FIRST-PHASE 白き魔弾



地球連合軍とザフト軍、ナチュラルとコーディネイターの戦争は戦局が疲弊したまま約一年が経過していた。
この時代、この時にココにも平和の為に戦う者達がいる・・・・・・

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[ナスカ級高速艦プラズマフェーズ 隊長室]

「隊長・・・、カナ・・・隊長~!」
「ん、んぁ~・・・・・・何だキアラか・・・・もう少し寝かせてくれよぉ・・・・」


布団にもぐって寝ている隊長・・・カナト・ガーウィンを起こしに部屋へ入ったのは青い髪の少女、キアラ・ルジー。
そこには部隊を率いる隊長らしからぬ格好のカナトが寝ていた。


「もう、隊長の自覚が本当にあるんですか・・・?」
「あるよ・・・で、何の様だ?隊長の部屋に勝手に入るって事は何かあるんだろ」


不敵な笑みを浮かべたカナトの突然の質問にキアラは少し焦る。


「あ、任務の通達で・・・・」
「わーった、それじゃあ・・・着替えるからちょっと出てくれないか?」


カナトに言われてキアラは初めて気が付く。
当たり前と言えばそうなのだが、目が覚めたばかりのカナトはインナー姿であり、まだ軍服を着ていない。
キアラはカナトのその姿の確認するように目線を動かした後、思わず顔を赤らめる。


「し、失礼しました!」


一直線に部屋から出たキアラはそのまま全速力で去っていった・・・

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数分後、自動ドアの開く音と共にカナトが部屋を後にする。
彼は隊の中で唯一、真紅の軍服に身を包んでいる。
それは紛れも無く、ザフト軍アカデミー卒業時の成績トップ20にのみ与えられるエリートの称号、"赤服"であった。


「さて、今度はどんな任務だろ・・・・また前線かな・・・はぁ」


カナトは行き交う隊員達とすれ違いながら、廊下をしぶしぶ歩いていく。
その顔は明らかに憂鬱の表情を見せていた。


「ふっ・・・ほんとっ、苦労が絶えないな、ガーウィン隊長殿っ」


カナトの正面から赤髪の青年が鼻で笑いながら話しかけてくる。
青年の名はシルバ、仲間の隊員達からは"ガーウィン隊のナンバー2"と呼ばれている実力派のMSパイロットである。
だが彼自身はその呼び名は嫌っている、その理由は実に単純な事であった。


「皮肉たっぷりに言ってくれるなぁ、シルバ」
「元々その赤は俺が着ることになってたものを・・・てめぇは!」
「いつもそうだけど、逆恨みも程々にしてくれ・・・・また任務の呼び出しだぞ」


シルバはカナトの様な赤服では無く、ごく一般の兵士が着用している緑服である。
二人がアカデミーの同期卒業である事もあってか、カナトが言う様にその事を逆恨みしていた。


「ほぅ・・・・では向かいますか、隊長殿?」
「あのなぁ・・・・・・」


カナトは言い返そうという思いが頭をよぎる。
が、また延々と続くのが容易に想像がつくのでそこで口を止めた。


「・・・そうだな、行くとすっか」

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[プラズマフェーズ ブリッジ内]

「ギルバート艦長、今度はどんな任務なんです?」
隊長の声に反応したプラズマフェーズ艦長、ギルバートは椅子を回しこちらを向く。


「・・・隊長、何やら試作機の受領との事で、その機体のテストも任されている模様です」
「試作機・・・ですか?」


カナト達"ガーウィン隊"はその殆どの任務が前線での戦闘、云わばザフト軍の遊撃部隊である。
確かに別の形の任務も行う事も稀にあるが、多少なりとも不審に思ってしまう。


「それと・・・受け渡しに指定された場所はL1E-5ポイントだと言う事ですが・・・」
「それって・・・ちょっと待て!デブリ帯じゃねぇか、なんでまたそんなとこで・・・!?」


シルバがいかにも納得しない顔をして叫ぶ。

デブリ帯・・・。
そこは地球の引力により、人工衛星や宇宙船の残骸が集まっている地帯。
数々の生有るものが消えた証がはっきりと残った正に宇宙の墓場と言える場所である。
血のヴァレンタインで破壊されたあのユニウスセブンの残骸も現在はデブリ帯に流れ着いているらしい。

