孤独死(短文章)・他



その男には家族があった。その男の子が、その男にこんな話しをした。「お父さん、そろそろ戻ってきたら、いっしょに暮らそう?」その話しに対してその男は「そんな心配しないでいい。おれは一人が気が楽なんだ。」その男の子は黙って、帰っていった。それから、しばらくして朝刊にこんな記事が載っていた。「ある男の孤独死、死後一月が経過しており、同じアパートの住民が異臭に気づき、そのアパートの大屋さんとその部屋を・・・」読者の皆さんはすでにお気づきだろう、そうあの男の死亡記事だったのである。私は思う、「自由の代償は大きいが、決して高価ではない。この男にとって、家族は初めから存在しなかっただけのことである」と。


自分の未来

自分の未来に夢膨らませて、勝手に描いた道を邪魔するものは容赦せず、ただひたすら、歩き続ける。来る日も来る日も。いつか、恋人ができた。でも彼にとっては邪魔者でしかない、また、ただひたすら歩き続ける。気がついたら、年老いていた、そして、周りには誰も身近な人はいなくなっていた。そのとき、彼はこうつぶやいた、「これが、おれが探していた、おれの未来か」彼は、その場に倒れこんだ。脳梗塞だつた。



理想の上司

私は理想の上司だよ。なにか、あれば相談しなさい。もちろん、私生活でも構わないさ。私は理想の上司だからね。ある居酒屋で自慢げなその人、面と向かったその人の部下なのか、少々聞き飽きた様子。やっと会が終わり、その自慢げな上司が帰ると残った部下たちが話していることに耳を傾けてしまった。彼らの言っていることは単刀直入に言えば、こうだ、「あの人、自分のことそう言っているけどおれたちがいなければ、何にもできないんだぜ。本当。アハッハハハ」



ある女の死

ある女が死んだ。私が知っている女だ。その死に方は、あまりにも壮絶でさびしい。彼女には子供がいた。その子供を自分の親に預けて、その恋人がいない部屋で浴槽で死んだ。きっと皆さんはお分かりだろう。そう、その恋人へのあてつけに死んだのだ。私はこの女の死に対して、憤りを感じるが、それ以上、文章にはできない。この女性に対して、ただ、寂しい人生だなあと思ってしまうのは、わたしだけだろうか。



老人のおしり拭き

私は、年を取った。しかし、それなりに準備をして今日を迎えた。私の最大の準備は濡れティッシュだ。赤ちゃんのように濡れティッシュでおしりを拭いてもらおう。「そこの濡れティッシュでおしりを拭いてくれんか」、「はい、いいですよ」「こんなに濡れティッシュどうしたんですか」「ああ、これか。私は年を取って、寝てっきりになったら、介護の人にこの濡れティッシュでおしりを拭いてもらうため、20年も前から、買いだめしていたから、介護士の方、思う存分に濡れティッシュ使ってくださいな」・・・「あの、この濡れティッシュ、どれもこれも乾燥していて使えませんが、だいぶ、年数が経ちすぎているんじゃないですか」「え、すまんのう、気がつかなかった。介護士の方、悪いがあなたのもっているものでおしりを拭いてくださらないか」「いいですよ、ハイ、おしまい」「介護士の方、1枚しか使われていないんじゃないかな。まだ、気持ちが悪いんじゃが」「そうですか、決まりですから、それじゃ明日来ますね」「ちょっと待ってくださらんか、私は、お通じがいいので明日までには、その、何回かすると思うんだが」・・・「決まりですから、それじゃー」



思考停止

最近、私の脳は思考が停止しているようだ。感情の起伏もなく、罵声を浴びせられても何とも思わなくなっている。日中の家事労働は、テキバキとこなせるが、会社での仕事はさっぱり、このままではクビにならないか心配である。私は思い余って、会社に長期休暇をお願いした。そして、家でせっせと家事労働に徹した。そのうち、私の脳は思考が再開し、家事労働が途方もなく、いやになった。いやになったら、会社に復帰したくなって、休みが終わるや否や会社に戻った。「さてと仕事や仕事、がんばるぞ」と思った瞬間だった。私の脳はまた、思考停止してしまった。「そうだ。思考停止の原因は職場だつたんだ」私は黙ったまま、バソコンに向かい合っているが、次の作業が頭に浮かばない。罵声が飛んできたが、もうどうでもいい。









© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: