、ヴァンランド達のいる地点へと引き返す。
何か頭に落ちてきた。地面に落ちた物体を見ると、血まみれのヘルメットだけが視界に入った。構わずクリスは小隊のところへ戻る。
ヴァンランドはM16の弾を撃ち尽くしたらしく、多数の死体を横目に血がこびり付いたM60を銃座から離して一人で撃っていた。彼の横には目をかっと見開き、動かないダニエルが横たわっている。
何て事だ・・・・・・。
「第三小隊!壁の向こうまで撤退だ!ヴァンランド、聞いてるか?」
ヴァンランドはこっちに不気味な笑みを向け、M60を片手にほふく前進で塹壕から立ち去った。リーマン軍曹とダヴィン二等兵がその後に続き、同じく立ち去った。
クリスは自分の小隊が自分を除いて三人しか残っていない事に心臓を針で刺された気分になったが、もう構ってはいられない。森からまたバルメシア軍兵士が森から出てくる。クリスはライフルを出来る限り撃つと、塹壕から出ようとした。
運の悪い事に、戦車が自分の目の前に現れた。T-90の砲身と砲塔の機銃がこっちを狙っている。
もう終わりかよ・・・・・・。
がくりと肩を落とすと突然戦車が爆発し、砲塔が舞い上がった。爆風でクリスは溝に転がり落ちたが、飛び去る水色のF-15の姿はハッキリ見た。


攻撃の合間を縫って爆弾を戦車に命中させた後、バルクホルムは機銃掃射をしている低空のA-10を上から狙い、エンジンに煙を吹かせた。サンダーボルトはふら付き始めたと思うと翼が燃え上がった。すぐにパイロットが打ち出され、荒れ果てた地上へと落ちていく。
喜ぶ間も無く、J-10が後ろに接近。バーナーを思いっ切り吹かし、距離を開ける。そして体への負担を覚悟して機首を上げてから速度を急に落とす。慌ててバルメシア軍パイロットはF-15を避けた。バルクホルムの意図を理解した時にはバルメシアの一兵士は機を傷つけられてしまい、離脱する羽目になった。
この戦法はかなり危険だが、その辺はヨハネス・バルクホルムはしっかり計算しているらしい。それでもリスクを考えて、あまりこの技は使わない。
<<こちらAWACS。第一防壁前の陸軍は撤退>>
どうやら敵の勢いは想像を超えているらしい。
<<敵の数が多すぎるぜよ!フェニックス使い果たしちまったぞ!>>
<<早いですよ、隊長!>>
<<うるへー!>>
マクロードは返答の後、三機のMig-29の編隊を捕らえた。ファルクラム隊はすぐに四方八方に散らばる。そのうちの一機をロックしようとしたが、逃げられてしまった。もう一度挑戦しようと、同じ機体を再び追い掛け回す。今度こそ、と思ったが、またしても避けられてしまう。
「くそ!ちょこまか逃げんな!」
レバーを大きく動かして何とかしてロックオンを狙う。
もう少し・・・・・・・もっとだ。
後ちょっとの所で何処からともなくミサイルが飛来し、ファルクラムを吹き飛ばした。自分のF-14を一機のF-16が追い越して行った。
「そこのF-16!獲物を横取りするなよ!」
<<早いもの勝ちだよ。ははははは・・・・・・くそ!>>
いきなりF-16が翼を翻す。
だが、間に合わなかった。
AAMがマクロードの目の前の戦闘機を一瞬で火達磨に変えてしまった。
場を読んでスロットルを開いた直後にミサイルアラート。
「火達磨は御免だ!」
必死にロールとピッチを繰り返し、ミサイルを避けようとした。何とかアラートを止まらせる事が出来たと思ったら、再び鳴り出す。
マクロードは三時方向の山に向けて低空飛行し、山の頂上の上を通り過ぎ、すぐに行動を下げた。彼を追っていたAAMは見事に山肌に激突し、土を大量にえぐり取った。
これ以上ミサイルに追われない為に、マクロードは機体をほぼ90°傾け、旋回。自分をしつこく追っていたJ-10が正面に現れる。両者はお互いに接触しない様にバルカン砲を放つ。
「くたばれ!」
アーレン・マクロードのF-14のガトリングが先に命中。正面から撃たれたJ-10は黒い煙と一緒に地上へと引き込まれて行った。
第一防壁の前にはバルメシア軍の地上部隊が殺到した。壁の上の火器はほとんど潰されており、兵士もほとんど逃げ出していた。
工兵がゲートに素早く爆弾を仕掛け、起爆スイッチでは無くT-90の猛砲撃で起爆させる。
ブルシュットはその瞬間を見た。
「何てこった」
ゲートの一部が爆破されたビルごとく崩れてしまった。
第一防壁は突破されたも同然だ。
「ローンウルフ1より全機へ。第一バリケードは突破された・・・・・・」
その放送をのんびり聞く暇は、無論無い。
バルメシア陸軍が第二の防壁へと進撃し始めると同時に、ヴォレンのフランカーは敵編隊の中に突っ込んでしまった。まだ無鉄砲さが残っているらしい。アンダーソンがSu-27の無線に叫ぶ。
「ワルキューレ2!逃げろ、落とされるぞ!」
<<心配するな。何とかなる>>
しかし、ヴォレンのレーダーには敵の反応だらけで、彼は囲まれている。それでもフランカーは編隊を崩した後、はぐれた一機目掛けてAAMを一発放った。
Mig-29が反転して反撃。ヴォレンはフレアを放ち、飛んでくるミサイルを無力にする。
今は大丈夫かもしれないが、長くは持たない!
アンダーソン大尉の予感は的中し、ヴォレンのフランカーを機銃の弾が掠めた。後ろに数機のミグ。このままではやられる。
振り切ろうにもしつこくくっ付いて来た。やがて警報が鳴り響く。
ロックされた・・・・・・!
次はミサイルアラート――――――では無く、後ろにいた敵機が砕け散る音だった。
そして初めて聞く男の声。
<<こちらワルキューレ1・・・・・・でいいのかな?これより任務に就く。ワルキューレ2、よろしく頼むぞ!>>
ヴォレンの横に銀色のボディに炎の絵が飾られたMig-29が現れた。
ベルカ戦争の撃墜王、ジョン・ニコルソン中佐。
通称“ジョニー”。
「よ、よろしくお願いします。中佐殿」


ブルシュットのビゲンは機首を30°傾けて木をなぎ倒して進む敵の装甲部隊に狙いを定めると、搭載しているロケット弾を叩き込んだ。その後急上昇して地上からの攻撃から逃れた。だが、後ろにいた三番機は不運な事に弾を食らった。
「エリオット、三番防壁の向こうでベイルアウト出来るか?」
こんなところで脱出しても、敵の捕虜になるか砲撃で木っ端微塵にされるだけである。
<<大丈夫です。では後はお任せします>>
ローンウフル3は自分から離れて行った。
その後、突然三番機の点と思われる物がレーダーからふっと消えた。
「くそ・・・・・・」
ブルシュットは残ったロケット砲を全て、敵の地上部隊目掛けて放った。敵があまりにも多い。もうミサイルも一発しか残っていない。激しい抵抗にも関わらず、敵は第二の壁を目指して前進している。
何だか頭が働かなくなった。戦場にいるとは思えない程思考が鈍る。
機体に激しい振動が走った。
また頭が回転し始め、ブルシュットは自分の愛機の翼に穴が開いているのが目に入った。そしてビゲンのコントロールが利かなくなる。
出来るだけ味方の陣地の方向へ飛んだ後、彼は射出レバーを引いた。パイロットの消えたビゲンはそのまま当ても無く煙の中に消えて行った。

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