デブリ帯にはジャンク屋や海賊まがいの者達以外、誰も近付こうとは思わない。
血のヴァレンタインだけではない、過去の奮戦や小競り合いによって堕ちた戦艦やMSの残骸も存在する。
この隊の中にも家族を失っている者もいるだろう、ましてや隊長であるカナトは両親を失っている。
私情を挟むのは軍人としてはあるまじき行為だが、矢張りその場にいる隊員達は同情と沈痛な面持ちになる・・・・・・。


「・・・よし、"了解した"と伝えておいてくれ・・・プラズマフェーズ、進路をL1E-5ポイントへ!」
「ちょっ!?カ・・・隊長!!」
「キアラ、これは任務なんだ、私情はな・・・」


カナトは意外にも冷静な面持ちで立っていた。
だがその表情とは裏腹に、彼の右手は胸元のロケットを強く握り締めている。
それは自分の意志を必死に堪えようとする意志の表れでもあった。

隊長の心境は自然と隊員達にも伝わり、士気にも影響が出る恐れがある。
それによって勝率の高い戦闘でも支障・・・仲間から死者を出す可能性もあるのだ。
一部隊の隊長として、一軍人としてそれは危険な事である。

それを察したキアラは必死に言葉を抑えることにした・・・・・・。

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[C.E.71 2/16 L1E-5ポイント]

無数の残骸が浮遊する空間、この先の未来を思わせるようにそこはあった。
その中を移動する三つの光・・・。
ジンが二機、作業用ポッドが一機。

二機のジンはそれぞれ通常機とは異なったカラーリングを施されている。
一機は全身が白く、もう一機は紅い・・・深紅のカラーリングである。

MSとでは機動力に差がある作業用ポッドを牽引する様に二機のジンはデブリの中を移動していた。


『試作機の受領とテストか・・・、久々に楽な任務だな』
『大方、噂で聞いた地球軍の新型MSに対抗する為に開発された機体だろうよ、もっともそいつは地球に降りたって話だが』


前線での戦闘が主のカナト達には、"機体の受領"というのは任務の中では自然と楽な部類に入れている。
軍人として戦場で戦うのは当たり前だ、だから任務とはいえ退屈とも言えるものだった。


『・・・なぁカナト、今回の機体の受領、なんでこんなとこでやんだ?』
「さぁね、上に聞かなきゃわかんないだろうよ」
『それはそうですけど・・・って隊長、シルバさん、私用で軍用無線を使わないでください、もうすぐ予定ポイントに到着しますよ』
「分かってるよ・・・りょーかいっ」


確かにこんな所でなくプラント内でも受領は出来た筈だ。
"何故こんな場所でやるのか"、三人には理解できないでいる。
多少疑問を抱いたまま、三人は予定ポイントに到着した。

予定ポイントには既に一機のジンと輸送ブロックが待っている。
カナトは相手のジンに通信を開き、身分確認を取る。


「こちらガーウィン隊カナト・ガーウィン、試作機の受領に来ました」
『・・・確認した、これが試作機のブロックだ』


受領が無事終わったら任務は終了だ。
否、終了するはずだった・・・・・。


「「?!!」」


コクピット内に突如警告音が鳴り響く、ディスプレイには"WARNING"が表示されている。

その直後・・・一瞬、無数の銃弾がジンの装甲を削り取っていく。
ジンのパイロットが悲鳴をあげる間もなく、既に人型の原型を留めなくなったジンが爆散する・・・・・・


「なっ・・・、どこから!!?」


周りにはデブリが無数に浮かんでおり、目視では捉える状況では無い。
三人はすぐさま無数のセンサー類を確認する。

その内の熱紋センサーに反応が出る、赤く示された点が二つ・・・二人の上に位置している。
二人のジンはすぐさま見上げ、戦闘体勢を取る。


「一機はジン、もう一機は・・・なんだ、あの機体は・・・・・・?」


カナトは思わず唾を飲む。
見た事も無い正体不明のMSがそこにいるのだ。

この時、カナトや仲間達の運命の始まりでもあった・・・・・・

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突如現れたジンと謎の紫色のMS・・・・。
地球連合軍・・・ナチュラルにMSが使える訳が無い。
相手が傭兵だと判るまでそう時間はかからなかった。

『くそっ、待ち伏せかよ!』
「シルバはジンの方を、俺があの機体を墜とす!キアラは先にプラズマフェーズへ戻れ!」
『!?・・・は、はい!』

キアラの作業用ポッドが艦に戻る中、二人はそれぞれ散開し、敵機に向かっていく。
しかしその途端、向こうのジンも戦線を離脱しようとしていた。
そして、こちらの追手を阻むかのように謎のMSが立ち塞がってくる。


「・・・ちっ、まずはこいつからやるしかなさそうだな!」


声の反応とほぼ同時にシルバのジンが重突撃機銃の引き金を引く。
銃口から火が吹き、無数の弾丸が発射され、デブリの海を駆け抜ける。
その弾丸達が謎のMSに直撃する、その瞬間自分の勝ちだと誰もが認識するだろう。

しかし、"そいつ"の装甲は多少の変形は見られるが、致命傷とは程遠い傷だけで、微動だにせず依然そこにいた。


「なっ・・・直撃したはずだぞ!?」
「くそっ!並の攻撃は効かないのか・・・」

『今度はこちらからいかせてもらうぞ・・・・』


"そいつ"の両肩のシールドから見える二つの鈍く、黒く光る砲口がこちらを向く。
二人は咄嗟に避けようとする。
だが、砲口から放たれた閃光が瞬く間にカナトのジンの右足を貫き、シルバのジンは左腕を吹き飛ばされる。


『ちぃぃぃっ!?』
「くそッ、デブリを利用して隙を突くぞ!」


カナトとシルバのジンはそれぞれ重突撃機銃を連射する。
その攻撃は散漫で、"そいつ"よりもデブリを掠めている、だが牽制程度にはこれで十分ではある。
それに、当たったとしても先程の様に効果は期待出来ない。


「・・・そこだぁぁぁっ!!!」


カナトのジンがデブリの中を駆け抜け"そいつ"に一直線に突っ込んでいく。
腰から重斬刀を構え、振りかぶろうとする。


『・・・・・・』


"そいつ"はカナトのジンが振りかぶると同時に腕から黄金色に輝く閃光、ビームサーベルを振りかざす。
物量の問題・・・当然とでも言うように振り下ろされた重斬刀はビームに吸い込まれるかのように焼き切られてゆく。

溶断された重斬刀を無視してそのまま振り込まれたビームサーベルがジンの頭部に貫いてゆき、小さな爆発を起こし消し飛ぶ。
その爆発と同時とでも言う瞬間、"そいつ"の左足がカナトのジンを蹴り飛ばした。


「うっがぁっ!!?」
『カナト!!』


シルバは思わず驚きの声を上げる。
二人の実力は並のパイロットより優れている、二人とも自覚している程に。
だが、その自信故にこの状況が信じられずにいた。

たった一機のMSに二人は手も足も出ずにいるのだ。
その圧倒的な姿は威圧的にも感じ、恐怖感がよぎる・・・・・・。



「何ですと、それは本当ですか」


ギルバート艦長も眉に皺を寄せ、苦渋の表情を見せる。
この状況下での戦闘は向こうにも同じ条件だが戦闘の中では障害となるのは確実である。


「この受領任務が傍受されていたのか・・・CIWS起動、総員第二種戦闘配備!」
「えっ・・・、第二種戦闘配備って・・・」
「戦艦ではこのデブリの中では返って足手まといになります、今は隊長を・・・あの二人を信じましょう」



(くっ・・・どうする・・・あのMSにはジンでは歯が立たない・・・、こうなったら一か八かだ!!)

「・・・シルバ、受領された機体を起動させる。それまであいつを押さえてくれ!」
『なっ・・・!?』
「今のままじゃどうしようもないだろ!危険な賭けだがやるしかないんだ!!」
『・・・ちっ、どうやらそうかもしれねぇな!』


カナトは頭部と右足を失い多少ふら付くジンのバインダーから火を吹き上げ、輸送ブロックに向かう。


(ちっ・・・さすがに"アレ"を起動されると厄介か・・・)


"そいつ"もカナトのジンの後を追おうとする。
だが、シルバのジンが目の前を遮る様に現れた。


「今度はこっちが邪魔させてもらうぜ!」

「・・・邪魔しようというのか、だがその程度ではなっ!」


脚部にマウントされた発射筒から、連続してミサイルを発射させる。
だが"そいつ"はジンと同じ・・・重突撃機銃を両手に構え、的確にミサイルを捉えてすべて墜としていく。


(くそっ、ジンじゃこれが手一杯だってのか・・・けど俺にも意地があるんだよっ!)


機体性能は明らかに向こうの方が上である。
だがシルバは洗練された腕前で何とか"そいつ"と互角に渡り合った。

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輸送ブロックにたどり着いたカナトは、コクピットを飛び出しブロック内に入り込む。
そして即座にブロック内の機体に乗り込みシステムを起動させた。


「これが試作機・・・・こいつは!?」


起動した途端ディスプレイにあのMSの映像と『最優先任務 ZGMF-723の破壊』と表示されていた。


「なるほど・・・最初からこれを狙っていたのか」


カナトは理解した。
あの機体がザフトの形式番号を持っているとこから大方、奪われた機体をこの機体の受領をエサに破壊させようとしていたことを。
だから受け取り場所が誰も近づかないデブリ帯で、ガーウィン隊にこの任務が下ったのかも。


「ならやってやるさ、あの機体をこいつで・・・ 俺が墜としてやる!!」

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シルバのジンと"そいつ"・・・ZGMF-723が拮抗している最中、
輸送ブロックが開き、緑のモノアイを光らしながら純白の機体が動き出す・・・


「ちっ・・・起動されたか・・・」

「ったく、おせーんだよ・・・・」

「さぁ・・・ いくぞッ!!」


背中のウイングバインダーが静かに蒼い炎を吹き、尋常でない速度で疾走し急接近していく。


『・・・速いな!』
「たあぁぁっ!!!!」


カナトが操る白き機体は瞬時に背中から対艦刀・シュベルトラングを持ち構え、反応が遅れたZGMF-723の右腕を斬り落とした。


「右腕部損傷、ハイドロ低下・・・、一度退いた方が良さそうだな・・・・」


突然ZGMF-723の背後に戦艦のその巨体を現す。
その姿はネルソン級宇宙戦艦に酷似している。
だがその外装は大きく異なり、不恰好なカタパルトに巨大なタンクを二基持つ異形の姿であった。


「何かのステルス機能搭載の戦艦か・・・またご大層な奴らだな」


シルバが皮肉そうにぼやき始める。

その時、カナトの機体に通信コードが受信された。
直後、ディスプレイに四角く切った様に誰かの顔が表示される。
深い緑の髪をした男・・・恐らくカナトよりは年上だろうか。

カナトが気に掛かるのはその服装がパイロットスーツではなく、タダの服装であった事だ。
MSに乗りながらそんな姿をしているのは、余程腕のあるベテランの傭兵ぐらいのものだ。


『俺をここまで追い詰めたのは貴様が初めてだ、俺はエン・・・エン・レイガ、そしてこの機体はクルーエル・・・』

(こいつがZGMF-723・・・、クルーエルのパイロット・・・)

『貴様とその機体の名前、良ければ聞かせてもらおうか?』

「・・・カナト・・・カナト・ガーウィンだ、そしてこいつは・・・・」


機体のスペックカタログにはこの機体の名は表記されていなかった。
どうやらそれ以前に突如ロールアウトさせた機体らしい。

カナトはこのMSの名を考え始める・・・・・・
爆発的な加速と機動力、じゃじゃ馬の様な荒削りの高性能・・・
それに当てはまる単語が彼の脳裏に浮かび上がった。

・・・"Crude"・・・


「・・・クルードだ!」

(子供か・・・ふっ、当然か。コーディネイターも流石に兵の数まではどうしようもないからな・・・)
『カナト・ガーウィンとクルードか・・・その名、確かに刻んだぞ』


ディスプレイからエンの表示が途絶え、クルーエルは姿が消える戦艦と共にその姿を消した・・・・・・


「・・・ふぅ・・・、シルバ、帰還するぞ」
『・・・分かってる!隊長だからっていちいち命令すんな!』
「おいおい・・・」


既に二人とも満身創痍と言った状態だった、もう少しすれば二人とも堕とされていたのかもしれない。
もう少しで、このデブリを墓場にしていたのかもしれなかったのだ・・・・・・

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プラズマフェーズに帰還してしばらくした後、キアラは工員から送られる吸い出されたクルードのデータをチェックしていた。
その最中、ザフト軍のMS関連のデータバンクと照らし合わせていると妙な事に気が付く。


「あれ・・・?おかしいな・・・」
「ん?どうしたんだキアラ」
「あっ、いえ、ザフト軍のMSデータに照合しているんですが・・・何故かクルードと合致するデータが見当たらないんです」
「そんな筈は無いだろ?だってこいつは、軍から授与した機体だぞ」
「それはそうなんですが・・・、ZGMF-722、それとZGMF-723に関する情報はデータライブラリにはどこにも・・・」

(何・・・?それじゃあコイツ・・・クルードは一体・・・・?)


謎が謎を渦巻きながら、運命の歯車が今、回り始める・・・・・・・・・




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